子どもインターネット放送局

小学校第6学年・社会科
丸子町立丸子中央小学校 中村紀夫
キーワード ネットミーティング,福祉,役場,インターネット


インターネット利用の意図
 インターネットは遠く離れた地点間でのリアルタイム・コミュニケーションを可能にするメディアである。しかもそこで交換される情報は文字だけにとどまらない。音声や映像のような「マルチメディア」を利用することができる。
 マイクロソフト社の「ネットミーティング(Microsoft NetMeeting)」はインターネット上でテレビ電話(テレビ会議)を実現するソフトウェアである。これを用いて「仮想的な社会見学」,つまり,児童が教室にいながらにして社会の現場の状況を知り,そこで働く人々の生の声を聞く機会を持つことが,この「子どもインターネット放送局」プロジェクトの趣旨である。
 従来こうした「現場からの生中継」は,放送や通信のプロだけにしか行うことができなった。しかし,インターネットを用いることで,簡易的なものとはいえ,同様のシステムを自分たちで構築することができる。そのシステムづくりに参加することで,子どもたちが情報テクノロジーの発展を身近に感じるとともに,それに対する理解を深めてくれれば嬉しいと考えている。


1 私たちの生活と政治――みんなの願いを実現する政治
(1) ねらい
 現在インターネットのホームページには,膨大な量のさまざまな情報が流れている。しかし,自分たちが住む町の情報,とりわけ身近な疑問に答えてくれるような情報については,ホームページでまかなえていないし,今後もまかなうことは難しいと思われる。
 社会見学のような活動はそれを補うために組まれているのだが,クラス人数が40名近く,また学年で120近い人数となると,計画をかなり早めに立て,準備,打ち合わせ等にも時間をかけることになってしまう。またそれ以上に,子どもたちが感じた疑問をすぐに解決するのではなく社会見学当日まで待たなくてはならないという問題もある。疑問を持ってからアクションを取るまでにしばらく時間がたってしまうということは,気持ちの盛り上がりということも含めて考えると学習面での大きなマイナスである。
 町に対して抱いた疑問を解決する方法として,子どもたちが直接役場の方とやりとりができると考えてみる。そうすれば,自分たちを取り巻く行政の働きをより身近なものとしてとらえることができるとともに,自分たちの意見を受け容れてもらうことを通して,政治への参加経験を得ることができるだろう。


図1 役場の人にインタビューする代表たち

 インターネットを用いることで,多くの子どもたちが学校にいながらにして役場の方との交信が可能になる。また,代表となったグループだけが出向くことで,役場の中でも小回りが利き,必要に応じて,一番ほしい情報のところに接近できるという利点がある(図1)。
 テレビ会議システムのように大人数が自由に交信できるようになっていると,より効果的だが,なにぶんにも予算の面でそこまでは無理なため,子どもたちの将来は,きっとそうなっていくであろうという予想のもと,今回は一回線を有効に利用する手段として,リポーターによるインタビュー形式を取ることにした。
  今後,このシステムが学校役場間に敷かれることで,必要なときにリアルタイムで情報収集が可能になってくる道を開くことができるものと考える。

(2) 指導目標
 今回のプロジェクトでは「町は障害を持つ人たちのためにどのような配慮,工夫を施しているのか」という問題設定を行った。特に,視覚障害の方たちへのケアを中心に,子どもたちで議論するとともに情報収集を進めることにした。
(3) 利用場面
 この学習ではコンピュータとインターネットを次のように活用した。すなわち,小学校内のパソコン教室に設置されたパソコンと,丸子ふれあいステーション内の福祉センターのパソコンとをインターネットを経由してつなぎ,この2台の間でテレビ電話を行う。小学校側のパソコンは教卓に設置されており,その映像と音声はプロジェクターと拡声装置を通して教室内の児童すべてに提供される。
一方,福祉センターではクラスから選抜されたインタビューチームが携帯型パソコンを操作する。携帯型パソコンは超小型のCCDカメラとマイクを装備しており,そこで捕らえた映像と音声を教室へと伝える。また,この携帯型パソコンはケーブルではなく無線LANによって福祉センター内のLAN(構内ネットワーク)につながっているため,アクセスポイントから20m程度の範囲内で自由に移動することが可能である。福祉センター内にはアクセスポイントを1階と2階にそれぞれ1箇所ずつ設置し,センター内部をかなり広範にカバーできるようにした。
(4) 使用環境
丸子中央小学校側
(a) 使用機種 Gateway G6-366C 1台
(b) 周辺機器 プロジェクター 1台,アンプとスピーカー 1組
(c) ネットワーク環境 学内LANを経由してインターネットに接続
(d) 利用ソフト Microsoft NetMeeting
福祉センター側
(a) 使用機種 VAIO PCG-C1S 1台
(b) 周辺機器 無線LANアクセスポイントAP-2 SL-200 2台
(c) ネットワーク環境 アクセスポイントを経由してセンター内LAN,さらにインターネットに接続
(d) 利用ソフト Microsoft NetMeeting

2 実施<
(1) 目標
 視覚障害を持つ方たちが,社会,特に日ごろ生活する町をどのようにとらえているかを体験する。それについてグループで議論し,疑問点について町役場の人に質問する。
(2) 展開

学習活動

学習内容

児童の反応・留意点

時間

疑似体験をしてみよう。

二人一組になり,片道ずつ交代で一人が目隠しをして,階段を下りて会議室まで往復してみた。
そのときの思い,感じたことを書き留めておく。

視覚に障害があることの不安がいかに大きいか,些細なことでもとても気になる,こんなことが大きな障害になるのだということがよくわかった。

どんなことを不安に思うのかを話し合おう。

体験を元に,町の中でどんなところに不安を感じるだろうかについて話し合う。

・交差点,通学路等自分たちが日頃親しんでいる道について考えるところから始める。

町の様子はどうなっているだろう。

休みの日や登下校時にどんなところが実際には怖いのか,それに対して,町ではどんな配慮がされているのかを調べてきたものをグループ毎まとめて発表しあう。

信号機の音前と横では違っている。黄色いタイルにイボイボをつけてある。
学校下の信号は音がしないのはなぜ。タイルは濡れると滑りやすい。自転車が歩道に張り出して止めてあるのは怖いんじゃないかな。

役場の方への質問,要望をまとめる。

班ごと,質問,要望を決め,それぞれの班から出たものを調整し,全体で,各班毎2つくらいの要望に整理する。
それぞれの質問は,役場のどの係に出す質問,要望なのかを予想した。

・役場の代表の方にアドバイザーとして参加していただき,どの課に出す質問,要望なのかを決め出すアドバイスをしてもらった。

ネットミーティングの練習

★インターネットの利用

町の情報館に各班の代表質問者計6名を連れていき,班ごと,学校のパソコン室と情報館の間でのネットミーティング練習を行う。質問の仕方,伝達の仕方の練習を行った。

・言葉が少し遅れて伝達されること,画像がどうしても鮮明にはなりきらないことが確認され,子どもたちに,イメージがつかめたようだ。

質問内容の整理,言葉についても検討し直した。

インターネット放送局の運用
★インターネットの利用

役場福祉センターの一室に今回は町の福祉課,土木課,消防署の代表の方に集まっていただき,そこで,各班代表が質問し,それに答えてもらい(図2),それを聞いた,学校で控えている班のメンバーが,再質問をするという方法で行った。
そのとき,併せて,福祉センターの施設についてもネットミーティングを通して,学校のみんなに画像を送った。

・持ち運びしやすいように,カメラ内蔵のバイオノートを使用して行ったため,音声をオープンで行うと音量が小さくなってしまうため,インタビュアーが,ヘッドセットをつけて送受信を行った。したがって,直接学校にいる子どもたちの質問が役場の方に届かなかったのは残念だったが,質問すべき内容については,一通り,学校で待機している子どもたちも満足する情報のやりとりができた。

なかよし集会で発表しよう

まとめとして,全校集会の場で,各班の得た情報を整理し,発表した。

 



   図2 福祉課の人に質問

4 成果と課題:ネットミーティングの利用について
  今回は,初めての試みで役場の学校教育課,情報課と長野大学,そして本校の3者合同のプロジェクトとなった。役場で計画の推進,運営の中心になっていただき,ネットミーティング関連の技術的なところは,長野大学の下野先生が担当して下さった。こういった恵まれた環境の中で進められたおかげで,ネットミーティングを,こういった情報交換の手段として,学校が学習として利用できるという可能性が今回示されたように思う。
  >一番の利点は,始めの方でも記述したが,必要な情報を,その場で取得できること。インターネットには載っていないローカルな情報(実は,小学校の学習として一番ほしい情報)を直接担当の人から得ることができること。では,電話でも良いのではないかということになるが,電話で質問するより,間違いなく子どもたちの意識としての臨場感がある。  そして,代表者のみで現場に行けることから,よりフットワークの軽い,必要なときにちょっと聞いてくるということも可能であること。狭い場所にも入っていけるから,役場のそれぞれの仕事場におじゃましても邪魔になることもなく,移動もしやすい。それを残った多くの児童は同時画像として学校に居ながらにして見ることができる。
  そういった点から,今後の可能性を考えてみると,町内4小学校の同時児童会テレビ会議といったものも可能となってくるだろう。
  今後検討すべき点とすると,画質の向上,音声の問題,テレビ会議的な,大人数同時交信の可能性の模索といったところではないだろうか。
 パソコンの性能にもよるのだろうが,一般的に利用しているパソコンが学校での使用の基準となるのだから,現時点のもの程度のもので考えると,今後の技術の向上を待つしかない。音声については,やはり,オープンで同時会話ができるようにしておきたい。ただ,ノートタイプのパソコンの場合,移動しやすいことが大事な条件となるので,どうしてもマイク,スピーカーの性能が限られてしまう。 大人数同時交信の可能性の模索という点では,大金を投じれば現在でも可能なのだろうが,もっとリーズナブルにできるであろう将来に望みをかけたい。

ワンポイントアドバイス

 無料で配布されているネットミーティングは1対1のコミュニケーションでしか使用できない(有料ソフトを使うと「1対多」の通信が可能である)。そのため,教室のように多人数が集まる場でこのソフトを利用する場合には,プロジェクターやカメラ,マイクの配置に十分配慮しておく必要がある。
無線LANを使って移動しながら通信を行う場合には,通信が途切れないよう,事前にLANの利用可能な範囲をチェックしておくこと。

参考文献
  INTERNET magazine (株式会社インプレス)

利用したURLなど
 NetMeeting HomePage (http://www.microsoft.com/japan/windows/netmeeting/)
 アイコム株式会社 無線LANシステム (http://www.icom.co.jp/pc/system/)
 ソニー VAIO PCG-C1S
      (http://www.sony.co.jp/sd/ProductsPark/Consumer/PCOM/PCG-C1S/top.html)
 丸子ふれあいステーション (http://www.town.maruko.nagano.jp/hukusi.html)
 「ネットで結んで『擬似社会見学』」 (信濃毎日新聞 1999/11/26)
  (http://www.shinmai.co.jp/internet/199911/99112601.htm)