学習センターで自ら学びを進めていくための環境構築
"Making of better environments for self-learning at the Learning Center."
last updated 1.16.2000

東京都八丈島八丈町立三原中学校
教諭 荒木貴之
taka_a@d2.dion.ne.jp
キーワード 中学校,環境,学び,電子メール,交流


企画の目的・意図
(1) 八丈島をはじめ僻地や島嶼地区は,今まで距離的な制約から,情報格差が存在していた。しかし,インターネットを利用することで距離的なハンデは解消されると同時に,一生涯学びを続けるためのスキルを得ることになる。生涯学習の準備として,また,「学び」とは何であるかを生徒が自ら考え,実行していく場として,コンピュータ(インターネット)ネットワークが整備された学習環境を構築し,問題解決能力及び自己表現力,他人の信念・意見に対する寛容などの社会性を育てていきたい。
(2) 学習の補助として,ネットワークコンピュータを設置する「学習センター」には情報検索の補助(サーチャー)として教員ないし生徒もしくは保護者(ボランティア)を配置する。このことで,教えることから「学び」を深化させる。また,地域の人的資源を活用した教育の在り方について探る。



1 本企画の実践内容
 本章では,「学び」の環境を構築していくという観点で,「ハードウェア環境」「人的環境」「インターネット利用環境」「研究推進環境」の4点の環境構築について述べていくことにする。
(1) 「ハードウェア環境」の構築
(
) コンピュータ環境
本校ではPTAの補助により,複数台のコンピュータがダイヤルアップにてインターネットに接続することが可能であった。今回,学校企画の採択によるCECからの追加補助により,校内イントラネットに本格サーバ(Windows NTサーバ)を構築し,すべての学校内のコンピュータのブラウザのスタートページ(ホームページ)を同サーバ内に置き,校内限定情報をイントラネット内で流すことができるようになった。

平成12年1月15日現在の学習センター内ハードウェアの構成
 サーバ 1台(Windows NTサーバ)
 クライアント 15台(Windows及びMacintosh混在)

(イ) 図書資料の移設
 平成11年8月16日には,図書委員により,図書資料の移設が行われた。「環境」「人間」「国際交流」「情報」の4分野に関する図書資料が図書室より学習センターへ移設され,図書資料とwebというメディアを融合させながらの学習が可能となった。
(2) 「人的環境」の構築
(ア) サーチャー制の採用
 学習センターには「サーチャー」として教員・生徒・地域の保護者(ボランティア)の1名が常駐し,生徒の学習の補助をしている。サーチャーによる生徒への学習センターの開放は平成11年9月22日から始まった。
 サーチャーを希望する生徒には,2週間程度の「サーチャー実習」を行い,体験的に情報検索やソフトウェアの操作方法・機器の取り扱い方法を学ばせた。平成12年1月15日現在,本校のサーチャー登録数は教員2名,生徒2名,地域ボランティア1名の計5名である。
 なお,サーチャー間の情報交換,情報共有は校内イントラネットのNTサーバに設置した電子掲示板「WebBBS」を用いて行っている。どうしても話し合いが必要な場合は,臨時に全員を招集しオフラインで重要事項を決定している。
 生徒に「学習センター」に関する自治意識を植え付ける意味でも,サーチャー制の導入と生徒の参画は意味があったと思われる。
 なお,地域ボランティアには,平日の昼休みの開放を担当していただいているが,地域の人的資源の活用に関しては,今後ますます進めていかなければならないと感じる。地域ボランティアの資格認定は,Webブラウズと電子メールの送受信ができ,かんたんなアプリケーション操作ができることとしている。
(イ) 教職員コンピュータ研修の開催
 教職員がインターネットやコンピュータ利用に関して,不安を覚えたり拒絶したりしているようでは,児童・生徒のコンピュータ利用は一向に進まない。そこでコンピュータ研修を数回に分けて実施した。
a 八丈町情報教育推進委員会主催 平成11年8月25日〜27日
上記コンピュータ研修は,講習に用いたテキストをHTML化した。研修終了後,講習テキスト及び受講者の作品をCD-ROMに保存して配布した。島内の各学校にも研修実施用に同CD-ROMを配布した。
八丈町情報教育推進委員会主催 平成11年11月29日
  コンピュータ実技研修会に20名が参加した。
1) 2000年問題への対応(Windows Updateのページを参考にしながら)
2) Webベースの電子メールアカウント取得,送受信
3) Hachijo-ML(八丈島情報教育メーリングリスト)の紹介など
b 教職員を対象としたパソコン自主研修を開催
 原則として,毎週水曜日の午後6時から9時まで開催した。平成11年9月1日より平成12年2000年1月12日までで全14回を開催し,参加者は「フォルダの作成の仕方」などの初歩的な内容から,「LinuxのKDEの試用」や「Windows NTマシンの設定」といった高度な内容まで自らの興味・関心を元にした研修を行った。延べ30名が来校した。
(3) 「インターネット利用環境」の構築
(ア) 電子メールアカウントの発行
 インターネットを使った学習を進めるとき,電子メールの利用に関しては様々な意見があるが,本校では積極的に電子メールアカウントを発行し,利用者の倫理や自主規制に任せて運用を行った。
 校内イントラネットサーバの構築に伴い,フリーに利用できる「Personal Mail Server」を導入した。また,クライアントにはフロッピーで運用可能な「Mm-mail」を導入し,教職員全員及び生徒の希望者にメールアカウントを発行した。
 しかし,上記の「Mm-mail」はWindows専用であり,本校に導入されているMacintoshマシンを活用することができなかったので,需要の増加に対応するためにMicrosoftの「Hotmail」による無料メール(Webメール)に移行した。この方法を使えば,Webベースで電子メールの送受信が可能となるので,機種に依存することなくネットワークコンピュータであればどこにいても電子メールの利用が可能となった。
 なお,平成11年9月よりサーチャーの協力を得て,第1・第3・第5土曜日の放課後には,電子メール実習と称して生徒へのメールアカウント発行と利用補助を継続して行っている。
(イ) 利用規程の制定
 利用に先立ち,福島県葛尾村立葛尾中学校ネットワーク利用規定を参考に「三原中学校ネットワーク利用規程」を平成11年9月1日に制定した。以後,利用状況の変化に対応して3度の改正を重ね現在に至っている。利用規程に関しては,Web上に公開しているが,全校生徒にプリントアウトして配布している。次年度以降も「学び方を学ぶ」オリエンテーション時に情報倫理に関わる項目で触れることとしている。
(4) 「研究推進環境」の構築
(ア) 時間割の工夫
 本校では年間を前期と後期の2期に分け,時間割を編成している。前期の最後に後述する理科・技術科教員によるティームティーチング(TT)による研究授 業を行ったが,コンピュータ(インターネット)の利用による生徒の興味・関心 に基づく学習を実施するとき,教員一人だけで生徒すべての学習の過程を把握す ることは困難である。後期の時間割からは,主にインターネットの利用が見込まれる選択授業の時間帯に,技術科教員が臨機応変にTTとして参加することがで きるように,時間割を編成した。
(イ) 研究授業の実施
 コンピュータ利用を進めるためには,積極的に情報公開・授業公開をすることも大切である。本校では,2回にわたってコンピュータ(インターネット)を活用した研究授業を行った。
a 理科・技術科教員によるティーム・ティーチング(TT)
 日時:平成11年10月22日 5・6校時
 題材:「エコアイランド八丈」
 対象:第3学年 選択理科履修生徒(2名)
題材のねらい
1) 環境問題に興味を持ち,自ら進んで環境問題にはたらきかけ,主体的・能動的な取り組みを通して問題解決能力を育てる。
2) 豊かな体験を通して,環境に関わる事象を科学的に調べる能力や態度,環境を評価する能力を育てる(理科・環境)。
3) インターネットも含めたさまざまなメディアを活用して調べ学習をし,まとめをホームページで発表することを通して,情報活用能力を育てる(技術科・情報)。
本実践でのコンピュータの利用
1) 調べ学習のまとめをWebページとして作成し,公開する。
2) 遠隔地と電子会議ソフト(Microsoft Netmeeting)で結び,指導助言を受ける。
b 理科における「共生」をテーマとした実践研究
 日時:平成11年12月8日 3・4校時
 題材:「植物と環境」(「ケナフ」を用いて)
 対象:第1学年(17名)
題材のねらい

1) 環境問題に興味を持ち,自ら進んで環境問題にはたらきかけ,主体的・能動的な取り組みを通して実践力を育てる。
2) 集団の中での豊かな体験を通して,集団で行動することの大切さやすばらしさ,「共生」の重要性について意識させる。

本実践でのコンピュータの利用

1) 生徒が採取したケナフの種を希望する学校をメーリングリストで募集する。
2) 交流に先立ち,案内文をワープロソフトで作成する。
3) 電子メールで寄せられた各地からの便りを紹介する。

2.成果と課題
(1) 生徒の学習観の変容
 ネットワークを開放して,生徒にどのような変化が見られたのだろうか。以下に「インターネットを体験して何が良かったか」という問いかけに対する生徒の回答を紹介する。
「調べたいこと,欲しい情報がすぐに手に入る」
「遠い地域の友達ができる」
「将来に役立つ・キーボードが速く打てるようになった」
「コンピュータの知識がついた」
「学校がおもしろくなった」
 生徒によって思いは様々だが,インターネットをきっかけにして「調べることのおもしろさ」を実感したり,いろいろな地域と交流し理解し合うことで「自分の住む地域を再認識・再評価し,その良さを見いだす」ことができるのではないかと考えられる。生徒には,学習環境を求めて「学習センター」を訪れるということが浸透してきたようである。
 インターネットを利用した学習は,自らの興味・関心に基づき自らのペースで学習を進めていくことができるという点で優れている。ただし,情報量が膨大であるために,学習の過程の所々でナビゲータが必要であろう。的確なアドバイスを提示することで,より積極的・自主的な学習を支援していくことができよう。
(2) 教職員間ネットワークの強化
 「教職員向け自主研修」を通して,異なる学校種の教員どうしでネットワークが生まれ,平成11年12月5日には管内の小学校のネットワーク環境を整備するネットディがボランティアの教員により実施された。
 教職員間の情報交換では,メーリングリストサービスを利用した。平成11年6月16日より交換されたメール総数は490通にのぼる。現在はメーリングリストをCECのサーバに移行しているが,情報交換・情報共有に大いに役立っている。
(3) 電子メールによる新たなコミュニケーションの創造
 本校は週に1回スクールカウンセラーが来校するが,カウンセラーと電子メールで交流する生徒も見られた。また,教員と生徒間でも電子メールの交流が見られる。そして,生徒同士でも電子メールによる交流は盛んである。このことは,コンピュータリテラシーの向上にも一役買っていると思われる。また,教職員の紹介による生徒と学校外の人的資源との交流も進んでいる。
(4) 次年度以降の課題(取り組み予定)
a 平成12年度以降,新入生を対象に「学び方を学ぶ」時間で,様々な学習の方法の一環として,コンピュータ(インターネット)利用について取り上げる。
b 保護者の理解を深めるために,また,地域の教育力を積極的に活用していくという視点,学校開放(社会教育)という視点からも,保護者の利用やボランティアの登録に関して検討していく。


ワンポイントアドバイス

(1) Webメールの利用がネットワークに負荷をかけることへの懸念
   利用者(生徒)には毎回の利用毎に「利用アンケート」を実施している。平成11年11月15日より平成12年1月15日までのアンケートを集計した結果,利用状況がWebメール(電子メール)に偏っており,ネットワークへの負荷が懸念される。

(2) 利用者と非利用者との間に新たな情報格差が生じることへの懸念
 上記(1)の「利用アンケート」を集計した結果,平均利用回数にははっきりと性差が現れた。全く利用しない生徒も男子に40%弱存在しており,利用者と非利用者の間に新たな情報格差を生み出さないように配慮が必要である。

 

(3) 生徒向けアンケートの実施と結果の分析
 実践の終盤で行った生徒向けアンケートには,インターネットに関わる項目を設定した。設問の1つ「まわりの友達と話しているより,ネットワークの友達の方が気が楽だ」に肯定的に回答した生徒が何名か存在した。ネットワークにより救われる生徒が出る一方,現実を回避しネットワークに逃避するようでは根本的な解決とはならないことを十分に留意し,ネットワークだけに傾倒しないように注意が必要である。
(4) 積極的に授業実践し,学校内外にコンピュータ利用をPRする
 本企画が実践できたのも,ひとえにPTA及びCECからの補助のおかげである。積極的に授業実践や情報公開を行い,理解者を一人でも多く増やすことが大切である。そして,時間・場所を共有することで理解者を協力者としていくことも必要である。


協力
 
東京都八丈島八丈町情報教育推進委員会
 東京都八丈島八丈町立小中学校及び東京都立八丈高等学校
 上越教育大学学校教育研究センター 小川亮助教授(電子会議にて)

利用したURLなど
 東京都八丈島八丈町立三原中学校
 http://www.d2.dion.ne.jp/~taka_a/mihara/mihara-index.html
 「ケナフ99及びケナフ2000」のページ
 http://www.d2.dion.ne.jp/~taka_a/kenaf99/kenaf99.html
 福島県葛尾村立葛尾中学校ネットワーク利用規定
 http://www.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/REPORT/rule.htm
 東京都八丈島八丈町立三原中学校ネットワーク利用規定
 http://www.d2.dion.ne.jp/~taka_a/mihara/rule.html