サウンド・エデュケーション
−音を聞くことから始める総合的学習−
小学校第5学年・総合的な学習の時間
慶應義塾幼稚舎
鈴木 秀樹
cool@yochisha.keio.ac.jp
http://www.yochisha.keio.ac.jp
キーワード 小学校,総合的な学習の時間,朝礼,サウンド・エデュケーション,MD
インターネット利用の意図
さすがに最近はあまり聞かなくなってきたが,かつてはコンピュータ等のマルチメディア機器を教育現場に導入しようとすると,「人間の感性が失われる」とか「バーチャルな体験よりも実体験の方が教育には大切だ」といった批判が聞かれたものである。確かに現代社会において,子供達はあまりにも多様なメディアの洪水にさらされているために,視覚以外の五感を十分に発揮することが困難になっている面は否めない。しかし,だからといって自然の中に子供達を連れて行けばそれで良いというものでもないし,マルチメディア機器を使うからこそ出来る五感の復権もあり得るはずだ。
本実践はその試みである。まず,普段は何となく聞いているだけの音に耳を向けさせる。次に,他人が聞いた音を聞いたり,自分が聞いた音を他人に聞いてもらうといった音体験の共有をマルチメディア機器を活用して行い,「音を聞く」という行為に意識を向けさせる。
1 この音 なんだ?
(1) ねらい
「音を聴く」という行為は,人間の五感を使った活動の中でも最も基本的なものであり,コミュニケーションを取る上でもかなり大切なものでありながら,普段は当たり前すぎて殆ど見向きもされない行為である。しかし,この「音を聴く」という行為を見直すことによって,自分の周りの環境を見直したり,対人コミュニケーションの基礎となる「他人と経験を共有する」という体験を持つことが出来る。この「サウンド・エデュケーション−音を聞くことから始める総合的学習−」では,各種のメディアを道具として活用し,児童に「音を聴く」行為の意味を再認識させることを目的としている。
(2) 指導目標
実際に「音を聴く」という五感を使った活動と,「MDで録音する」「インターネットを通して音を聴く」といったメディアを使った活動を組み合わせ,「音を聴く」行為を再認識させる。最終的には「マルチメディアを活用して,自分の音体験を他人と共有することができる」ことを目標とする。
(3) 利用場面
この学習では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
(a) Web ページをブラウズする。
(b) 朝礼で音当てクイズを行う際のプレゼンテーション・ツールとして使う。
(c) 録音してきた音をプレゼンテーションにまとめる。
(d) プレゼンテーションしながら音当てクイズを行う。
(4) 利用環境
1) 使用機種 Toshiba Dynabook Satellite 310 22台(T1接続)
2) 周辺機器 Epson ELP-7200 1台
MDウォークマン Sony MZ-R90 5台
デジタルカメラ Canon Power Shot A5 5台
3) 利用ソフト Microsoft PowerPoint 2000
Microsoft Internet Explorer 5.0
2 指導計画
指導計画 |
留意点 |
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(a) 「音を聞く」ことのオリエンテーション |
・『音さがしの本―リトル・サウンド・エデュケーション―』『大きな耳』などを参考にして,いくつかの音を聴く課題を行う。 |
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図1 二つの音を聞き分ける |
図2 サウンド・マップを作る |
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(b) Sound Explorerにアクセスして色々な音の聞き方があることを気づかせる。 |
・ Sound Explorerにアクセスさせ,以下のようなことに気づかせる。 |
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(c) 朝礼で,MDで録音してきた音を聞かせて,何の音か当てさせる。 |
・校内で聞ける音をMDで録音し,クイズ形式で聞かせる。 |
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(d) 入学試験休みを利用して宿題を出す。 |
・「自分の聞きたい音を録音してくる」という宿題を出す。 |
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(e) 録音してきた音を元にプレゼンテーションを作成する。 |
・デジカメの画像を使って,音当てクイズのプレゼンテーションを作成させる。 |
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(f) 録音してきた音を皆で聞きあう。 ☆プレゼンテーション・ソフト(PowerPoint) |
・MDプレゼンテーション・ソフトを使って,音当てクイズを発表させる。 |
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図3 児童の作成したプレゼンテーション画面 |
3 利用場面
(1) 目標
・ 朝礼で,MDで録音してきた音を聞き,何の音か当てる。
・ 音には色々な種類があることを知る。
・ 音を聴くためのテクニックを知る。
・ 音を録音して他人に聞かせることの面白さを知る。
(2) 展開
学習活動 |
活動への働きかけ |
提示画面 |
1 講堂へ入場する。 |
・あらかじめ,プロジェクターを使ってタイトルを表示しておき,どんな内容の話なのか予想させる。 |
図4 はじめの画面 |
2 流れてきた音を聴き,その音が何であるかを考える。 |
・問題を6問提示する。 |
図5 問題提示画面 |
3 答を見て,自分の「音を聴き分ける力」を知る。 |
・答を提示する。 |
図6 解答提示画面 |
4 よりよく「音を聴く」ために必要な技術を知る。 |
・「音を聴く」ことのまとめをする。 |
図7 まとめ画面 |
5 音には色々な種類があることを知る。 |
・舞台の上で実際に歩いて足音を立て,音には「止まっている音」「動いている音」「ついてくる音」があることを知らせる。 |
図8 発展課題画面(a) |
6
時間によって聞こえてくる音は違うということを知る。 |
・画面のテキストは順々に提示していき,児童に「今朝,初めて聴いた音」思い出す時間を与える。 |
図9 発展課題画面(b) |
4 実践を終えて
総合的学習の時間ということで,本学習では通常の授業時間だけでなく,朝礼,入学試験休み等まで活用した,自由な計画の中で実践を試みた。「音を聞く」という行為は,常に行っているものであるから,このような授業時間に縛られないプログラムは実態に合っていて,それなりに効果的だったように思う。
今まであまり意識していなかった「音を聞く」という行為に目を向けさせ,今までは聞こえなかった音を聞こえるように導いていくことを「イヤー・クリーニング(耳掃除)」と言ったり,「耳を開く」と言ったりするが,初めのオリエンテーションで多くの子供が「耳が開いた」と発言してことは大きな驚きだった。情報の洪水に飲み込まれているように見える現代の子供であっても,やはり潜在的な「聞く」能力は高いのであろう。こうした能力を埋もれさせず,環境に対してきちんと五感のアンテナを広げられるように指導することは,現代社会においては非常に大切なことだと考える。
そのための道具として様々なメディアを活用したところが本実践のポイントである。実際,児童は様々なメディアを使いこなして「自分の聞いた音を他の人にも聞いて欲しい」とか「他の人が聞いた音を自分も聞いてみたい」ということに対して高いモチベーションを示した。五感とはおよそ遠いように思えるMDやデジタル・カメラ,コンピュータやインターネットが,実は児童の感覚を研ぎ澄ませる効果的な道具になり得るというのは,いささか逆説的ではあるが,今後,学校教育にインターネット・テクノロジーを導入していく際に,忘れてはならないことであろう。
ワンポイントアドバイス |
参考文献
音さがしの本(春秋社)R・マリー・シェーファー
サウンド・エデュケーション(春秋社)R・マリー・シェーファー
大きな耳(創元社)アラジン・マシュー
サウンドスケープ[その思想と実践](鹿島出版会)鳥越けい子
利用したURLなど
Sound Explorer( http://www.soundx.net/ )
Sensorium ( http://www.sensorium.org/
)
Sound Bum ( http://www.pioneer.co.jp/soundbum/home.html
)