理科教育とインターネット

                 小学校第六学年 理科,総合
                 筑波大学附属小学校  鷲見 辰美
キーワード 命,インターネット,情報選択,危険性


インターネット利用の意図
 「命」についてみんなで考える学習を行い,命を大切にする心を育てる。そのために,身体的な機能からみた「命」,心からみた「命」,自然から感じる「命」,社会問題からみた「命」など,様々な角度から「命」について追究していく。そのためには,広く情報が必要になってくる。自然と関わるだけではなく,新聞,本,インターネットの情報を合わせて活用していく。インターネットは特に,即時性,広範囲性から有効な情報となりうる。また,ホームページを作成することで,自分たちの考えを発信することができる。ホームページを使った表現は,多くの人たちの評価を得ることができる。これは,今までの活動に対する励みや反省につながる。また,クラス全体としても追究結果を共有しやすく,それを基にさらなる追究をすることができる。
 このように,情報の収集と追究結果の表現としてインターネットは,有効に利用できると考えている。しかし,便利な部分ばかりではなく,危険性を秘めていることも忘れることはできない。子ども達には有害な情報が入りやすくなるからである。自分にとって有益な情報であるか,情報選択する能力を育てる機会にもなると考えている。
 


1 命
(1) ねらい
 命というテーマは,ある意味壮大であり,抽象的で難しいテーマである。しかし,命を軽んじる風潮から多くの社会問題が起こっている。理科という教科では,直接生物を扱うことも多く,命の尊厳について考えるもっとも良い機会になる。生命の誕生や死に直面するといった,直接命に触れることだけではなく,成長のたくましさや工夫から命を感じることも多い。
 しかし,理科の授業の中で,生命の尊さを感じることができても,現実の社会では,逆に命の軽さを実感させられることが多い。いじめ,動物虐待,自殺等,多くの問題が新聞,ニュースに登場する。これは,教科における限界を示すことにもつながる。教科の内容だけではなく,社会問題も考えながら,子ども達が自ら問題解決をしていける力の育成が必要になってきている。社会の情報に踊らされることなく,自分をしっかりみつめていくための学習が必要になってくるのである。情報が氾濫する中から,より有益な情報を選択する学習をする点でも,インターネットを使う有効性があると考えている。
(2) 指導目標
 まず第1に,命の尊さに気付けるようにすること。自然のたくましさや,身体器官の神秘さ,誕生の喜びに触れることで命の尊さに気付くようにしていく。
 そして,第2に,情報処理能力,表現能力を高めることである。これらは,子ども達がこれから生きていく上で,重要な能力と考えている。多くの情報を自分の判断で処理し,まとめ,表現する活動を通してこれらの能力を育成していく。
 これらの活動は,インターネットを使うことで,より多くの情報を得ることができるようになり,活発化される。その分,危険な情報(直接人間の死を扱う等)に対する配慮が必要になってくる。何万件にも及ぶ情報を事前にチェックすることは不可能であり,その場,その場の対応が必要になってくると考えている。
(3) 利用場面
 この学習では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
(a) インターネットを利用した情報収集
 インターネット,ビデオ,本を通して情報を得ることができる。この中でも,インターネットが一番広範囲で,即時的情報が多い。パソコン室,理科室のパソコンを利用して,自分のテーマを調べ,プリントアウトした資料をまとめに上手く使うようにする。
(b) ホームページ作成
 学習のまとめとしてホームページを作成する。子ども達が作成したレポートから,教師が作成する。今の環境では,子ども達一人一人が開設するというわけにはいかないので,基本となる形を作成し,公開する。
 子ども達は,この基本となるホームページを検索し,もっとよくするためにはどうしたらよいか考え,自分なりのページをワープロ機能で作成してみる。素材データの挿入や画像データの取りこみの仕方も教えていく。また,他のホームページを閲覧し,参考にすることにより,表現技術を向上させることもできる。
 現在の環境では,そのページを全てホームページにのせることができない。そこで,印刷,掲示することにより,友達の作品を見ることができるようにする。
(4) 利用環境
(a) 使用機種 FMV-DESKPOWER 1台(理科室)
       DELL DIMENSION 22台(コンピュータ室)

(b) 周辺機器 デジタルカメラ SONY Cyber-shot 1台

(c) 稼働環境 コンピュータ室 DELL DIMENSION 22台(64kでインターネット接続)
       理科室 FMV-DESKPOWER 1  (288800bpsでインターネット接続)

(d) 利用ソフト インターネットエクスプローラ Microsoft Word

2 指導計画

  指導計画   子どもの活動

       留意点

(a) 身近にある「命」を見直してみる。
 ・自然の中に「命」を探してみる。
 ・新聞から「命」について考えさせられる記事を探す。
 ・「命」の源は何か。身体から「命」を探してみる。
 ★インターネットの利用

・命という漠然としたものが,具体的になるように例示を含めながら,指導していく。
・インターネットや資料といったものだけではなく,実際の観察も取り入れるように時間設定していく。

 

(b) 「命」の大きさについて考えてみる。
問題 命ってちっぽけか?
・自然や地球の偉大さにくらべれば,ちっぽけな存在かな。
・一つ一つの命は違い,なくなったときの悲しみは大きいから偉大だ。
・命は偉大なものだけれど,心が弱いとちっぽけな存在になってしまう。

・命の大きさについて,ディスカッションすることで,様々な角度から命について考えられるようにする。
・命について追究するための方向付けになるようにする。

 

(c) 「命」は,ちっぽけな存在か。それぞれの角度から「命」について追究してみる。

・身体から
 心臓・血液・肺の働きについて調べてみる。

・自然から
 占春園や校庭の植物から「命」を感じるところを探してみる。地球の自然について調べてみる。

・社会問題から
 新聞記事や資料から自分なりに分析しながら「命」について考える。

 ★インターネットの利用


(d) ホームページを開く

 ・子ども達がまとめてきた資料をもとにホームページを作成する。

 ★インターネットの利用

 

 

(e) ホームページをみながら,もっとわかりやすいページになるように画面を考え,ワープロソフトを使って,画面作成をしてみる。

・心,身体,自然の3つのうち,自分のテーマにあう画面について,作成してみる。

・プリントアウトして掲示すると共に,ホームページにも生かして更新していくようにする。

・実験・観察とインターネットや本を使った情報収集の両方を並行させながら進めていくようにする。

・身体については,呼吸の実験,魚の解剖を取り入れながら行っていく。

・身近にある自然ともっとグローバルな視点からみた自然についてとらえていく。

・身近な自然では,本校の特徴である,大いちょうや落羽松を中心に歴史も含めてとらえていく。

・グローバルな視点では,地球環境や稀少動物等の追究を行っていく。
・過激な意見等,害があるとみられるホームページを参照している子がいたら,その都度,個人的に話し合ってみる。
メイン画面から3つのサブ画面を作成する。心からみた命,身体からみた命,自然からみた命の3画面構成にする。

 

・全員のまとめを生かすことはできないけれども,子ども達の考えをおおまかにまとめて,多くの子ども達の考えを反映させることができるようにする。

・ワープロソフトを使い,画像や素材集を利用して,見やすい画面を工夫するようにしていく。

・プリントアウトしたものを掲示することで,いつでも見られるようにしておく。個人的に話し合ってみる。

 

1 根のたくましさを観察する

2 インターネット等を使ってまとめた資料

 

2 利用場面
(1) 目標 
 自分が追究してきたことを分かりやすくなるように工夫して,まとめる。そして,自分の考えを表現することで,今までの活動を反省したり,達成感が得られるようにする。
 また,ワープロソフトやデジタルカメラを使うことで,表現技法を習得する。
(2) 展開

  学習活動

       留意点

1 インターネットを使い,「命」のホームページを検索してみる。 

・「命」というキーワードで検索をすると何万件ものホームページが検索されてしまう。アドレス指定で検索していく。

          もっと見やすいページを工夫してみよう

2 他のホームページを開いてみて,デザインや表示の方法で,どのようにしたらみやすいか参考にしてみる。
 
3ワープロソフトを使い,追究してきたことを生かしながら,自分なりのページを作成してみる。

 ・心のページ  文学的・哲学的

         社会問題

 ・身体のページ 心臓等の器官

 ・自然のページ 自然・環境問題

・他の「命」に関するホームページを開いて,どのような工夫があるか調べ,自分もまとめに生かしていけるようにする。
・デジタル画像や素材集の取りこみ方を指導しながら行っていく。
・全員のページをホームページとしてのせる環境にはないので,全員の画面をプリントアウトして,掲示するようにして,他の子の画面も見られるようにする。

 

・出来る限り子どもが作成した画面を生かせるように,ホームページをこまめに更新するようにする。 

 

1 開設したホームページ「命」

2 ワープロを使ってまとめる

 

 

5 実践を終えて
 最初,私は人の体の中身なんて,気持ち悪いと思っていました。でも調べてみると,いろいろなしくみがとても神秘的に思えてきました。毎日,もくもくと血液を送りつづける心臓,何も語らず酸素や栄養を送り続ける血液,私の命を守るために働き続ける体の部分一つ一つに感謝の気持ちです。−N子−

 人間のために減っていく森,動物達。ぼくに何ができるのか考えたけれど,これっという答えがだせなかった。インターネットで稀少動物を調べたけれど,その動物達の命が本当に消えてしまうのか。とても悲しいけれど,何ができるのだろう。−W男−

 いじめは,悪いこと。でも,あちこちで起こる。小さないじめなら私もみたことがある。子どもの自殺は,いじめが原因であることが多いことがわかった。自殺は,両親の大きな悲しみに変わる。命って大切なんだな。わかりきったことだけど。 −T子−

 それぞれの子が,命について考え,命の大切さに気付いてくれたようである。そして,命の大切さだけではなく,命のもろさ,いじめという深刻な問題を扱い,自分の生き方まで考えた子もいた。インターネットを利用することで,より広範囲な様々な情報を得ることができ,子ども達の思考に大きく影響していた。また,自分の問題に対して,自主的な追究ができるというメリットも感じた
 その反面,ひやひやしたことも多い。学校は,いわば,温室の中の状態であり,直接的な害から守られてきた。しかし,インターネットはその壁を壊してしまう。アダルトサイトは,チェックできたとしても,思想的に偏りがあったり,偏見に満ちた情報が子ども達に届いてしまう。これといった対策は考えつかなかったが,その場,その場で,子どもと考える場を設定してきた。どのように扱うことが,自分にとって有益なのかを考える場の繰り返しが,情報選択力につながると思っている。
 最後に,命という問題を扱うと,死との関わりがでてくる。死の問題を扱うことは,重要なことではあるが,慎重さが必要になる。特に,インターネットからは,様々な情報が入ってくるからなおさらである。社会問題まで扱うことには,慎重な判断が必要だと感じた。

ワンポイントアドバイス
 
WNN(World Nature Network)http://www.wnn.or.jp/menu.htmlには,自然,環境,趣味,社会,伝統メニューがある。その中でも,自然を選択すると,ありとあらゆる動物,昆虫,植物に出会えるという感じである。稀少動物の写真,動物の飼い方,施設等の情報が詰め込まれている。自然について調べる時,ぜひ開いてみたいページである。
 後,大学が一般教養として開設しているホームページも,子ども達にとって魅力ある内容が多い。一度のぞいてみると,おもしろい情報にぶつかるかもしれない。


利用したURLなど
 ワールドネイチャネットワーク  http://www.wnn.or.jp/menu.html