スペースシャトルからの画像を活用した環境教育
― 宇宙からの画像の教育的な利用 ―

中学校3年・選択理科
富山市立山室中学校
理科 五島一郎 森優子 英語 Torin Hunter  Michael Takeda
kitokito@nsknet.or.jp
http://www.nsknet.or.jp/~kitokito/
キーワード 中学校,3年,理科,環境教育


インターネット利用の意図
 インターネットのNASAのサイトには,スペースシャトルによって宇宙から撮影された地球の画像が多く蓄積されている。これらの画像は,非営利で教育的な目的であれば,特に申請しなくても無料で使うことができる。本校の選択理科環境コース履修者は,これらの画像をまず見ることによって,地球について学ぶ意欲を高めた。その後「川とその流域の環境」についてインターネットを活用しながら調べ学習を進めた。
 さらに本校は,応募した学校の中から,EarthKAMの参加校に選出された。EarthKAMは,カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)が運営母体となっている。このEarthKAMでは,飛行中のスペースシャトル(図1)にインターネットでデータを送信し,地球上の任意の地点を撮影できる。本校の選択理科履修者も,調べ学習のテーマに関連した地点の撮影リクエストをする。
 なお,エンデバーの打ち上げ予定日は1999年9月から2000年2月に延期になった。この原稿を執筆している今現在,まだ打ち上げられておらず,エンデバーから撮られた画像に対する考察やまとめの段階をまだ終えていない。


1 単元名
 川とその流域の環境
1.1 ねらい
 まず,宇宙から撮影された地球の画像が生徒の学ぶ意欲を喚起するものか検討してみた。
 次に環境問題の調べ学習にインターネットのWWWブラウズを用いることによって,課題解決学習の技量が高まるのではないか検討してみた。
 最後に,宇宙からの画像や,インターネットを用いるこのような学習を通して,関連分野に興味を持ち,さらに地球全体のことを一つの視野で見ることできるグローバルな視点が育つかどうかも検討してみた。

1.2 指導目標
・課題学習における問題解決の技能を高めることができる。
・学習の道具としてコンピュータやインターネットをどのように使うか学ぶことができる。
・地学,地理,天体分野などについての基礎的な知識を獲得し,さらに学習を進める動機付けを得ることができる。
・環境問題をグローバルな視点で学ぶことができる。

1.3 利用場面
(1) 調べ学習の課題設定場面に用いる画像の収集(教師の教材準備)
(2)「川とその流域の環境」のテーマでの調べ学習
(3) スペースシャトルへの撮影リクエスト

1.4 利用環境
・NEC PC9821 V166 19台,富士通 MIX367 1台

1.5 稼働環境
・ISDN回線(64Kbps)で富山県教育NOCにダイアルアップ接続
・NEC ルータ MN128SOHOで校内の各階にLANを分岐
・ハブ2台で,コンピュータ室のコンピュータ20台をLAN接続
・カラープリンタ ALPS MD2300J
・ネットワークプリンタ Canon LBP910N
・WWWブラウザMicrosoft Internet Explorer 4.0
・プレゼンテーションソフト TDK 発表くん,Microsoft PowerPoint

2 指導計画
2.1 年間指導計画
(1) 代表的な地球環境問題について課題ごとに書籍やホームページを調べる。
(2) 宇宙から撮影された三角州の画像を見て,その川やその流域の環境について調べてみたいことをあげる。
(3) 川やテーマごとに班編成をする。
(4) インターネットや書籍を用いて調べ学習する(図2)。
(5) 調べた内容をまとめる。
・手書きのレポートとコンピュータのプレゼンテーションソフトでまとめる方法の選択制
・まとめた内容が優秀な班の成果は,インターネット上に公開

2.2 シャトルに撮影リストを送信するSMOC(= Student Mission Operations Center)の体制作り
(1) スペースシャトルの軌道について基礎知識を学ぶ
(2) 調べ学習の班ごとに撮影希望地点を選定する(図3)。
(3) 撮影希望地点の正確な緯度と経度を求める。
(4) SMOCの役割分担をする。
 広報班 (広報プリント作り,SMOCの案内)
 軌道情報班 (シャトルの軌道情報の読みとり)
 ターゲット班 (撮影リクエスト地点の決定)
 入力班 (緯度と経度をインターネットで送信)
 出力班 (送信したリクエストが受理されたか確認,撮影後の画像を印刷)
 参考資料班 (インターネットで雲の動きをチェック)
(5) 予行シュミレーションに参加する。

3 学習の展開
 ここでは,調べ学習の課題設定場面を取り上げる。教師側から大河の三角州(デルタ)の画像を提示し,それをもとに生徒たちは調べたいことをあげ,その後の班編制につなげた。用いた画像は,インターネット上の数百の画像から選んだもので,600dpiでカラー印刷した。

3.1 内容
(1) 宇宙からの画像(三角州や湖,都市と川の画像)を見る。
(2) これらの画像の印刷物を生徒たちの机上に配り,興味をもった画像を選ぶ。
(3) それらの画像について不思議に思ったこと,驚いたこと,もっと知りたいことを書く(図4)。

3.2 エピソード
 今回は,実物投影機を通してテレビモニターに映し出したが,モニターから席までの距離が近い生徒ほど強い関心を示していた。また,映し出される画像は大型の方がよい。液晶プロジェクターを用い,スクリーンに投影するべきだったと反省している。最近開発されてきている液晶プロジェクターは,大光量で,高解像度になってきている。

3.3 効果
 宇宙から写した写真は生徒の興味関心を高めることができ,課題設定に有効であった。比較的,女子生徒よりも男子生徒の方が大きな関心をもっていた。

4 成果と課題
4.1 成果
(1) 課題設定後の調べ学習で,調べたいことを次々につなげていく班が現れた。
<例1:世界の湖チーム>
・砂漠化にのみこまれつつあるチャド湖の画像を見て,湖についての関心を高める(図5)。
・インターネットで水位変動が大きい湖のページを見つける。
・アラル海,洞庭湖,チャド湖,サップ湖の変動が大きい。
(a) アラル海について
・水位の減少によって,住民が病気になっていることを知る。
・なぜ,水位が減少すると,病気になるのだろうか。
・アラル海の水位減少の原因は,流入する川の流域で綿花栽培をやっているためと知る。
・綿花栽培にどれほど水が必要か。
・実際に綿花を栽培している小学校のホームページを見つけ,質問のメールを出す。
(b) サップ湖について
・サップ湖は有名でないが,意外と面積は大きい。この湖についてもっと知りたい。
・カンボジア旅行記のホームページを見つける。
・この湖には浮島上に学校や畑があることを知る。実に変わった湖だ。
・カワイルカという生物が住んでいることを知る。
・淡水の川にイルカが住んでいるのだろうか。
・カワイルカが環境問題でどんどん減少しているらしい。その環境問題とは。
※この班の班長は,やはりアラル海について興味をもっているシャトル上の毛利宇宙飛行士と音声でのやりとりをする予定である。シャトルにアラル海の撮影をリクエストして,さらにどのくらい面積が縮小しているか調べる予定。チャド湖については,サヘルの砂漠化問題につながっていくはずだが,まだ橋渡しとなる情報が少ない。チャド湖の湖岸はほとんど無人で,生活問題に直結していないようである。

<例2:ガンジス川チーム>
・提示されたガンジス川河口の画像に強い関心をもつ。不思議な画像だ。この川について調べてみたい(図6)。
・ガンジス川についてまだ十分な知識をもっていないので資料をいろいろ調べる。
・ガンジス川は,聖なる川と呼ばれ,ヒンズー教徒にとっては特別な川であることを知る。
・ヒンズー教では,ガンジス川に亡くなった人の体を埋葬して流すことを知る。世の中,いろいろな風習があるものだ。
・川の水が濁っている。埋葬も合わせて,この川の汚染の度合いはどうなのだろうか。
※この班では,日本人と違う文化や風習について触れている。これは,広い意味で国際理解の学習につながっていると考えられる。
 環境問題について調べ始めたばかりだが,下水道もほとんど整備されていない。アジアの各国の人口稠密都市について関心が移る可能性がある。また,下流の大洪水の原因として上流の森林の乱伐についてアプローチすることもできる。

<例3:チグリスユーフラテス川チーム>
・提示された湾岸戦争当時のクウェート周辺の画像に興味を持つ(図7)。
・原油流出の生態系への影響は大丈夫だろうか。
・資料を調べると,ジュゴンやエビに被害が出ているらしい。
・原油の生物への影響について調べてみたい。
・現在,産油地帯から油は流出していないのだろうか。
※この班は資料が少なく苦労をした。サポートのために教師側から@niftyの新聞記事データベースの資料を与えた。シャトルからクウェート周辺や,チグリス・ユーフラテス川河口付近を撮影する予定だが,恐らく流出した原油は見ることはできないであろう。空爆で有名になったバグダットを撮影希望地点としてあげているが,乾燥地帯に立地した都市に驚くことであろう。学習の発展型として,なぜこのようなところに都市ができるのか,地理学的なアプローチも可能性ある。ナホトカ号の日本海の重油流出事故にも関連付けることができる。
(2) 科学的な探求活動に興味をもち,上級学校の理数科や環境工学科,普通科の自然科学コース進学を志望する生徒が出てきた。

4.2課題
(1) 宇宙からの画像が集積されているNASAのサイトはすべて英語で書かれているので,この点が日本の学生利用のネックとなっている。各地方の教育センターなどが,地域の画像や映像のデータベースを作り始めているように,日本国内でも宇宙から見た地球の画像をデータベース化すると,いろいろな学習活動に役立つと考えられる。これについては,まだ制作途上ではあるが拙作Kitokito's ホームページ2がある。 http://homepage1.nifty.com/kitokito/sub2.htm
(2) これからは,色の情報も無視できない時代になってきている。地球や天体分野の画像は,モノクロよりもカラーの方がぐんと情報量が上がる。高速ネットワークカラープリンターが必要であり,大量のデータをプリンタに送るための太い回線100BASEのLAN,コリジョジョンを防ぐスイッチングハブなど,コンピュータ室内のネットワーク環境の整備が必要である。

ワンポイントアドバイス
(1) 現在建設中の国際宇宙ステーションが本格的に稼働するようになると,宇宙ステーション版のEarthKAMが実施可能になると聞いている。そうすれば,シャトルの場合のように打ち上げ期日がずれ込むなどの心配がなくなるので,参加校は年間指導計画を立てやすくなる。日本から今後参加できる学校も増えることであろう。
(2) NASAの画像の中には,宇宙探査機からの素晴らしい画像が多くあり,こちらも授業で活用が可能である。
http://planetscapes.com/
(3) 電子メールは学校外との調整に役立つ。UCSD,やシャトルの打ち上げ地であるケネディー宇宙センター,宇宙開発事業団,国内の協力校などとの連絡調整に大きな力を発揮した。今後総合的な学習を展開していく上で学校外の人材との連携プレーが必要になっていく。
(4) 教育工学系のプロジェクトは,一般になかなか理解されにくい。職員会議用の資料はわかりやすいように,Microsoft PowerPointに画像を多く取り込んで作成した。

日本国内のEarthKAM参加校
 関西創価中学校・高等学校,茗渓学園中学校(茨城県),伊野中学校(高知県)

参考にしたURLなど
 EarthKAM(UCSD)
宇宙開発事業団(NASDA)STS99のページ
Earth from Space
EarthRISE

 

http://www.earthkam.ucsd.edu/
http://jem.tksc.nasda.go.jp/shuttle/sts99/
http://earth.jsc.nasa.gov/
http://earthrise.sdsc.ed/