「10分間読書をしよう」推進のためのPC利用について

小学校全学年・特別活動
大和市立緑野小学校 秦 安彦
 s-mido@ed.city.yamato.kanagawa.jp
キーワード 小学校,全学年,10分間読書,総合的学習,図書


インターネット利用の意図
 全校で朝の時間に実施している「10分間読書」をさらに魅力あるものにするために,図書室でのインターネット利用を考えた。「10分間読書」は緑野小学校の平成11年度の重点目標であり,平成11年4月より始まった活動である(週3回,月・水・金曜日の朝。毎回10分間)。
 ・読書を通じて,各自が様々な情報を得ること。

 ・間近に迫った総合的学習に向けて,児童の興味・関心の幅を広げること。
 ・落ち着いた学習態度を育成すること。
などをねらいとしている。
 本企画の目的としては,図書室に2台のパーソナルコンピュータ(以下PCとする)を置き,インターネットと接続することによって,児童がどのような活用をするかを検証すること,および,PCから得た読書についての情報が「10分間読書」とどのように関連していくのかを見極めること,とした。 


「実践内容」

1 設置及び設置後の経過
 PC2台の設置は,平成11年9月に完了し,10月からインターネットホームページ閲覧可能となった。12月までの3ヶ月間は,とりあえず試行期間ということで,自由に使用させることとした。設置場所は,校舎西側4階図書室入口付近で,幅1.5mほどの机に2台を並べておいてある。インターネット回線とは職員室のルータを通し市役所のサーバにISDN回線で接続されている。
 平成12年1月の職員会議で,「主として図書の検索や読書に関する情報を得るために利用する。学習利用を中心とする。」と位置づけを見直し,現在に至っている。また,授業の時間の他に児童が利用できる時間は,業間・昼休み・放課後である。
 ブラウザを立ち上げると,大和市立図書館のページ<http://library.city.yamato.kanagawa.jp/>が立ち上がるように設定されている。そのページでは,「図書館ニュース」「図書館案内」とともに,ホームページ上から蔵書検索ができる。本の内容までは表示されないが,書名,著者名,出版社,分類記号,収蔵場所等がわかる。現在ブックマークには,青空文庫,子供の読書のホームページ,主要新聞社,大和市ホームページが登録されている。

2 利用環境
(a) 使用機器  PC2台  FMVC40L,FMVC9407C3
(b) 周辺機器  プリンタ  EPSON-2000C
       HUB     LD-PHBNA
       LANカード  LGH-PCI-TR
(c) 稼働環境  図書室に2台設置
       授業時以外に業間・昼休み・放課後等自由に学習検索及び図書検索に使用
       FMVC40L3      (ISDNでインターネット接続)
       FMVC9407C3     (ISDNでインターネット接続)

3 アンケートとその結果
 設置後本稿執筆まで数ヶ月しか経過していないが,平成12年1月中旬までの利用状況を探るために,6年生を対象としたアンケートを実施した。以下に,その問いの項目と結果を記す。

 図書室のパソコンについてのアンケート  1月中旬実施  対象6年生  115名
     
 ●図書室のパソコンを使ったことがありますか。
      ○ある 65名    ○ない 50名

 ●図書室のパソコンから,インターネットにつないだことがありますか。
      ○ある 50名    ○ない  9名

 ●図書室のインターネットで何をみましたか。(複数回答可)
     ○歴史など学習のページ 49名
     ○大和市のホームページ  6名
     ○読書に関係のあるページ 7名
     ○その他        13名
      内訳:映画情報,漫画情報,つり情報,ゲーム情報,ラジコン,アイドルについてなど)

 ●次のページのうち図書室のパソコンで見たことがあるものに○をつけて下さい。(複数回答可)
     ○大和市立図書館のページ  9名
     ○青空文庫         5名
     ○子供の読書のホームページ 8名
     ○新聞社のページ      2名
     ○大和市役所のページ    3名

 ●インターネットを使って,どんなことに役立ちましたか。自由に書いて下さい。 
   歴史の調べ学習に    24名     勉強に              3名 
   理科の調べ学習に     2名     算数の調べ学習に         1名
   調べたいことが調べられる 2名     ゲームの情報が得られた      2名
   好きな本が探せた     1名     いろいろな本があることがわかった 1名
   趣味の情報が得られた   1名     好きな本の最新の情報が得られた  1名
   地理を知ることができた  1名     調べるのが楽だった        1名
   いろいろ         3名

 ●これから先,インターネットを使って,読書に関する情報をさがしてみたいと思いますか。
     すごく思う     15
     少しは思う     78
     ぜんぜん思わない  21     未記入1名

 ●次のうちしてみたいと思う使い方を選んで下さい。(複数回答可)
  ○著者名(本を書いた人の名前)からその人の書いた本をさがす    28名 
  ○スポーツ・アニメなどのジャンル別メニューから読みたい本をさがす 68名  
  ○本の名前からその本の内容(どんなことが書いてあるか)を調べる  40名
  ○必要な本が置いてある場所(図書館名など)を調べる        21名

 ●図書室以外のパソコンで今までに一度でもいいからインターネットにつないでみたことがありますか。
      ○ある 104名    ○ない 11名

 ●「読書」と「インターネットでホームページを見ること」についてあてはまるものを一つえらんで下さい。 
    ○読書の方が好き               7名
    ○読書よりホームページを見ることの方が好き 47名
    ○読書もホームページを見ることも両方好き  48名
    ○どちらが好きとは言えない         14名
    ○どちらも好きではない            0名
    ○その他 未記入               1名

4 アンケートについての考察
(1) 利用率について
 図書室のPCを使ったことがある児童は,65名で全体の約57%であった。およそ半数の子どもが一度はふれたことになる。また,図書室のPCから,インターネットにつないだことがある子どもは50名で全体の約43%である。
 つまりほとんどの子が,インターネットを利用する目的で図書室の2台のPCにふれたことになる。子どもたちの利用が,業間,昼休みという限られた時間内ということを考えると多いと言えるのではないだろうか。
(2) 閲覧内容について
 インターネットで何をみたかの問いに,歴史など学習のページが49名と多いのは,学年で取り組んだ歴史学習の発表会の資料集めに使われたからである。授業での使用は,情報検索の目的がはっきりとしているからか利用率を一気に高めることがわかる。また,図書室のPCは2台と限られているため,検索をした子どもたちは授業時間以外も自主的に使用したものと思われる。
 読書に関係のあるページを閲覧した子どもは7名と意外に少ない。全体の6%にとどまっている。これは,まだ図書室のPC利用法を各学級で取り上げ指導していないことが大きな原因として考えられる。
 今後はPC室の20台のPCを利用するなどして,一斉に図書検索の方法等を紹介しておく必要があると考えている。また,最近市内のインターネット利用率が高まり,市役所のサーバ経由でアクセスしているため,時間帯によっては接続できないといった状況も起きている。今後の回線の高速化に期待したい。
 ところで,読書に関係のあるページを閲覧した子どもは7名であるが,大和市立図書館のページをみたことがある子は9名に増えている。これは,歴史学習の中で,市立図書館の検索システムを使って図書検索をした子どもの人数が含まれているからだと思われる。
 「インターネットを使って,どんなことに役立ちましたか」の項目で回答が多かったのは,歴史学習等圧倒的に教科関連のものであった。
 しかし,好きな本が探せた1名,いろいろな本があることがわかった1名,好きな本の最新情報が得られた1名と,数名ではあるが,インターネットを通じて,直接読書に関連する情報を得ている子もいる。
(3) 今後の利用について
 「これから先,インターネットを使って,読書に関する情報をさがしてみたいと思いますか」の問いには,すごく思う15名(13%),少しは思う78名(68%)と決して児童は消極的ではないことがわかる。
 具体的な使い方では,「スポーツ・アニメなどのジャンル別メニューから読みたい本をさがす→68名(59%)」が一番多い。これは,子どもたちが自分の興味・関心に合致する本との出会いを求めていると言えよう。次いで「本の名前からその本の内容(どんなことが書いてあるか)を調べる→40名(35%)」が多いのは,子どもたちが内容にまで踏み込んだ読書案内を求めている傾向がみられ,注目したいところである。
 ジャンルや書名からの検索を指向している子どもが多いのに対して,「必要な本が置いてある場所(図書館名など)を調べる→21名(18%)」が比較的少なくなっている。
 このことから早急に結論を導き出すことは危険であるが,学校以外の図書館等の利用を視野に入れた指導の工夫が必要であると感じた。
(4) 読書とインターネットへの興味・関心
 本校では,「10分間読書」の取り組みを始めて,9ヶ月あまりと期間が短い。そんな中で,「ホームページを見ることより読書が好き」と答えた子が7名(6%),「読書もホームページを見ることも両方好き」が,48名(42%)いることは活字離れが言われる中,心強い。
 この結果から見る限り,PCの利用が読書離れを進めるとは直ちに言えない。むしろ,前述したように,子どもたちは内容にまで踏み込んだ読書案内を求めているのであり,PCにはそのための最適な情報提供媒体となる可能性が大いにあると考える。

5 今後の課題
(1) 読書に関する情報を得るための時間の保障が必要。
 自主学習タイムのような,教科の枠を越えた時間が必要である。時間割表に位置づける等して定期的に検索できるような保障を考えたい。
(2) 検索を補助・指導する人員の確保が必要。
 やはり,検索の環境を与えるだけでは利用は進まない。段階的な利用指導の計画と人員が必要である。具体的には,図書整理員,委員会の児童,PCクラブの子どもによるボランティア等が想定される。
(3) より高速なアクセスの保障が必要。
 回線がプロキシサーバ(市役所のサーバ)に接続しているために,接続に時間がかかるだけでなく,業間,昼休み,放課後等はまったくつながらない現状がある。そのため,必要なコンテンツをダウンロードして,校内のサーバに入れておくことを考えている。
(4) 子どもたちの読書を助ける情報の吟味が必要。
 考察で述べたように,子どもたちは,自分の興味・関心に合致する本との出会いを求めている。また,子どもたちには,内容にまで踏み込んだ読書案内を求めている傾向がみられる。
 図書室のPCのブックマークに新たなサイトを登録する際には,ジャンル別の書名検索ができる所を選ぶようにしたい。また,書名からあらすじ等,内容の概略が表示される所を選ぶようにしたい。
 また,校内のサーバにも図書室にある本の情報を入力していきたいと考えている。人気がある本はもちろんであるが,教師が願いや意図を持って子どもたちに紹介したい本の情報を入れておくことが重要だと考えている。
(5) 検索方法等の一斉指導が必要。
 図書室にあるPCが2台という制約があるので,PC室の20台を使い市立図書館の本の検索システムを模擬体験させたい。将来的には図書室の本もインターネットブラウザから検索できるように計画している。現在,そのためのデータ入力を進めている。
(6) 学校図書館以外の場所に目を向けさせる指導が必要。
 4 アンケートの考察(3) でも述べたように,学校以外の図書館等の利用を視野に入れた指導の工夫が必要である。インターネットの利用が,「自分の足で調べること」とどう関連して来るのかは,今後の研究によって明らかになると思われる。今後益々本の電子化が進み,学校以外の図書館に足を運ぶ必要性が低下するかもしれない。
 しかし,学校以外の図書館でのさまざまなふれあいは,生涯学習という観点から一層重要になると考えている。情報センターとしての学校図書館のあり方と学校以外の図書館等の施設との連携について,一層研究を進める必要がある。
(7) 読書に関する情報の交換を体験させる必要がある。
 本校の「10分間読書」では,子どもたちに読む場を与えることを重点に考えている。そのため,特に感想等を子どもたちに求めることはしていない。クラスによっては一口感想を求めている所もあるが,それが活動の中心ではない。
 しかし,今後,「10分間読書」が継続される中で,子どもたちが自分が読んだ本を他の人にも紹介したいと感じた時に,それを具体化する場は必要だと考えている。
 一つは,子どもたち同士の掲示板としてPCを活用することである。PCの利用により,子どもたちの感想等を記録し長期に保存しておくことができる。また,感想等の検索も可能になる。なにより便利なのは,そこに行けば必ず情報が見つかるということである。掲示板による情報交換を一つのきっかけとして子どもたちの読書経験がどのように広がるのか,検証してみたい。
 二つ目は,他校の子どもたちとEメール等により,読書に関する情報,感想等を交換することである。従来の授業では,感想文を書きっぱなし,感想文集にまとめて終わりということがあったと思う。PCの利用により,自分の考えを他に広めたり,相手と情報交換をするという環境が整いつつある。授業の中で自分のクラス以外の子どもたちとの交流をすることによって,どのような効果があるのか見極めていきたい。
(8) 保護者との連携が必要である。
 「10分間読書」を始めて改めて感じたことは,家庭の協力の必要性である。子どもたちが読む本の多くは,家にある本や保護者が購入した本である。家庭との情報交換をどのようにするかは今後の研究課題の一つである。
 特に,家庭にコンピュータのある所が増えつつあるので,これから作成する学校のホームページに,掲示板を設けたり,Eメールを利用して情報交換したりすることを考えて行きたい。

ワンポイントアドバイス
 今回図書室にパソコンを設置するにあたって苦労した点を二つあげておく。
 一つは,図書室までイーサーネットケーブルを引く工事である。本校の場合は,職員室が2階,図書室が4階にあるため50m以上ケーブルを延ばさなければならなかった。現在は職員室のルーターから100mのイーサーネットケーブル(class5)で接続しているが今のところ問題は起きていない。工事は教員数名で協力しながら3日がかりでした。ケーブルの増設については教室配置等を考え,事前に教育委員会施設担当等と相談しておく必要がある。
 もう一つは,図書室にパソコンを設置することについて他の教員の理解を得ておくということである。使用規定等を具体的に作り,いつ,何を,どこまでさせるのかを明確にしておきたい。図書室は読書を落ち着いてさせる場でもあり,マナー等の事前指導も含めて他の教員と共通理解をしっかりとしておきたい。 


利用したURLなど
 青空文庫 
http://www.aozora.gr.jp/  
 子供の読書のホームページ 
http://www3.justnet.ne.jp/~wwaattaa/