総合的な学習におけるコミュニケーション能力の育成
コーンプロジェクトを通して
小学校第4学年 総合的な学習の時間
長岡市立表町小学校 篠田 賢一
キーワード 総合的な学習,コミュニケーション能力,共同学習,遠隔学習,情報教育
ネットワーク利用の意図
来年度から始まる新学習指導要領の移行期を前に,総合的な学習の自校プランをどのようにしたらよいか。また,情報化,国際化が求められる今日,当校の視聴覚環境でどの程度,児童のコミュニケーション能力,情報活用能力を育てることができるのか。
このことをコーンプロジェクトと名付けた共同学習を通して実践し,検証していく。
筆者は,1996年から1999年の3年間,ケニアナイロビ日本人学校に赴任しており,帰国する際にケニア産トウモロコシの種を持ち帰った。
4月,子供たちにその種を見せながらケニアの様子を語ったところ,ケニアの暮らしに子供たちは大変興味をもった。その中で,ケニアの主食であるウガリ(トウモロコシを粉にして煮詰めたもの)について触れたところ,実際に育てて食べてみたいという意見が多く聞かれた。そして,ケニア産トウモロコシを含む3種類のトウモロコシを植えることにした。
また,実際に植える計画を立てると種があまることが分かった。その種をどうするか話し合い,インターネットで希望する学校を募ったところ全国で18か校からの申し込みがあった。そこで,一緒に植えて共同観察することにした。
そして,この共同学習を「コーンプロジェクト」と名付け,インターネットやコンピュータを積極的に活用しながら情報交換をすることにした。
1 コーンプロジェクト
(1) ねらい
ケニア産トウモロコシを育てることを通して,他校と成長記録や観察を通して生まれてきた疑問をコンピュータやインターネット等を利用して情報交換しあいながら問題解決を図り,他校や外国人と交流する中で自分たちの学校や地域を再認識し,他文化を知る。
具体的な活動のねらいは次の4点である。
(a) ケニア産トウモロコシ,日本産トウモロコシ,アメリカ産ポップコーンの3種類のトウモロコシを栽培し,トウモロコシの成長の違いや他校とのデータを比較し,そこから生まれてきた疑問をインターネット等で情報交換しあいながら解決していく。
(b) ケニア産トウモロコシの栽培をきっかけに多くの学校や外国人と交流し,他の地域の生活文化を知るとともに,自分たちの学校や地域(長岡市)を見つめ直す。
(c) ケニア産トウモロコシを収穫し,ケニアの主食であるウガリを食べることを通して他文化を知る。
(d) トウモロコシに関するデータを様々なメディアを通して他校と一緒に報告しあい,新たな発見や感動を一枚のCD-ROMにまとめ共有する。
(2) 利用場面
この学習では,次のような学習場面でコンピュータを活用した。
(a) 電子掲示板(コーンプロジェクト掲示板)への書き込み
メーリングリストで全国18か校と一緒にケニア産トウモロコシを育てることとなった。 情報を効率的に共有するために新潟インターネット教育利用研究会(NICE;Niigata
Internet Conference on Education: URL=http://www.nice.or.jp)の協力で,Web上にcgiを使った掲示板を設置した。(http://is99.nice.or.jp/cgi-bin/corn.cgi)この掲示板を使い,トウモロコシを観察して気付いたこと,他校への質問,意見等を載せるようにした。
(b) 成長調べ
トウモロコシの成長観察を行う過程で,山形県の鳥海小学校から定期的に成長報告をしあおうと提案があり,週に1度「茎の高さ」,「葉の長さ」,「全体の高さ」を電子メールで報告しあった。
また,定期的に報告されるデータをもとに表計算ソフト(エクセル)で成長グラフを作り,各学校の気温と成長の関係を話し合った。
(c) ホームページでの情報発信(コーンプロジェクトホームページ)
子供たちの活動は,トウモロコシを中心とした数々の活動,複数校との交流,外国人との交流と多岐に渡っていた。それを整理し,交流した人たちだけでなく,保護者や地域の人にも知ってもらおうと,コーンプロジェクトホームページを作ることにした。 (http://www.kome100.ne.jp/omotemachi-es/corn/cornhome.htm)これにより,いつでもどこでも活動を振り返る場ができ,また自分たちの活動を他校へ紹介する場にもなった。
(d) 同時会議システムによる交流(NetMeetingによる同時授業)
普段電子メールやコーンプロジェクト掲示板での交流をしていると,より相手を知りたいと思う子が増えてきた。そこで,直接交流ができる学校へは,直接会って交流する機会を設けた。しかし,直接交流したくてもできない学校とは,できるだけ相手を身近に感じるNetMeeting(マイクロソフト社製)を使った同時テレビ会議システムで交流することにした。
(3) 利用環境
(a) 使用機種 NEC mate NX MA36H 6台 Fujitsu V-5166D8M 1台
(b) 周辺機器 デジタルカメラ ソニー Cyber-shot
(c) 稼働環境 児童用コンピュータ5台と職員室コンピュータ1台が校内LANで接続
各コンピュータから1.5Mbpsでインターネット接続が可能
(d) 利用ソフト NetMeeting3.0,ワード2000,ホタル2001,エクセル200
アウトルックエクスプレス,インターネットエクスプローラ5.0
2 指導計画(表1)
表1 コーンプロジェクトで子供たちが得るであろう力と総合的な学習
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
||
|
|
|
|
|
|
|
3 学習の展開
(1) 電子掲示板(図2)
|
図2 コーンプロジェクト掲示板 |
1月4日現在,1051件のアクセスと252件の書き込みがあった。電子メールのメーリングリストとの大きな違いとして,インターネットに接続さえしていれば,「いつでも,どこでも,誰でも見られる」メリットがあった。電子掲示板がオープンな情報共有スペースであったため,参加校だけでなくそれを見た一般の方からもトウモロコシの成長や害虫についての意見をいただくことができた。また,文字情報のみという制限が逆に相手校の友達の画像が見たいという気持ちを起こさせ,参加校同士のビデオレターの交流へと発展することができた。さらに,オープンであるため,だれが見てもいいように文章表現のマナーも身につけることができた。
簡単に見られる便利さから,休み時間にコンピュータ室に足を運び,自分たちの発言に返事が来ていないか調べたり,自分たちに関係のありそうなことについて印刷したりする子供たちが増えた。
|
図3 成長調べ |
(2) 成長調べ(図3)
電子掲示板が文字だけなのに対し,電子メールは写真を添付できる良さがある。そこで,毎週デジタルカメラでトウモロコシの成長の様子を撮り,電子メールで送りあった。自分たちの学級内の閉じられた環境では,継続的な観察作業は意欲の低下を招きやすい。しかし,他校と成長調べをするという共通目標があるために,意欲的に観察活動を続けていた。また,成長調べから害虫の被害が報告され,ネット上で害虫の正体を調べようと発展し,名前だけでなく,害虫の飼育へと活動が深まった。さらに,食べ物であるトウモロコシに農薬は使いたくないという子供たちの願いから,「木酢液」という虫を追い払う効果がある薬がネット上で報告され,木酢液について調べ学習が行われた。
5月から8月まで継続して成長観察したデータを表計算ソフト(エクセル)でグラフ化してみると,猛暑による成長の鈍りやその後の雨による成長の早さもグラフ上で発見することができた
|
図4
ホームページ |
(3) ホームページ(図4)
子供たちの柔軟な活動を保証していったことによって当初の活動計画と大きく変わり,活動が多岐にわたった。途中子供たちの活動を整理しようと「コーン新聞」を作成し,参加校全てに送った。しかし,これは情報の共有という点では弱かった。そこで,参加校だけでなく,保護者や地域の人,さらに他の学校でも試みてほしいとホームページを作成することになった。ホームページをどのようなレイアウトでまとめるかの話し合いでは,自分たちの活動を自然と振り返ることができ,「コーンを使った学習」「他校との交流」「外国人との交流」と3つの内容に分け,作成することができた。
|
図5 NetMeetingによる同時授業 |
(4) 同時会議システム(図5)
直接交流に勝る交流はないと2校と4回の直接交流を行った。しかし,地理的条件で行きたくても行けない学校があった。そこで,同時会議システム(NetMeeting
3.0)で画面を通しての交流となった。子供たちはそれまでに多くの学校紹介や地域紹介,成長の感想発表等を十分経験してきたので,同時会議では今までとは違う交流方法はないものかと考えるようになった。それが「コーンプロジェクトクイズ大会」であった。互いに活動を振り返った問題を出し合い,答えと解説をしていく形式であったが,コーンプロジェクトで子供たちが何にこだわっていたのかが教師も把握することができた。
以下,子供の感想と参観された教師の感想である。
子供の感想
「鳥海小とのネットミーティング」4年女子
クイズ大会では,一問終わるたびにドキドキしました。鳥海小の問題はとても難しかったです。でも,15問中10問正解したのでうれしかったです。
ネットミーティングで見たむらさきトウモロコシがおいしそうだったので,一度食べてみたいです。そして,木酢液も飲んでみたいです。インターネットでたくさんの人と友達になれるのでとても楽しいです。いつか本当に会えたらいいなと思っています。
参観者の感想
・最新の情報交換の様子を見せていただき工夫次第でいろいろな活動ができると感じました。18か校に種を送り,活動しており,いろいろ交流をされていると思います。人と人とのふれあいの中から生きる力を身につけさせていきたいのかなあと感じました。
・リアルタイムで画像・音声でやりとりできることはすばらしい迫力がある。コンピュータの利用方法としての具体的な事例を提案いただいた。
4 成果と課題
複数校との共同学習であったので,他校が同時に見られるコーンプロジェクト掲示板は連絡手段として,また,活動を振り返る場としてとても有効であった。はじめは学校単位での交流という意識が子供たちにあったが,次第にグループ同士,最後は個人間の交流へと発展していった。継続し発展しながら交流できたのは,それだけ,コーンプロジェクトの中に子供たちがこだわりを見つけて活動していたともいえる。
日頃から,メールや掲示板で交流があったため,森町小学校や上下浜小学校との直接交流会では,すぐに仲良くなり一緒に活動することができた。また,相手に自分たちの学校や地域を分かってもらいたいと思う気持ちから,学校紹介や地域紹介では発表方法,態度にも工夫している様子が見られた。
遠く離れた学校との交流手段はインターネットによるところが大きい。できれば,常時使用できるTV会議環境がほしい。様々な設定をその都度変える煩雑さが教師にとっては負担だからである。また,ケーブル回線またはISDN回線がどこの学校にも導入されれば,もっと気軽にリアルな映像を見ながらの交流ができる。
「分からないことはインターネットで検索」という態度が子供たちの常識になりつつあったが,人からの取材,図書館での調べ学習も的確に必要な情報を得られることにも気付いたようだった。TPOを考えて,どうやったら必要な情報を得られるのかをこれからも考えさせていきたい。
ワンポイントアドバイス |
参加・協力校
新潟大学教育学部 内山 渉先生
上越教育大学学校教育研究センター助教授 小川 亮 助教授
上越地区広域視聴覚教育協議会 指導主事 戸田義隆先生
三市中東視聴覚教育協議会 指導主事 丸山 裕輔先生
新潟県柿崎町立上下浜小学校 4年生
新潟県栃尾市立入東小学校 5,6年生
上越教育大学学校教育学部附属小学校 3年生
新潟県南蒲原郡下田村立森町小学校 4年生
山形県東村山郡山辺町立鳥海小学校 5,6年生
岐阜県羽島市立中島小学校 5年生
東京都八丈島八丈町立三原中学校 荒木貴之先生
静岡県浜松市立東小学校 山崎章成先生
参考文献
篠田賢一,東海林新司,富樫朗「教えあい,学びあう総合的な学習の実践」『松下視聴覚研究賞受賞論文集』No.10, 1999年, 107〜126ページ
東海林新司 他「総合的学習にむけての取り組み〜コーンプロジェクト〜」『日本教育工学会』1999年
参考にしたURLなど
ナイロビ日本人学校(http://toki.ed.niigata-u.ac.jp/~shinoda/njshome.htm)
引用
新潟日報「ぼくらの収穫見てね」1999年10月16日 朝刊