バーチャル校舎

高等学校第3学年・工業
石川県立小松工業高等学校電子情報科 平木 外二
 キーワード  高等学校,3年,工業,コンピュータ応用,VRML,仮想環境


インターネット利用の意図
  本実践は高等学校工業科の科目「コンピュータ応用」の中で行った。同科目では,コンピュータを用いた様々なシステム開発における基本的な知識や技術の習得を目的としている。学習にあたっては,演習などを通した実際のシステム作成が重要となる。同教科の単元に「インターネットシステム」がある。この単元では情報通信網の一つとして同システムを紹介し,さらにはインターネット書籍販売システムのような応用システムなども取り上げる。そこで本実践では,生徒の興味関心を呼び起こす意味からインターネット上で動作する近未来的なシステムを取り上げ,それを生徒自らが製作することで同単元の理解につながることを意図した。


1 インターネットシステム
(1) ねらい

  単元「インターネットシステム」へ入るまでに,生徒はシステム開発の手順と設計方法を学び,既にリレーショナルデータベースを核とした顧客情報管理システムの製作を終えている。インターネットの基本的なサービスの一つであるWWWサービスには生徒たちは馴染みがあり,また通信プロトコルの学習が他の科目で行われ学習済みである。そこで,本単元では特殊なマルチメディアデータベースとも考えられ,またWWWサービスのプロトコルを利用するマルチユーザ対応のVRML空間を取り上げた。これによって,インターネット上のサービスを系統立ててとらえ,通信プロトコルを含めた総合的な学習に結びつけることをねらった。
(2) 指導目標
  情報通信ネットワークシステムにおけるインターネットの位置付けを行い,WWWサーバやWWWブラウザによるクライアント操作などについて知識を養う。VRMLによる3次元空間を紹介し専用モデリングソフトによって自由に3次元空間を作成できるようにする。さらに,各自の3次元空間をマルチユーザ化するとともにお互いの空間をリンクし,一つのマルチユーザVRML空間として仕上げる能力を育てる。
(3) 利用場面
  本企画の対象を電子情報科および電気科3年の15名とし,選択コンピュータ応用(2単位)の授業の中で実施した。具体的には以下の場面でコンピュータを活用した。
(a) VRML空間の作成
  CyberWalker PRO1.10(東洋情報システム)により,CAD感覚で3次元空間に物体を配置した。 同ソフトのホームページ上のサンプルを参考にしたり,Q&Aで操作法の疑問を解決し た。
(b) VRML空間のマルチユーザ化
  CyberWalker PRO1.10(東洋情報システム)で作成した3次元空間を保存する際にVRML2.0形 式とし,そのファイルをCommunity Place Conductor2.0(SONY)で読み込んでアバタの追加, サーバCommunity Place Bureau(SONY)の登録などを行う。
(c) VRML空間の情報発信と利用
  各生徒が作成したマルチユーザVRML空間をリンクし,WWWサーバを利用して情報 発信する。インターネットないしはイントラネット上において,作成したマルチユーザ VRML空間を利用する。
(4) 利用環境
(a) 使用機種              NEC PC-9821xv13(Windows95) 15台
                           NEC PC-9821xv13(WindowsNT4.0) 2台
                           SUN Ultra ENTERPRISE450(UNIX) 1台
                           COMPAQ Proliant400(WindowsNT4.0) 1台
(b) 周辺機器               17in.ディスプレイ,ページプリンタ,カラープリンタ,
                           パソコン用ビデオカメラ,液晶プロジェクタ
(c) 稼動環境               インターネット環境 1.5M専用線
                           校内LAN敷設(10BASE5,10BASE2,10BASE-T,光ファイバー)
                           専用マシンによるファイアーウォール(WatchGuard)
(d) その他の利用ソフト     VRMLブラウザソフト Community Place Browser2.0(SONY)
                           3次元モデリングソフト CyberWalker PRO1.10(東洋情報システム)
                           VRMLオーサリングソフト Community Place Conductor2.0(SONY)
                           マルチユーザサーバソフト Community Place Bureau(SONY)

2 指導計画

指導計画

留 意 点

(a) インターネットシステムの目
   的,構成,機能を学習する。

・インターネットとはどのようなネットワークな
  のか説明できるようにする。
・通信プロトコルとインターネットサービスのつ
  ながりを強調する。

(b)〜(d) 3次元モデリングソフトの
  使い方に慣れるため,全員同じ
   練習用作品を作る。
☆3次元モデリングソフト
   (CyberWalker PRO)
★インターネットの利用

・単純に操作法の練習とするのでなく,自分の独
  創的な作品を作る時のテクニックを身につける
  よう助言する。
・出力してお互いに苦労した個所を出し合う。
★3次元モデリングソフトのサポートホームペー
   ジを利用する。

(e)〜(h) 次元モデリングソフトで
   学校の校舎を作成する。(図1)
☆3次元モデリングソフト
   (CyberWalker PRO)

・1人(一部2人)で,1つの棟の1フロアを製
  作する。
・ファイルサイズが大きくなりすぎないよう助言
  する。

(i) 上で作成した3次元空間をマル
   チユーザ化する。(図2)
☆VRMLオーサリングソフト
   (Community Place Conductor)

・同じ人数で同じアバタの登録を行うよう確認す
  る。
・マルチユーザサーバの仕組みと利用プロトコル
  を説明する。また,どのようにワールドファイ
  ルが転送されるようにするのか決定する。
・機能毎にプロトコルと利用ポート番号を模式図
  で描かせる。

(j) 作成したマルチユーザVRML空
   間を利用する。
☆VRMLブラウザソフト
   (Community Place Browser)
☆マルチユーザサーバソフト
   (Coomunity Place Bureau)
★インターネットの利用

・作成した空間についての評価を全員で行う。
・マルチユーザVRMLシステムとして見たとき
  どれくらいの完成度で具体的にどのような改良
  が必要か出し合う。
・利用者の関心が高まったり,コミュニケーシ
  ンの促進につながるには何が良いか話し合う。
★学校外部から利用してみる。


  
1 CyberWalker PROの作業画面    図2 Community Place Conductorの作業画面

3 利用場面[(j)時]

(1) 目標
  自分たちが作成したインターネット上のマルチユーザ3次元空間を実際に使用して,システム的に見てどのような完成度でどのような長所短所があるか客観的に評価できるようにする。また,このシステムを用いてコミュニケーションをとる場合,どのような改良や工夫をすればコミュニケーションの促進につながるか意見を集約する。
(2) 展開

学習活動

活動への働きかけ

備 考

1 本時の学習の進め方を知る。

・二グループに分け,役割分担
  を行わせる。

・コンピュータ
 
 

・液晶プロジェ
  クタ
・コンピュータ

マルチユーザVRML空間でコミュニケーションをとろう

2 Community Place Browserを使い
   VRML空間内で相手の姿(アバ
   タ)を確認しながら文字ベース
   で会話する。(図3〜図5)

・移動が容易な空間とは?
・相手の姿を見つけやすいか?
・空間にあったらいいなと思う
  ものは何か?

インターネット上のシステムとして評価をしよう

3 使用したときの印象などに基
    づいて,製作したシステムの評
  価を行う。

・グループ内で意見を集約した
  後,グループ間で紹介させる。


  図3 利用者名USER1のCommunity Place Browser画面

 左側がマルチユーザタイプの3次元空間で,右側がチャットウインドウである。3次元空間の左上隅に校舎の一部が見えている。また,ユーザhiragiが遠方でこのUSER1の方へ向いている姿と,USER2の背中が確認できる。自分の姿はこの自分の画面に表示されない。


  図4 利用者名USER2のCommunity Place Browser画面

 USER2はUSER1とhiragiの中間に位置しているので,このUSER2の画面にはhiragiしか表示されていない。


  図5 利用者名hiragiのCommunity Place Browser画面

 hiragiは一番校舎側にいるので,校舎を背にして遠方を眺めるとUSER1とUSER2の姿が見える。チャット欄に会話文字を入力すると,全てのユーザのチャットログ欄にその文字が表示されると共に,一定時間だけ発言者のアバタ上にも文字が表示される。

4 実践を終えて
 今回の3次元空間中に製作した校舎は,実存する小松工業高等学校の校舎を再現したものである。一つの棟の1フロアを一人一人に分担し,具体的な手本がある形で作業を進めることにした。各々の生徒が製作した空間は,最終的に校舎全景の配置した空間からハイパーリンクさせた。このような方針で行った結果として,独創性のある作品には結びつきにくくなったが,システム製作の流れを学習する点に重点を置くことができた。また,昨年度まではCommunity Place Conductorを中心に空間作りを行っていたが,今年度Cyber Walker Proと組み合わせることにより生徒自身で製作する道筋が確立した。
 製作したシステムを改良する際の方向性として,生徒から以下の意見が出てきた。
「コミュニケーションの促進にはジャンルをできるだけ絞った部屋みたいものをつくる。」
「音声で会話できるようにする。」
「動作が鈍くならない範囲で階段などをもうけてリアル感を高める。」
「顔の表情がもっと変わるようにする。」
「体の動きにもっと変化をもたせる。」
 ブラウザを通じて3次元空間を移動したり他の生徒とコミュニケーションをとる操作はゲームのGUIと似ているせいか生徒はとても興味を示した。今年度の企画では他校の生徒と交流したり製作しあったりする状態までたどり着くことができなかったが,このマルチユーザVRML空間はコンテンツをローカルドライブに置いても利用できるので空間ファイルをダウンロードせずに使用することができる。そこで,お互いに別々の空間を作成してサイバースペースを共同製作することも可能なので,今後授業に取り入れることが可能な学校があればシステムの共同利用や共同開発に発展させていきたい。

ワンポイントアドバイス
 空間を記述するファイル自体はテキスト形式のファイルなので基本的にはファイルサイズはさほど大きくならない。しかし,物体に壁紙を張り付けたり詳細な構造物を配置したりするにつれて加速度的に総ファイルサイズが大きくなり,画面表示や空間内移動などの動作がとても重くなってしまう。必要なものだけを効果的に配置するなど,飾り付けを少なくしながらうまく空間を表現していく工夫が必要となる。


参考文献
 JAVA+VRML JavaとVRML2.0で作るインタラクティブ3Dワールド Rodger Lea 著,松田 晃一,宮下健 著訳(プレンティスホール)

利用したURLなど
 CyberWalker PROサポートページ (http://www.tis.co.jp/product/cyber/)
 マルチユーザVRML空間(http://www.kth.ed.jp/d2/hiragi/study2.htm)