病弱児に対するマルチメディアを利用した
効果的な指導方法に関しての研究

中学部・高等部 社会・理科
ふるさと養護学校 竹田 洋一
キーワード 中学校,高等学校,理科,インターネット,イントラネット,補充授業


マルチメディアおよびネットワーク利用の意図
 本校には,校内ネットワークの設備ができつつあるので,その設備を利用したマルチメディア型学習ノートの授業を展開したいと計画し実践した。
 マルチメディア型学習ノートの利用においては授業そのもので利用するだけではなく,補充授業や生徒の自主的な予習復習にも利用できることを目指したいと考えた。また,ネットワークを利用することにより,教室だけではなく病室での利用も可能にしたいと考えて実践を行った。また,インターネットに接続できる環境を生かし,生徒がそれぞれのテーマを設定し調べ学習を進める際に必要なノウハウの蓄積を図りたいと考え実践を試みた。


1 マルチメディア型の学習ノートおよびインターネットを利用した調べ学習
(1) ねらい
 本校では,校内ネットワークの設備が整いつつある。そこで,
(a) 授業で配布・利用する学習プリントの解答や追加説明をHTMLファイルで提供する校内Webページを作成し,文字情報だけの提供ではなく,図表等の画像情報も含めた形での提供を目指すマルチメディア型学習ノートの作成をする。
(b) さらに,インターネットに接続できる環境を生かし,マルチメディア型学習ノートのコンテンツに,学習項目に関連するURLも関連ページとして提供することにより,より発展的な学習を促す。
(c) マルチメディア型の学習ノートを簡単に制作するノウハウの集積やワークフローを構築する。
 以上の3点をねらいとした。従来こうした学習メディアや作成する負担が大きく,継続した形での研究がなかなか進まないのが通常であるが,日常的に利用しているワープロで作成した学習プリントや説明プリントの文書ファイルをブラウザ上で直接利用するようなWebページの構成を採用することにした。そうすることで,マルチメディア型学習ノートの作成の負担を小さくし,スムーズに制作するためのノウハウの蓄積もねらいとした。
(2) 指導目標
 
校内Webを利用して提供した学習ノートは,多くの生徒が同時に利用することができる。生徒は,同じページを見る必要がなく,自由に自分で見たいページを選択しながら学習を進めることができる。こうしたネットワークの双方向性を利用することで,生徒自身が自主的・意欲的に学習に取り組むことを指導の目標とした。また,学習項目に関連したホームページへのリンクページを提供することにより,生徒のより発展的な学習へとつなげ学習態度の向上や知的好奇心を広げることを進めた。
 インターネットを利用した調べ学習では,ただ単にホームページを見るだけではなく自分のテーマに応じたページを検索し見つけだす力を身に付けさせることとし,特に,自分が探し求める情報が見つからないときの試行錯誤を大いに体験させ,自ら考え判断する力を養うこととした。
(3) 学習の展開
○マルチメディア型学習ノートを次のような場面で展開した。
 理科の定期考査の復習時に,定期考査で誤答した問題やわからず手をつけることができなかった問題を再度取り組む際に自作のマルチメディア型学習ノートを利用して自学する授業形態を採用した。また,教材提示装置を用いた授業をする機会を作り,マルチメディア学習ノートでの学習と比較し検討できるようにした。
○インターネットを利用した調べ学習では次のような場面で利用した。
 社会科の授業において,各自が興味を持ったテーマについて調べる際に,調べた結果は,学習発表会の際にパネルにまとめ展示・発表した。
(4) 利用環境
(a) 使用機種 パーソナルコンピュータ 10台
(b) 周辺機器 デジタルカメラ等
(c) 稼働環境 情報処理室およびパソコン室(校内LANでインターネットに接続)
(d) 利用ソフト インターネットエクスプローラ 4.01 FrontPage98

2 指導計画
○マルチメディア型学習ノート

指導計画

留意点

(a) 定期考査を作成する。☆Word Acrobat
(b) 定期考査を実施する。

・後に利用する際に模範解答のページを容易に作成できるようにするために定期考査の解答用紙は別紙として作成する。

(c) 模範解答を作成する。☆Word Acrobat
(d) 作成したファイルを利用してWebページを作成する。☆FrontPage98
(e) 定期考査を返却・復習する

・解答用紙にはコメントを追加しておく。特に模範解答や問題の解法を説明したページに書いていないようなちょっとしたヒントやコツをなるべく書くように心がける。


○インターネットを利用した調べ学習

指導計画

留意点

(a) 自分の調べたいテーマを探すために学校図書館を利用する。教員が作成したパネル展示のモデルを見る

・過去の学習内容に関連するテーマや自分で興味関心があるテーマになるように助言をしながらすすめていく。

(b) 学校図書館にある参考図書や統計データを見つける

・調べ学習すべてをインターネットに頼るのではなく,学校図書館や統計資料を活用することで調べることができることも体験できるように留意する。
・特に,統計資料に関しては,出典やいつのデータであるかをしっかりと意識させるように配慮する。

(c) 自分の調べるテーマに関してみんなの前で発表する。
(d) 友人のテーマを参考にさらにテーマの絞り込みや再検討をする時間を持つ

・友人のテーマを参考に自分のテーマの妥当性を確認させたり,もう少し調べてみたい範囲を広げようとする意識を持たせてみたりするなど,生徒の興味関心をより効果的に引き出せるように留意する。

(e) インターネットの検索ページの利用方法を学ぶ
(f) 実際に検索ページを利用してテーマに応じたページを探したり,関連する項目をしらべたりする。
★インターネットの利用

・説明している時間は,パソコンに触れることを控えさせ,効果的に利用方法が学べるようにけじめをつける。
★かなり余裕のある時間を実際の調べ学習に用意し,生徒が余裕をもってページを検索し,調べ学習ができるように留意する。
・調べた内容はしっかりと保存するように指導し,加えてノートにもメモ等をするように指導する。

(g) 調べた結果をパネルにまとめる

・見栄えにも配慮し,レイアウトや文字の大きさ,文字の色に関しても助言しながら作成するように配慮する。

(h) 学習発表会でパネル展示

 


3 学習の展開
(1) 目標
○マルチメディア型学習ノート
 イントラネット上に公開されたホームページ形式の学習ノートを利用して誤答した問題やわからなかった問題を自分で再度取り組む。また,関連する項目に関するリンクページをたどりより発展的な学習をする。
○インターネットを利用した調べ学習
 参考書や統計データだけでは得ることのできない最新の情報や,ホームページ掲載の画像を積極的に検索して自分のテーマにあったものを見つけだしてくる。また,ホームページを見ながら自分のテーマに広がりを持たせるように工夫する。
(2) 展開
○マルチメディア型学習ノート

学習活動

活動への働きかけ

備考

本時の進め方を知る

Webページを自由に利用して,自分のペースで学習を進めるように助言する。

 

Webページを利用して,誤答等を訂正しながら学習する。(図1)

Webページの利用方法を説明する。

 

 

関連ページを参考に発展学習をすすめる

 

 

Webページの構成について意見を交換する(図2)

Webページの構成や使い勝手について利用者である生徒から直接意見を聞くようにする。

 

 


  図1 Webページを利用しての学習


  図2 Webページについての意見交換

○インターネットを利用した調べ学習

学習活動

活動への働きかけ

備考

本時の進め方を知る

終了の時間をあらかじめ生徒に周知徹底を図る。

 

検索ページにアクセスする。

キーワードの設定及びアンド検索の方法もできる生徒には紹介する。

 

自分のテーマに応じたページを検索する。

見つけたデータや情報は,その場で保存するように促す。また,ノート等も利用するように配慮する。

 

お気に入りのブラウサの利用を学ぶ。

 

 


4 成果と課題
 
以上のような実践から,ネットワークの威力を再認識することができた。マルチメディア型学習ノートを利用した実践では,日頃学習に意欲を見せることが苦手な生徒であっても,コンピュータを利用してわからない問題の解法を学ぶという体験は新鮮であり,かつ客観的な存在であるコンピュータからの情報であるがゆえに素直に受け入れることができるという効果もあったように感じる。
 今回は定期考査と関連した形で実践を行ったが,生徒にとっては,一度取り組んだ定期考査を復習することになり,比較的スムーズに利用していたように思える。また,学習ノートのページを印刷することで紙メディアへの移行も容易にできるため,ネットワーク環境が利用できない場合であっても比較的スムーズに学習に取り組めるようにし,生徒の学習したいという意欲を継続させることも指導目標として取り組んだ。
 しかしながら,ページの構成等に関しては十分とはいえず今後研究を継続したいと考えている。具体的には,解法を説明するページにおいては,図表を多く取り入れること,確認のための練習問題を追加する等である。
 生徒にとって大切な点は,問題の解き方を説明したページを読むだけではなく,理解することである。定期考査に出題された問題を機械的に解答できるようになることが目標ではなく,その問題で問われている内容を理解することが目標である。したがって,解法のページでは,様々な角度から同じ項目を説明したり,理解度を生徒自身が確認できるような基本的な練習問題や応用問題を併記したりするような構成にすることを今後は目指したいと考えている。
 また,今回のマルチメディア型の学習ノートとして作成したWebページでは,配付資料をそのまま利用することも想定していた。授業等で利用した配付資料をそのままHTMLファイルとして保存し,Webページで再度流用して利用する方法を採用する。 そうすれば,個人での作成にとどまらず多くの人と共同でWebページを作成すること促進することも可能になり,過去の資料をも効果的に利用できるようになる。今回の研究では,WordおよびPDFファイルにWebページ上からリンクを設定することで,直接配付資料がブラウザ上に表示することができた。
 こうした成果を利用すれば,校内情報の公開や文書共有といった校務での利用にも応用していくことができると考えられる。校内のネットワークを利用した文書共有の実践として,現在,出張伺等の申請用紙をネットワーク上で共有利用をしている。
 インターネットを利用した調べ学習では,4月から取り組み10月の学習発表会までの長期間の実践となった。取り組み当初はブラウザの操作もままならない状態であったが,何度も実践を繰り返すことで自然と操作を身に付けていく姿が見られた。目的とするページが見つからない場合や専門的なページが検索でヒットするなど試行錯誤する場面もあった。
 しかし,その試行錯誤そのものが次なる意欲や創意工夫につながっていったと考えられる。また,刺繍をテーマに選択した生徒は世界中の刺繍のさし方を紹介したページを見つけだし,パネル展示を完成させた。このページは指導教官の適切な助言があってこそ発見できたページである。その点からも指導する立場の教員が日頃からインターネットを利用し使いこなしている必要があると思われる。
 また,生徒の調べる能力には情報を捨てる力も要求される。発信者の善意を信じることも大切であるが,ネットワークの陰の部分も伝える必要があると感じた。こうしたネットワークを利用するために必要な能力は,情報の信憑性を自分自身で判断し,さらにどれを捨てどれを利用し・加工するかといった基本的なリテラシーを生徒に伝えていくことも重要であり今後の情報教育の大きな課題であると思われる。

ワンポイントアドバイス
 
配付資料をワープロで作成する場合,Webページで利用することを想定して作成するとよい。たとえば,大項目ごとに改ページをしたり,解答用紙は別のファイルで作成する等である。そうすれば,Webページ上でリンクを設定する場合に,作成したファイルにそのままリンクを貼ればいいので便利である。
 インターネットを利用した調べ学習をする場合,目的のページが簡単には見つからない場合がある。日頃からデータベース的な情報を集めているページやリンク集を作成しているページを探しておくとよい。


参考文献
 21世紀こども百科科学館        小学館

利用したURLなど
 
理科に関する素材のページ      http://jcultra.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/LPIW/
 象庁のページ                  http://www.kishou.go.jp/know/know.HTML
 物理の教室                    http://www2s.biglobe.ne.jp/~butsuri/
 コンピュータに関する知識
                http://www.ibm.co.jp/event/museum/entrance.HTML
 コンピュータの歴史に関するページ
                http://tech.ed.gifu.ac.jp/people/andou/rekishi.HTML
 岩石に関するページ            http://www.um.u-tokyo.ac.jp
 Yahoo.Kids                    http://kids.yahoo.co.jp