「遊びの広場」
小学校・総合的な学習の時間」等
大田区立松仙小学校 新村 出
キーワード 小学校,インターネット,遊び,地域社会
インターネット利用の意図
インターネットの持つ利便性はたくさんある。中でも,情報の蓄積が容易なことと,情報の交換が簡単にできることはこれからの教育に新しい可能性をもたらすし,より豊かに生きるために必要なものになってくるに違いない。
しかし,現状のコンピュータは,他の家電製品と異なり電源を入れれば必要な機能を果たすものではない。そのため,コンピュータを利用するにはある程度の知識と技能を身に付ける必要がある。その上,インターネットは歴史の浅いコミュニケーション手段であるだけに,モラルやエチケットが確立していない。
コンピュータに関連したコミュニケーションは,科学技術の進歩と非常に密接に関連している。そのため,技術の進歩によって必要な知識,技能も変化してくるし,ネットワーク上に送る情報の大きさなども,当然,技術の進歩の程度に依存している。
したがって,小学校教育の場においては,インターネットを含めたコンピュータの機能を基本的には単なる「道具」として位置付ける必要がある。現状において,「道具」としての機能を得るために最低限必要な知識や技能を身につけさせると同時に,相手の立場になって考え,自らの考えや思いを伝えようとする態度を育てる必要がある。
1 「遊びの広場」
(1) ねらい
本企画では本校周辺の遊び場,子どもたちの「遊び」などを本校からも発信するとともに,日本各地あるいは海外からの情報を入手することによって,子どもたちの遊びを広がらせるとともに,他地域,他国の文化に自然に触れることができるようにする。「遊び」という子どもたちの日常生活に密接に関する情報交換をすることによって,同じ時代に生きる子どもたち相互の心の交流につなげたい。
また,地域社会の持つ教育力を学校教育に活用するきっかけのひとつとしてインターネットを利用しようと考えた。
(2) 指導目標
・自らの住む地域社会を愛する心を持つ。
・インターネットを情報通信手段として利用できる。
・他の人に伝えるための情報を作成することができる。
・地域社会の教育力を学校教育に活用する。
(3) 実践概要
(a) 本企画の対象とした人的な区分は下記の通りである。
○本校児童
学習場面でのインターネットによる情報の検索から,「総合的な学習の時間」の試みとして,地域の取材や「遊び」に関する情報発信を行うとともに,遠隔地の人々とも交流を図っている。
○他校の児童
本校の児童との双方向コミュニケーションがしだいに広がってきている。
これまでの,電子メールによるコミュニケーションの例として,区内,都内,秋田県,山口県,中華人民共和国,アメリカ合衆国など。
○地域住民
社会教育主催のコンピュータ研修会の参加者の協力を得て,子どものころの「遊び」を,今の子どもたちに紹介するホームページを作成。
地域住民のボランティア活動として,翻訳の協力者を得た。これから本格化する海外との交流には力強い支援を頂ける予定でいる。
(4)利用環境
(a) 使用機種 FMV 11台,LET'S NOTE 1台
(b) 周辺機器 イメージスキャナ11台,クリップイット2台
(c) 稼働環境 コンピュータ室
FMV 11台,LET'S NOTE 1台
専用線128Kでインターネット常時接続
(d) 利用ソフト エプソンスキャン,インターネットエキスプローラ4.01,ホームページビルダー3.0及び2001
2 実施計画
(1) 児童
○インターネットを利用した情報収集(ブラウズ,電子メール)
○他の人に伝えるための情報作成(話し合い,取材)
○ホームページ様の情報作成
(2) 地域住民
○インターネットを利用した情報収集(ブラウズ,電子メール)
○相手に伝えるための情報作成(話し合い,電子メール)
○ホームページ様の情報作成
(3) 教員
○インターネットを利用した情報収集(ブラウズ,電子メール)
○関係機関との打ち合わせ
○児童の双方向コミュニケーションの相手校との打ち合わせ
○他の人に伝えるための情報作成
○ホームページ様の情報作成
(1)から(3)の実施計画の前段階として本校においては,
○基本的なコンピュータの操作
○インターネットの危険性の理解
○区条例の示された個人情報の保護に関する事項の理解
○本校のインターネット利用規定の理解
○著作権,肖像権などの理解
についての指導を行っている。これらの指導内容に関しては,児童ばかりでなく,本校教員や本校を会場として実施した研修会の参加者(地域住民)にも周知徹底している。
当初は,ビデオカメラを用いた遠隔地の児童とのリアルタイム双方向コミュニュケーションも計画していたが,計画の進行が若干遅れているため,残念ながら現状では校内での実験段階にとどまっている。
3 具体的な活動
「遊びの広場」は,本校のホームページ上で部分的に公開している。
ここでは,紙面の関係で数画面を紹介する。
図1 「遊びの広場」の表紙画面
図2 地域住民の作品例1
図3 地域住民の作品例2
図4 児童の作品例
2 成果と課題
本企画は,日常的な活用と並行して実施しているので,これから述べる成果や課題が本企画固有のものかどうかは疑問である。
しかし,本企画がこれらの成果に少なからず関与し,あるいは今後の学校教育におけるインターネットの利用に関しての課題を見つける機会となったことは確かである。
例えば,ケンタッキー州の小学校との電子メール交換では,本校からは餅つき大会や昔遊びの様子を紹介したり,放課後の様子を画像で送信した。アメリカの小学生は放課後,児童が遊んでいる写真に非常に興味を持ち,現在,放課後遊びの情報交換が進行中である。これらのコミュニケーションが生じていることは,本企画の大きな成果である。児童の情報交換は日常生活に密着したものほど児童が自分の体験から情報を作成することができる。反面,生活に密着していれば入るほど,自分たちにとっては「あたり前」のことであって,他の人に伝えるための価値ある情報として児童自身が自ら認識することは難しい。もっとも,自分たちにとって「あたり前」のことが他の人にとっては「あたり前ではない」ことであることを認識すること自体が,心の交流をする上では,非常に重要な点でもある。一方,課題としては,外国との情報交換においては言語の壁が大きいことがあげられる。小学生にとって,外国語での交流は非常に難しい問題であるばかりでなく,指導者の語学力が児童相互のコミュニュケーション自体に大きく影響してしまう。幸い,本校では日頃より「学習支援ボランティア」として,翻訳ボランティアも登録して頂いているのが,今後,さらにボランティアの力を借りる場面が増えそうである。
他にも,本企画では,主に児童の生活に密着した「遊び」をテーマに様々な角度から,学校教育におけるインターネットの利用に取り組んできた。実践自体がまだ数ヶ月間の取り組みで,現在も継続中ではあるが,これまでの実践から成果と課題をあげると概ね下記のようになる。
まず,成果としては下記のことをあげることができる。
(a) 自らの住む地域社会を愛する心を持つ。
「遊び」や地域の情報を発信するという目的意識を持つことにより,自らの生活や地域に関して,見つめる機会が増加した。自分たちにとっては,日常的で「あたり前」のことが,他の地域に住む人々にとっては大きな驚きであることもあることを児童が認識したことは,非常に大きな成果である。
(b) インターネットを情報通信手段として利用できる。
インターネットを情報通信手段として利用するには,多少の知識と技能が必要である。本研究を含め,様々な場面での活用を設定することによって,子どもたちは無理なくそれらを身に付けていくことができる。
(c) 他の人に伝えるための情報を作成することができる。
「インターネットの向こうには人がいる。」ということを子どもたちがしっかりととらえるようになった。項目を整理したり,レイアウトを考えたり,情報の受け手の立場になって情報を作成するようになった。
(d) 地域社会の教育力を学校教育に活用する。
社会教育との連携によって,地域社会に学校の現状の一端を理解していただくきっかけになった。また,学習支援ボランティアの活動や保護者の活動も本企画に取り入れ幅のある活動が可能になった。
次に,今後の課題としては,
(a) 技能習得のための時間削減
インターネットを「道具」として利用するためには技能習得に関わる時間が必要である。そのためには,教育現場による技能に関する指導内容の厳選や指導方法の工夫も必要であるが,コンピュータを開発する立場の人々が,他の家電製品と同様,電源を入れれば機能するようなコンピュータを開発していくことが望まれる。
デジタルカメラで撮影した画像を適当なファイルサイズで送信するだけでも,現状では何ステップもの操作を強いられる。利用するソフトウエアに関しても,児童の負担を軽減していくべきだし,コンピュータの専門化ではない教員が授業で安心して利用できるものが必要である。マニア的な教員だけが,先進的な実践をする時代は終わりにしなければならない。
(b) 安心して利用できるインターネット環境
本校では,サーバにファイヤウールを備え,外部からの校内のネットワークへの侵入を防いでいるが,児童がインターネットを利用する際に,非教育的なサイトへの接続を行えないこともない。学習に関係する検索語を指定して検索を行ったら,子どもに見せたくない画像が出てきたこともある。したがって,現状では子ども向けの検索エンジンを利用したり,学校としてリンク集を作成したりしている。
また,インターネット上の情報や送信されてくる電子メールの内容の信憑性判断も情報教育としては目的の一つとなり得るが,学習資料としての利用を考えると難しい面でもある。
このように考えると,必ずしも子どもたちに必要のない情報を持つインターネットの中に,教育目的で利用する青少年が安心して利用できるゾーンを作ることも今後必要になってくる。
(c) コミュニケーションの相手の選択
数年後に全国の学校がインターネットの利用環境を手に入れ,相互のコミュニケーションを図る場合,コミュニケーションの相手校として多数の希望が寄せられる学校と,そうでない学校との格差が広がってくることが予想される。したがって,これらを調整する組織が必要になってくる。
ワンポイントアドバイス |
協力校
大田区立徳持小学校
渋谷区立中幡小学校
Nannie Lee Frayser Elementary School等
協力者
(財)国際文化フォーラム
大田区立大森西青少年施設
参考文献
「新島の子どもたちの遊び」(新島本村教育委員会)
「子どもの生活と遊び」(大田区教育委員会)など
利用したURLなど
http://www.ota-shosen-e.ed.jp