「小学校低学年・中学年でのインターネットの理解と活用を深める」マルチメディア作品作り

     小学校第3学年 総合的な学習
東京都 中央区立 阪本小学校 岸本雅行

キーワード 小学校,3年生,横断的な学習,総合的な学習,図画工作,
音楽,国語,マルチメディア,インターネット,インタラクティブ


インターネット利用の意図
 本実践は,高度通信情報時代に対応する能力の育成を目指し,インターネットの基本的概念の理解を助ける意図でなされている。
 今日の学校でのインターネットの利用は,情報の収集であったり,電子メールによる交流であったり,ホームページによる,発信であったりするが,いずれもインターネットの基本的概念が把握されていてこそ効果が期待できるものである。このインターネットの基本的概念の形成のために,インタラクティブなマルチメディア題材を設定し,小学校低・中学年でのインターネットの理解と活用を深める実践を行った。


1 終わりのない石のお話
(1) ねらい及び指導目標

 [1] リンクなどの具体的体験を通してインターネットの基礎的な概念の理解。
  小学校低・中学年では,インターネットの活用場面はあまり多くはない。図工の時間に他校の作品(極めて少ない)を鑑賞する程度であ
  る。しかし,html の構造や,ウェブのサーバに読みにいくことなどを,作品作りを通して体験的に理解できると考える。この体験を経る
  ことにより,高学年でのインターネット活用能力や,情報モラルなどの「影」の部分への指導が生きてくる。
 [2] 国語,音楽,図工の3教科にまたがる横断的教材の『総合的な学習』時間での活用。
  新学習指導要領により,2002年度から『総合的な学習』の時間が開始される。ここで例示されている「情報」の扱いは,各校様々であろう
  が,インターネットを上記のように,情報の収集であったり,電子メールによる交流であったり,ホームページによる発信であったりする
  利用では,この情報インフラを充分に活用しているとは言えない。100校プロジェクトの開始時期の64Kダイアルアップ接続のような時代
  が,128K専用線接続の時代になり,当然のことながら,コンテンツもテキスト主流から,画像,動画主流へシフトする。ここに初めて小学
  校低・中学年での教科横断的なマルチメディア作品作りが教材として生きてくる。
 [3] デジタルカメラ,シンセサイザーなどを含めて,コンピュータを核とするデジタルメディアの活用。
  今日では,各校にデジタルカメラ,デジタルビデオカメラ,シンセサイザーなどデジタル機器が導入され,小学校低・中学年でも学習のツ
  ールとして活用している,今までは,各教科などで単体で利用していたが,それらのデータをコンピュータ上で,統合,編成,などの加工
  が簡単にできるようになっている。これらの加工用アプリケーションソフトのインターフェースも徐々に改良され,小学校低・中学年でも
  なんとか扱えるまで,敷居が下がってきている。
 [4] メディアリテラシーの基礎的な力の育成。
  これらの諸条件を小学校低・中学年から開始することにより,メディアリテラシーの基礎的な力が育ち,高学年での活用能力の基礎となる。
(2) 利用場面
 [1] デジタルカメラ
  素材の撮影
 [2] コンピュータ
  素材データの取り込みから,加工,リンク付け,アップロード,鑑賞まで
 [3] シンセサイザー
  BGM作り
(3) 利用環境
 [1] デジタルカメラ
  CACIO Qv-100 他
 [2] コンピュータ
  MacintoshIISi[22MB/80MB] Perfoma 5260 [16MB/800MB] Perfoma 5410 [16MB/1.5GB]他
 [3] シンセサイザー
  Roland:PC-180+SC-55mkII+MA-5P
 [4] 利用ソフトウェア
  KidPix/J MediaGrabber Overture PageMill NetscapeNavigator 他
 [5] ネットワーク環境
  Ether-net+Apple-Talkによる校内LAN:コンピュータ室+全教室

2 指導計画
(1) 指導計画の中でのインターネットの利用場面等

 [1] キャラクターの取り込み
  他校のホームページにアップされているキャラクターをダウンロードして,取り込む。
  著作権があるので,事前に了承を得る。
 [2] 作品の公開(発表)
  一応完成した作品を,自校のホームページにアップして発表する。
(2) 指導計画
 [1] 触る−素材の発見
 [2] 見つける−新しい見方
 [3] 取り込む
 [4] 創る
 [5] リンクの生成
 [6] アップロード

3 学習の展開

学習活動

支援・留意点

01〉触る−素材の発見
[活動01-1]
様々な色や形態の中から,自分の気に入ったものを選ぶ。

[活動01-2]
選んだ石を洗う。石の重量や質感を体感する。

[活動01-3]
石で遊ぶ。乾燥させるまで,転がしたり,当てたりして遊ぶ。

 

[支援]
体感を大切にする。

[留意点]
安全管理

02〉見つける−新しい見方
[活動02-1]
石の様子を視る。小型CCDカメラで,29インチモニターに拡大投影。

[支援]
小型CCDカメラの接続法


〈03〉取り入れる
[活動03-1]気に入った角度から撮影する。デジタルカメラは二人で1台。
交互に撮影助手をする。

参考:アナログデジタル変換には,フイルム撮影プリントカラースキャナーと,フイルム撮影フォトCD,それにビデオカメラ・教材提示カメラ(NTSC信号)ビデオキャプチャーなどの方法がある。
[支援]
デジタルカメラの基本操作(電源・録画・再生のスイッチ類,シャッターボタンなど)
デジタルカメラの操作は簡単であるが,被写体の光量が少ないと手ぶれをおこしやすい。補助照明を加えるか,三脚などでの固定を工夫する。撮影後すぐに画像を再生できるので,撮り直しが簡単にできる。再生画像は,内蔵LCIモニターよりNTSC信号の外部出力が見やすい。

[活動03-2]コンピュータに取り込み,リサイズ,白抜き,色調の調整をする。

参考:背景を消す白抜きは,ラッソツール(投げ縄ツール)の機能があると便利。ソフトウェアに拠っては地色の色相から簡単に抜くことができる。
[支援]
作業途中の「保存」を指導する。長時間のモニター注視を避けるためにも,一定時間(10分間程度)毎に「保存」を行う。

 

 

04〉創る−1−キャラクターの創出
[活動04-1]白抜きされた「石」を,顔や体に見立ててキャラクターを創る

[支援]

リサイズ,左右反転,回転などのアレンジが,別のソフトウェアでできることを知る。これらの加工用アプリケーションソフトについては,興味を持った子どもたちのみに基本的な操作法を知らせる。この段階で深入りすると全体の仕上がりの調整が難しくなる。

 

05〉創る−2−背景のCG
[活動05-1]
バックを作る。

[活動05-2]
キャラクターをコピー&ペーストで画面に入れる。

[支援]
作成データの保存は,それぞれが識別できる名前を付ける。

06〉関わる−リンクの面白さ

[活動06-1]プリントアウトを並べて見て,他のキャラクターを選ぶ。

[支援]
説明だけではリンクのイメージができない。一度デモンストレーションを行うと,すぐに理解でる。

07〉創る−3−ストーリの創作と英訳
[活動07−1]教室で国語の時間として,物語を創る。サムネイルやプリントアウトした作品を見ながら創作する。この後テキスト入力をする。

[支援]
この時点までの,それぞれが作成した画面をプリントアウトしておくと,ストーリーの展開に効果がある。
ボランティアの保護者から英訳されて戻ってくる。この後テキスト入力。

08〉創る−4−CGの制作
[活動08-1]ソースとなるキャラクターや背景画像などを,インターネットやファイルサーバからダウンロードする。必要であれば,他のキャラクターもダウンロードする。サーバ上にある画像は子どもたち一人一人のサムネイルで確認する。

[活動08-2]
コピー&ペーストなどで複数画面を作成する。

[活動08-3]
作成されたデータをファイルサーバの自分のフォルダーにアップロードする。

[支援]
ファイルサーバ機の能力が低いため,ダウンロードやアップロードが集中すると,極端にネットワークのパフォーマンスが落ちる。分散するように注意させる。

09〉やってみる−htmlへの書き出しとリンクの生成
[活動09-1]
html生成ソフトウェアにドラッグ&ドロップ。

[支援]
リンクの生成はドラッグ&ドロップで可能である。この学年でも1・2回の操作で憶えることができるが,ドラッグ&ドロップで生成するためには全てが同一ディレクトリーにあること。異なるディレクトリーにある場合はフルパス名(絶対パス)が必要である。

10〉創る−5−BGMの創作とデータリンク
[活動10-1]
BGMの創作:音楽室

参考:MIDIデータは情報量が少ない。しかし音色はそれぞれのブラウザがセットアップされているコンピュータの音源に依存する。
[支援]
今回はMIDIデータとしたため,データ変換は教師が処理した。
導入機器の台数が少なく,子供1人が創作する時間を充分に採ることができず,十分な成果が得られなかった

11〉確かめる−動作確認とアップロード
[活動11-1]
ローカルサーバーで動作確認

[活動11-2]
プロバイダーにアップロード

[支援]
プロバイダーへのアップロードは,セキュリティ管理の問題もあり,全て教師が行う。

12〉楽しむ−鑑賞会
[活動12-1]
他学年の鑑賞

[支援]
ブラウザの操作。しかし家庭で体験している子どももいるので,支援が必要なのはBGMの再生くらいである。

 

4 成果と課題
(1) 成果

 第一には,小学校中学年でもインターネットの概要を理解することができた。しかし,この題材が3年生として妥当であるのか検討の余地がある。それは制作の全過程を把握することが,発達段階的に見て,まだ難しい学年である。各セクションの一つ一つには興味と高い意欲を示すが,全体像を充分に掴めない。次年度は4年生として再度実践してみたい。
 第二にはマルチメディア教材としたが,画像(図工)物語(国語)BGM(音楽)の制作環境が統一されず,ひいては制作にあたる時間の配分も充分ではなかった。今後の『総合的な学習』の時間配分なども検討する必要がある。ただし,時間配分などについては,学校規模などの諸条件を考慮する必要があろう。
 第三には現時点では画像をフルカラー,フルスクリーンの状態でのデジタル化は,膨大な情報量のため実現していない。ディスクアレィを装置していない(公立小学校で導入できる金額ではない)ので,数画面単位の編集作業になる。ハードウェアとソフトウェアの進展にともない,21世紀初頭には小学校に導入されるコンピュータでも次世代のマルチメディア題材を簡単に扱えるようになるだろう。その時点で,映像そのものの表現活動を通してインターネットの新たな展開が可能になると思われる。
(2) 今後の課題等
[1] コンピュータは自己の探求心や創造性を刺激するために開発されたもので,コンピュータに触っているうちに表現したいという想いが創造へとステップアップする。創っているうちにコンピュータの持つ無限の広がりを認識できる。いままでのメディアでは限定されたものしかできなかったが,コンピュータで表現活動を始めると,いろいろなバリエーションを試しながら夢中になれる。しかし,現実には学校にはコンピュータという道具が先にあって表現しようとするテーマがない場合が多い。教師が子どもたちにどういう学習活動をさせたいかというイメージがないケースが最悪である。「教える教師」が[ワープロソフト]イコール,[コンピュータ]の状況を変革し,「発信する教師」としてコンピュータやインターネットとかかわる状況を再構築していかなくてはならない。既に本事例はホームページにアップされているが,この作品につて他校からのリアクションは無い。無関心なのか面倒なのか推量ることもできないが,結局ヒト:教師の要因が総てではないのだろうか。他校へのアッピールも含め,今後の取り組みが課題となっている。今回のような,短期間では成果を生み出すまでに時間がなかった。今後数年をかけて実践を続ける必要があろう。
[2] インターネット社会も既存の社会と同じモラルが支配していることを認識しなくてはならない。現実の悪はインターネットのサイバー社会にも存在する。小学校段階では,外部に出る情報管理も含め,受け取る情報のコンテンツから,コンピュータウイルスへの対処まで,大人の側の認識と技術力が問われる。今後インターネット上でのマーケット行為が盛んになると,子どもたちが商取引上での責任を負う年令まで,大人がどのように関わるのかも検討されなければならない。ここでも手付かずのままサイバーマーケットが拡大されている。

ワンポイントアドバイス
[1] 貸与備品の導入については,CECとの連絡を密にしないと,事務手続きなどが不明のまま導入されずに終わってしまう。
[2] 児童数によっては,グループ製作の方法も考慮されたい。(キャラクターCG,背景CG,ストーリ,BGMなどに分担するなど)
[3] インターネット上での著作権の問題をクリアーしなければならない。しかし,小学校などでの現場では,その手続きなどが不明であったり,煩雑である。

 

協力校
 
カナダ:San Sherratt Public School
       http://www.haltonbe.on.ca/schools/sherratt/primwork.html

利用したURLなど
 嶋守哲夫:子どもの表現とマルチメディア 奈良女子大学文学部附属小学校:情報教育
           http://www.nara-wu.ac.jp/fusyo/jyouhoukyouiku1.html

参考文献
 
マルチメディアと著作権 中山 信弘 1996年1月22日 (株)岩波書店 岩波新書(新赤版)426
 インターネット自由自在 石田 晴久 1998年3月20日 (株)岩波書店 岩波新書(新赤版)551
 情報化とメディアの可能的様態の行方  水越 伸 岩波講座:現代社会学 第22巻
 メディアと情報化の社会学 1996年4月12日 (株)岩波書店
 教育とデジタル革命 高島秀之 1997年5月20日 有斐閣 選書