飛ぶ教室
小学校第6学年・創造活動(1)(2)・理科(3)・音楽・国際理解
お茶の水女子大学附属小学校 田中 康善
キーワード 小学校,6年,総合的な学習,理科,音楽,インターネット,電子メール,学校間交流,国際理解,院内学級,ピアフス
インターネット利用の意図
学習が孤立でなく個別に行われ,その後の一斉学習で個別学習の成果が相互に交流する中で,自分の良さそして他者の良さが見えてくる。個性の伸張はこの場を通してなされる。さらに一斉学習の中で生まれたその集団の新たな学習課題は,再び個別の学習を喚起する。だがその時,学習者はワンランクアップした学習者として新たな学びを展開する。
学習の成果を交流する範囲は,学級を飛び出し学校,更には国内の交流相手校からホームページを見てメールを送ってきた海を越えた国の学校のクラスへと広がった。
またやむをえず治療が長引き,院内学級へ転校を考えざるを得なくなった子どもから,学級での学習の輪の中に留まりたいとの要請もあった。
1999年の末には,インターネットの利用はこれらの状況に,よりリアルタイムでかつ勘弁に対応できる通信手段であった。(4)
1 飛ぶ教室
(1) ねらい
学習は常に総合的である。なぜなら学習者は一人の人間であるからだ。取り出しの指導である方が焦点化されて学習し易いことも多々ある。だがその成果を関連,関係,総合する方向性は忘れてはならない。この「飛ぶ教室」の取り組みとして本報告では理科,音楽と既存の教科名を連ねたが,ある子どもにとっては家庭でもあり,また社会でも国語でもあった。それが総合学習の時間であるとも言える本校「創造活動」の中で行われていた。これらの学習の成果を交流する範囲を,学級の外にも飛び出させる。それがこの企画のねらいの一つであると言っていいだろう。
(2) 指導目標
国際理解教育の実践
(3) 利用場面
空間,時間の制約で,これまで交流を通しての相互作用が難しかった局面に,マルチメディアやインターネットを利用した交流を実現しようとした。
(a) 入院先治療室と所属学級,また遠隔地間の静止画,動画,音声を含むメール,ホームページ情報の交流や共同学習。
(b) 国際通信のコレクトコールに相当し,かつ私書箱やファクシミリの便利さの性質を備えながら,受けた情報を遜色なく利用して作品作りができるE-mailの添付ファイルやホームページを用いた情報の授受。
(c) 学習に必要な情報の収集のみならず,学習成果を,一同に介する場を設けなくても多くの人に公開し,意見を述べてもらう機会の設定。
(4) 利用環境
(b) 周辺機器 デジタルカメラ Sony Mavica 1台 i-Mac 40台 Mac LC-575 7台 FMVシリーズ 3台 Sony Vaio 1台
(d) 利用ソフト 写真でインターネット,キッズワード,ホームページビルダー2001,ネットスケープコミュニケーター(5) コンピュータルーム 一斉学習 児童用 i-Mac 40台 廊下,メディア空間 常時使用可児童用 Mac LC-575 他
FMVシリーズ7台
3台 ※ 全てのコンピュータはLANでインターネット接続 入院治療中児童用 Sony Vaio PCG CIS 1台 ※ 電子カメラ内蔵モデルでカード型PHS電話モデムP-in着装
指導計画(25時間) | 留意点 |
(a) 創造活動「時事'99」で新聞記事を読み,社会に目を向け,自分の意見と仲間の意見を交流し,自分の考えを再構築する姿勢を培う。 | ・興味・関心に応じて数名のグループに分かれ,まず自宅の新聞で興味・関心のある記事を読む。それを創造活動の時間にグループの中に持ち寄り,自分の意見を述べると伴に友達の意見を自分の考えを再構築する糧にするというサイクルで子どもが活動をするように支援する。 |
(b) 意見の交流を数回行い,まとめとしてグループ単位に壁新聞を発行し学年廊下等に掲示する。 | ・月に1回程度を目安に壁新聞にまとめて発表することをうながす。 |
(c) ジャンル別にこれまでの壁新聞の発刊活動を通しての考察を発表し,同じジャンルに興味・関心を持つグループの者との相互交流を図る。 | ・記事のオウム返しではなく,固有の考えを持てたか,また意見を述べられたかに観点を置き講評を加える。 |
(d) 交流学校や社会人などから広く意見を得,参考にするための手段として自分の意見を載せたホームページを作成しアップする。 | ・個人のホームページを簡便に作成するために「写真でインターネット」「ホームページビルダー2001」等を使用する。また映像は静止画,動画共Mavicaを用いて撮影をした。 |
(その2−入院児童 晶子「理科 いくつかの単元で」)
指導の実際 | 留意した点 |
(a) 治療中の病室から本校のホームパージが見られ,かつ自分の意見がインターネットを介在して任意のアドレスへ送れるようにする。 (b) 理科学習を軸に,入院前の児童と共 に学習が行えるシステムを構築する。 (c) 交流相手校とのやりとりに,晶子の作業による作品を積極的に用い,生きている実感を持ち,苦しい治療に耐える精神力の糧になるように期待する。 |
・親が自宅で受けたものをFDにおとし病室へ持参する。ノートタイプのコンピュータはCECから貸与されたもので試みる。 |
(その3−交流相手校 福島県西郷村立川谷小学校「理科 土地のつくり」)
指導の実際 | 留意した点 |
(a)当該校から本校のホームパージが見られ,かつE-mailがインターネットを介在して本学年のアドレスへ送れるようにする。 | ・インターネットを用いた交流のインフラを確認する。 |
(その4−海外の学校のクラス)
指導の実際 | 留意した点 |
(a) 当該学級のインターネットのインフラを把握し,動画や音声を受けられるか,また日本語のE-mailが送受できるかの確認をする。 | ・「自分の足下は」というテーマでの共同学習を試みようとしたが,卒業が12月で日本と一致しなかったため,互いの生活の様子を交流した。 |
3 利用場面(3)(福島県西郷村立川谷小学校との共同学習)
(1) 単 元「飛ぶ教室」 −土地のつくり−
(2) 目標
・土地やその中に含まれる物を観察し,土地のつくりや土地のでき方を調べる。
・土地は,礫,砂,粘土,火山灰及び岩石からできており,層をつくって広がるものがあることを知る。
・地層は,流れる水の働きや火山の噴火によってでき,化石が含まれているものがあることを知る。
・互いに関わりを持ちながら学習することに価値を見出す。
(3) 指導計画(7時間扱い)
・土を崩さずに1mまで掘り下げ観察
・土地の出来方を図書やホームページの資料を使ったり岩石園の岩石を実際にハンマーで砕いてルーぺ観察したりして知る
・東京下町の5m下までの土地の様子の実物大資料をスケッチ
・川谷小学校のホームページにある校庭の写真を見て,この足下の土地の様子を予想し,ホームページにして川谷小学校の6年生に見てもらう。
・雪の積もっていない露頭があればそこの資料を電子メールなどでレポートしてもらい,それを加えて予想の修正をする。(本時)
・雪解け後に露頭の様子を川谷小学校からレポートをもらい,単元全体を通しての学習感想をまとめる。
(4) 本時の目標
・川谷小学校から送られた現在手に入る資料を加え,再度,川谷小学校のホームページ の写真にある校庭の足下の土地の様子を予想する。
(5) 本時の展開(6/7)
主な学習活動 | 指導上の留意点 | 備 考 | ||
・川谷小学校の校庭の足下の土地の様子をどう予想したかを発表する。 | ・子どもの予想を類型化しておく。 | ・子どもの描いた予想図をホームページにアップ | ||
| 足下の土地の様子は本当はどうなっているのだろう |
| ||
・川谷小学校からのレポートや資料を加え,再度,川谷小学校のホームページの写真にある校庭(図2)の足下の土地の予想図を作成する。 ・修正した予想図をホームページにするなどして川谷小学校の6年生に見てもらう。また,雪解け後に露頭の様子のレポートを送ってくれるように依頼する。 | ・雪の積もっていない露頭の資料などを川谷小学校からレポートしてもらっておく。 図2 川谷小学校の校庭 | |||
(6) 評 価
・新たに加わった資料を生かして,川谷小学校の校庭の足下の土地の様子を予想し直し,図に表すことができたか。
・新たな資料を生かした予想図も添付して,電子メールを送付できたか。
4 実践を行って
つらい治療が続く。吐き気が治まらない。病室から逃げ出したい。何故自分がこんな目に遭うのか。恨む気持ちが湧いてくる。その気持ちはつらい治療から身を引かせてしまう。そこで医師や教育学の研究者それに担当教師の協力で,患者である入院児童の気持ちを,挑戦できるものに向かわせることで気持ちを転換させることを試みた。それがつらい治療をうけるうえでプラスに作用するという仮説である。
学級での学習の輪の中に留まることが物理的に可能になってきた時期は,吐き気や嫌悪感が薄れてきた時期でもあったように思う。CECからの機器の貸与を受けられるまではあり合わせのノート型パソコンに患者の家族が家で受信しFDに落とした電子メールなどを読み込んでの共同学習だった。FDは家族が運ぶので,週1回の行き来がやっとという状況だった。それがCECからの機器の貸与で,病院側の了解も得られて,導入したPHSを使ったコンピュータ通信で共同学習は一気に一体感を増した。
メーカの協力で「キッズワード」を試用してから購入した。入院児童が短時間で使い方を試行錯誤的に収得したので,交流相手校にも導入し「飛ぶ教室」の実践に活用し,絵入りのや写真入りの電子メールの交換もできた。(図3)
文字だけで無味乾燥になりがちな電子メールが手軽にクリスマスカードになった。それは「キッズワード」がユーザー毎に作業環境を個性的に設けられ,かつ電子メール,作文,お絵かきの機能を備えているソフトだったからだ。ただ海外の学校のクラスには「キッズワード」を使用する環境がMacで,使用は断念した。
図3 入院児童 晶子から学級への初のメール
ワンポイントアドバイス |
参考文献
(1)6年「時事'99」 第62回教育実際指導研究会発表要項 pp.82〜83(お茶の水女子大学附属小学校児童教育研究会)
(2)時事'99から2000 6年 総合的な学習実践事例集 −子どもとつくる創造活動− pp.94〜99(お茶の水女子大学附属小学校児童教育研究会)田中康善
(3)理科 自然から学ぶ力を育てる,飛ぶ教室 第62回教育実際指導研究会発表要項 pp.44〜47,pp.96〜97(お茶の水女子大学附属小学校児童教育研究会)
(4)新訂 視聴覚教育 (学芸図書株式会社) 櫛田 磐,土橋歩美,永尾和樹,田中康善,小池俊夫
(5)はじめるNetscape Communicator 4.0(翔泳社)編集 峰村創一
利用したURLなど
川谷小学校のホームページ (http://vill.nishigo.fukushima.jp/~kawatani-es/)
CLIPのホームページ (http://www.oicha.ac.jp/~shou/clip.htm)
晶子のホームページ (http://www.ocha.ac.jp/~shou/akiko.htm)