デジタルボードを利用した遠隔教育

中学校第3学年 選択授業 「人のからだ」
慶應義塾大学医学部 教授 相磯 貞和
慶應義塾普通部 赤坂 隆之, 荒川 昭
キーワード  デジタルボード,遠隔教育,人の体,専門家


インターネット利用の意図

 インターネットの機能を利用して教育に利用できることが100校プロジェクトや新100校プロジェクトやコネットプランなどの先進的な様々な取り組みを通して整理されてきている。インターネットの大きな魅力は離れている人とのコミニュケーションの機能ではないかと思う。この機能を最大限に利用して慶應義塾普通部と慶應義塾大学医学部の間で遠隔教育を行う。医学部の教授である相磯先生にご協力いただき,日頃は見ることができない臓器を見せていただきながら遠隔授業を行っていただいた。今回のプロジェクトではTV会議システムとデジタルボードを併用することにより,声や映像はTV会議システムを利用し,説明などはデジタルカメラで撮影してデジタルボードに取り込み,講義を行いながら書き込みをおこなった。従来のTV会議システムやCu-SeeMeだけの場合に比べてると,70インチのデジタルボードの利用によって資料の情報の共有やクリアな資料で授業を行うことができる。


1 人の体

(1) ねらい

 普通部では3年生は土曜日の2時間続きに選択の授業を自分で選んで受講することができる。授業科目は年によって異なるが,音楽ではフルートの専門家を講師に招いたり,書道では篆刻をおこなったり,技術,工芸,美術などの芸術系を中心として,普通の授業よりより専門性を高めた授業や,実際に農作業の体験をする「土に親しむ」やネイティブの先生と英語だけで授業を行う「英語で学ぶ」や他国の人をゲストとしてお話を伺ったり,ボランティアを体験する「地球人としていきる」,コンピュータではThinkQuestに参加する「WEBページをつくる」など特色のある授業が展開されている。今年度はさらに「人のからだ」という科目が開講された。

 「人のからだ」では自分の体についてよく知ると共に,さらに専門性が高く,深いところまで扱うことをポイントとしている。どうしても,理科の授業などでは教科書などでの知識だけになってしまいがちであるが,本授業では本物に触れる機会を増やすとともに,コンピュータの効果的な利用によって,自主的に複数の経路から知識を学び吸収し定着を図る。具体的には医学部での見学やCD-ROM「マルチメディア人体」の利用やインターネットの利用によって,知識の獲得や興味を増やし,最終的には調べたことをプレゼンテーションし,専門家である相磯先生とディスカッションすることによって知識を整理し,定着し,表現することを目的としている。

(2) 指導目標

 実物において確かめる。実物でしかわからないことを遠隔授業で実際に見て発見する。TV会議システムや,デジタルボードなどを利用する事により,より鮮明な資料を見ることができ,細部についての知識を獲得する。本で学んだ知識,先生から授業で習った知識,インターネットで学んだ知識,コンピュータを利用し「マルチメディア人体」で学んだ知識を統合し,自分たちの興味のある臓器を中心にまとめ,ディスカッションを行いWEBをつくることを通して表現し,知識の統合化,定着を図る。

 この学習では,次のような学習場面でのコンピュータを活用する。

(a) マルチメディア人体の利用

 このCD-ROMを利用して興味のある臓器について調べたり,まとめたりする。マルチメディアを利用して,授業より詳しいこともわかるように作られている。

(b) インターネットの利用

 サーチエンジンからWEBを通して,情報を検索し収集する。生徒にはあわせてネチケット(ネットワーク上のエチケット)の話や著作権の話をしておく。また,ニュースソースの信憑性についての話をしておく。医師が作っているWEBを参考にしている生徒が多かった。

(c) 調べたことをhtml形式にまとめる。

 自分が興味を持っていることを中心にWEBの形式にまとめる。この作業を通して,情報を集めて,発信するにはどのようなことが大切かを学ぶ。ただ,WEBの情報を写すだけではいけないことに気がついたようである。

(d) 遠隔授業

 生徒が実際の臓器を見る機会はほとんどなく,本などの知識によるものが多いが,今回はインターネット,CD-ROMなどの様々なメディアを利用して知識を増やしてきたが,実物を見ることによって新しい発見をし,さらに興味や関心をもって調べたり,まとめたりする事ができる。

(e) インターネットでの情報発信

 このように知識を統合的に身につけていく中で,医学の専門家の相磯先生ととディスカッションをし,理科の赤坂先生とディスカッションをする。このことで自分の考えをを深めていく。そして最後に,WEB上で自分で調べたり,考えたことを発表する。という形の利用をしている。

(4) 利用環境

(a) 使用機種 

 

日立デスクトップパソコン2台,IBMノートパソコン2台

(b) 周辺機器 

 

日立TV会議システム,プロジェクター,デジタルボード,液晶タブレット
デジタルカメラ,スキャナー(事前資料デジタル化のため)

(c) 稼動環境 

 

ISDN2本(1本は会議システム,1本はデジタルボード

(d) 利用ソフト 

 

マルチメディア人体(NECインターチャネル)
インターネット・エクスプローラー(WEB閲覧,サーチエンジン検索)
ペイント(デジタルカメラ映像表示用)メモ帳,WORD(WEB製作用)
シェアワークス(多地点会議システムソフト)


2 指導計画

指導計画

留意点

(a) 人間の体につい実物(人体骨格,血液について)を観察,実験を行う。
















(b) 各グループに分かれて,深く調べたい臓器系を決めて,学習を行う。







(c) 調べたことをhtml形式に変換する。



(d) できたWEBのページでプレゼンテーションを行い,質問などを通じて理解を深める。


(e) 遠隔授業

臓器を遠隔で提示する。


(f) 最終的なWEBの製作

それぞれが調べ学習を行う。

・医学部や医学部附属病院などで実地に体験することを主とする。

・体験した内容について専門家のお話を聞き,学問的な裏づけを行った。

・必要に応じて,体験した内容をまとめておく。

☆「マルチメディア人体」を利用して調べ学習を行う

★インターネットの活用

★サーチエンジンの利用など

☆調べた内容を,メモ帳を使い編集して,まとめフロッピーディスクに保存する。

図書資料なども活用する。

☆メモ帳においてまとめた内容を随時html形式に変換し,説明を行う。

★インターネットのサーチエンジンを利用して情報を得る。


・双方向で意見交換ができるようにあらかじめ
どの臓器を使った授業をするのか

・自分たちで調べた内容の中で知りたいところ,見たいところはどこなのか。などを生徒と打ち合わせしておく。

・自分たちの調べたこと,学んだことについて最終的に発表をおこない,WEBで情報発信をおこなう。




図1遠隔授業医学部側


図2遠隔授業普通部側



3 利用場面

(1) 目標

 本,コンピュータ(CD-ROM,インターネット)などの様々なメディアを利用して興味のある臓器について調べ学習をする。遠隔授業で,本物を見ることで新しいことに気づき,そこで質問をしたり,医学の専門家の相磯先生とのインタラクティブな授業を通してより高い学習効果を発揮すること

(2) 展開

学習活動

活動への働きかけ

備考


本時の遠隔授業の進め方を知る。

(a) 内臓

・TV会議システムを利用して,本物をみせる。

・デジタルカメラで撮影し,デジタルボードへ転送する。

・転送された画面で生徒が説明し。質問をする。

・相磯先生の方で,質問に答え,さらに事前に用意された(スキャナ)で取り込まれた資料について,転送し説明する。

(b) 脳

(c) 心臓

(d) 肺

の順に行う

・各グループごとに準備したことの確認をする。

・TV会議システムで,実物が動いて見えにくいので,静止画像を利用。

・質問をしている生徒以外が,質問内容がわかりにくいので,質問をデジタルボードに箇条書きにする。


主な生徒の質問

・左脳と右脳の役割の違い

・アルツハイマーについて

・ペースメーカーの役割

・喘息など

・コンピュータ

・デジタルカメラ

・デジタルボード

・TV会議システム

学習のまとめ

・担当以外の生徒の質問や,今回の遠隔授業についての感想やわかったことなどを整理する。

  



図3デジタルボードの図


4 実践を終えて

 今回のシステムは

○医学部側から,2台のPCを使用し普通部にデータを配信する。そのとき,メインはデスクトップマシンとし,事前にスキャナで取ったデータなどの講義資料を格納しておく。

 ノートパソコンはデジタルカメラの画像専用とし,臓器の写真や生徒から質問があった箇所を撮影し,普通部に送信する。2台のマシンを活用することで普通部側の生徒にストレスを感じさせない。また,配信した画像に手書きができるので,指摘箇所が一目で分かるメリットがある。>

○普通部側では,液晶プロジェクタにより画像を大きく投影できるので非常に分かりやすい。また,デジタルボード上へ投影することにより,ボード上から生徒が書き込んだり,質問ができる。さらに双方向で書きこみができるので,先生がすぐに回答を送ることができる。デジタルボードにデジタルカメラで撮影して取り込み,転送という操作で表示されていったので,70インチの画面にクリアな画像が送られてきたときには歓声があがった。

相磯先生の説明もデジタルボードを利用して,映像に書き込みを加えながら説明されたので,とてもわかりやすくなった。生徒の感想をいくつかあげてみる。

・とても良かった。また,受けてみたい。特別な授業だったのでとても面白かったです。

今までの授業で一番楽しかったです。

・遠隔授業は今回で2回目でしたが,前回は手でカメラに近づけていったときに,見にくい面があった内臓などの全体像が置いてあるものをカメラで見たために,とても分かりやすかった。また,同時にデジタルボードに写真を写すことでさらに分かりやすくなった。実際に肺,心臓,脳などを見て思ったことは僕が思っていた肺と実際に見てみる肺はかなり違った。このように実物を見てみるといろいろと新たに見えてくることがあるなぁと思った。

・初めて遠隔授業というものをうけ,新しい感じがした。また,臓器を見ることができて,とてもワクワクした。などで,授業を受けた生徒全員から今回の遠隔授業はとても役に立ったと評価されている。


ワンポイントアドバイス

 遠隔教育が成功するには,日頃の授業で生徒が興味を持っている内容について行うことであり,遠隔教育は学校の閉じた教室という空間をオープンにしてくれる。外部の専門性の高い研究機関と授業を連結し,生徒によりインパクトがあり,教科の必要性を感じさせる授業をすることができる。遠隔教育ではその双方向性をいかして,講義中心ではなく,実際に生徒自身が見たり感じたりしたことを質問させて,テレビやビデオ教材にはない良さを生徒自身が感じることができるであろう。また,事前の打ち合わせや準備によって遠隔教育の授業の成否は変わってくるといっても過言ではない。TV会議システムだけでは,説明不足な面をデジタルボードを組み合わせることにより,音声,文字,映像などを自由に使うことができるようになった。大人数に対しての授業では,デジタルボードの役割は大きい。画像の転送も数秒で,双方向から文字を書き込むことができ画面が70インチの大きさというのは遠隔教育をとてもやりやすく,意味のあるものにしている。将来,遠隔教育の周辺機材がもっとコンパクトになり,PHS+ノートパソコン+タブレットでできるようになると,普段の授業の中で遠隔授業が行われ,専門性の高い研究所や企業などの人とインタラクティブな授業が行われていくことになると思われ,今後に期待したい。


参考文献 生物図説 秀文堂

利用したURLなど http://www.yahoo.co.jp/

謝辞 日立ソフトの方にデジタルボード,TV会議システムの利用をサポートしていただきました。大変お世話になりました。