障害を持つ子どもたちを支援する地域情報ネットワークへの試み

福井大学教育地域科学部附属養護学校 水野 雅人
キーワード 障害児教育,会員制ネットワーク,電子会議室


企画の目的・意図
 昨年度までの本校の100校プロジェクト参加を振り返った時に,インターネットで利用できるツールとして,例えば,メールやホームページ等があるが,それぞれの特性に応じた特性を知り,利用していくことが大切であると御指導を頂いた先生より指摘された。
 そこで,滋賀大学附属養護学校を中心に取り組んでいる,会員制の電子会議室に着目し,本校用に学生と本校教官専用の電子会議室を試験的に作って頂いた。電子会議室の特徴として,単に教官と学生の1対1でのコミュニケーションだけではなく,他の学生と教官とのやりとりを知ることにより,参加者が学んだり,コミュニケーションが活発になり,教材研究が深まるなどのメリットがあるのではないかと考えたからである。ただ,実践していくうちに,自由に電子会議室を作成したり,管理できる必要性を感じるようになった。
 また,電子会議室を持てば,大学の学生さんとのコミュニケーションに留まらず,校内,保護者と,地域の教員となどというふうにネットワークを生かして,情報を共有することで,参加者が,お互いに学び,教育に役立てることができるのではないかと考えた。
 さらに,今年度は,本校が県の特殊教育諸学校視聴覚教育研究会の当番校に当たり,事務局として,特視研の会議室を立ち上げることを6月の理事会に提案し,了承された。
 そこで,本校でも,専用線接続の環境を活かして,サーバー用のパソコンと会員制ネットワーク用のソフトを用意し,電子会議室を作成し,立ち上げることにした。


1 実践内容
(1) 利用環境
(a) ネットワーク 福井大学キャンパスネットワークと64kの専用線接続
(b) ハードウエア 会員制ネットワーク兼インターネットサーバ用パソコンとして
         Apple社iMAC(メモリ96MB,ハードディスク15.2GBに増設)1台
         外部補助記憶装置 iomega Zip drive 1台
(c) サーバー用ソフト  First Class Intranet Server 5.506J 有限会社クリエイト社 1個
            First Class Intranet Server セッションライセンス 1個
(d) クライアント用ソフト First Class Client フリーウエアでWindows版,Macintosh版あり
        *クリエイト社(http://www.creates.co.jp/)からダウンロードして入手可能
(e) クライアントパソコン Windows11台,Macintosh3台(貸与パソコン含む)
(f) サーバソフトの特徴
 親しみやすいGUI(Grafical User Interface)をつくることができる。サーバの比較的簡易な管理と運営が可能である。認証を求めるホームページを持つことができ,ホームページ上から会員制のネットワークへアクセスすることができる。また,専用のクライアントソフトを利用すれば,メールの文字の大きさや色や形を変更することができるなど機能が豊かになるが,フリーのソフトであり,利用や配布がしやすく,電子コミュニティを作りやすい。なお,電子会議室も作成しやすく,ユーザにより,アクセス権を変更することにより,様々なユーザに対して,電子会議室を十分に利用してもらったり,必要に応じて会議室を追加することが可能である。
(g) 学校外のユーザの利用環境
 福井県の特殊教育諸学校では,まだ,学校として接続が認められている学校は,数少ない。そのため,教員は,自宅からのアクセスの形になる。
(2) 期間(スケジュール)
(a) 平成11年6月上旬 平成11年度福井県特殊教育諸学校視聴覚研究会(以下,特視研とする)の第1回理事会で,特視研の電子会議室を設けることの了解を得る。
(b) 9月〜10月 物品注文,納入,企画を再検討する。
(c) 10月中旬〜 ソフトのインストール,サーバの設定作業を行う。
(d) 11月上旬,福井県特殊教育センターのパソコンの利用・(応用)という講座で,ネットワークを体験しようという趣旨により,ソフト(ファーストクラス)の紹介,実習する機会が持たれた。
(e) 11月中旬にサーバーを立ち上げ,試験的に運営を開始する。
 特視研のメンバーで電子会議室利用希望者に,IDとパスワードを発行する。
(f) 11月29日 福井県特殊教育諸学校視聴覚研究会でファーストクラスを紹介する。
 また,本校のサーバにアクセスしてもらい,実際の操作を体験する。
 CD-R(クライアントソフト,説明)を用意し,各学校の特視研理事に配布し,各校で希望者がいれば,利用して頂くように依頼。
(g) 12月上旬 校内説明会(希望者対象)
 なお,この時に限らずに,本校教員に対しては,随時,説明を行う。
(h) 12月下旬 本校保護者へ電子会議室についての案内を配布する。
(i) 12月下旬 ネットワークのイメージ作成
(j) 平成12年1月 ネットワークのイメージを基に県内の特殊教育関係者や地域の方の参加を求めるホームページを作成し,本校ホームページに掲載する。
 なお,地域の接続業者のホームページにも掲載して頂けるように依頼する。
(k) 1月20日 実践のまとめ。今後は,サーバをそのまま利用し,実践を継続する予定。
(3) 会員制の電子会議室について

         図1 本校教員用デスクトップのイメージ

                   表1 電子会議室

会議室名称

参加できる人

会議室の中身,補足事項










 

校内会議室

本校教員

 

身内練習用

本校教員

 

教育実践研究

本校教員,教材研究学生

 

保健室だより

本校教員 

今までのメールの継続 

親と先生の部屋
 

本校教員,保護者
 

メヒコだより,ふようギャラリー,ふよう紹介,みんなの広場

本校へのメール

本校教員

 

ネットニュース

本校教員

ニュースグループ購読

メールマガジン

本校教員

教育ニュース等

ホームページ紹介

本校教員

教育,地域ホームページ情報








 

地域
 

本校教員,本校の教育に興味を持つあるいは
本校の教育を理解し支援して頂ける地域の方


 

特殊教育会議室
 

本校教員を含む県内特殊教育関係者

特殊教育センターおよび
本校ホームページから紹介

特視研

特視研理事

 

わくわくきっず(仮称)

児童・生徒,教員

(県内他校を含む)

学校・関係機関(仮称)

附属養護教員(本校含む)

附属養護学校等

                              *ただし,斜体の項目は計画中



   図2 会員制ネットワークのイメージ

 このイメージは,会員制ネットワークへの参加者募集のために,本校のホームページに掲載している。
                          (http://smrsrv.fuzoku-smr.fukui-u.ac.jp/)
(4) 各電子会議室について
(a) ほけんしつだより
 本校の養護教諭により,ほぼ毎日,子どもたちの健康についてのことを書いている。本校は,比較的小規模な学校で,かつ小学部入学から高等部卒業まで生活する子など長く在籍する子も多く,子どもたちの顔が十分に見えるため,よく読まれているようだ。
(b) 特視研
 IDを発行したものの,何らかの原因によってアクセスしてきていない特視研担当者も数人いるのが実状で,実際には,数人が参加している状態である。基本的には,今年度,特視研の当番校となった本校の担当者が,特視研についておよびLANを始めとするパソコンに関する話題提供を行っている。
(c) 親と教師の部屋
 みんなの広場では,高等部教員により中・高等部縦割りのしごとについてなどが画像つきで紹介された。それに対して,たまたま画像に写った生徒の保護者から返事が寄せられ家庭でも学校の活動を真似てやってみたいなどとの声が寄せられた。数人の保護者が参加しているが,実際にメールが来ると学校でも反響があった。


                     
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成果と課題
(a) 簡易なサーバソフト,ファーストクラスの手軽さ
 100校プロジェクト以来の担当者(管理者)のため,詳しいと思われがちだが,実は100校プロジェクトと共に,パソコン及びインターネットを始めたのが実状である。
 そのため,貸与されたUNIXサーバを,十分に使うことができなかったのが正直なところである。そのこともあり,サーバの利用は敷居が高いと考えていた。
 ところが,ファーストクラスサーバは,手軽に導入でき,メールによるサポートも迅速かつ的確で,管理できており,現時点までに,特に問題なく運用できている。
 さらに,本校が100校プロジェクトで貸与して頂いていたUNIXのインターネットサーバが老朽化に伴い,故障し,利用できなくなった。年度途中で機器の更新は難しかったため,ファーストクラスサーバをメール等のサーバとして暫定的に利用しているが,会員制のネットワークの機能を妨げることなく,利用できている。
(b) 会員制ネットワークの広がり
 機器の購入に当たり,ちょうどメモリが不足し,値段が変わるなどの時期にあたり,ハードの購入に手間取った。また,導入は比較的簡単であったが,ネットワークインストールなど校内の機器の問題を含めた若干の問題があり,試行運用までに時間がかかってしまった。一番,戸惑ったのは,リモートユーザは3ユーザが常時接続できるものの,これはクライアントソフトでの利用の場合であり,ホームページからだと1ユーザでもエラーが生じる問題である。そのため,11月に行った県の教育研究所から本校へのサーバへのアクセスは,クライアントソフトが利用できなかったために,レギュラーユーザを用意したが,ホームページに同時にアクセスしたために,サーバがダウンしてしまった。
 電子会議室を十分に経験して頂くことができず,また,会員制ネットワークへの参加を呼びかける良い機会も逸してしまったように思う。このソフトの場合,セッションライセンスがもっとあれば,問題ないようなので,機会を見つけて追加できればと思う。
(c) 公的な電子会議室へとつなぐきっかけに。
 特視研で話題にもなったが,今回のネットワークは,本校以外の多くの学校は,ネットワークに接続していないことも含めて私的で試行的な性格なネットワークである。が,もう少しで県内の各学校にネットワークが接続されることを考えると,ネットワークを利用して何をするのか,何ができそうなのかが,参加した先生にとっては,明確な答えは持てる段階ではないが,考えるきっかけや刺激になったのではないだろうか?
 特殊教育の場合,問題を抱えている時に,すぐ身近に相談する人がいないという場合もあり,ネットワークが是非,必要なのではないかと考える。また,例えば,年に一度ないし数度,集まって話をするというかたちだけでなく,日頃から日常的に,特殊教育について語る場を設け,語られることも意味のあることではないかと考える。

ワンポイントアドバイス
(a) 校内への説明と理解がまず重要
 個人IDなしでも読むことだけができる校内教員用共通IDの設定
 使用ソフトの一本化(会員制ネットワーク,インターネットメール,メールマガジン,ネットニュース)による,教員のソフト操作性の向上とネットワーク理解の向上
(b) 導入,管理(敏速かつ的確なサポートを含む)が簡単なシステムの導入
(c) セッションライセンスは多めに購入
(d) ホームページによる会員募集と閉じたネットワーク
 メールだけの会員追加は危険かも。形だけの閉じたネットワークにならないように。


参考文献
 特殊教育におけるネットワーク利用に関する企画 メーリングリスト「edhand」の活動と課題 平成9年度「新100校プロジェクト」成果報告集 III.高度化に関する企画
 山下修一 芳賀高洋 阿部昌人「コンピュータネットワークに媒介されたコミュニケーションに関する研究 ー地域コミュニティでのコミュニケーションを例にしてー」 千葉大学教育実践研究 第5号 1998
 インターネットと挑戦者たち 佐藤尚武・成田 茂・吉田昌義 編 北大路書房 1999 コミュニティ・ソリューション 金子郁容 岩波書店 1999

利用したURLなど
 知的障害児のための地域に根ざした学校間イントラネットの活用
 http://www.cec.or.jp/es/E-square/h10jishi/2/69/index.HTML
 平成8・9年度文部省機器利用研究指定校 滋賀大学附属養護学校情報教育部
 http://fyw.sue.shiga-u.ac.jp/chkd97/chkd97.htm

協力者
 福井県特殊教育センター 特殊教育主事 滝川国芳
 福井県立嶺南西養護学校 教諭 冨田眞一
 福井県立福井東養護学校 教諭 田辺 輝嗣 (ネットワークイメージ画 作成)
 各先生方には,いろいろと御協力頂きました。

 なお,福井大学教育地域科学部附属実践センターの三島先生には,サーバやネットワークについて貴重なアドバイスを頂きました。ありがとうございました。