インターネットの教育利用を進める地域コミュニティの形成

山梨スクールネット研究会 依田 源
キーワード インターネット,地域,研究会,ネットディ


インターネット利用の意図
 
インターネットの教育利用も普及期に入り,これまでとは違って,校内にインターネットの知識を持ち、核となる教師がいない中でも,インターネットを取り入れた教育を実践していかなければならない状況も表れてくる。これらの学校がスムーズに利用環境を整え,利用技術を獲得できるよう,支援を地域として組織化していくことは,インターネットの教育利用を広める上で是非とも必要なことである。
 本研究会では,以前からこのような状況になることを予測して,後続校の支援のため,WEB教材の蓄積や技術支援のためのノウハウの蓄積を行ってきた。昨年度来,これまで以上に各学校から「インターネットの利用の方法を知りたい」,「利用環境の整備の方法について教えて欲しい」といった支援を求める声が多くなっている。そこで今年度は,これまでの活動に加えて,県内実践校の授業見学会,県外での実践事例発表会を行う事にした。この2つは,利用法を知りたいという声に応えたものである。また,「利用環境整備のノウハウの獲得は」実際に利用環境整備を経験者と一緒に行うことが最も効果的であると考え,昨年度初めて実施したボランティアによる学校へのLAN構築(ネットディ)を今年度も行うことにした。


1 実践内容
(1) 地域WEB教材の作成

 この研究会のメンバーである,櫛形北小学校の横小路豊先生が ウェッブ教材
 「Yamanashi and Korea」を作成して,2月22日に行われる県教育センターの研究発表大会で発表する。また,作成した教材は昨年までと同様に,県総合教育センターのホームページで公開される。(http://www.kai.ed.jp/webkyouzai.htm)
 このウェッブ教材の作成については,この報告書の末の資料1「地域Web教材の開発『Yamanshi and Korea』」を参照

(2) 定例研究会・授業見学会・県外実践事例発表会
 3か月に1回程度の研究会を行った。
第16回研究会
 実施日時 平成11年5月28日(金) 15:00 〜17:00
 場所  山梨県総合教育センター 情報教育センター
 内容  講演 「インターネットの現状と今後」
                     流通経済大学 教授 林 英輔 先生
     報告 「新しい情報教育の流れ」
           山梨大学教育人間科学部附属中学校 教諭 鈴木 昇 先生
 参加者 17名
 議事要録 http://wmail.kai.ed.jp/ml/ysn-ml1/msg01122.html からのスレッド
第17回研究会(兼 授業見学会)
 実施日時 平成11年9月21日(火) 13:45 〜17:00
 場所  山梨大学教育人間科学部附属中学校 
 内容  授業参観 5校時,6校時(13:45〜15:25)
        「コンピュータメディアリテラシー」の授業
                  授業者 井上 公彦先生 北原 宏明 先生
     討議,その他  15:40〜17:00            
 参加者 8名
 授業については http://fzkjhss.fzk.yamanashi.ac.jp/h11jisseki.htm
第18回研究会(兼 県外実践事例発表会)
 実施日時 平成11年12月18日(土) 14:00〜17:00
 場所  山梨大学教育人間科学部附属小学校 あおぎりホール
 内容  実践発表  「インターネットを使い始めて」
                柏市立柏高等学校  大 橋 真 也 先生
            「総合的な学習への移行期のパソコン利用」
                柏市立柏第三中学校 小 菅 由 之 先生
 講演 「IPマルチキャストの教育への応用」
                   流通経済大学 教授 林 英輔 先生
 参加者20名
第19回研究会(予定)
 実施予定日時 平成12年3月中旬
 場所  山梨県立甲府第一高等学校 コンピュータ教室
 内容  「農林高校ネットディを振り返って」
                    発表者  未 定
     「甲府一高の校内ネットワークの構築について」 
                 甲府第一高等学校 依 田  源 先生
(3) メーリングリストによる情報交換
 この研究会の通常の活動は ysn-ml というメーリングリストにより行われている。このメーリングリストは山梨県情報教育センター内にあるメールサーバにより運用されている。今年9月に情報教育センターの「Hi-Use Net」の拠点システム更新に伴って,センターのご厚意でメーリングリストのシステムも改善していただいた。具体的には
1)投稿メッセージに通し番号がついた
2)メーリングリストの記録がWebでスレッド表示で公開できるようになった
     http://wmail.kai.ed.jp/ml/
3)ウェッブメールシステムも使用可能になり,教育センターに直接ダイアルアップせずに他のプロバイダー経由でもメールの読み書きが可能になった。
 このメーリングリストを利用して,県内の学校同士の交流相手探しや,情報収集,意見交換などが行われている。前述(1) のウエッブ教材についても,暫定的に仕上がったものを公開して,このメーリングリスト上で意見交換が行われた。また,図書館の蔵書管理のコンピュータ化についての情報収集やこの会の活動方向にについての意見交換などが行われている。
(4) ネットディの実施
 県立農林高校のLAN拡張を平成12年2月下旬に行う予定で準備をしている。12月27日にメンバー2名が下見を行った。既に敷設してあるパソコン教室−図書室間のLANを延長して職員室,視聴覚教室,進路指導室からもインターネット及び校内ネットワークを利用できるようにする。スクールネット研究会が工事の下請けをするという形ではなく,学校の先生や生徒と一緒にLANを引けるように計画している。それは,実際の作業の中でノウハウを身につけてもらい,後々自分たちの手で校内LANの拡張ができるようにしたいからである。
 準備の手順
1) 研究会メンバーの下見
2) 校内の体制づくり
3) 研究会メンバーと学校側担当者でネットワークどのように引くかと実施日の決定
4) 研究会メンバーが必要な部材を学校担当者に伝え,学校側での部材の調達
5) 校内の準備(配線の基礎知識やネットワークの使い方の研修,成端の練習,ネットディ参加者の確定など)
6) 研究会メンバー側で当日のスケジュール作成,役割分担,必要な道具類の準備

2 成果と課題
 インターネットの教育利用を支援する,地域の人的ネットワークを作るには,先ず,人が集まることが大切である。これは,実際に集まっても良いし,実際に集まれなければインターネット(メーリングリスト)など利用による仮想的な集まりでもかまわない。更には,このネットワークを足がかりに,電話やFAX,訪問など直接のコネクションを持つことも可能である。これらが有機的に結びついて機能することがコミュニティを形成していく。この研究会でもこれまでの継続的な活動の成果として,このコミュニティが形成されつつある。前項で報告した活動に
               図1

加えて,学校間や,教育センター,地域の協力者との間で,この研究会を中心に直接のコネクションによる支援がごく日常的に行われるようになってきた。
 実際に人が集まるのには,人を集まり易くする必要があるが,そのために,この会では開催する研究会を県の機関である総合教育センターの特設研修会として認めて頂いて,研究会の案内文書も山梨県総合教育センターの所長名で発送されるようにしている。これは,研究会の開催が平日であっても,参加が公務出張という形で校内で認められることを意味する。さらに,この会の活動がEスクエァプロジェクトのひとつとして認めて頂けたため,CECから支援を受けていることも案内文書に書くことができ,県の機関の研修であることと合わせて,出張への理解が得やすい状況となっている。このことは,この会で研究・活動することが,単に個人的な趣味でなされるのではなく,学校の教育活動の一環であって,公務として行われるべきであるという考えに近づいた形にもなっている。
 また,人が集まりやすい企画も必要であると考え,要望の多かった教育実践の事例に触れる研究会を2回実施した。残念ながら,日程のまずさや広報の不十分さから,参加者数は通常の例会とあまり変わらなかった。9月の授業見学会では,中学校の学園祭時期と重なったことや,案内が実施日の2週間前と直前であったので既に予定が入ってしまっていること,12月の県外実践報告会では,学期末の処理で忙しい時期であったことが欠席返事のメールにも書かれていた。昨年度末の例会で今年度の実施日を早い内から決めてしまおうという意見もあったが,「必要なときに必要なことを」という方向で話がまとまり,年間の開催計画を立てなかった経緯がある。しかし,このやり方は,1回が終わらないと次回の計画が立てられず,どうしても会の案内が遅くなってしまいがちになる。来年度は,早い時期に研究会の案内ができるように,見通しを立てることと,ある回は参加できなくても別の回には参加できるように,回数多く研究会を実施していくことが課題である。また,12月の研究会の広報で試みたことであるが,市町村の教育委員会の情報教育担当指導主事を通じて傘下の学校に案内を流してもらうことも効果が上がった。来年度はこのルートの確保にも取り組みたい。
 もう一つの集いの場である,メーリングリスト(ysn-ml)は,時期によって書き込みの量に差があるが,会の連絡,情報収集に有効に活用されている。このメーリングリストの特徴的な点は,内容がウェッブ上で公開されていることである。これにより,メーリングリストのメンバー以外の人にもメーリングリストで話題に上がった情報を共有してもらうことができるようになる。メーリングリストが活発に利用されることが人的ネットワークを広める上で必要なことである。そのためには,投稿に対して必ず誰かが応えることが大切で,その意味での運営担当者の存在も必要である。
 昨年度初めて行った,山梨県立富士見養護学校のネットディでは,多くメンバーの参加を得る中で,LANを拡張することができたとともに,その後も順調に活用されて,大変意義のあるものであった。イベント性のあるこの取り組みは,会の存在のPRとしても実に有効である。研究会側としても回数を重ねて,ネットディ実施のノウハウを獲得することも必要であることから,今年度も1回,来年度は更に回数を増やして取り組んでいく予定である。

ワンポイントアドバイス
 人が集まる場を作る。集まりやすいようにするためには何でも利用する。教育委員会やCECなどの権威も有効。ネットディも研究会もある程度回数が多くないと,なかなか,人の輪は広がらない。回数を重ねることが大切。

 

参加校,協力校等の名称
 山梨県総合教育センター
 山梨大学教育人間科学部附属中学校
 山梨県立農林高等学校
考文献,参考URL,引用等
 学校ネットワーク適正化委員会編   学校にLAN入しよう   NGS発行
 群馬県インターネットつなぎ隊(http://www.tsunagi.org/)

 資料1
    地域Web教材の開発『Yamanshi and Korea』
                     形北小学校 横小路 豊
                  e-mail: woodsman@yin.or.jp

1 タイトル Yamanashi and Korea」(山梨県と韓国・朝鮮)

2 教材作成の目的
 このホームページは,地域に残る地名や建造物・墓などをもとにして,山梨県と韓国・朝鮮との古代から現代にいたるまでの関係をまとめることを目的に製作した。
 古代より現代にいたるまで,韓国・朝鮮と日本とは,深い関係をもってきた。その中で,ここ山梨県とは,どういう関係があるかを明かにしようと試みた。
 国際理解教育の必要性が求められている中,地域に残っている韓国・朝鮮との関係史を知ってもらうことで,より身近に隣国が感じてもらえればという願いがある。また,そのことは,わたしたちの住んでいる地域についての,より深い理解にもつながっていくだろう。

3 内容
 古代からの山梨県と韓国・朝鮮との関係について紹介する,次の6つの内容を製作した。
○「こま」の由来
 山梨県内の南巨摩郡・中巨摩郡・北巨摩郡の名に残る「巨摩(こま)」という言葉と高句麗との関係を紹介した。(関係地域:南巨摩郡・中巨摩郡・北巨摩郡)
○「猿橋」をかけた人
 山梨県大月市にある猿橋をかけた人物として,百済人という説があることを紹介した。(関係地域:大月市)
○「新羅」を追って
 山梨県南巨摩郡南部町にある新羅神社という神社に残る「新羅」の名の由来について紹介した。(関係地域:南部町)
○豊臣秀吉の朝鮮出兵
 豊臣秀吉の朝鮮出兵(文禄慶長の役)と山梨県との関係を紹介した。(関係地域:甲府市)
○日韓併合から敗戦まで
 山梨県北巨摩郡高根町出身の浅川巧について紹介した。(関係地域:高根町)
○姉妹関係
 韓国の忠清北道と山梨県との姉妹関係について紹介した。
 
 製作にあたっては,山梨県の歴史に関係した本,地名に関係した本,韓国・朝鮮に関係した本を読むことから始めた。また,できうる限り,関係した写真を載せるようにした。
 ただし,すべての情報・説明を載せることは困難なためと,ホームページを見た人が自分でさらに内容を調べられるように,情報は少なめにして,「調べてみよう」「読んでみよう」「行ってみよう」というような小さなアドバイスを随所に載せた。
 
4 授業での使用法
○ホームページをひととおり見ることで,紹介した範囲の中での山梨県と韓国・朝鮮との関係を知ることができる。これは,直接,教科とは関係しないが,生徒が自分で課題をもって,山梨県や韓国・朝鮮の歴史や国際関係について調べるときのガイド役の働きをしてくれるかも知れない。
○日本史または世界史の学習において,山梨県または韓国・朝鮮に関係した部分での参考になるかも知れない。
○山梨県の地域についての学習で,時間的(歴史的)・地理的な視野で地域を見るときの参考になるかもしれない。
現在のページでは,漢字や用語が難しいので,小学生が読むには困難だと思うが,中学生・高校生では自分で読むことができると思う。
 
5 今後の課題
○掲載情報をさらに充実させていきたい。「日韓併合から敗戦まで」については,今回まとめきれなかったが,近い歴史であるので,資料の発掘をしていきたい。
○今回,調査しきれなかった部分については「ただいま調査中」という表記をしておいたが,今後少しずつ調べていきたい。
○韓国の現地取材も行っていきたい。
○韓国語版のページも製作中である。