バーチャル図書館
―学校図書館におけるネットワーク利用―

高等学校・図書,国語
富山県立大門高等学校
理科 江守 恒明
emori-tsuneaki@tym.ed.jp
http://www.daimon-h.tym.ed.jp
キーワード 高等学校,図書,インターネット,読書会,メーリングリスト,Webページ


インターネット利用の意図
 最近,本を読まない生徒が多くなり学校図書館を利用する機会が少なくなった。学校図書館の利活用を見直すために,パソコンやネットワークを活用した図書館の在り方を研究する。


1 企画内容
 3つの企画は,おもに1年生「情報科学」の授業で実践した。自分の選んだ本の図書紹介Webページの作成は,まず身近な存在としての学校図書館を意識させることをねらいとし,CD-ROMソフトの利用は本による情報収集の一歩となるように知的興味をいだかせた。また,図書に深く接することができるように全国読書会を企画した。

(1) ネットワークを利用した全国読書会
 2年前より学校内で実施している「メーリングリストを用いた読書会」をいくつかの学校と実施する。

(2)学校図書館の図書紹介Webページの作成
 学校図書館の蔵書から自分の好きな本を選び図書紹介Webページを作成する。図書紹介Webページはデータベース化し,ネットワーク上で検索できるようにする。

(3) CD-ROMソフトを活用した教科学習
 ネットワークで活用できる百科事典CD-ROMソフトを教科学習に利用する。

1.1 ネットワークを利用した全国読書会
A.ねらい
 読書会を活発に行うためにはどうすればいいのか。(しゃべれない)=(何も考えていない)ではないと考え,人前でしゃべることが苦手な生徒達が,ネットワークを利用することにより自分を表現できるかもしれない。そんなことを考え,生活環境・学校環境・文化環境などの異なる人たちが,メーリングリストを利用して意見をぶつけ合って,お互いの交流を深めることと図書に深く接することをねらいとした。

B.読書会の進め方
・図書選択(ヤングアダルトより選書) 「風葬の教室」 山田 詠美著
参加校の募集方法

・全国63の高等学校(光ファイバー活用研究事業参加校を中心)にメールを送ると共にaimitenoメーリングリスト,Eスクエアの掲示板にて募集した。

・日程
 9月14日 募集開始
 9月30日 参加者受付終了
10月12日 メーリングリスト運用開始
10月31日 1回目の感想入力終了
11月   様々な意見を出し合う,ホームページを完成する
12月   掲示板を利用して意見交換,まとめ

・サポート体制
 この読書会が活発な意見交換となるように,参加校の教員とスタッフメーリングリストを作り,進め方などについて話し合う機会を設けた。
 スタッフメーリングリスト
rstaff@daimon-h.tym.ed.jp
 
全員のメーリングリスト rroom99@daimon-h.tym.ed.jp

C.参加校,参加者一覧
・全国の高等学校 9校,教育関係者や個人 3名
全参加者数(教員,個人,生徒を含む) 85名
 宮城県大河原商業高校,桜丘女子高校,京都市立堀川高等学校,岡山県立成羽高等学校,広島県立油木高等学校,山口県立西京高等学校,長崎南商業高等学校,富山県立西高等学校,富山県立大門高等学校

D.メールの内容
 rroom99メーリングリストの総メール数  77通
 rstaffメーリングリストの総メール数
  35
(a) 〜(e) に分けてメールの内容を紹介する。

(a) 主人公について
嫌いな点<小学生にしては生意気である。計算して動いている。 人生を悟っている。不気味である。末恐ろしい存在である>
応援したい点<大人になりたかったのではないか。弱いところを隠して強がって生きているのではないか。自分を持っている。いじめられても解決策を見つけた。いじめに負けて欲しくない>

(b) 家族について
いい家族<すばらしい家族だ。人は支え合って生きている>
よくない家族<もっと杏を心配してやればいいのに。友達のような家族だ>

(c) いじめについて
自分の体験を話している<自分がいじめられたのでよくわかる。 宗教的いじめは自分のまわりにもあった。自分がいじめたのでいじめた方の気持ちがよくわかる>
・いじめに対する意見<先生までもいじめに加わるなんて許せない。心のすれ違いからいじめに発展するのではないか。現代のいじめは弱い立場の人を作り自分がいじめられないようにする>

(d) 自殺について
考え方を変えただけでも人は変われる。家族の悲しみを考えたから死ななかった。
生きていかなくてはならない。

(e) 発展的な話題
これから杏はクラスメイトとどのようになるのか。杏や私にとって学校とはどのような場所なのか。家族とはどんな存在か。

E.メール内容の傾向と分析
 自己紹介から始まり,主人公についての意見から,自分のいじめ体験を告白する生徒も現れた。「家族」とはどんな存在なのだろうとこの本から発展的な話題へと広がっていった。しかし,それぞれの投稿が言いっぱなしなるケースが多かった。これは初めてメールを経験する生徒が多く,メーリングリストに慣れておらず,メールでの議論の仕方も知らなかったように思われる。このあたりの指導は各高校で教えることが必要であった。また,参加校のコンピュータ環境や指導されている先生のパソコン経験もまちまちで,スタッフメーリングリストへの問いかけに応じてくれる先生も少なかった。インターネットでのコミュニケーションの方法や読書会についての指導方法など今後検討していかなければならない。

1.2 学校図書館の図書書評Webページの作成
 本を読み,感想文を書いた経験はだれにでもある。そこで,学校図書館から自分の好きな本を選び,「書名」「著者名」「出版社名」「概要」「書評」などを記述した本の紹介Webページを作成させた。また,自分の読んだ本に関係する最適なWebページをインターネットで検索しリンクをはらせた。リンク先には『リンクのお願い』と題するメールを出させネットワーク社会につながる実感を持たせた。
 この活動を継続することにより,学校内で利用できる『学校図書館蔵書データベース』となることを目指した。現在,約
700冊がWebデータ化されている。図1は生徒の作品例,図2は検索のページ,表1は授業計画を記す。


書 名:スポーツ選手の栄養と食事
著者名:財団法人スポーツ医・科学研究所
出版社:ベースボール・マガジン社
概 要:
 この本はスポーツ選手として知っておきたい食事と栄養の基本,スポーツ活動と栄養の関係,スポーツ選手の食事の取り方などについて書いてあります。アルコール飲料についてのことや
喫煙についてのかかわりが書いてあります。(略)この本は教えてくれています。
書 評:

 
『スポーツ選手の栄養と食事』の本を読んでスポーツ選手の食生活,特に成長期の選手や 学生選手の食事や食生活は,毎日のスポーツトレーニングに対応する大切なことだと改めて,分かりました。(略)これからのトレーニングに役立たせたいです。
キーワード 食事,栄養,喫煙,バランス


食事
 食事で直接口にするのは,ご飯やパンを始め調理された料理ですが,
(略)明らかに基礎体力や競技力の向上がみられます。


栄養
 栄養にはエネルギー,タンパク質,脂肪エネルギー,カルシウム,鉄,ビタミンB1,
(略) 栄養素をバランスよく取ることが大切です。 


バランス



            図1 図書紹介Webページの作品例

 表1 授業計画

時限

課題内容

1

インターネットと情報検索

2

Webページの構成

3

図書検索と読書

4

Webページの作り方

5

絵の取り込み方法

6

個人図書紹介Webページ制作

7

個人図書紹介Webページ制作

8

個人図書紹介Webページ完成

9

評価会



                  図2 検索のページ

-3.CD-ROMソフトを活用した教科学習
 インターネットによる検索は,時間がかかる上に本当に正しい情報かどうかわからないものが多い。授業時間内に,効率よく学習させるには,書籍をCD-ROM化したソフトの方が利用しやすいと考えた。まず,各教科での利用を考え,購入するCD-ROMソフトの希望調査を行い下記のソフトの購入(表2)を決めた。

        表2 購入CD-ROM一覧

関係教科

ソ  フ  ト  名

全教科

マイペディア’99 ネットワーク対応版(ライセンス 40ユーザ)

世界大百科事典(プロフェッショナル)

国語

国文学研究資料データベース「源氏物語」上巻,下巻

国文学研究資料データベース「平家物語」

社会

日本国勢図会 第3版

英語

英文日本大辞典

日本―その姿と心― 第2版

SOMERSET HIGHTS

理科

理科年表 2000

音楽

音感学園マスター

 

 CD-ROMソフトを活用した授業は,1年生の「現代社会」と「情報科学」の授業を合わせてTTとして行った。表3に授業計画を記す。

      3 授業計画

時限

授業内容

使用ソフトウェア

1

課題説明,グループ分け

電子メール

2

PowerPointの使い方

百科事典の検索方法

PowerPoint

CD-ROM検索

3

グループ活動(1)

PowerPoint,CD-ROM検索,ブラウザ

4

グループ活動(2)

PowerPoint,CD-ROM検索

5

グループ活動(3),発表準備

PowerPoint

6

発表会,評価会

PowerPoint

 

 コンピュータ操作にあまり慣れていない社会科の教員とコンピュータ操作に慣れている教員がTTを組むことにより,お互いが協力してその得意分野を分担することができた。すなわち,パソコン操作とプレゼンテーションの指導は「情報科学」の教員,課題決定や発表内容の指導は「現代社会」が担当した。表面的な情報収集は,百科事典(マイペディア’99)を利用していたが,より詳しい情報は図書やインターネットを活用していた。

2 まとめ
 読書感想文は,生徒にとって先生に見せるだけで友達に見せるものではなかった。すなわち,生徒は同い年の人が書いた文章を読んだ経験がほとんどなかったのである。彼らがふだん話している会話の内容は,テレビ・異性・勉強・遊びの話であり,本の感想や物事に対する自分の考えを述べたり,議論したりすることが皆無に近い状況であった。今回,書評の評価会をすることは大きな意味があった。「本の内容を深く読み取っていて感心した」「自分の意見や感想を述べるのがとても上手ですごい」「深いところまでちゃんと考えていてびっくりした」「それぞれ違った視点で考えていて,自分との考え方の違いを発見できた」など友達の作品を見て「すごい」という意見が多く見られたのは大変よかった。
 本を読むことで,論理的な思考が養われたり,物事を深く考えたりすることができると考えられている。また,文章をまとめる力やプレゼンテーション能力が養われ,質の高いコミュニケーションの手助けにもなる。
 パソコンとネットワークをうまく利用することにより,読書に対する意欲と学校図書館に目を向けるきっかけになればと思う。

ワンポイントアドバイス
 情報が氾濫するネットワーク社会において,どのようにして正しい情報をつかみ利用していくかが問われている。学校の情報収集基地である図書館の正しい利用は,その一歩でないかと考えている。多くの図書に触れ,正しい知識を身に付けさせたい。パソコンの導入は,本への興味を抱かせたり,「書評」など自分の考えをいろいろな形で表現させる活動となる。ネットワークを利用して学校外部との連携を図ることにより,さらにその活動は広がるであろう。