インターネットで絵のリレーをしよう!〜連画〜
“Let's Share and Exchange Computer graphics on Internet!
〜Renga: Linked Images〜”

小学校第6学年 図画工作科
横浜市立大口台小学校 佐藤幸江
キーワード  小学校,6年生,図画工作,インターネット,電子掲示板,学校間交流


インターネット利用の意図
 たくさんの人が力を出し合ってひとつのことを成し遂げることを協同作業という。数名の小さなグループから巨大な組織まで,協調作業によって成り立つ仕事は数多くあるが,インターネット上の目に見えない集団による創造も近年注目されている。「連画」は,コンピュータグラフィックスによる絵画作品をインターネットを使って相手に送り,そのデータを加工修正することによって,新しい絵画作品を生み出していく手法である。1992年4月に二人のアーティスト,中村理恵子氏・安斎利洋氏による新しいアート創作システムとして最初のセッションが発表され,以来,国内外での多くの発表を通して評価を得てきた。また,創造的な協同作業の雛形として,研究者からも注目されている。
 本実践は,そのコンテンツを教科指導に生かし,子どもたちが友だちの描いた絵のイメージを受け取り,そこに新たな自分のイメージをつなげて絵にしていくというものである。


1 インターネットで絵のリレーをしよう!
(1) ねらい
 小学校においては,子どもたちの表現の道具の1つとして使えるコンピュータが,十分に配置されていない現状があり,さらに,手や体全体を使って表現することを大切にする図画工作科においては,コンピュータを使っての表現になかなか理解を示してくださらない方々がいらっしゃたりということで,インターネットやコンピュータを使った実践は,まだまだ少ない。
 しかし,新学習指導要領の目標は,『表現及び鑑賞の活動を通して,つくりだす喜びを味わうようにするとともに造形的な創造活動の基礎的な能力を育て,豊かな情操を養う。』となった。現行の目標が,『造形的な創造活動の能力を育てるとともに表現の喜びを味わわせ』という言い方で,ともすると「能力を育てる」ということが大切であるという印象を受けやすかったのに対して,今回の言い方は,「喜びを味わう」という条件を満たさなければ図画工作の目標は達成できないと読み取ることができる。
 つまり,自己表現する楽しさを味わう子どもたちを育てることが大切になってくるといえよう。そこで,自己表現の道具の1つとして,インターネットやコンピュータが,登場してくる。今までの表現の道具にないよいところ=試行錯誤が容易にできる・機能を生かすことによって,今までにない表現ができる・インターネットの交流によって,刺激を受けながら表現できる。など=に気付かせ,意欲的に取り組ませたい。
(2) 指導目標
・様々な人との協同作業による創造活動に参加する楽しさを味わう。
・様々な人との協同作業による創造活動を行うことによって,概念化・固定化されたメージを突き破る。
(3) 利用場面
 この学習においては,次のような学習場面でインターネットやコンピュータを活用している。また,インターネットを通じて交流している学校とのテレビ会議やオフラインの会も設定している。
・自己表現の道具としてのコンピュータ
 小学校においてはお絵描きソフトを,高校やデザイナーはグラフィックスソフトを使っている。
 自分が気にいった他の人の描いた絵の「テーマ・イメージ・形・色」などから,心に感じたところをイメージの種として,自分の絵を表現していく。今までだと,なかなか描き始められなかった子どもたちも,具体的な絵があるので「テーマ・イメージ・形・色」の何かをもらって描き始めることができる。
 また,コンピュータだけでなく,手作業で表現したいという子どもたちもおり,その考えも認めてやりたい。折り紙や色画用紙などで表現している。
・イメージを交換し合う電子掲示板
 自分の絵ができたら,電子掲示板で展示する。その絵を見て感じた人が,その絵をイメージの種として,また絵を続けていくことができる。
 学級の中だけで,絵のリレーをすることもできるが,電子掲示板を利用すると,他の学校や高校生・デザイナーの方々との交流により,より刺激を受けることができる。
・鑑賞活動の場としてのテレビ会議・オフラインの会
 電子掲示板を使うことにより,絵のどこをイメージの種にしたか,どんな感想をもったかなどの意見を交換することができるが,テレビ会議やオフラインの会を利用すると,生の声を聞くことができ,その後の活動により意欲をもって取り組むことができる。
(4) 利用環境
・使用機種 Power Macintosh(5210 2台,7100 2台,8100 1台)
・周辺機器 デジタルカメラ(ソニーMavica 2台)
      プリンター(エプソン Colorio PM-770 2台)
      テレビ電話「フェニックス・ミニ」(NTT)
・稼働環境 ・教室,廊下にPower Macintosh(64Kでインターネット接続)
      ・使いたい子どもが使いたいときに自由に使える環境作り
・利用ソフト KidPix
       Photo Flash
       First Class
       *First Classソフトを使った学校間交流プロジェクト『メディアキッズ』に参加している。


2 指導計画

指導計画

留意点

(1) 『連画』のビデオを見て,絵をリレーするということのイメージをもとう
  ・テーマから発想して
  ・イメージを共有して
  ・形のおもしろさを感じて

(2) デザイナーの中村さんが描いてくださった『イメージの種』の絵を見よう。
 ☆インターネットの利用


・中村さんの絵 『秋の空 10.30』

(3) 中村さんの絵をもとに,自分の絵を描こう

 ☆コンピュータの利用
  お絵描きソフトKidPix

(4) 電子掲示板に自分の作品を送り,次の人につなげてもらおう。
 ☆インターネットの利用        
  First Class(メディアキッズ)ソフト

(5) テレビ会議を開いて,お互いの絵の感想を出し合おう。
 ☆テレビ会議システムの利用

(6) 電子掲示板を開いて,絵のリレーを続けよう。
 ☆インターネットの利用


(7) オフラインの会を開いて,お互いの絵を見せ合ったり,感想を出し合ったりして,交流しよう。

・中村さんの実践のビデオをお借りしておく。

・絵の中の,どんなことでも発想のもとにしてよいことを確認する。

・中村さんのコメントも一緒に紹介し,『絵のリレー』のために絵を描いてくださったことを知らせる。

 ☆メディアキッズの会議室に中村さんの絵を入れておき,誰でも見ることができるようにしておく。

☆もとにしたい部分をコピー&ペーストして始めることもできる。
・コンピュータで絵を続けたい子,紙で作りたい子・・それぞれの表現方法でよいことを知らせる。


☆コンピュータで作った子は,そのまま画像を添付して,電子掲示板に送る。手で作った子どもの作品は,デジタルカメラを使って写真を撮り,そのデータを送るようにする。
・イメージの種の絵のどこの部分をリレーしたのかが分かるように,コメントも電子掲示板に書き込みをさせるようにすると,次の人がリレーしやすい。
・それぞれ気に入った絵の感想をまとめさせておく。
☆事前に接続する時間を相手校と打ち合わせをしておく。
・デザイナーや保護者の方々にも,参加をお願いする。
・やりたい子がやりたい時間(休み時間な由に取り組ませていく。



・実際に会うことにより,相手の反応がよく分かり,次への意欲にできる。<
・今後も電子掲示板で続けていくことを確認する。



3 利用場面
(1) 目標
 デザイナーの方が描いてくださった絵を発想のもとに,イメージを広げ,自分の絵を作りあげることを楽しむ。
(2) 展開 =授業参観で実施=

学習活動

活動への働きかけ

(1) 中村さんの絵をもとに,自分の絵を描こう。おとうさんやおかあさんにも,参加してもらおう。

(2) 電子掲示板に自分の作品を送り,次の人につなげてもらおう。

(3) みんなの作品の工夫を見つけよう。

・コンピュータで絵を続けたい子,紙で作りたい子・・それぞれの表現方法でよいことを知らせる。
・コンピュータで作った子は,そのまま画像を添付して,電子掲示板に送る。手で作った子どもの作品は,デジタルカメラを使って写真を撮り,そのデータを送るようにする。
・イメージの種の絵のどこの部分をリレーしたのかが分かるように,コメントをのせるようにする。
・お互いの工夫を認め合える雰囲気作り。


秋の空に飛ぶ親鳥(小学生)

海(高校生)



4 実践を終えて
 子どもたちが『どのように自分自身を見つけだし,また他の子どもたちやアーティストとの協同作業によって何を発見するか。連画によって,どのようなイメージの連鎖が起こったか。』ということが,この実践の評価となろう。
 小学生は,何をイメージの種にしてもいいという自由な雰囲気を楽しみ,どんどんイメージを広げていっていた。授業参観で行ったときには,おとうさんやおかあさんと「ここはこうするとおもしろいよ。」「こんなふうになっちゃった!」などと,会話を楽しみながら表現活動に取り組む姿が見られた。そして,そこで一緒に楽しんでくださった保護者の方が,電子掲示板を使って『絵のリレー』に参加してくださるということになった。今までのように,教室で完結してしまう学習では,実現できなかったことである。
 また,同じく電子掲示板を通じて『絵のリレー』に参加してくれた高校生は,「自分で最初から白紙に絵を描くとなると発想に困るけど,人の絵をアレンジするのはおもしろかった。」「誰かの絵を自分なりにアレンジするということは今までにやったことがなかったので,面白かった。同じ絵を使っても,一人一人全く違う物ができあがるので,それも感性の違いなんだなあ…と思った。」という感想を寄せてくれた。それぞれの感じ方の違いが表現に表われることのおもしろさを指摘している。そのおもしろさが,電子掲示板を通じて小学生にも伝わり,また発想を広げるもととなっていったのである。
 このように,発想を広げる・意欲を持続させるという点で,この電子掲示板での『絵のリレー』の取り組みは,大変おもしろい試みであったと感じている。

ワンポイントアドバイス
 子どもたちのインターネットを通じての交流は,「やさしいインターフェイス・自由な雰囲気」がダイナミックな活動を引き出す秘訣である。その点,First Classソフトを使った『メディアキッズ』は,「じゃぶじゃぶ使おう・子どもたちのなくなってしまった広場を作ろう」をコンセプトにしているだけあって,子どもたちは楽しんで取り組むことができている。そして,今まで教室内の小さな人間関係の中にあった子どもたちが,その中で新しい人間関係を築いてきている。

参考文献
 ○先生のためのインターネット活用ガイドブック(JAPET)
 ○教室と子どもたちとインターネット(中川一史著:あゆみ出版)

参考ホームページ
 中村理恵子氏ホームページ http://www.renga.com/