体力テストのデータベース化と情報交換システム作成の試み

- 新しい体力テストの活用について -

筑波大学附属中学校
保健体育科 鈴木和弘,小山 浩,小磯 透, 中村なおみ
筑波大学附属駒場中・高校 保健体育科 小沢 治夫
筑波大学体育科学系 西嶋尚彦,中野貴博
taiiku@blue.ocn.ne.jp
http://www.gakko.otsuka.tsukuba.ac.jp/huzoku/chugaku/
キーワード 中学2年,新体力テスト,生きる 力の育成,体操領域


インターネット利用の意図
 新しい体力テストは,既に各学校で実施 され文部省からもその結果が公表されている。またこれはWeb上でもその標準値が明らかとなっている。今後 このような基礎データを各学校で活用していくことが可能となってきた。このような意図を持ってインターネットの有効利用を行うことができる。


1 はじめに
 この度,昭和39年以来各学校を中心に実施されてきた文部省の体力診断テスト及び運動能力が大幅に改訂された。新しい体力テストは,9種目(そのうち1種目は選択)で構成されている。既に,平成11年度から各学校でもこのテストが実施されている。本校ではこの新しい体力テストを平成10年度から試行的に実施してきた。測定データは,パーソナルコンピュータ(以下PC)に入力され,本校独自にデータを蓄積しつつある。さらに,この結果を活かすために体操領域に関連させた授業実践も試みてきた。また,筑波大学附属駒場中・高校との連携を図りながら,お互いの資料を交換して,両校における生徒の体力の実態について分析も試みている。

 一方,平成11年12月に学習指導要領が告示された。
ここでは,「生きる力の育成」を柱とする教育が学校に求められている。本校ではこの生きる力を,図1に示した3要素から構成されていると仮定した。
 保健体育は,健康と体力の育成と基本にしながら,豊かな人間性や主体的に問題を解決していく能力の育成が求められている。このように考えると体力測定の結果を生徒に示すだけでなく,その結果を踏まえ,自らの体力を高めていく方法を学ばせる授業の展開を試みることが必要となろう。ところで学校教育でのPCの普及に伴い生徒自身で簡単なデータ処理を行うことも容易になってきた。
 そこで,本研究では,新体力テストの結果を活かしながら,自らの体力を高める授業実践(「体操領域(トレーニング単元)の試み」)を通して得られた結果について報告するものである。

2 体力プロフィールの作成と授業での活用
 まず,本研究では新体力テスト結果を生 徒に分かりやすくフィードバックするために,筑波大学体育科学系の協力を得ながら,体力プロフィールの作成を行った。これは,各測定項目が10段階で基準化されている。生徒は自分の測定データをPCに入力することによって,視覚的に体力のバランスと構成を把握することができる。図2は例として,中2女子の平均値(平成11年度)をすべての項目について算出し,それを示したものである。


 この結果を見ると,握力等の筋力が若干他の項目に比べ劣っている。その一方で,全身持久力の指標である,20mシャトルランは,この体力プロフィールから見て,高いことが分かる。
 次に,1年生から2年生にかけてどのように体力が変化していくかを生徒に示す。思春期前期から中期にかけては,全身持久性が向上すると言われている。これを自分たちが行った体力テストの結果から明らかにしていく。生徒にとっては,みずから実践してきた結果を示されるので,授業の動機づけとしても効果的であると思われる。
 次の図3,及び図4はその一部として,20mシャトルランの経年変化を取り上げてみた。これは同一集団における1年間の変化をみたものである。

 


3 トレーニング単元の実践
 次に体力テスト結果をより活かしていくために,トレーニングを中心とした授業の実践を試みた。
 この授業では,トレーニングの実践を通して,自らの体力を向上させるともに,自分の課題に応じたトレーニングプログラムを自ら作成することによって,主体的に問題解決を図る能力を身につけさせることが目的であった。
 授業は,平成11年10月から12月にかけて計20時間に亘って実施した。対象は,第2学年男女5クラス,205名であった。
 主体的問題解決能力の育成は,図5に示した4つの領域から構成される循環的因果構造を仮定した。


 この4つの構成概念は,生徒が保健体育の学習に主体的に取り組むために必要な要素であると考えた。自ら活動に取り組もうとする意志は,「内発的意欲」である。次に,自ら目標を持って行動することを「主体的行動」とした。次に活動を通して得られる達成感や成就感,楽しさの要素を「達成満足」とした。その結果から,「やればできる」などの有能感や自信,自らできたという効力感などを総合して「自己認識」として捉えた。教師からそれぞれの要素に働きかける部分をそれぞれ,「導入」ーやる気にさせる外発的な動機づけ,「学習方法」ー具体的な指導内容,学習の進め方の呈示など,「プログラム」ー授業で用いる様々な資料及び教材や教具の呈示等,「フィードバック」ー授業中の継続的な励ましやアドバイス等である。主体的に問題を解決させるためには,現在の自分の状態と目標とする自分の状態を時系列に沿って,イメージさせることが必要となる。次の図6はそのモデルである。


 ここで,現在の自分の状態は,様々な側面で捉えることができる。その中でもとりわけ体力テストの結果(2年次,4〜5月にかけて測定されたもの)が一つの指標として大きな意味を持つ。勿論,身体的能力は向上していく時期であるため,適切な運動を継続的に実施していれば,授業開始の段階(今回は,10月)でも向上していると推察される。そこで,授業が始まる前に,時間的な制約を加味して代表的な項目を測定した。(20mシャトルランなど)
 実際の授業では,適切な運動によって体力を高めるには,日常のライフスタイルが最も大切な要素であることを理解させた。これは,食事,睡眠,運動など基本的な生活の部分である。次に,思春期を迎えたからだの発達の特徴や男女の運動能力の違いなどについても触れた。これらの内容は保健の授業で行った。ライフスタイルと体力・運動能力との関係性は図7のように示し,生徒が理解しやすいよう配慮した。体育の授業の前半部分では,生徒にサーキット,ダンベルトレーニング,ラダー・ミニハードルトレーニングなど各種の代表的なトレーニング法を紹介し実践させ,方法を指導した。授業の後半では自分で立てたプログラムに基づいてトレーニングの実践を行わせた。


4 まとめ
 授業の前-中-後半において3回の調査を行い,生徒の変化を見た。その結果,特に主体的行動に関する領域において顕著な向上が見られた。生徒は自ら計画を立てて実践し,自分に適した方法で学習を進めていくことを通して,主体的に問題解決を図るための力を身につけてきたと思われる。

ワンポイントアドバイス
 体力テストの目的は,子どもたちの現在の状態を正確に知り,それを日常の生活や授業にどう活かすかを考えることである。従って,これを有効な教材として活用するために,基準となる基礎データが大切である。Web上では,そのような結果が公表されている。これらをできるだけリンクさせ,学校現場に適用することが可能である。


利用したURLなど
 http://www.educare.co.jp/st/index.html
 http://ten.tokyo-shoseki.co.jp/

参考文献
・西嶋尚彦(1996):部活動に活かす体力測定と運動処方,体育科教育44(3):35-38
・鈴木和弘(1998):ライフスタイルとトレーニング実践との関連を視野に入れた体育理論の学習「中学校体育・スポーツ実践講座 12巻」ニチブン,東京,38-46