インターネットを使ったメディアコンテンツ会議室の実践

中学3年 技術・家庭科,総合的な学習
神奈川大学附属中学校 技術科 小林道夫
キーワード メディアコンテンツ,インターネット,電子会議室


インターネット利用の意図
 生徒たちにとって,パソコンやインターネットが身近な存在となった今,うちに向けられた目が外に大きくシフトしてきていることは,教師の目から見ても明らかである。インターネットを活用することによって,校内の限られた中での学習活動から,全国,世界へと活動の場が広がってきた。小中高校生を対象とした電子会議室「メディアキッズ」では,インターネット上に全国の子どもたちが集まる会議室を設置し,様々な研究活動,実践を行っている。このような電子会議室を使った実践は,インターネットを学びの道具として活用していく上で大きな魅力を持っている。


1 ねらい/目的
 本校では,1989年よりコンピュータ教室を設置し,技術・家庭科「情報基礎」を中心に,様々な教科,課外活動において情報教育を実践してきた。実践を行う中で,情報教育をコンピュータ,インターネットを学ぶための学習として位置付けるのではなく,最終的には「ものづくり」にこだわるべきだと考えるにいたった。生徒自身が,コンピュータ,インターネットを使って情報を集め,選択し,発信することにより,自己表現,自己実現のための一つの手段として位置づけ,教育活動に取り入れていきたいと考えたからだ。
 点数や偏差値で評価されることに慣らされてきている子供たちにとって,美術の作品などはみんなに展示されることで得る,友達同士の「あいつはこんなすごい絵が描けるんだ」という評価はとても新鮮だ。表現は心のひだを垣間見させる。実は子供たちは,誰に見られても恥ずかしくない自分を作りたいのだろう。だから納得がいくまで手をいれたり練習をするのだろう。コンピュータを使って作品を作ることによってこれと同じ効果が得ることができる。


図1 学校交流電子会議室「メディアキッズ」

 今回の実践は,インターネット上に生徒と教員が同じ会議室を使って出会い交流しながら,質問やアドバイスのやり取りを行う中でマルチメディア作品を完成するというものである。優れた作品を作ることも目的の一つではあるが,インターネットをバーチャルな世界としてとらえず,アクセスした先には同じ年代の同じ目標を持った人間がいることを理解させ,ともに悩み,喜び,そして成長していくことがこの実践の最も重要なねらいである。

2 インターネット導入の過程
 1996年にインターネット専用回線(64Kbps)を導入し,DNS,Web,FirstClass,ファイルサーバを設置するとともにすべての生徒用コンピュータからインターネットが利用できるようになり,授業,課外活動での活用を始めた。1997年に学校全館の校内LANを構築し,専用回線を光ファイバーに切り替え1.5Mbpsの速度が得られる環境となった。1998年からATM回線に切り替え,回線速度が3Mbpsとなりインフラの整備がほぼ完成した。回線速度が上がったことにより,生徒40人を対象とした授業においても快適なネットワーク利用ができるようになった。今年度4月にコンピュータ教室を改装し生徒用コンピュータ,サーバ機器の入れ替えを行った(図2)。




図2 コンピュータ教室

 これらの機器の整備は,生徒が自由にコンピュータ,インターネットを活用し,学校生活においてネットワークが自然に存在し,様々な場面での活用を前提としているからである。

3 インターネット活用の実践
(1) 授業での実践
 本校は中学高校6カ年一貫教育を実施しており,情報教育においても6カ年カリキュラムを編成している。中学3年間での実践は以下の通りである。
(a) 中学1年 技術 コンピュータの使い方,ワープロ,CGの使い方,自己紹介カードの制作
 理科第2分野 「太陽系とその中の地球」単元での「サイエンスQ&A」の活用
(b) 中学2年 社会地理 東京見学レポートのWebページ版制作
 学級活動 ケナフの研究,ゴミ処理問題の研究のWebページ制作
(c) 中学3年 技術 表計算,Webページ検索,個人Webページの制作,グループ研究Web制作
 国語 文集原稿,感想文等の入力
 社会公民 インターネットを使っての株価の調査とバーチャル株主
(2) 課外活動での実践
(a) ThinkQuest,ThinkQuest@JAPANの参加(中学3年)
 中高校生を対象とした教材ホームページコンテストで,「科学・数学」,「芸術・文学」,「社会科学」,「スポーツ・保健」,「学際(複数の学問分野にまたがるもの)」の5部門がある。
 2-3名のチームを作りWebページを制作する。作品は世界中の子どもたちが学校の授業で使えるようにインターネット上で公開されている。
(b) AT&Tバーチャルクラスルームの参加(中学1年〜3年)
 インターネット上で,世界の3カ国の学校が集まってチームを作り,共同研究を行いWebページを制作する。メールの交換,打ち合せ,研究はすべて英語で行い,3カ国共同で英語版ホームページを完成させる。
(c) メディアキッズによる学校間交流(中学1年〜3年)
 インターネットを使った学校間交流で,小中高校生がメールの交換,共同研究を行う。
 各フォーラムにはテーマ毎に話し合われ,子どもたちが中心となったバーチャル会議室。
 この実践の中の「Snow Square Project」「メディアギャラリー」「壁新聞」に参加している。
(d) Eスクエアプロジェクト(中学2年,3年)
 インターネット上で海外校との交流を行う「継続的国際交流の実践」,携帯端末を使った「モバイル活用実践研究」を行っている。
(e) 外務省Webページ Kids Web Japan
 「Kids Web Japan」では,海外の子供達に日本の学校や子供達を紹介するとともに,子供達の交流を行っている。その中で本校の生徒の様子を紹介し,海外の子供達とメールでの交流を行っている。

4 メディアキッズに新会議室「メディアギャラリー」
(1) メディアコンテンツ制作の意義
 本校の生徒のコンピュータ,インターネットに対する興味・関心は高く,多くの生徒たちはコンピュータをもっと使えるようになりたい,という願望を持っている。また,授業では,使い方の説明やインターネットに関する情報を熱心に聞くとともに,得意な生徒はすすんで他の生徒に教えたり手伝うといったことも自然にできている。このことから,生徒の学びたいという意識が大変高く,それだけ授業での課題設定が重要であることがわかる。
 コンピュータ,インターネットを活用した学習を3つのステップで考えると,以下のようになる。
 最初のステップとして,WWWや電子メールを活用することによって,自分が欲する情報を探すとともに,ネット上で他者とのコミュニケーションを確立することである。そして,得た情報を正しく処理することによって知識を身につけることである。二つ目のステップとして,自分の持っているもの,学習した成果を具体的に表現することである。例えば,HTMLエディターを使えば,ワープロ感覚でWebページを制作することができる。画像処理ソフトを使えばWebページで使用するアイコンやロゴを制作することもできる。Webページをサーバにアップすることによって,校内ネットワーク,WWWに公開でき,他の生徒たちや世界中の人々に観てもらえることになる。3つ目のステップとして,AT&Tバーチャルクラスルーム,ThinkQuestのような国際ホームページコンテストやメディアコンテンツコンテストに参加することによって,これまで出会ったこともない人々とコミュニケーションを確立することができ,世界中の人々から評価を受けることができる。
 今回の実践では,1,2のステップを全生徒を対象に授業で実施した。3のステップは,課外活動として,参加者を募集し放課後活動することとした。


図3 メディアギャラリー

(2) 「メディアギャラリー」会議室
 今回の実践では,電子会議室上において,メディアコンテンツ制作を通して他者とのかかわりを持つというものである。そこで,全国の小中高等学校の68校が参加しているメディアキッズに「メディアギャラリー」会議室を作り,それぞれの学校の子どもたちが制作した作品を自分でアップし,それに対して他の子どもや教師が感想をよせたり,自分の作品を紹介するなどの活動を行った(図3)。また,小中高校生を対象としたメディアコンテンツコンテストを紹介し,この会議室内参加していた子どもたちでチームを組み,チャレンジするという実践を行った。


5 実践報告
9月
 「メディアギャラリー」会議室は9月にスタートし,まずは会議室のコーディネーターから会議室の目的,使い方のアナウンスを行った。

これからこの部屋の使い方について説明します。

1,この部屋では,みなさんが作った作品を募集しているコンテストを紹介していきます。
2,ホームページコンテストがおもなものですが,3DCGやFLASHなどのソフトを使った作品を募集しているものもあります。
3,学校単位で参加して外国の学校の子どもたちとホームページ制作を行うものや,個人で参加して他の学校の生徒とチームを作って参加するものもあります。
4,この部屋で情報交換,作った作品の紹介,またはチームを作るときに話し合う場としてこの部屋を使って下さい。
 それでは,どんどん書き込んでくださいね。
 また,わからないことがあったら,どんどん質問してください。



図4 会議室の書き込み

10月
教材WebページコンテストThinkQuest@JAPANの参加者募集のアナウンスを行い,全国の中学生,高校生から参加に関する質問やチーム編成の話し合いが行われた。また,研究内容に関する質問などが教師を中心とした大人へ多数寄せられ,具体的な活動が始まった(図4)。

生徒の書き込みの例

私は,同じ学校の友達と@Japanのチームを組もうとしていますが,他の学校の人で一緒にやってくれる人を探しています。
私達がやりたい内容は天体のことです。主に,天体観測のしかたを説明したり,太陽系や恒星について,また,宇宙全体の構造を調べて‥‥というようなことを考えています。
 誰かいませんか?
 お返事お待ちしています。


 はじめまして!私たちも中学3年生です。
わたしたちは3人です。天体についてのホームページを作成したいとおもっています。よかったら,一緒につくれたらなあ....と思います。
私たちも,天体について調べるし,メールも頑張っていれますので,お返事くださいね。



図5 ThinkQuest Webページ

ThinkQuest@JAPANhttp://www.thinkquest.gr.jp/)とは,2〜3名の中・高校生が一つのチームを組み,半年〜1年かけて他の生徒が学習に利用できるWeb作品を制作するというものである。異なる学校の生徒同士がチームを組み,協力しながら作品を制作する事が奨励されており,作品制作は全て生徒自身が行う。各チームには1-3名までコーチと呼ばれる大人(多くの場合教師)が制作上の指導役・相談役として付き,作品のテーマによって「科学・数学」,「芸術・文学」,「社会科学」,「スポーツ・保健」,「学際(複数の学問分野にまたがるもの)」の5つの部門に応募する(図5)。

11月
会議室でのやり取りの結果,会議室内でThinkQuest@JAPANの参加チームが2つ編成され,各チームの活動が始まった。テーマに関すること,作業分担,取材方法,Webの作り込みなど様々な打ち合わせや連絡をしなければならないのだが,すべて会議室や,個人メール,チャットで行った。

また,FLASHという動画作成ソフトを使ったグリーティングカードコンテストがあり,コンテストのアナウンスを行うとともに,作品の募集を行った。これは,はがきサイズのアニメーションを作成し,郵便はがきの感覚でメールで送信できる作品を募集するというものだ。これも多くの作品が集まり,創造性豊かな優秀な作品も多かった(図6)。


図6 FLASHグリーティングカード作品例

1月
2月末がThinkQuest@JAPANの作品提出期限となっており最終的な作り込みが行われている。ただ,メールやチャットでの打ち合わせでは最終的な作品の詰めがうまくいかず,オフラインで実際に会って話をしながら作り込むことになった。本校の生徒は札幌の高校生とチームを組んでいるため,11月に札幌の生徒たちが横浜に来て初めて顔合わせをした。そして1月末に本校の生徒が札幌に行き,最終打ち合わせを行うこととなった。








6 実践を終えて
 この実践では,メディアコンテンツ制作と,電子会議室を使った交流,共同作品制作を行った。生徒自身がコミュニケーションを作り上げ,人と出会い,協力しながら作品を作り上げていくという過程は決して簡単なものではなかった。顔を突き合わせた共同作業でさえ難しいことをネット上で展開するとなると,何倍もの時間と努力が必要となる。しかし,ネット上だからこそ実現できたと言えるかも知れない。それは,インターネットでしかコミュニケーションをとる方法がないため,頻繁にメールやチャットで打ち合わせを行うことになった。そうなれば顔を見なくてもお互いに信頼関係が築かれ,制作活動を他人任せにすることなく生徒自身が責任を持ち,取材,連絡,Webの作り込みといった作業を行うのである。このことは参加した生徒のインターネットを活用する技術力の優劣はあまり関係がないように感じた。実際に,ある女子生徒はコンピュータ,インターネットに関する知識,技術もあまりなかった。しかし,チーム内の役割分担で資料収集とWebの原稿を書くということになったため,電子会議室,メール,WWWでの情報収集,FTP以外はコンピュータを使用しなかった。コンピュータ操作の得意な他のメンバーがwebを作り込むという具合いに役割分担をして共同制作を行うことによって,一人では決して完成することができない作品を作り上げることができた。
 コンピュータやインターネットを活用した情報教育を行うことは,あたかもコンピュータ操作に熟練することが重要であるかのように捕らえられているが,決してそうではない。コンピュータの操作を通していかに自分のあるものを表現し,新しく創造できるか。そして,インターネットを使ってコミュニケーション確立させ,正しく情報をキャッチし,整理して発信できるか,こういった過程をしっかり関連づけみちすじをたてて学習していくことが重要なのである。インターネットは,問題解決に大きく貢献すると同時に様々な問題を抱えながら進化しているものであり,決して万能ではない。しかし,出会えることもなかった人たちとのコミュニケーションを作り上げ,そして協力しながらWebサイトという形で作品を提供することができるすばらしいツールである。今回の実践は,これからの情報教育のあり方,授業で何を伝えていくべきなのか,その答えの重要なヒントを与えてくれた。

ワンポイントアドバイス
 この実践を展開するうえで,いかに生徒が中心となって電子会議室の中で交流し,話し合いができるかが重要なポイントであった。教師は会議室を運営するのではなく,生徒が活動しやすいように話し合いのみちすじをたててやることと,活動の目的を明確にしてやることだと思う。あとは生徒の書き込みに目を通し見守ることと,交流校の先生同士の連絡を密に行うことであった。

利用したURLなど
 http://www.thinkquest.gr.jp/
 http://www.mediakids.or.jp/