地域を生かした体験学習とインターネットを関連させた学習
小学校第6学年・総合的な学習三宅村立三宅小学校 中村 泰之
キーワード 小学校,6年,総合的な学習の時間,インターネット,電子メール,学校間交流,体験的な学習,朝日新聞海とのふれあい賞受賞,イルカ
インターネット利用の意図
本校6年生は昨年度から海や森での体験的な学習を行い,調べ学習を充実させてきた。その上で地域の大人とのディスカッションなどを行い,身近な環境への洞察を深めてきた。今年度は瑞穂町立瑞穂第3小学校と掲示板を通した交流を行い,三宅島という地域をより意識することになった。「ぼくらの島は宝の島,発信!丸ごと三宅島」では海や森から学んできたことに加え,御蔵島のイルカに会いに行ったことなどから伝えたいことや知ってほしいことをホームページで発信していく。インターネットは島に生活するものにとって大変重要かつ便利な情報源になると同時に,自らも情報の送り手になることによってその存在意義がはっきりと認識されるであろう。
1 ぼくらの島は宝の島,発信!丸ごと三宅島」
(1) 題材設定の理由
6年生17名の子どもたちは昨年度から「三宅島から学ぼうー海・森・人のつながり」という活動を通して三宅島の海や森から学んできた。シュノーケリングでのタイドプール観察,森林の形成過程観察,それらから学んだことをテーマに地域の大人とのディスカッション,林業体験など,体験的な活動から課題をつかみ解決する学習である。今年度は御蔵島のイルカと一緒に泳ぐという活動をプラスし,最終的には今まで学んだことをホームページにまとめるという活動を行う。子どもは体験活動から課題をつかみ学びを深め,そしてまた深い体験へ向かうという螺旋状の学習活動を通して学ぶ力を伸ばしていく。この学習は「子どもの思いや考えが生きる教育活動」だと言えよう。
(2) ねらい
・三宅島の豊かな自然について学ぶことにより,知ることの喜びを深め,自然界への尊敬の念をはぐくむ。自分たちが生きる島を,自らの課題に基づきより深く知ることにより,進んで学習する意欲の向上を図る。
・自らの課題に基づいて学習したことを交流学習を通して分かち合うことにより,学ぶ意欲,最後までやりきる気持ちを育む。インターネットなどを利用した情報交換や情報の集め方を習得することにより学び方を深め,見えない相手への思いやりについて考える。ホームページを開設し自らが情報発信者となることで自己表現の喜びやつながりの大切さを学ぶ。
(3) 利用場面
この学習では,次のような学習場面でコンピュータ並びに周辺機器(主にデジタルカメラ)を活用する。
(a) 電子掲示板による交流学習
体験学習の感想などを掲示板に書き込み,交流校から質問や感想を送ってもらうことによって課題についての意識を高め意欲が高まっていく。ホームページ作成の際,知りたいことを事前に確認したりすることで作成への意欲も高まる。交流校の児童と仲良くなることによってインターネットの空間でも相手を気遣う気持ちが大切であることに気づく。
(b) 体験学習
ドルフィンスイムにデジタルカメラを持っていき自分たちで撮影した映像を学習に利用する。デジタルビデオからも映像を取り込み学習に生かす。
(c) 調べ学習
体験的な学習からつかんだ課題を解決するために取材活動や図書など様々な方法をとるがその一つとしてインターネットの利用を意識させる。
(4) 利用環境
(a) 使用機種 NEC PC-9821v10 16台 FMV DESKPOWER M/457 1台
(b) 周辺機器 オリンパスc-900ZOOM 2台 EPSON GT-76000 1台
(c) 稼働環境 視聴覚室 NEC PC9821v10 16台 FMV DESKPOWER M/457 1台(インターネット接続)
(d) 利用ソフト ホームページビルダー2001,ワコムINTUOS i-600
インターネットエクスプローラー4.01,Adobe
PhotoDeluxeforファミリー
2 指導計画(全16時間)
指導計画 |
各段階における仮説 |
検証の視点 |
支援の方法 |
(a) ホームページについて知る。 |
ホームページの存在やその意義を知ることにより,作成への意欲が高まるであろう。 |
ホームページの内容やその長所・短所に気づくことができたか。 |
コンピュータでのアクセス方法を教える。 |
(c) (d) (e) (f) |
野生動物であるイルカに会うことによって心が揺り動かされ,興味関心が増し,持続力のある探求心が培われるであろう。 |
今までの海での体験を生かしてイルカを間近に観察することができたか。 |
モイヤー先生や海野さんからイルカに会うときの注意や見るポイントについて指導してもらう。 |
(g)自分たちのホームページの構想を練る。 |
体験してきたこと・学んだことから企画を考えることにより伝えたいことがはっきりするであろう。 |
学んできたことを生かした内容を検討しているか。 |
内容は大きく4つか5つくらいに分けるとわかりやすいことをアドバイスする。 |
(h)(i)(j)素材を集める。 |
伝えたい相手,表現方法がはっきりしていることで情報の取捨選択を行うことができるのではないか。 |
自らの課題に忠実に学習を進めているか。 |
ホームページ内に情報を載せることをはっきりとイメージさせる。 |
(k)瑞穂3小とリアルタイムの掲示板の交流を行う。 |
自分たちが心を込めて作った劇へのコメントをもらうことによって |
リアルタイムで送られてくるメールに対して要点をつかみ相手への思いやりをもって返信しているか。 |
質問や意見のポイントを押さえること。返信もあまり長く書かず,要所を押さえた内容にすること。 |
(l)素材をもとに情報を選び 具体的なページのレイア ウトを考える。 |
どのような表現方法が適切かわかりやすいかを考えることにより自己評価が行われ考えが深まるであろう。 |
伝えたいことを的確に伝えるためには内容だけでなく視覚的な要素も必要であることに気づいたか。 |
レイアウトを変えることにより印象が大きく変わることを示す。 |
(m)(n)(o)(p)ホームページ作成 |
学んだ内容がホームページに構成されていく過程で自分たちが学んだことやこれからどうしていくかなどについて考えるであろう。 |
常に体験に戻り,ホームページの内容並びに表現が適切であるかを評価できたか。 |
今までの文集やビデオなどから伝えたいことが伝わっているかを吟味させる。 |
3 利用場面
(1) 目標
○ホームページを作ることを念頭に置き,相手の質問や意見についてよく考え,わかりやすく思いやりをもって答える。
○学んできたことについて意見を交換し自分の考えを深める。
(2) 展開
過程 |
学 習 活 動 |
教師の支援○・評価☆ |
つかむ |
1,本時の学習課題を確認する。 |
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4 実践を終えて
インターネットの利用はますます盛んになり,学校のホームページも多く目にする。地域の特性を生かした取り組みなどが紹介され教育現場においてもインターネットはかなり有効な情報源になりつつある。この実践ではテレビやコンピューターを使うことによって,実体験を伴わない観念的な思考が中心になってしまうことを避けるために,子どもたちにとって大変インパクトのある「イルカといっしょに泳ぐ」という活動を核にした。海や森から学ぶ活動を昨年度から継続してきたため,子どもたちは自然と接する姿勢が身に付きつつある。三宅島や御蔵島がイルカたちや魚たちを育む豊かな環境にあることに気付き,郷土を見つめ直しそこに生きることの意味をいっそう深く考えたのではないだろうか。
また,インターネットを利用して瑞穂第3小学校の児童とメールの交換をすることも子どもたちの意欲を高めることにかなり役だった。それまで言葉でしか知らなかったインターネットを使って新しい友だちができ,コミュニケーションを深めていけるということは新鮮な喜びだったようである。昨年度からの実践を地域の方々が支えてくれたことも子どもたちに大きな影響を与えた。
ホームページを作るためにジャック・モイヤー先生に取材し,ネイチャーガイドの海野義明氏に海の生物を教えてもらい,アカコッコ館レンジャーにファックスで質問をする。
イルカに会いに行く船にはモイヤー先生,海野氏,海をよく知っている保護者の方々がいっしょに乗ってくれる。その誰もが三宅島のことを熱く語り子どもたちに郷土の素晴らしさを伝えたいという思いを持っている。伝えたいことがあって初めて,ホームページを開設することに意味があるという当たり前のことを再確認した。
交流学習で仲良くなった瑞穂3小の児童に三宅島のことを伝えたいという思いに支えられ子どもたちは学習を深めた。漁師や海洋学者しか知らないイルカの漁の仕方に驚き喜び,それを伝えたいと思った。ページ作りに子どもたちは熱中した。本を使った調べ学習における学術的な記述も,自分たちが会ってきた生き物のことだと苦にならないようであった。ホームページを作る際,必要な写真を自分たちで水中で撮ったことも大きな喜びとなった。自らの体験が生み出したホームページに子どもたちは誇りさえ感じている。当初こちらが心配したホームページ作りの難しさは子どもたちは意に介していない様子だ。大容量のコンピュータがたった一台しかないため,ホームページ内の文章を別のコンピュータのワープロソフトで打ち,それを張り付けていくという作業の繰り返しだったが,その過程を楽しんでいた。壁紙を選び,写真や絵を張り付け,ボタンを選び・・・すべての過程で子どもは驚き喜び生き生きと活動した。リンクを張って指定されたページが現れるとみんなから歓声が上がった。
課題としては,本校でのハード面での整備の遅れを解決すること。少なくとも児童3人に1台はインターネットに接続できるコンピューターがほしい。1クラスが20人に満たない小規模の学級でも,接続可能なコンピューターが1台しかないというのは厳しい状況である。子どもにやる気と興味があるだけに,「もっとハード面は充実していれば・・・」と思うことが多かった。
今回の実践を通して子どもたちはコンピューターを身近に感じ,その存在価値を体験的に知ったと言えよう。デジタルカメラ,スキャナー,インターネット・・・ついこの間まで子どもたちにとって縁のなかったものが,学んだことを発信していく道具になる。郷土の素晴らしさを自ら発信できるということは,自らの足元をしっかりと見つめることに他ならない。三宅島の自然から学ぶことで,日本の環境や地球規模の環境にも目を向けることができるようになった。
島で生活するものにとって,インターネットはこれからもっと重要なものになっていくだろう。島で生活しながら,インターネットを活用して世界と結びつく。彼らはもっとも豊かな暮らし方をする最初の世代になるかもしれない。「偉大な自然を体験すること」と「コンピュータを利用して学習を深め学んだことを発信していくこと」この二つを通して子どもたちの中の生きる力は高まったと確信する。
この実践を包括する「三宅島から学ぼうー海・森・人のつながり」という平成10年度から続けているプログラムは昨春NHK首都圏ネットワークの取材を受け,11月には「朝日新聞 海とのふれあい賞」の「海大好き部門」を受賞した。
ワンポイントアドバイス |
図1 御蔵島の海でイルカと泳ぐ
利用したURLなど
瑞穂町立瑞穂第三小学校(http://www.gws.ne.jp/home/mizuho3/)
三宅島バーディー(http://village.infoweb.ne.jp/~fwkz7077/fsetiruka.html)
ジャックモイヤーのネイチャーワークショップ(http://www.wnn.or.jp/wnn-x/moyer/index.html)
アカコッコ館(http://www1.tokyoinfo.or.jp/~akakokko/birdland.htm)