我が家の自慢料理

中学校第2学年・総合的な学習の時間
慶應義塾湘南藤沢中・高等部 田邊 則彦
 キーワード 中学校,2年,総合的な学習の時間,インターネット,情報の共有,協働学習


インターネット利用の意図
 家庭科・保健体育・英語等の教科と連携をとりながら,調査・取材,プレゼンテーション作成にインターネットを活用する一方,学校間交流の一環としてWebページを利用した作品の相互評価を行う。また,知識を共有する場として,インターネット上のデータベースの活用を促し,自らもデータベース作成に関わる体験を積ませる。


1 目的
 世界の食文化を紹介しながら,日本の伝統的な食文化と現代の食文化を比較検討し,食糧問題や環境問題に関する意識を高める教材作成と,生徒の作成する「我が家の自慢料理」を紹介するコンテンツを,和文・英文で発信できるように構築し,国内外の学校との交流を実現することを目的とする。
(1) 単元構成
 単元1 プレゼンテーション作成
 中学校2年生を対象として,「我が家の自慢料理」と題するプレゼンテーション作品を課題作成する。同じ課題作成を協力校に依頼する。
 Step1 各家庭の「我が家の自慢料理」を取材する
 Step2 料理の由来/作り方/ちょっとしたコツ等をまとめレシピを作成する
 Step3 材料を用意し実際に調理する
 Step4 材料や調理のプロセスを写真で記録する
 Step5「我が家の自慢料理」の紹介をスライドショーの形式でまとめる
 単元2 発表・相互評価
 「我が家の自慢料理」をスライド発表し,相互評価を行う。また,学校間交流のためのWebページで作品を閲覧できるように準備し,生徒同士・教職員・父兄からの評価やコメントを受ける。
 単元3 英語版「我が家の自慢料理」の作成
 英語科の教員とのチームティーチングによって「我が家の自慢料理」の英語版を作成する。作成のためのデータベース「みんなで作る英単語帳」への登録を通し,データベースの概念と情報の共有について学ぶ。
(2) インターネットやコンピュータの利用場面
 以下の状況でインターネットやコンピュータを活用して学習展開した。
[コミュニケーションの道具として]
 校内イントラネットで提供される電子掲示板やメッセージ交換システムを使い,コミュニケーションをはかりながら作品をまとめる。
[調べ学習の道具として]
 郷土料理や食材を調べ,栄養価についての資料を調べるとき等にWebページを積極的に用いて,情報を検索し,入手・加工する。
[課題作成の道具として]
 デジタルカメラやスキャナー等の利用環境を整備し,画像や音声を扱い,スライド形式のマルチメディア・プレゼンテーションを作成する。
[発表の道具として]
 聞き手に何を伝えるかを意識させ,プロジェクターを用いたプレゼンテーションをする際に求められる,表現の工夫を実現する。
[情報発信・交流の道具として]
 作品をWebページで閲覧できるように準備し,学校間交流を行い,お互いの作品を相互評価する。
(3) 利用環境
 使用機種
周辺機器

稼動環境

利用ソフト
 IBM PC750  44台
デジタルカメラ SONY DIGITAL STILL CAMERA MVC-FD71  8台
スキャナー EPSON GT-8500  4台
NetWare,NT-Server,UNIX-Serverで構築された校内ネットワーク
光ケーブルでインターネット接続
MS-PowerPoint NetscapeNavigator

2 指導計画
 プレゼンテーションを作成する単元では,各家庭の「我が家の自慢料理」を取材することからはじめ,母親や祖母,あるいは父親から「料理の由来」や「作り方」「ちょっとしたコツ」を聞き,手書きのレシピを作成させる。実際に材料を準備し調理するのは,土曜/日曜等を使うことになるが,材料や調理のプロセスを写真で記録するためにデジタルカメラの貸し出しを行う。紙焼き写真もスキャナーで処理できることを伝え,「我が家の自慢料理」を紹介する画像の準備をさせる。
 作成時の約束として,スライド枚数は7〜10とし,テキストや画像のレイアウトを工夫し,画面切り替えやテキスト表示の効果を統一感のあるものを目指すことにする。画像処理ソフトの扱いにも触れ,リハーサルをしながら完成へ向けての編集/修正作業の手順を学ばせる。表計算ソフトを用いたグラフ作成で栄養分析を実施したり,材料について調査する際にインターネットの利用を推奨する。
 発表場面では,大画面にスライドを投影しながら「我が家の自慢料理」を説明し,作品の評価を「まとまり」「わかりやすさ」「声の大きさ」「時間配分」に関して5段階で相互評価し,コメントをWebページの画面から入力させる。交流のためのWebページは教員がまとめたが,生徒同士・教職員・父兄からの評価やコメントを受けられるように工夫した。
 英語版「我が家の自慢料理」の作成においては,英語科の教員の支援を受けながら実施する。料理のレシピは「材料や調理道具の名称」と「料理に関する動詞」を使った命令形が基本になっているので,中学2年生の英語学習の発展につなげる。なお,英語版作成のためのデータベース「みんなで作る英単語帳」をWebで提供し,登録を通して,データベースの概念と情報の共有の大切さについて学ぶ機会とする。

3 学習の展開
 「我が家の自慢料理」についての家族会議からプロジェクトはスタートした。課題を通して,親子の会話が交わされるという副産物もあり,楽しい授業展開となった。1枚のスライドに入れる情報を整理し,レイアウトを工夫しながら作品をまとめる作業では,画像・音声・テキストの配置や効果の選択を生徒が試行錯誤しながら行っていた。


 図1 作品例:「エビのチリソース炒め」

 発表セッションでは以下の図2に示す相互評価シートをWebページに用意し各自の発表へのコメントも含めて記入させた。


 図2相互評価シート

 次に,これらの作品から学校間交流のためのWebページを作成し,お互いの生徒作品について,評価を送ることができるようにした。
http://jaj.sfc-js.keio.ac.jp/japan/exchange.html


 図3 学校間交流のページ

 学年の異なる生徒の交流が楽しく展開された。


 図4 HTML化した「我が家の自慢料理」

 英語版の作成では英単語帳データベースの構築をWeb上に展開し,「食材」「調理法,その他」に分けて,各自の使った単語や表現の中から皆の役に立ちそうなものを登録させた。英語の苦手な生徒も積極的に参加し,知識を共有することの意味を知ったようである。次にその一部を示す。
http://www.sfc.keio.ac.jp/~deniro/wagaya.html


 図5 我が家の自慢料理 英単語帳 食材編

 こうして英語版の作成が進められた。綴りや表現方法の誤りが多少ともなっていても,画像によって,内容は十分に伝わることが生徒にもわかり,英語で積極的に表現しようと努力する姿がみられた。


  図6 作品例:英語版「我が家の自慢料理」

4 成果と課題
 インターネットやコンピュータを利用してプレゼンテーションをまとめ,発表することを「総合的な学習の時間」の実践として行い,生徒の学習意欲の高まりを確認すると同時に協調しながら作業を進めることの大切さを伝えることができた。今後は他校との交流のために情報発信の基盤を構築し,日本各地の郷土料理の紹介や食文化の学習に発展させていきたい。なお,英語版の作品と日本の食文化を紹介したWebページの作成も進行し,アジア・ヨーロッパ財団を通してアジアやヨーロッパの国々との交流の準備を進めている。国際文化理解と協力校との協働プロジェクトの実証事例の蓄積へと発展させたい。

ワンポイント・アドバイス
 HTMLに対応したファイル作成の可能な,使い勝手のよいソフトウェアが開発され,教育現場での利用が今後増加すると思われる。マルチメディア作品を身近な題材を用いて教科横断的な位置づけで学習素材として用いる際,コンピュータの操作を学ぶのではなく「どんな情報を伝えるために」「どのように表現するか」を考えながら,取り組ませたい。アジア・ヨーロッパ財団の開設しているページはhttp://www.asef.org/aec/を参照。

参加・協力校
 慶應義塾幼稚舎(小学校)       担当教諭 鈴木 二正