海外研修におけるコンピュータネットワークを利用した教育実践

高等学校2年 総合・国際理解
神奈川大学附属高等学校 理科 松井 均
英語科 菊池 久
家庭科 小林道夫
キーワード 高等学校,総合,海外研修,インターネット,電子メール


インターネット利用の意図<
 学校内の学習環境で,パソコンやインターネットが身近な存在となった今,生徒達は自由にWebページ検索やWebページ制作を行っている。また,WWWとメールを使うことによって,世界の人々と交流し,共同研究できることは,インターネットの持つ大きな魅力である。今回,国際理解教育の実践として行っている海外研修学習で,メール交換,ビデオ会議,または現地でのフィールドワークによる学習成果のまとめをWebページで制作する。そうすることによって生徒の活動が海外研修の実践に留まらず,事前事後学習が具体的になるとモチベーションを与えることになると考えるs


1 ねらい・目的
 学校が単なる知識の習得場所に留まらず,子供たちに,様々な教科で学んだ内容を自分の目で見て,体験し,活用する場を与えてやることが重要であると考えている。本校では,このことをねらいとして,総合的な学習と校外学習を有機的に運用していこうという試みが行われている。
 総合的な学習のねらいとしては,「自ら課題を見つけ,自ら学び,自らが考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する。資質や能力を育てること」「学び方やものの考え方を身につけ,問題解決や探求活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己のあり方を考えるようにする」が学習指導要領にあげられている。本校ではそのねらいを活かすため,横断的・総合的な活動(国際理解・情報・環境など),自己のあり方・生き方や進路について考察する活動(自然体験・ボランティア活動・就業体験・観察・調査研究など),生徒の興味・関心,進路等に基づく活動(知識や技能の進化,総合化を図る)などの活動を視野においた。それを具体的に生かすために,高校2・3年生で異文化体験と社会参加をテーマに希望者対象の海外研修として語学研修,自然観察研修などを実施している。
 なお,この実践は新指導要領の「総合的な学習」の実践に向けての本校での先行的な試みでもある。

2 学校としてのコンピュータ(インターネット)教育利用への取り組み
 本校は中高6カ年一貫教育を実施しており,中学1,3年の技術・家庭科の「情報基礎」領域で,コンピュータの基本操作,ワープロ,表計算,グラフィックス,インターネットの活用といった学習を行っている。高校では2年次の家庭科「生活技術」の家庭生活と情報の単元でコンピュータを使った学習を進めている。中学から始めた情報教育を進めるため,インターネットの活用を中心にWebページ検索を利用してのレポート作成,個人Webページの制作,グループ研究によるWebページ制作といったカリキュラムを編成し,実践している。

3 校内の実施体制
 本校では,国際理解教育の実践として,高校生を対象した海外研修学習を行っている。コースは次の5つのコースを用意している。

研修テーマ

目的地

実施時期

中国の歴史と現代を考える

中華人民共和国(西安,北京)

4月1日〜7日

東南アジア諸国の開発と環境

マレーシア,シンガポール,インドネシア

8月21日〜28日

イエローストーン国立公園

米国コロラド州

3月22日〜27日

語学研修ホームステイ

オーストラリア西オーストラリア州パース市

7月23日〜8月5日

芸術文化理解・語学研修

英国オックスフォード,イタリアローマ

3月26日〜4月5日

 各コース20名程度ずつ参加生徒を募集し実践している。放課後,長期休業期間を利用して事前学習,実践,事後学習を行っており,「国際理解」という科目名で1単位で評価している。
 対象学年は,高校2年生,3年生である。

4 企画内容
 オックスフォード・ローマ研修コース(イギリス・イタリア)では参加生徒それぞれがテーマを設定して,イエローストーン国立公園研修コース(アメリカ)では3〜4名のグループにわかれて研究活動を行う。事前学習においては,教員からの講義を聞いた上で,研究テーマの資料収集,情報交換,成果をまとめるといった作業を行う。すべての活動はコンピュータやネットワークを活用して行い,Webページでの情報検索,メールを使っての打ち合わせや現地の人たちとの交流,研究成果をWebページでまとめるといった活動を行っていく。

5 各コースによる取り組み
(1) イエローストーン国立公園研修コース
(a) 主な経過
 5月
10月
11月9日
11月
12月
12月22日
1月
2月
3月
 参加希望生徒・保護者対象説明会開
参加生徒申込締め切り・参加生徒決定(12名) グループを編成し,事前学習をはじめる。
スティーブ・ブラウン氏現地講師による講義「イエローストーン生態系の1年」
研究Webページの構想と立案,資料収集
メールを使って現地講師との情報交換
動物園(よこはま動物園)での模擬観察訓練,Webページ制作,メール交換
Webページ制作,メール交換
(予定)動物園(金沢動物園)での動物観察,Webページ制作,メール交換
(予定)海外研修の実践,Webページの完成


 図1 現地講師であるスティーブ・ブラウン氏による参加生徒対象の講義

(b) 事前学習I スティーブ・ブラウン氏現地講師による講義
 平成11年11月9日 スティーブ・ブラウン氏による「イエローストーン生態系の1年」
 講義前に,哺乳動物を中心としたイエローストーン国立公園の写真を展示,参加生徒はそのきれいさに感動して見ていた。講師紹介より始まり,イエローストーン国立公園の1年をスライド中心に説明した。研修を行う3月のまだ雪の残る頃の野生動物の実態から春,夏,秋の順に自然とくに野生動物のポイントを中心に講義を行った。イエローストーンの自然の移り変わりとその美しさに,息を呑んで聞き入っていた。次に,イエローストーンへ行くときの諸注意,とくに装備を中心に話がなされた。講義終了後,生徒による質問が行われた。日本人生徒の特性をよくつかんでおり,質問ボールにより色々な質問を引き出していた。
 最後にイエローストーン生態系のバッファローの保護と殺戮についての宿題が出された。講義内容・宿題・Webページ作成に関し,E-mailでアメリカのスティーブ氏に質疑・応答ができることが話された。

(c) 事前学習II 模擬観察訓練    平成11年12月22日
 よこはま動物園(ズーラシア)にて哺乳動物・鳥類の模擬観察訓練を行った。この動物園には残念ながら,イエローストーンに生息する哺乳動物は展示されていない。しかし,展示場が自然環境をよく再現しており,動物にとって居やすい環境が整えられている。このため,他の動物園のように展示場にいる動物を簡単には観察できない形式になっており,一般の入場者からは 動物が見えないなどと,不評をかっている所以である。このことがかえって,自然の動物を観察するための模擬訓練としては最適な条件をそろえてくれる。また,種保存を一つの目的に世界の希少動物が多く展示されているため,スティーブ先生からの宿題である野生動物の保護と人間生活との関係について,考えさせることが可能である。以上ような理由で今回の模擬訓練を計画し,実施した。参加生徒は9名であった。観察は,アジアの森,亜寒帯の森,オセアニアの草原,中央アジアの高地,日本の山里,アマゾンの密林の順に行った。上手に隠れて観察できなかった動物もいたが,自然より狭い空間であるためやはり発見しやすかった。しかし,生徒の意識が高いためか,動物を発見するスピードが速かった。また,発見できないときは,観察ポイントに陣取り観察できるまで粘っている生徒,また,観察できなかった動物を解散後にもう一度観察にいく生徒などもおり,生徒がとても活き活きしていた。
 今回は,観察条件はとても良く(快晴・ほとんど風なし・入場者もほとんど以内)実りある結果となり,本番が楽しみになった。今回の模擬観察訓練の結果も,Webページに事前学習の写真等を組み入れるよう指導した。
(d) 事前学習III 金沢動物園
 イエローストーンに生息する大型哺乳動物を展示している動物園である。この動物園の特徴は,金網がほとんどなく深い幅のある掘りにより動物と人間をわけているところである。よこはま動物園のように展示場が自然を再現していないので,生息動物を実際にみられる良さを持つ。どこの動物園でも種の保存の目的を持っており,飼育係の方から説明を聞く予定である。
(e) 実施予定のスケジュール
 3月22日
23日


24日
25日
26日
27日
  成田出発 ボーズマン到着 ガーディナー泊
熱水地域と公園システム
クロスカントリースキーレッスン,2000頭あまりの野生動物観察,調査
テラスマウンテンでの熱水地域の生態系の学習
大草原の生態系-------野生動物が一番多い場所で観察・調査
原生林の生態系-------草原の生態系との比較
ボーズマン発
成田着
(f) インターネット等活用場面
 活用の場面としては,次のようなことが行われた。(予定も含む)
・情報収集 Webページ,現地スタッフへのメール
・打ち合わせや現地スタッフとの交流メール
・フィールドノート モバイルコンピュータを使っての記録とまとめ
・イエローストーンと本校とのインターネットを使ったビデオ会議
・研究成果のまとめWebページ制作
(2) オックスフォード・ローマ(芸術文化理解・語学)研修コース
 近代から現代に至る日本の思想,文学,芸術を考えるとき,西洋文明が日本に与えた影響は計り知れない。そこで,西洋芸術を鑑賞する行為から西洋を概観し,自己を相対化する中で21世紀に生きる力を知ることがこのコースの目的のひとつである。また,実用的な英語学習のみならず,カレッジや現地の家庭での生活体験から言語としての英語の有効性を知り,21世紀の国際社会で通用する教養ある国際人への足がかりを見つけることをもうひとつの目的にしている。教科横断的な学習が必要とされるため,芸術課と英語課が連動する学習体形をとった。また,必要に応じ他の教科へも依頼し,西洋文化の全体像を探る学習が行えるようにした。
(a) 主な経過
 3月研修先の実踏
  研修の候補として予め検討していた英国オックスフォードにあるカレッジ(名称はセントクレアズ・インターナショナル・カレッジ)を訪ねた。語学・芸術研修としての適したカリキュラムが選択できる点で研修先として適していた。特に,カリキュラムはしっかりと教養を身につけさせるように工夫されており,「生きる力」を養うには最適な場所である。なお,セントクレアズ・インターナショナル・カレッジは英国政府文化機関ブリティッシュ・カウンシル認定校で,いわゆる語学学校ではなく,英国の大学に入学するための資格を得る非営利教育機関(16歳〜24歳)である。そのため,各分野での教養教育に重点が置かれており,短期間で専門を深めるコースも用意している。
 5月参加希望生徒・保護者対象合同説明会開催
 7月参加生徒の選考及び発表
参加生徒は33名。事前学習を開始した。
 9月オックスフォードでのホームステイ受け入れについて,現地担当者と協議
生徒の宿泊先についてはカッレジ所有の寄宿舎型とホームステイ型のどちらかを選択
英国の日常を通して,生活に根ざした独自の文化を知り,英語学習をより深めるためホームステイ型を選んだ。
 10月事前学習開始
事前学習実施後にレポートの提出
 11月オックスフォードのカッレジでの芸術学習と語学学習について,現地の担当者と授業内容について検討(カレッジでの本校用カリキュラムの完成)
 12月研究Webページ(全体)の着想と立案
 1月研究テーマの決定
 2月(予定)インターネットなどを利用した学習と生徒各自のWebページ立案
生徒との面接を行い,テーマについてアドバイス
 3月(予定)海外研修の実施
 4月(予定)Webページ(英文)の完成
(b) 事前学習
 10月27日 第1回講習開催「古代メソポタミア文明とその芸術について」
 11月11日 第2回講習開催「古代エジプト文明とその芸術について」
 11月20日 第3回講習開催「古代ギリシャ文明とその芸術について(1)」
 12月8日 第4回講習開催「古代ギリシャ文明とその芸術について(2)」
ヨーロッパの美術,特にルネサンス芸術を理解するための基礎知識として,ロンドンでの訪問先,大英博物館の所蔵品を中心に,ビデオや美術書,Webを利用して学習した。
 12月21日 第5回講習開催「ルネサンス美術概観(1)」
「オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)第1部」鑑賞
 12月22日 第6回講習開催「ルネサンス美術概観(2)」
「オペラ座の怪人(The Phantom of the Opera)第2部」鑑賞
ローマでの訪問先,バチカン美術館の所蔵品を中心に,ビデオや美術書を中心にルネサンスの絵画,彫刻について学習した。そして,ロンドンのハーマジェスティ劇場にて観るミュージカル「オペラ座の怪人」について,原作者ガストン・ルルーの原作を英語版で読み,CDで音楽を鑑賞した。オペラ座そのものが芸術の発祥場所としてヨーロッパの各都市で成立した過程やミュージカルの鑑賞態度まで学習した。
 1月26日 第7回講習開催(予定)「ルネサンス,パトロンと芸術家(1)」
 2月9日 第8回講習開催(予定)「ルネサンス,パトロンと芸術家(2)」
ルネサンス時代の建築,彫刻,絵画に見られる芸術の思想を当時の有力貴族やローマ教皇との関係から考察する。特に,遠近法を使った空間構成や聖人像に描かれた表情を中心に,カトリック世界に生きた芸術家とパトロンたちに焦点を絞った学習を行う。インターネットや書籍で得られた資料をもとに,質問内容があればカレッジの美術担当教師とメールを交換し,カレッジでの学習の予習とする。
(c) 実施予定のスケジュール
 3月26日
27日
4月1日

2日
3日
5日
 成田出発 ロンドン到着 オックスフォード泊
セントクレアズ・インターナショナル・カレッジ入校
オックスフォード出発 ロンドン到着 ロンドン泊
大英博物館にて自主学習,ミュージカル「オペラ座の怪人」鑑賞
ロンドン出発 ローマ到着 ローマ建造物見学
バチカン美術館,サンピエトロ寺院,パンテオンにて自主学習
成田到着
(d) セントクレアズ・インターナショナル・カレッジでの学習活動
 3月27日
28日
29日
30日
31日
4月1日
 カレッジ入校,語学クラス分けテストの実施,オックスフォード周辺のオリエンテーション,ホームステイ開始
語学研修,クライストチャーチ,ピクチャーギャラリー,カレッジにて研修
語学研修,アシュモレアン博物館にて美術研修
語学研修,ブレナム宮殿,カレッジにて主に建築・美術研修
語学研修 モダンアート美術館にて美術研修,カレッジにてフェアウェルセレモニー
ホームステイ終了


図2

(d) Webページの作成
 カレッジでの語学・美術学習,ホームステイでの生活体験,美術館・博物館での学習はすべて事後にWeb上で発表する予定である。事前学習の内容を参考にして,生徒それぞれが設定したテーマに沿って現地でフィールドワークし,その内容を研修後にまとめる。

6 評価の観点
 身につけた学力,知識をより深く研究し,どれだけ具体的に表現できるか。事前学習,海外研修,事後学習を1つのサイクルとし,積極的な活動およびWebページでの発表ができるか。以上の観点で評価を行う予定である。



ワンポイントアドバイス
 この実践は,国際理解教育の一環として主に現地にて実施されるものである。そのため,研修のコースでの目標は直接的に異文化とそれを取り巻く環境を学習することに重点が置かれている。更に,その学習過程には,教科横断的・総合的な学習活動が多分に含まれており,将来の自己の在り方や進路について有益な情報が得られる。生徒の興味・関心を喚起し,様々な体験から自己認識に至る活動と言えよう。インターネットはこれらの活動を支援するツールのひとつであり,中心な活動要素ではない。しかし,そのツールを有効に生かすことで,平面的で画一的な学習の殻から脱皮した,次の次元へと学習形態を引責する可能性を秘めている。

利用したURLなど
 (イエローストーン研修関連)
 http://www.cckoyama.com/yelowbison.html
 http://www.nps.gov/yell/
 (英国・イタリア研修関連)
 http://www.stclares.ac.uk/
 http://www.learner.org/exhibits/renaissance/
 http://oar.rm.astro.it/amendola/sistinab.html