「総合的な学習への取り組み」
〜海外・国内小学校とのテレビ会議を通して〜
小学校第5学年 理科・総合的な学習の時間
柏市立中原小学校 梅津 健志
キーワード 小学校,5年,理科,太陽と月,国際交流,学校間交流,テレビ会議
インターネット利用の意図
理科や社会科で子どもたちが調べたものや観察した記録は,子どもたちのノートにしまわれてしまう場合が多い。自分たちが調べたものや観察したものを,インターネットを通じて情報公開をしてみる。または,インターネットを通じて共同観察をしてみる。自分たちが当たり前だと思っていたことが,インターネットを利用することによって,新しい問題を投げかけてくれる要素にもなるのではないだろうか。
一つの教室の同じグループの仲間と同じように,インターネットで結ばれた遠くの学校の友達と共同学習を行う。そのような自然な形でのインターネット利用を目指した。
1 総合的な学習
2002年からの指導要領に合わせ,総合的な学習の時間の試行が数々行われている中で,本校では「今あるものから考えよう」というスタンスで取り組みを始めている。本実践もその取り組みの一貫として行ったものである。
日本人学校との交流授業は2年目に入り,米づくり交流学習,和太鼓演奏のライブ中継,音楽交流授業,地域紹介授業等,インターネットやテレビ会議を利用しての学習を積み重ねてきた。
しかし,どの実践も指導者側の意図が強く出てしまう傾向にあった。そこで,子どもたちが本当に数千キロも離れた友だちを学習相手とし,自分の手足のように自然にインターネットを利用していく授業はできないものかという思案した。そこから考えた「世界共同月観測プロジェクト」は,5年生「理科」の月の動きと満ち欠けの学習を,理科だけにとらわれず総合的に取り組む中で自然な交流を目指して実践した。
2 世界共同月観測プロジェクト
(1) 単元について
本単元は学習指導要領内容のC-(2)[太陽と月の形や位置などを観察し、それらの動き及び位置の関係を調べることができるようにする]に基づいている。まず,児童の素朴な疑問である1日の月の動きや日がたつにつれて形や見える位置が変わる様子を観察する中から,月が満ち欠けするわけを考えたり,太陽と月の表面の様子の違いを調べたりすることがねらいである。
国際理解教育及び情報教育からの視点を加味して考えると,太陽と月は,東の空から出て南の空を通り,西の空にしずむ。この自然現象は,日本に生まれ日本の教育を受けた者にとっては,当たり前の不変的な事実と捉えられている。これは日本国内若しくは北半球の日本と同緯度程度に位置する地点からの不変的な観測結果であるが,地球上の他の地域から見た場合は違うのである。
本授業は日頃から交流を行っている日本人学校5校(パース,香港大埔校,カイロ,シンガポール,ブエノスアイレス)との共同観測から,同じ日の上弦の月がパースからの報告では,日本と逆に見えるという所に端を発している。子どもたち同士の観測結果から出た疑問を追求する中から,「なぜ見え方が違ってくるのだろう」という話し合いに発展をし,見え方の違いの原因について積極的に考ようとする態度に発展した。自然現象であっても,自国の様子を観察し,他国の様子と比較する中から共通点と差異点を見つけだし,それを通して視野を広げていくことは,国際理解にも通じるものであると考えている。
通信ネットワークを利用した交流には,違いを認めた上で違いを分かり合うために交流を始める形のものが多い。しかし,本実践では,同じものを共有するスタンスから始まり違いに気づく方向で進めていきたいと考えた
(2) 指導計画
○10月12日より月の観測を行うことを決め,観察方法等を確認する。
○三日月,半月(上弦)の月の動き方と傾きについて観察結果から確認する。
○満月の月の動きを観測結果から確認すると同時に世界各地の観測結果と比較する。
○南半球で観測した月が,日本と逆に見えることについて,原因をグループで話し合う。
○グループごとに見え方の違いについて発表しあい,クラスとしての意見を持つ。
○パース日本人学校の子どもたちと見え方の違いについて話し合い,原因について考え合うことができる。
(3) 観測開始
この月観測のために,クラスで共用できるデジタルカメラを購入した。観測方法を確認すると同時に,観測の順番を決めて観測態勢を整えた。Webへの更新は,当初は担任が行っていたが,子どもの中でWeb毎日のWebを更新することとなった。
日本人学校へはメーリングリストを通して呼びかけを行った。香港大埔校・カイロ・シンガポール・パース・ブエノスアイレスから共同観測への参加意向をいただき,各地の月の画像を送付してもらうこととなった。
海外では子どもの安全の事情があり,撮影は各学校の先生が行い,電子メールに添付する形で送信されてきた。
共同で作成した月の観察ページは http://www.ice.or.jp/~nakahara/tuki/tuki.htmである。
(4) 月の形の違いに気づく
10月18日(月)中原小で撮影した画像とパースから送られてきた画像を見比べた子どもたちは,驚いてしまった。上弦の月として日本では右側が膨らんだ形の半月が見られるが,パースでは逆なのである。今まで,月の出る時刻や入る時刻の違い等に気付いてきた子どもたちであったが,月の形が正反対に見えることには驚いた。
しかし,パースは季節も日本と逆だということを知っている子どもたちは,「パースは今春から夏でしょ。月の見え方も逆で,日本が満月の時に新月になるんだよ」と話し合っていた。
しかし満月の夜,その仮説はくつがえってしまった。満月の夜の画像はパースの月も満月の画像だったのである。
(5) なぜ違うのか話し合おう
日本で見える上弦の月が,パースでは下弦の月に見えるのはなぜか?子どもたちの疑問は膨らみ,お互いになぜ反対に見えるのかという質問に発展していった。質問する前にお互いの学校で「なぜ反対に見えるのか」について話し合い,意見をまとめた段階でテレビ会議を通して話し合うこととした。
図1 中原小の考え方A
ア,中原小の考えA・・地球上の位置の違いが見え方を変えている
この考えは北半球と南半球では地球が丸いために,お互いに逆立ちをした状態で居る。
したがって,北半球で見ているものを南半球の人たちは,北半球で逆立ちをして見るのと同じ映像を見ているのである。
子どもたちは右の画像資料を作成し,Webページにまとめ,テレビ会議に備えた。
図2 中原小の考え方B
イ,中原小の考え方B・・地球の大きさと月と地球上の位置関係から
この考え方は,月は地球よりも大きさが小さい。地球上の北半球と南半球から見ると,月の表面の同じ場所を見ているのではなく,違う面を見ることとなる。太陽の光の当たり方も違い,半月が逆に見える。
画像資料を作り,発表用Webページを作成した。
ウ,パース日本人学校の考え方(図3)・・パース日本人学校の子どもたちの考えは,中原小考えAと同じ考えであった。
図3 パース日本人学校の考え方
オーストラリア人であるが,日本人学校に通学しているクリス君が,日本語を駆使して作ってくれた画像Webページが上である。
(6) いよいよ話し合いの時間
(a) 本時の目標
○月の見え方の違いについて,自分たちの考えを述べ,相手の考えを聞く中で,見え方の違いがどのようにして起こっているのかを考えることができる。
(b) 授業展開記録(開始時刻・・日本時間10:30分,パース9:30分)
|
|
|
|
||||
|
|
|
|
||||
|
中原小で話し合ったことを |
|
|||||
中原小の考えAの子どもたちが,Web画面とテレビ会議(Cu-SeeMe)を利用して発表をする。 |
|||||||
|
パース日本人学校で話し合 |
|
|||||
パース日本人学校の子どもたちが,Web画面とテレビ会議を利用して発表をする。 |
|||||||
|
お互いの発表を聞いて,質問 |
|
|||||
パースの満月の画像について,どちらが日本から見た物なのかという質問に対する応答。 |
|||||||
|
専門家の先生に両校の発表を |
|
|||||
|
|||||||
(7) 授業後の子どもたちの感想
こないだ、クリス君とゆうすけ君の、説明は、とてもわかりやすかったです。特に、あの、うさぎのかげがわかりやすかったです。ちょっと、わからなかった所は、日本 |
中原小のみんなと勉強して,考えのBの考えはもしかしたらそうかもしれないなと思いました。でも満月の様子を見てみればどちらかがはっきりとしてくると思います。また交流しましょう。 |
おととい月が満月でした。双眼鏡で月の模様を観察しました。うさぎが下を向いてるようでした。パースの考えも見てみました。するとパースの月の図は模様が反対でした |
(8) 話題は世界に飛び火する
中原小とパース日本人学校との間で論議された話題は,各日本人学校でも話題となって子どもたちの学習に利用された。エジプトのカイロ日本人学校では,現地の小学校との交流授業でこの話題が提供されてお互いに話し合いをしたそうである。
エジプトの子どもたちの考えとカイロ日本人学校の子どもたちの考えを月という共通メディアで交流した結果も報告された。
4 成果と課題
(1) 成果
・月や星という世界のどこから見ても同じように見えると思っているものを,あらためて同時観測することにより,思わぬ違いに気づくことができ,子どもたちが天体に対してや地球に対しての興味を膨らませることができた。
・あたりまえのことを見直すおもしろさ,あたりまえのことがあたりまえではないと気づくおもしろさ,学習の持つ本質的な楽しみを子どもたちが味わうことができた。
・月共同観測プロジェクトのWebへのアクセスがこの間に2000件を数えた。子どもたちが学習で利用した数と同数以上のアクセスをカウントし,他の子どもたちへの学習機会になったと考えられる。
(2)課題
・星の観測も同様のプロジェクトを起こして実施してみると新たな発見が期待できる。
・さらに,ネットワークを学習材として利用していける単元づくりと子どもたちの意識づくりが大切である。
ワンポイントアドバイス |