Virtual Class Room の実践(国際編)

高等学校 英語・総合学習
山梨県立甲府工業高等学校
英語科 水上 奈由美 電子科 手塚 芳一
mizukami@kofu-th.ed.jp  tezuka@kai.ed.jp
http://www.kofu-th.ed.jp/
キーワード 高等学校,英語,総合学習,国際交流,異文化交流


インターネット利用の意図
 平成15年度から実施される高校の新指導要領では,「総合的な学習の時間」や教科「情報」が新設され必修扱いとなる。さらに,これらの教科以外でもネットワークを活用した授業の取り組みが行われることを期待されている。インターネットの普及によりその特徴の一つである壁の無いシームレスな環境は,教室の中だけで行われていた授業の取り組みを世界規模の空間での取り組みへと可能性を広げる。
 昨年まで国内4校の工業高校とインターネットを介した動きのあるホームページを共同製作する,いわゆるVirtual Class Roomの実践を行ってきた。
 今回は,インターネットを活用し,海外の学校(あるいはクラス)と授業を共有しながらお互いの文化の理解を深めるためにはどのようにしたらよいか,実践を通しながらその問題点の洗い出しと有効な活用方法について研究する。


1 韓国の姉妹校との交流
(1) ねらい
 本校は,4年前から韓国の清州機械工業高等学校と姉妹校の関係にある。昨年度より生徒会の生徒を中心に3泊4日のホームステイを行う交流プログラムが開始され,昨年度は本校の生徒が韓国でホームステイし,今年度は韓国の生徒が本校の生徒宅でホームステイした。この交流プログラムは直接異文化に触れるという意味で非常に有効であるが,費用がかかるため全ての生徒が参加するということは困難である。
 そこで,相手校にインターネット接続環境があるということだったので,インターネットを利用した交流を試みることにした。

(2) 実践の準備
 しかしながら,韓国側の担当教師へ電子メールを送ってもそのレスポンスが遅く,相手側のシステム構成さえも掴めない状況であった。韓国側は直接話し合いを持ちたいという意向だった。相手校のシステム及び教育環境の調査や交流の可能性について協議するため,韓国へ直接出向き会合をもった。
 そこでの調査・協議内容はつぎのとおりである。
  (a) 相手校のインターネット環境について
   ・校内LANは100BASEのイーサネットを用い,ファイアウォールを介さず50台のコンピュータが接続されている。
  ・ISPとの間はISDN専用線256Kbpsで接続されている
  ・インターネットの教育活用は未だで,来年度から電子メールの使い方等について指導する予定である
  (b) 交流について
  ・学校間より学科間の交流を希望している先ず交流を始めることが大切であり,その後交流の輪を広げて行く努力をするという方向で意見をまとめる。コンピュータリテラシを鑑み,電子科同士の交流を始める。
  ・電子メールによる教員間の交流を行う
  ・実習内容の情報交換
  ・実習テキストの共同製作
  ・ホームページの共同製作
  ・電子科生徒のホームステイの実現


  図1 清州機械工業高等学校学園祭
 
  図2 清州機械工高電子科の実習風景

(3) 参加校
 清州機械工業高等学校は韓国の忠清北道の県庁所在地にある,生徒数2500名程の大規模校である。また精密機械科,配管溶接科,金属科,電気科,電子科,航空整備科の6学科を擁している。
 今年度,本校の学園祭に韓国側から生徒数名が来校し生徒宅へホームステイした。その中に電子科の生徒はいなかったが,引率してきた電子科教員と本校の電子科教員が直接交流をもち,システム環境や実習内容等の情報交換を行った。

(4) 利用場面
 生徒間の交流では,相手校のホームページを自国語に翻訳して紹介しあうことにした。清州機械高校のホームページはハングル語で書かれており,生徒が直接日本語に翻訳することはできない。そこで,翻訳ソフトを利用し日本語に翻訳された一次原稿をハングル語サークルの生徒によって読みやすいかたちへ更に翻訳してもらった。今までホームページは紹介されていてもハングル語で表記されていたため内容はほとんど理解されていなかったが,今回日本語のページができ生徒たちは一層親近感をもち相手校の理解を深めている。
 清州機械工業高校では,現在生徒に電子メール利用を許可していない。そのため,生徒同士のメールのやり取りはできない。来年度からは生徒の利用を許可する方向で検討が進んでいる。使用する言語は必然的に英語にならざるを得ないが,相手の母国語を少しでも理解するため,翻訳ソフトを活用し自国語と相手国語の二カ国語で表記してメールのやり取りを実施していこうと計画している。そのための方法を教員間で実験しているところである。

2 ハワイPunahou高校との交流
(1) ねらい
 韓国の姉妹校とのインターネットを活用した交流では,当初の計画とは異なり電子メールを利用した交流が果たせなかった。そこで,電子メールやテレビ会議システムを活用した交流を行うため,英語圏の学校を探し交流を図ることを念頭においた。
 ハワイの情報は日本にいてもいろいろ入手できるが,メールやテレビ会議を利用し,お互いの身近な生活の違いを見つけ,それをとおしてお互いの文化を理解する。

(2) 実践の準備
 (株)ネットコムが同社のテレビ会議システム「ネットフォン」を利用した異文化交流の参加校を募集していたので,それにエントリーした。結局,本校が日本側の幹事校として参加校の交流スケジュールの調整やサーバの立ち上げ等を行った。ネットフォンは画像の質も良く,特に音声の通りがよいためネイティブスピーカとの交流には役立った。

(3) 参加校
ハワイ Punahou高等学校(日本語クラス20名)
名古屋市立西陵商業高等学校
大阪府立盲学校
山梨県立甲府工業高等学校(電子科1年生40名)

(4) 指導計画
 交流は,基本的に英語の授業で行い,週2時間の英語Iの時間を充てた。テレビ会議を実施するまでになるべく多くのメールを交換し,テレビ会議では限られた時間を有効に使えるよう配慮した。
8月下旬 本プロジェクトのメール交換開始(教員間)
9月上旬 本校の参加教員で打ち合わせ(今後の予定について)
9月中旬 生徒に今回のプロジェクトについて説明
     ハワイについて知っていることを個々に挙げ,以外と自分たちがハワイについて知らないということを認識させる。
     教員と(株)ネットコムとの打ち合わせ(今後の予定と接続について)
9月下旬 電子科1年生40人を4人ずつ10班に分ける。
     テーマについて検討する
10月上旬 Eメールを使ってハワイと交流(自己紹介より開始)
10月下旬 テレビ会議を使った交流
11月下旬 公開授業

(5) 実践内容
1) 生徒にハワイと交信することの意味を理解させる
 ハワイと交信することは,異文化に触れ学習するということであるが,それと同時に生徒の自主性と意見・発想などをうまく引き出すようにすることも大きな課題である。ただし,何もないところから「やってみよう」と生徒に持ちかけても,生徒は混乱するだけで結果は得られないと思われたので,糸口として「ハワイについて知っていることを挙げてみる」ことから始めてみた。結果は「観光地」「地理的なこと」「土産・特産物」「力士」など目に見えるものや表面的な事柄が多く,文化や生活など内面的なことについては何も知らなかった。
 次に「ハワイの人たちと話したいこと」を尋ねてみた。これは知識があってこそ考えつくものである。そのため,生徒たちはどうしても自分たちの知っていることから何か考えなくてはならなかったので,上に挙げた回答から考え出したものが多く興味深い発想を引き出すことは困難であった。例としては「観光について:推薦できる観光地・土産など」「地理的な質問」「日常生活について:衣食住・高校生活」というようなものである。


  図3テレビ会議の画面

  2) 班分け
 1つの班の人数が多くなりすぎるとその中で参加しなくなる生徒が懸念されたので,4人にした。分け方は当時の座席で教員が割り振った。消極的な生徒が集まってしまった班もあったが,何とかどの班も意見交換することができた。4人という少人数が適していたと思われる。

  3) テーマ決定
 前述の一覧を参考にテーマを何にするか話し合わせた。ところが,班によっては「雪は降りますか」など答えが「はい,いいえ」で終わりそうなものや「ファッション,ゲーム,音楽」など1つに絞りきれず範囲を広げすぎてしまうものを挙げていた。そこで,その内容をなるべく尊重し,交流ができるようなテーマに変えるよう指導した。

  4) メール送信
 ハワイ側と教員間で電子メールを使い,交流の方法と手順について意見交換した。ただ自己紹介と世間話に終わることのないように継続的な交流が行えるようテーマを添えて班ごとに送るようにした。この時の自己紹介は英語と日本語の両方で行った。生徒の考えをなるべくそのままの形で送るため,英語の部分で意味のわからないところのみを英語教員・ALT(assistant Languge Teacher)が添削した。

  5) 1回目のテレビ会議システムによる交流
 テレビ会議システムのサーバを本校で立ち上げることになった。そのサーバを用いて,ハワイと日本との間で接続確認テストを行った。その折,Punahou高校日本語クラスの生徒が日本語で日本についてプレゼンテーションしてくれた。時間の関係で意見交換できなかったのが残念だった。
 交流後の生徒の感想は以下のようなものである。
 ・ハワイの生徒たちは日本語がとても上手だった。
 ・接続に時間がかかった。
 ・リアルタイムだったので感動した。時差が感じられた。
 生徒達はメールだけでなく,画面を通して交流相手を確認できハワイが身近なものという実感を得たようだ。また接続の難しさも生徒にはハワイとの距離を体感することができてむしろよかった面もある。

 その後,ハワイからメールが届いた。内容は自己紹介と日本の高校の校則についての質問だった。それは日本語で書かれており,麻薬やピストルの話題も出て,日本の生徒たちは驚いていた。
 テーマをもう少し絞ったほうが話を進めていきやすいということで「食物」「校則」「アニメーション」の3つにした。日本側は「食物」に集中したが,ハワイの生徒たちは「校則」に興味があるようだった。

  6) 2回目のテレビ会議システムによる交流
 今回はコンピュータの画面を大きなスクリーン上に表示した。また事前に質問や回答などを検討していたので前回よりもはるかにコミュニケーションが円滑に行われた。すべて日本語で行ったということもあり生徒達は積極的に参加した。内容は校則,学園祭などであった。メールで「制服」について尋ねられていたが,実際にどんな制服かを見てもらうことができ,言葉だけのやり取りが目に見える形のコミュニケーションになった。


  図4Punahou高校とのテレビ会議の光景

3 成果と課題
(1) 韓国の姉妹校との交流
年1回のホームステイの交流から,インターネットを活用して継続的な交流が行えるという見通しができことは大きな成果である。ハングル語と日本語という言葉の壁が現存し,これが交流の妨げになっているのは事実である。片言の表現になるかも知れないが翻訳ソフトの活用も大切だと思われる。

(2) ハワイPunahou高校との交流
 前述のとおり相手が目に見える形となり,リアルタイムでコミュニケーションがとれることにより,電話やメールにない交流ができた。生徒も2回目のテレビ会議ではとても反応がよかった。
 リアルタイムで交信できる時間は時差の関係もあり本当に限られたものである。有効に使おうと思っていても,どうしても無駄な時間が出てきてしまうので,準備を周到にしておかなければただ接続して喜んでいるだけになり異文化交流とはいえなくなってしまう。したがって,メールなどで交信相手とよく打ち合わせや情報の交換をしなければならない。
 今回の交流では使用する言語をハワイの生徒の日本語に頼ってしまったが,次回からはこちらも英語で交信したい。そのために,さらに綿密に長期的な計画を立て打ち合わせをしていくことが必要である。

ワンポイントアドバイス

 学校間交流には2つのアプローチ方法がある。1つは既にテーマが決まっていてそれにテンポラリに参加する方法。もう1つは教員間の交流から始めて授業を共有する方法である。今回の試みは後者の方である。このアプローチの仕方は,各々の学校を取り巻く環境や授業の内容等いろいろなファクターが関連し,交流の方法やテーマについてもなかなか決まらないことが多い。
 それを解決するためには,柔軟な授業内容の編成も必要になってくる。また,クラス全体でテレビ会議システムを運用する場合等,一人の教員だけでは運用が困難な場合が多い。学校間交流を計画・実施する場合は,できるだけ多くの教員の協力が得られるよう,先ず校内のコンセンサスを得ることが大切である。
 またテーマ設定においては,最初からあまり大きなテーマに取り組まず,ミニプロジェクト形式で少しづつ成果をだしながら交流の輪を広げていった方が成功するようである。
 何事も焦らず,協調していくことが交流が成功する秘訣のように思われる。

参考文献
 国際交流のためのガイドブック(財団法人コンピュータ教育開発センター)

利用したURLなど
 清州機械工業高等学校(http://www.chongju-mh.ed.chungbuk.kr/
 異文化交流メーリングリストアーカイブ(http://wmail.kai.ed.jp/ml/index.shtml