地域学習教材の作成とその活用
−地域web教材,環境教育資料集の作成−

山梨県総合教育センター
http://www.kai.ed.jp
宮山泰夫
kom@kai.ed.jp
志村 昭
shimura@kai.ed.jp
キーワード 小学校,中学校,理科,社会,環境教育,地域教材,情報検索資料集,山梨の河川


目的・意図
 インターネット環境の整備が急速に進み,教育用コンテンツの開発及び活用を促進する取り組みが急がれている。
 このような中で本研究では,山梨県内の各地域の文化,自然環境に視点を当てたマルチメディアデータの教材・資料集を開発して本教育センターのホームページ上に公開するとともに,CD-ROMに収録して県内のすべての学校に配布することで教育利用の推進を図る。
 教材の作成及び資料の収集にあたっては,県内の小・中学校を中心とした教員を研究協力員として委嘱して1年間の協力得る。本センターでは研究協力員の技術研修や学校における活用に対する援助等を行い,研究協力員が教材活用の推進リーダーとして各学校で活動できるよう支援する。
 
開発方法
 各研究協力員が学校を中心として,地域にある教育情報を収集してWeb化する「地域Web教材の開発」及び統一したテーマに沿ってセンター中心に行う「環境教育に視点をおいた地域教材-山梨の河川-の開発」がある。


1 内容
1.1 地域Web教材の開発
(1) はじめに
  県内においてインターネット,校内LANを導入する学校は急激に増加しつつあり,それらの授業への活用も様々に試みられている。インターネット上には多くの情報があるが,身近な地域の情報は十分とはいえないのが現状である。また授業でそのまま使える情報は教師自ら教材化しないかぎり使いやすいものにならない。
  そこで研究協力員の協力を得て教材を作成し,教育センターのサーバー上で公開することで,学校や家庭から直接アクセスして利用できる教材集を開発した。またこれらを協力員が自ら授業で活用し,また地域の学校での活用の推進役を果たすことでネットワークの教育利用が推進できると考えている。

(2) 目的
 主に小中学校社会,理科の授業で活用できる地域の情報を教材化した教材集を作成する。開発にあたってはHTML言語を用いる。
(3) 内容


      
1 トップページ

(a) テーマ 「養蚕と紬」
http://www.kai.ed.jp/inoue99/index.htm
制作の意図
 山梨県では明治以降,養蚕は重要な産業として広く行われていた。また出荷できないくず繭や玉繭利用した紬織物も養蚕ととも発展した。近年の社会変化により現在は著しく衰退し,桑園も果樹園や宅地等にかえられている。このような状況の
中で,かつては県内の重要な産業であった養蚕や紬織物について,記録や資料を残しておくことは地域学習の教材として利用価値のあるものと考えた。そこで今回養蚕は山梨県東八代郡豊富村を,紬織物は山梨県南都留郡河口湖町大石を取材フィールドとして選び,多くの方の協力の下で作成することができた。


       
2 トップページ

(b) テーマ 「地域探訪」
 http://www.kai.ed.jp/tiiki/index.htm
制作の意図: 
 子ども自身が自分なりに課題を持ち,それを解決する方法を考え,学習計画を立てていく,より自主的な学習ができるように変わろうとしており,自分で調べ,解決できる力の育成が今後ますます大切になってくる。そこで身近な地域(中巨摩郡下)に点在する素材を集め,環境問題・地域産業・自然・史跡の4分野に分け,調べ学習に活用できるようになWeb教材を作成した。


        
3 トップページ

(c) テーマ 「私たちの川 鶴川」
http://www.kai.ed.jp/kawanishi99/index.htm
制作の意図: 
 4年生・5年生の2学年合同で,地域にある「鶴川」についての総合的な学習を行った。川を訪れ,「探検」を行うことから始まり,児童の興味・関心に基づいていろいろな方向に調べ学習が発展し,さまざまな興味深い結果を得ることができた。児童が調べた結果を,児童自らにパソコンを使ってまとめさせ,web化した。今後次の学年がこれを基にして調べ学習を深める教材として利用できる。地域学習にパソコン活用を取り入れた取り組みである。


      
4 トップページ

(d) テーマ 「Yamanashi and Korea」
http://www.yin.or.jp/user/woodsman/yama_korea/
制作の意図: 
 地域には他国との歴史的な関わりを示すものが多数ある。特に韓国・北朝鮮に関わるものは地名,建物等に残っている。これらについて授業で扱うことでより身近な隣国として生徒に伝えることができる。国際理解教育の必要性が求められている中,これら地域に残る歴史的情報を活用できるような教材化を試みた。


      
5 トップページ

(e) テーマ 「桂川の水生生物による水質調査」
http://www.kai.ed.jp/maejima99/index.htm
制作の意図: 
 河川にはいろいろな生物が生息しているが,生息する生物を調査することによってその時の川の状態・水質を知ることができる。今回は生徒に地域の河川に棲む水生生物を調べさせ,その結果をWeb化してまとめることで,地域の自然環境と人々の暮らしについて課題意識を持ち,自分たちの生活や環境見直すための資料として残したいと考えた。


       図6 トップページ 

(f) テーマ 「吉田の祭]
http://www.kai.ed.jp/takao99/index.htm
制作の意図: 
 富士吉田市は富士山のすそ野に広がるまちであり,生活,文化のいたるところで富士山に関わっている。また富士山信仰から生まれた様々な行事や風習も残っている。そこで代表的なものとして「吉田の祭」をテーマに「火祭」と「流鏑馬祭り」を取り上げ,地域学習の導入に用いる資料として教材化することを試みた。

 

1.2 環境教育に視点をおいた地域教材「山梨の河川」の開発
(1) はじめに
 経済活動の拡大や人口の増大は,地球温暖化,オゾン層の破壊,地球の砂漠化,酸性雨など地球環境そのものへの影響を深刻化させている。このような環境問題に対して,学校教育においても,環境の保全やよりよい環境の創造のために主体的に行動できる実践的態度や資質,能力を育成することが急務である。
 子どもたちには,豊かな自然や身近な地域社会の中での様々な体験活動を通して,自然に対する豊かな感受性や環境に対する関心等を培う「環境から学ぶ」ということ,環境や自然と人間とのかかわり,さらには,環境問題と社会経済システムの在り方や生活様式とのかかわりについて理解を深めるなど「環境について学ぶ」ということ,そして環境保全や環境の創造を具体的に実践する態度を身に付けるなど「環境のために学ぶ」という視点で環境教育を進める必要がある。

(2) 目的 
 山梨の河川および河川を中心とした自然や地域の資料を環境教育の視点から収集し,地域教材として幅広く利用できる情報検索資料集を作成する。
(3) 内容 
ア 環境教育で利用できる資料の収集。
イ データベース化 
ウ Webを作成し,情報検索できるシステムにする。 
(4) 仕様
ア 本年度は画像データの追加と教材として利用できる例をHTMLで作成している。
(ア) 追加するデータは前年度からのフォルダ構成を生かしながら,本年度分を追加できるような構成とした。
(イ)リンク先のファイルから元ファイルへ戻る形式とした。「もどる」ボタン等で前のページに戻ることができ,作成したHTMLファイルは他のファイルからも参照,再利用できる。例えば
 はなの検索ページ「どんな花に似ている」→「ノリウツギのページ」(NOriutugi.htm) 
 はなの検索ページ「どんな色してた」→「ノリウツギのページ」(NOriutugi.htm) 
のように異なる検索方法から同じページへジャンプし,「もどる」ボタンで元のページへたどることができる。 

 


             
8 「川のようす」のページ

イ 開発Web
(ア)「山梨の河川99」スタートページ(図7)
(イ)「川のようす」(図8)
    地図上のリンクから,富士川(釜無,笛吹),相模川(桂川),多摩川(丹波,小菅)各水系のようすが閲覧でき,水量や岩石,堤などの周辺環境を調べることができる。
  地図上のリンクから,新しく起動したブラウザに,画像が表示される。画像データの中には下のような連続画像やパノラマ画像が用意されている。
(ウ)「しらべてみよう」
・石
・水生昆虫による水質調査(「河川にすむ生き物で水質を調べよう」,記入表あり)
・水のにおい
・おんど(水温)
・にごり(透明度)
・pH「pH(ペーハー)とは」
・COD「CODとは」
(エ)施設
(オ)植物検索
・「何の花に似ている?」
・「どんな色していた?」
(カ)魚検索「河川のさかな」
(キ)コラム「山梨の四季」

 

(5) 開発経過
(ア)開発計画の決定,研究開発協力委員の委嘱
(イ)資料収集と施設訪問(図9)
(ウ)資料回収と資料補充,画像ファイルの作成,修正
(エ)データベースへの追加とデータ確認
(オ)Web作成とデータ確認
(カ)配布仕様の決定
(キ)配布データ確認
(6) 活用と場面
 配布CD-ROMの「山梨の河川」はWebファイルで,河川とその周辺の様々な情報検索と情報収集ができるようになっている。また,「KzDb」は収集した教育で利用できる素材画像データベースとして,収集された画像を使ったWebの作成や,情報発信などをするときに利用できます。主な活用場面としては,「環境教育」,「小学校生活科」,「小学校社会科」,「小学校理科」,「中学校理科」などが考えられる。また,総合的な学習では収集データの管理方法として,KzDbに登録し,全員で画像データを共有利用できるメリットが考えられる。 

協力員によるデータ収集
   図9 「協力員によるデータ収集」

2 成果と課題
(1) 地域Web教材の開発
  各学校における資料収集,Web作成は地域とのコミュニケーションを図りながら,学校での情報機器活用が進み,さまざまな地域独自の情報が集められた。しかし他との比較のため,収集されて地域以外の情報も必要と考えられる。さらに内容に系統性を持たせ,対象地域を全県的に広げることで一層利用価値のある教材にする必要がある。
(2) 環境教育に視点をおいた地域教材「山梨の河川」の開発
  学校でのインターネット普及がすすむ中で,マルチメディアデータは教育コンテンツを作成する上で重要なものとなりつつある。県下全域からの情報を,統一したテーマで収集していくことは,地域ごとに持っている情報に,より大きな付加価値を生むことになり,本研究でこのことが実証できた。特に生物や地学といった専門知識の必要なデータ収集において,地域に詳しい方の情報を得ることができたことで,より実用性のあるデータ集にすることができた。
 しかし,「環境教育」に重きをおいたため理科以外の分野の情報が極端に少なく,今後の県レベルでの情報収集,データベース化の必要を感じる。例えば,県内の文学碑,句碑のデータベースや,民話,民具,民芸といった地域性のある情報であっても,それを県全体で統一することで,利用範囲の広い教育素材集とする事ができると考えられる。
 開発過程で,昨年度開発したデータベースソフトウェア「KzDb」により,3年間の収集画像データを比較的効率的にWeb化することができた。また,事前にフォルダ構成を決定したことで,複数の開発者によるWeb作成が可能となった。しかし,作成したWeb画面のデザイン面での統一をすることが困難といえる。この点については,インターネット等を利用し,センターのサーバ上での開発とデータ収集を行うことで,解決できると考えられる。  

ワンポイントアドバイス
収集する情報により,2つの開発方法を使い分ける必要がある。
・計画時に,データを共有利用できるようなフォルダ構成にする。1つのデータを再利用できる。
収集された教育情報の性質によっては,他地域の教育情報と関連を持たせることにより,さらに系統的なデータベースとすることが出来る

 

参考文献・資料
沼田 眞 監修「学校の中での環境教育」
河辺昌子 著「だれでもできるやさしい水のしらべかた」

 

研究開発協力委員
井上まり子 (大石小学校教諭)
志村祐二 (田富南小学校教諭)
河西智子 (棡原小学校教諭)
横小路豊 (櫛形北小学校教諭)
前島英子 (富河中学校教諭)
古屋隆夫 (富士見小学校教諭)
高尾亜希子(下吉田第一小学校)
太田友仁 (勝山小学校)

鈴木憲仁(御坂西小学校校長)
内藤久敬 (韮崎西中学校校長)
湯本光子 (加納岩小学校教諭)
宮沢謙市 (明野中学校教諭)
小俣恒仁 (都留文科大学附属小学校教諭)
森川不二男(西桂中学校教諭)
佐藤光雄 (東桂小学校教諭)
中村英彦 (日下部小学校教諭)
小口尚良 (環境科学研究所主任)

取材協力・データ提供
甲府東洋株式会社
大石紬伝統工芸館
峡東環境浄化センター
環境科学研究所

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