交流活動にコンピュータを生かした総合学習

小学校第1学年 総合
福井大学教育地域科学部附属小学校 田 中 秀 史
キーワード 小学校,低学年,総合学習,交流,電子メール,テレビ会議


コンピュータ利用の意図
 本校1年は,「たんけん大すき,なかま大すき,ふれあい大すき」をテーマに,総合学習の実践・研究に取り組んでいる。1年生ならではの活発さや,好奇心の強さを生かして,自然や生き物など身の回りの環境に進んで関わってほしい,見つけたことや思いをいろいろなやり方で伝えようとしてほしい,友達と一緒に楽しく活動を進めてほしいと考えている。
 子供達は,入学以降,様々な場面で仲間づくりを体験して,交流範囲を少しずつ広げてきた。同級生や上級生,教師へと交流の輪が広がっていくことは,1年生にとって大きな喜びで,総合学習に取り組む意欲もより高まっていく。
 さらに,コンピュータを活用すれば,交流活動が他小学校にまで広められるのではないかと考えた。他の小学校の1年生と情報をやりとりすることで,違った環境に気づいたり,新しい仲間の輪をつくったりして,いろいろなことを発見する機会を増やすことができるものと思われる。そこで,電子メールやテレビ会議システムを利用して,福井市立社西小学校の1年生との交流を,進めていくことにした。


1 たんけん大すき,なかま大すき,ふれあい大すき
(1) ねらい
 本校の1年生の総合学習は,上のテーマで行っている。そのねらいは,「身のまわりの自然や生き物に関わり,ふれあいを楽しむなかで,不思議さやおもしろさを豊かに感じとる。」「身の回りの社会や自然に進んで働きかけたり,友達や教師,家族などとの関わりを大切にしたりしながら活動する中で,自分なりの考えや思いをのびやかに表現する。」「仲間と話し合ったり工夫したりしながら活動を進めるなかで,いろいろなよさを見つけて,自分の活動に生かそうとする。」の3つである。このいずれにおいても,他の小学校の1年生の様子を知ったり,こちらの情報を伝えたりすることは,活動をより活発で深まりのあるものにすると思われる。そこで,電子メールやテレビ会議システムを利用した表現・交流活動を進めることにした。

(2) 指導目標
 コンピュータに関わる指導目標をあげる。
○コンピュータに慣れ親しむ。
○パソコンの起動や終了をする,お絵かきソフトを使って絵を描く,キーボードで短い文を打つなど,コンピュータの基本的な操作ができる。
○コンピュータが,いろいろな情報を簡単にやりとりできる便利な機器であることに気づき,情報機器への関心を高める。
(3) 利用場面
 この学習では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
(a) 活動の様子をホームページで知らせる
 学校全体で,学習活動のホームページづくりに取り組んでいる。1年生の総合学習の様子も,教師がホームページをつくって外部に発信していく。
(b) 電子メールで情報のやりとりをする
 お互いの情報は,手紙やビデオなど,1年生がやりたいと願う方法でやりとりしていくが,その一つとして,電子メールを活用する。音声や子供達が描いた絵なども,電子メールで交換していく。
(c) テレビ会議システムで交流する
 話し合ったり,様子を見せ合ったり,リアルタイムでの交流が効果的な場合には,フェニックスを利用して交流を深める。
(4) 利用環境
(a) 使用機種

(b) 周辺機器


(c) 稼働環境


(d) 利用ソフト


  DELL OptiPlex G1(1台)
NEC MateNX MA30H(20台)
デジタルカメラ FUJIFILM CLIP-IT80 (4台)
CD-R LOGITEC LCW-5820(2台)
プリンタ EPSON PM-770C(10台)
情報ルーム   DELL OptiPlex G1 (1台)
                   NEC MateNX MA30H(20台)
教   室    NEC MateNX MA20C(1台)
インターネットエクスプローラ4.0
イントラバケッツ,ホームページビルダー2000
キッドピクス98,フェニックス

2 指導計画

単元名

コンピュータの指導内容

留意点






 






 


10


11


12







学校を探検しよう

花と仲良し

公園を探検しよう


野菜の先生



秋になったよ
    実ができたよ


公園探検II


遊び探検






遊び探検II



もうすぐ2年生

電子メールで,学校の様子などを情報交換する。





電子メールで,生き物の様子などを情報交換する。
☆キッドピクス98

電子メールで,運動会などの行事の様子を情報交換する。


運動公園で実際に会って交流する。

テレビ会議システム(フェニックス)で,お互いの総合学習の活動を情報交換する。




校内の電子掲示板を利用する。




子供達の1年間の成長の足跡を,電子メールで情報交換する。

・事前にホームページで本校の情報を発信しておく。

・コンピュータの起動・終了,マウスのクリックといった基本操作を,機会を見つけて練習させる。

・描画ソフトを利用して,コンピュータで簡単な絵が描けるようにする。


・子供達の声をテープに録音したり,様子をデジタルカメラで記録したりして,必要に応じて,音声や画像ファイルが添付できるようにする。

・運動会の様子を伝えるときには,ビデオテープなども利用する。

・プログラムを伝えたり,お願いを伝えたりするとき,電子メールを利用する。

・子供達で司会役を決めたり,質問コーナーを設けたりして,より生き生きしたやりとりができるようにする。

・情報学習の一環として,また,メディアキッズなど開かれた掲示板を利用するための第1歩として,電子掲示板を,毎朝子供自身で確認するよう意識付けする。必要な操作も身につけさせる。

・文章を打ったり,絵を描いたり,声や画像を添えたり,より豊かな表現ができるようにする。

3 利用場面
(a) 交流のきっかけづくり
 本校1年生のホームページ(図1)を見て,社西小学校の1年生が電子メールを送ってくれた。(図2)メールの内容は自分たちの総合学習の紹介であった。本校からも,電子メールで返事を送った。子供達の目の前で,電子メールを開いたり書いたりするために,教室のコンピュータを使用して行った。

ふぞくしょうがっこうのおともだちへ
こんにちは
どうぶつのしゃしんをとてもよろこんでいたよ。いくつかしつもん
します。
みんなでなんにんいますか。  めぐみ
みんなは,やすみじかんにどんなあそびをしますか。  けんご
どんないきものをかっていますか。  ももか
あさがおがさいたら,すぐおしらせしてね。  えいたろう
こんなにたくさんおてがみありがとう。  はるか
かだんにはどんなはながさいているんですか。  しょうこ
こくごではどんなべんきょうをしていますか。  やよい
やしろにししょうがっこうでは,えいごのうたをべんきょうをしています。きいてください。

図1 本校のホームページ

図2 届いた電子メール


図3 届いたアサガオの画像

(b) 植物が育つ様子を情報交換
 本校の1年生が,植物を育てていて,うれしかったこと,心配だったこと,見つけたこと,不思議に思ったことなどを,手紙に書いて社西小学校に送った。子供達は,いつどんな返事が届くか,心待ちにしていた。社西小学校からは,写真(図3)と「アサガオの葉っぱはハート形に似ていました。」「ハート形と違う葉っぱが出ていたよ。」といった声が添付された電子メールが届いた。
 本校の1年生にとっては,相手校の1年生もアサガオなどを大切に育てていることがわかると同時に,コンピュータで,画像や声もやりとりできることを知って,次はこちらからも送りたいという思いを強めていた。

図4 交流会のホームページ

(c) 招待状やお知らせも電子メールで
 社西小学校とは,実際に会った交流活動も行っている。社西小学校近くの運動公園で,いっしょに,落ち葉や木の実を探す「秋見つけ」をしたり,滑り台やアスレチックでいっしょに遊んだりした。これまで電子メールや手紙を通じて交流を重ねてきているので,初対面にも関わらず,スムーズにうち解けて話したり教え合ったりしていた。
 この交流会の招待状は,社西小学校より電子メールで届けられた。(図5)文章を入力したり,電子メールを送受信したりといった操作は,1年生にはまだ難しいことだが,お知らせなどを伝えるのに電子メールを使うと便利だという思いが育ってきている。









こんにちは,
おしらせがかりの永田&さかいです。
うんどうこうえんには,おちばやまつぼっくりがたくさんおちています。ひろいたい人は,
おうちからビニールぶくろをもってきてください。
ふぞくしょうがっこうとやしろにししょうがっこうといっしょにこうかをうたうので
れんしゅうをしておいてください。


わたしは,おおむらです。このまえしかいをしました。
ビデオをみました。うんどうかいのつなひきをげんきいっぱいひっぱってよかったです。

           図5 電子メールで届いた招待状や返事

(d) テレビ会議での交流
 テレビ会議を使った交流では,社西小学校の1年生が,木の実や落ち葉を使った作品や遊びを紹介したり,本校の1年生が,集会で発表する遊びを見せたりして,お互いの総合学習の様子を情報交換した。スクリーンやスピーカーを通して,相手の姿や声が伝わってくるので,司会をする子供達や,発表に取り組む子供達が,緊張しながら真剣に取り組んでいた。







始めのあいさつ(附属小)
「秋見つけ」の作品の紹介(社西小) 感想の発表(附属小)
「遊び発表会」の紹介(附属小)
 感想の発表(社西小)
質問コーナー(社西小,附属小)
終わりのあいさつ(附属小)

           図6 テレビ会議交流会のプログラム

 大変盛り上がったのは質問コーナーで,今知りたいと思うことがすぐに質問できて,すぐに答を聞くことができることは,1年生にとってとても楽しいことのようである。

図7 テレビ会議で質問しているところ図8 相手校の発表を見ているところ

 実際に会って質問し合っても,最初はなかなか思うように言葉が出ない子供達が多いが,すぐにいろいろなことを質問したり答えたりしたくなるというのは,テレビ会議を使った交流の大きな魅力に思える。

4 実践を終えて
 現状では,電子メールやテレビ会議システムで交流をはかっていけるだけの設備がある小学校は,あまり多くない。そんな中で,実際に会って活動することができる,比較的身近な小学校を交流の相手にできたことを,大変ありがたく感じている。
 4月には,コンピュータを利用した交流活動に取り組むにあたり,「1年生が操作できるだろうか。」「1年生が興味を示すだろうか。」「手紙や実物でのやりとりの方が一般的かな。1年生にとって高望みの活動ではないかな。」といった不安を抱えていた。しかし,活動を進める中で,1年生がコンピュータに触れることを大変喜び,すすんで使い方を覚えようとしたり,メールが届くのを心待ちにしたり,音声を送るためにすすんで感想を録音しようとしたりして,意欲的に活動する姿を見て,情報機器を利用をすることが,活動を活発にしたり,交流を深めたりする上で,とても効果的であると実感した。
 デジタルデータのやり取りだけで交流が成り立つことはなく,子供達にとっては,実際に会うことが何よりの学びになるが,一方,時間的に,あるいは経費的に,なかなか会えない場合でも,電子メールやテレビ会議システムを利用すれば,見つけたことや,自分たちの気持ちや,相手に聞きたいことなどを,送ったり受け取ったりするすることができることに気づくことも大切であると考えている。また,年に1・2回会うだけでなく,その間にも,手紙や電子メールなどで情報をやりとりしておくことで,子供同士の結びつきをより深めていくことができるものと思われる。
 インターネットや電子メールを利用できる環境は,どの小学校にも広まりつつあるが,テレビ会議システムを利用できる小学校は限られている。コンピュータ通信を生かした交流を広く発展させるためには,ハードウェアの整備が必要であると感じた。また,子供達がコンピュータの操作に親しんでいく場合,その時間をどのように確保するかも大きな課題であると感じた。

ワンポイントアドバイス
 フェニックスの操作は,思ったほど難しくなく,初心者のわたしにも利用できた。恐れずに取り組んでみることが大切である。ISDNの配線は必要だが,ハードウェアは,NTTから借りることもできるようである。
 テレビ会議をする場合は,特に低学年の場合,見るだけの時間が長いとあきてしまうので,工夫する必要がある。上でも述べたが,質問コーナーはとても盛り上がる。

研究協力校
 福井市社西小学校