能登教育ネットワークの充実と知的障害児学校
〔学級〕のネットワーク有効活用を求めて

石川県立七尾養護学校 中学部 小塚 雄一郎
キーワード ネットワーク,メーリングリスト,共同学習,学校間交流


能登教育ネットワークの目的・意義
 能登教育ネットワーク研究会は,能登の学校の教員による,ネットワークを使った教育の研究会である。平成10年10月,七尾市・鹿島郡の学校教育現場でネットワーク接続している学校の教員の自主研究会として発足した。NTT西日本七尾支店(当時 NTT七尾)がこれに協力,支援をおこなった。石川県の学校ネットワーク環境は,「石川県スクールネット」のスタートなどにより今後,飛躍的に増えることが予想される。NEPTUNEは,このような状況に先駆けて,能登の教育現場ネットワーク化を図るべく,能登全域のネットワーク環境設備と促進をになった準備段階(Digital School Network)をスタートすることになった。


1 はじめに
 平成10年12月にこのプロジェクトは NEPTUNE (Noto Educational Project Team Using NEtwork:ネットワークを使った能登の教育プロジェクトチーム) と名付けられ,現在はメーリングリストを主な意見交換の場として活動をおこなっている。
 七尾養護学校は,メディアキッズやチャレンジキッズなどの広域の学校間交流にネットワークを通して参加している。広域の教育ネットワークの実践・成果をもとに,能登地区唯一の養護学校として,地域の障害児学級設置校と連携し,自作教材の紹介その他ネットワークを活用した他校との連携や情報交換を踏まえて,よりバリアレスな教育ネットワークのあり方を実践研究していきたいと考えた。


図1 NEPTUNE組織図

(1) 地域ネットワークとしてのNEPUTUNE
 NEPTUNE は,地域の情報に焦点を合わせ,教師間,児童生徒間の交流の場と学校の情報関係の場を生かす役割を担っている。 実際にメーリングリストに参加する教師は,20名を超え,学校単位でいうと,県立高校6校,中学校3校,小学校2校,特殊教育学校1校,短期大学1校となる。このネットワークでは,全員のネットワークに関する技術・方法等の質的向上を求め,各校の他教員に対するサービス,コンセンサスづくり,講座や学習会を定期的におこなってきた。H10年12月25日マルチメディア研修会(七尾短期大学 コンピュータルーム),H11年7〜8月 情報処理合同研修会(七尾短期大学・七尾高校 コンピュータルーム)等が実施された。
 七尾短期大学は,メールおよびWebサーバーを設置・運用し,ネットワークの基幹校として中心を担うことにより地域におけるコミュニティカレッジとしての役割を提供している。七尾短期大学の運営するNEPTUNE共同研究ホームページ上で,各校の実践や活動内容を公開,発表している。


図2 情報処理合同研修会

(2) 徳田地区の学校ネットワーク情報交換
 七尾短期大学をネットワークの基幹として,NEPUTUNE参加校の中で,七尾市徳田地区に位置する七尾市立徳田小学校・七尾市立朝日中学校・石川県立七尾農業高校,そして石川県立七尾養護学校を中心に本企画を進めた。徳田小学校や朝日中学校は,七尾養護学校の中学部や小学部と授業交流をおこなっている。また七尾農業高校は,七尾養護学校にとって,最も近い学校であり,学校祭などの交流の他,敷地の畑やハウスは,本校の児童・生徒にとって散策など親しみの深い存在である。異校種間の交流や共同学習におけるネットワーク活用について,各校の現状から意見を出し合った。また,日常的なそれぞれの学校のニーズから関わることのできる接点を探していくことにした。

・各学校の現状…学校がおこなっている事業や学習で他校の協力を得られるとよりよいと思われることなどをNEPTUNE上でミーティングしていくことにした。

《徳田小学校》
 今年度,自然体験学習「田んぼの学校」事業で,自然生態系の昔と今の変化を地域特性を活かして多くの視点から考察している。校下の転作水田を利用して,そば作り・そば打ち体験などに取り組んでいる。また,生態系の保護された空間のビオトープづくりやメダカ生息調査,ほたるの里づくりなど,自然を大切にする学習を全校で進めている。また,ケナフ栽培とその利用法の取り組みなど環境保護学習に取り組んでいる。

《朝日中学校》
 七尾農業高校のキムチづくりに朝日中学校生徒会給食委員のメンバーが参加,共同体験学習をおこなった。

《七尾農業高校》
 生物科学部が,富山県氷見市八千代中学校の生徒を招き,絶滅の危機にひんしている石動山ユリのバイオ増殖の実験授業をおこなった。キムチ作りでは,朝日中との共同体験学習をはじめ,徳田地区の住民に対する体験教室の企画など,地域サービスをしている。この様子は,デジタルビデオとしてNEPTUNEのWeb上で見ることができる。

 このように,それぞれの学校の特色を見ると,ネットワーク上で情報交換をしながら各校が協力することによって新たな共同学習をおこなうメリットが数多く見えてくる。

 各学校で新教育課程に関連して,小・中学校や養護学校においては,総合的学習に関して意見を出していく。また高校においては,農業・商業・工業の高校統合計画と新設校基本設の展望を含めて情報の共有化に取り組んでいく。
・NEPTUNE(教師利用と児童・生徒利用)に関してどう考えるか,それぞれの立場で論議していく。
・メディアキッズやチャレンジキッズで話し合われた内容や,方針などをNEPTUNEで報告し,広域・全国的な学校間ネットワークと能登教育ネットワークの有機的な融合をバランスよく進めていく。
・マルチメディアを活用し,インターネットライブやリアルプレイヤー等を利用して,活動内容の一部をWeb上で発表する部分や,テレビ会議システムを使い,参加校同士のやりとりも場に応じて活用していく。
 以上の内容が話し合われ,数回のオフラインミーティングとメーリングリスト上のミーティングを続けてきた。

(3) 七尾養護学校の学習場面でのネットワークとコンピュータ活用
(a)「チャレンジプリント」
 七尾養護学校では,日常的に広域のメディアキッズやチャレンジキッズでネットワーク交流をしている。特にチャレンジキッズの「お手紙」「何でも紹介」「見たことしたこと」「何でも紹介」などのコーナーでは,国語やその他の教科の時間を利用して,生徒がメールを書き込み,その返事を楽しみにしている。

 チャレンジキッズでは,高等部作業学習の印刷班で印刷をおこなっている参加校の生徒や教師が子どもたちのネットワークを使った共同作業のための会議室「チャレンジプリント」で担当工程や作業学習の内容を情報交換することでネットワーク上での共同学習を進めている。今年度,中学部の紙工班で,環境保全に役立つ植物「ケナフ」を使った紙づくりについて取り組むことを計画した。
 紙工班では,牛乳パックを加工して紙作りをしているが「ケナフ」を扱うのは初めてである。前述した徳田小学校や七尾農業高校との連携を考慮に入れつつ,メディアキッズやチャレンジキッズの会議室に投げかけた。参加している各学校から数多くの情報を収集することができた。チャレンジキッズに参加している香川県立中部養護学校の高等部印刷班からさっそく返事をもらい,試作用のレッティング処理したケナフの繊維を送ってもらった。

 以下は,生徒同士のメールのやり取りである。

タイトル  チャレンジプリント
 Item ケナフありがとう
 1999年11月22日差出人
        石川七尾養 生徒4
あて先  チャレンジプリント
香川中部養護高等部印刷班のみなさんへ
ケナフありがとう。
みんなでつくってみます。
ケナフをハサミできりました。
木曜日くすりをいれて2かいめにます。
がんばります
石川七尾養護 中学部紙工班


タイトル チャレンジプリント
Item  Re: ケナフありがとう
1999年11月30日
差出人  香川中部養 せいと3 
 あて先        チャレンジプリント
香川県立香川中部養護学校高等部印刷班の△△△です。
ぼくは,ケナフで名刺やはがきを作っています。きれいにすく方法は,直角にまっすぐ3回ていねいにすいたら,後は,バキュームできれいに水気を取り,窓ガラスに貼って乾かせば出来上がりです。ぜひやって見てください。紙すきは楽しいですよ。

頑張ってください。


 その後,ケナフを使った紙すきの技術等についてチャレンジキッズのネットワーク上でやりとりを続けている。生徒の反応は,本校の生徒が中学部であるということもあり,香川中部養護高等部の生徒は,とても親切に作業の内容を教えてくれている。本校中学部生徒も「試作品ができたら香川中部養護にぜひ送りたい」と意欲を燃やしている。また,教師間の連携に関しても,ケナフ加工や栽培に関する注意を教えてもらったりして,本校がはじめて取り組む地域の学校との連携・共同学習が成功するようにと暖かくいろんなアドバイスを公開メール上でやり取りさせてもらっている。

(b) 自主製作教材・教具の紹介
 本校が地域の学校とのネットワークにおいて進めていきたいもうひとつの課題である「地域の障害児学級設置校との連携」について,自作教材の紹介をネットワーク上で展開していくとりくみがある。チャレンジキッズでは,「ことば」「かず」の教材をネットワーク上に集め,いろいろな学校の教材や実践を知ることができる。「教材・教具・実践の部屋」と「交流・実践・質問の部屋」を置き,前者には教材とそれを利用した実践内容をのせる。後者には意見などを書いていくという内容である。メディアキッズとの連携を考えて,普通学校へのアピールをしていく計画である。
 本校では,この活動とあわせて本校ホームページ上に自作教材を紹介するコーナーを設けNEPTUNE公開掲示板やメーリングリスト上で話し合いながら能登地区の障害児学級と連携し,教材という財産を共有していく準備をはじめている。現在,物語の流れをつかむためのエプロンシアター「さるかにがっせん」マジックテープの素材で作った体育の「ボール投げ」の教材「くっつき鬼さん」など手作り教材や, Macromedia FLASH4JJで作成した「お金の学習シリーズ」「時計の学習シリーズ」等の学習ソフトウェアを紹介している。将来的に,各小中学校がネットワークで結ばれるようになれば,能登全域の特殊教育に関する相談のセンター的役割を担いたいという観点からも,自作教材の紹介からアピールしていきたいと思う。

(4) まとめと今後の課題
 教師間のメーリングリストでの活動は,ある程度活発となってきた。情報の共有化はできつつあるが,具体的な活動については不十分だった。各校のコンピュータ利用やネットワーク活用は,時間的な制限があることや,個々の教師の理解にたよらなければ運営しにくいという難しい点があった。近郊の小中学校では,ネットワークを生徒が日常的に使うという段階にはまだ進んでいない現状である。徳田地区4校の取り組みとしては,たとえば各学校のお便りや生徒会新聞などをクローズドのホームページで紹介しあうなどの地域性のあるところから情報の共有化を図っていく活動からはじめるなどの柔軟な対応が必要であった。テレビ電話システム(フェニックスミニ)を使った交流は,七尾養護学校のすみれ祭(学校祭)の時に特設会場を作り,金沢大学教育学部附属養護学校や校内の臨時回線でやり取りできたが,今年度,具体的に参加校同士での活用にまではいたらなかった。

 当初計画していた,徳田小学校とのケナフを使った紙作りの共同学習は,今年度は発育が遅く収穫が遅れたことなどが影響してスムーズにいかなかった。メディアキッズやチャレンジキッズに投げかけ,情報提供や試作品の原料を送ってもらったことなど,広域・全国的なネットワークとNEPTUNE(能登教育ネットワーク)の有機的な融合をバランスよく進めていくことが大切だと思った。
 来年度本校中学部では,総合的学習を含めた新教育課程を編成する。「人と自然・環境保護」をテーマに地域と連携しながら子どもが自ら考え,自然の大切さを子どもの視点で捉える心を育てるための総合的な学習を展開したい。
 また,隣の羽咋市では耕作放棄田の景観アップや温暖化防止等を考え,ケナフの植栽を試行した。公民館や小中学校へ種や苗を配布し収穫後の活用策を探る方針を検討していると聞く。徳田地区の学校の相互協力とネットワークの活性化によっていろいろなことが実現可能となる。たとえば耕地提供やバイオ増殖,肥料や栽培ノウハウを農業高校に。ケナフの活用実践を養護学校に。そして,自然環境の保護に関する実践を共同学習していくリーダーとして小中学校の役割を地域の学校で協力し合いながら学校ネットワークを教育活用していけるように計画実践していきたい。これらをひとつの柱として異校種間の交流を充実させながらNEPTUNEの活動をより実りあるものにしていきたいと思う。

ワンポイントアドバイス
 ネットワークを活用した学校での教育実践の先進的な取り組みをメディアキッズから数多く学んでいる。実践的な成果は多くのプロジェクトや学校での取り組みに活用されている。また,チャレンジキッズは,メディアキッズ内にある障害児の教育の部屋的な役割を持っている。本校はメディアキッズやチャレンジキッズに参加し,地域に根ざした学校間ネットワークのあり方をさらに展開していきたいと思っている。

参考文献
 メディアキッズの冒険 NTT出版 新谷隆 内村竹志 著
 教室からのインターネットと挑戦者たち 北大路書房 佐藤尚武 成田滋 吉田昌義 編

利用したURLなど
 メディアキッズ http://www.mediakids.or.jp/
 障害者とコンピュータ利用教育研究会 http://www.ceser.hyogo-u.ac.jp/naritas/mes/january2000/january.html
 滋賀大学教育学部附属養護学校 http://fyw.sue.shiga-u.ac.jp/
 鹿児島県鹿屋市立寿小情報研究室 http://www.osumi.or.jp/sakata/