食文化交流をベースにした国際理解教育

小学校第3学年・国際理解
岐阜県大垣市立静里小学校 宇野 芳彦
キーワード 小学校,国際交流,総合的学習,ホームページ,メール,TV会議システム


インターネット利用の意図
 自国の食紹介でのインターネット利用,日本の料理人とのTV会議利用,各国の食を紹介するためのホームページ作成(動画付き),メールによる意見交流,食を体験したあとの感想交流でTV会議利用などを行う。


1 「わたしたちのワールドミレニアムフード」 これからの食べ物を考えよう
(1) ねらい
 児童の情報活用力,新しく創造する力や国際的なコラボレーション能力を伸ばすことをねらいとする。また,外国の食文化にふれることから始まるこの交流学習を通して,「生きる力」を育む総合的な学習へと発展できると考える。また,当たり前に考えている食について身近なところから見つめ直し,地球規模で「食べ物」を考えるため,他国の小学生と交流して21世紀の食べ物についてこうあってほしい,こうならなければならないという主張を世界に向けて発信したいと考える。そのためには,児童が課題意識を強く持って取り組めるようにしたい。
(2) 指導目標
 今の食の抱える問題点を提示し,それについてまず自分たちで調べ,他校の児童との交流を通して理解を深めながら,身近かな食から地球規模の食まで関心を持ちながら意欲的に課題を追求し,わかったことをコンピュータを使ってまとめ,情報発信することができる。このような活動を通して,『課題意識→課題追求(調査活動)(a)→意見交流→課題追求(調査活動)(b)→意見交流→情報の整理→情報発信』の情報活用能力を育てる。
(3) 実践の概要
 子どもレベルでの国際的な食文化の交流から始め,食の中でも自国独自のおやつ・自慢料理について調べて,WEBページとして紹介し合う活動を行う。そして,その中から実際に調理する活動を仕組み,感想を話し合う。また,各国の食材を生かした全く新しいメニューづくりを共同で行う過程を設定する。作って味わうといった体験活動も重視して進める。
共同実践校は,Emerson Elementary School (アメリカ),De Ceder Primary School(オランダ)
(4) 利用場面
 この学習では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
(a) バーチャルクラスルーム電子掲示板の閲覧
 3カ国の学級が一つのクラスとして,主に交流する場がこの電子掲示板である。ここへアクセスして,他国の意見や作品について話し合う。
(b) テーマについての調べ学習
 食文化について調べ学習を行う際,図書館の本を調べたりや聞き取りを行うが,主にインターネットを利用する。教室からもノートでインターネット接続し,いつでも情報を引き出し,プリントアウトできるようにしておく。
(c) 調べたことをホームページにまとめる
 本やインターネット,取材(聞き込み調査)などで調べたことを交流し,さらに深めていくためにテーマ別グループごとにホームページを作成する。
(d) テレビ会議システムによる交流
 調べたことについてリアルタイムに交流し,一緒に話し合ったり討論するためにTV会議システムなどを利用する。
(5) 利用環境
(a) 使用機種
(b) 周辺機器
(c) 稼働環境

(d) 利用ソフト

 FMV-TOWNS 22台
デジタルカメラ SONY MAVICA 7台 ,SANYO DSC-V100 1台
コンピュータ室 FMV-TOWNS 22台(64kでインターネット接続)
教室 SONY Vaio pcg-c1xe1台 (28000bpsでインターネット接続)
えほんらいたー,ハイパーキューブ2,インターネットエクスプローラ4.01
翻訳ソフトウエア(PocketTranser School)

2 指導計画

指導計画

留意点

(a) 今の食が抱える問題が表れている写真を見て,思ったことを話し合う。

・学研から出版されている「今,食が危ない」の中から普段口にしている食べ物の中に危険 なものがある場合がある写真を見て話し合う。
・危険性ばかり押し出すのではなく,環境問題とも関連づけて話を進める。

(b) 給食や朝・夕食,おやつについてどんなものを食べているのかアンケートを実施しそれをもとに話し合う。

・いろいろな種類の食べ物を食べていることを実感させ,食べ物の材料はそれがどこから来るのかを予想する。
・材料の中で日本で作られているものは少ないことを実感させる。

(c) 世界で食べ物がなくて飢えている人々はどんなものを食べているのかを想像する。
(d)「飢えている人」についてインターネットに接続して検索を行う。

 ★インターネットの利用

・飢えの経験のない児童に「飢え」とはどんなことなのか。なぜ飢えなければならないのかを問題提起する。
・ただ「かわいそう」ではなく,自分たちの今の生活とくらべて考えられるよう,資料提示を行う。
★検索するときは「飢え」「飢餓」「食糧問題」などのキーワードを適宜助言する。

(e) 日本でも,食べ物がなくて困っていた時代があったことを知る。

・家庭や地域への聞き取り調査を実施し,戦争時の生活はどうであったのかを明らかにする。
・特に食べ物やおやつについて調査する。
 (材料,作り方など)

(f) 外国では,どんな様子なのかを交流を開始したアメリカ,オランダの小学校へも投げかける。 
 ★インターネットの利用
 ☆翻訳ソフト(PocketTranser School)
 ☆えほんらいたー

★質問の内容を日本語で書き,翻訳ソフトを使ったり翻訳ボランティアの協力を得て英文に直し,共同の電子掲示板に書き込みをする。
★相手の学校のホームページを見たり,ライブカメラ映像で,アメリカ,オランダの町の様子を見る。  (図1)
・自己紹介カードを各国で作成し,インターネットで見られるようにする。(図2)

(g)(h)(i) これまでに学習してきたことを さらに深めるため,テーマ別グループに調査活動を行う。(図3)
 ★インターネットの利用

★調べ方は,本・インターネット・取材(聞き取り)などを紹介し,適宜援助する。
・食べ物がテーマなので実際に体験する活動を設定する。(調査した料理やおやつを調理,外国と交換したレシピによる調理など)

(j) 調べたことを学級で中間発表し,仲間のアドバイスを受ける。

・海外の学校と情報交換したことについても内容に盛り込んでいく。

(k)(l)(m)(n)「えほんらいたー」「ハイパーキューブ」で調べたことをまとめ,HTMLに変換する。
 ☆えほんらいたー,ハイパーキューブ
 ★インターネットの利用 

・イラストや図は「えほんらいたー」を利用して画像データを作成し,Windows環境で使うためTIFF形式で保存しておく。
・まとめが完成したら「ホームページ機能」の使い方を教え,「ホームページ書き出し」をしてファイル保存する。

(o) チャットを利用して,リアルタイムでWEB作品について外国の小学校と意見交流を行う。
 ★インターネットの利用

★チャットのキーボード入力ではAETの協力を得て行う。
・児童は自分の考えを持って,話し合いに臨めるようにする。

(p)(q) ミレニアムメニューの調理を行う。(図4)

・3カ国で考えた2000ミレニアムメニューをそれぞれの国で実際に調理して味わう。
・保護者にも協力を依頼する。

(r) TV会議システムなどを用いて,リアルタイムで話し合う。
 ★インターネットの利用

★今後私たちが食べ物について考えていかなければならないことを3カ国の小学生で話し合って共同宣言を作る。

(r)(s) 意見交流をもとに,共同作品を完成させる。
☆HTML編集ソフト(FrontPageExpress)

・作品ホームページの加除修正を行い,完成させる。
・協力していただいた方々にも見てもらう。



図1 ライブカメラでオランダを見る


図2 自己紹介のホームページを作成

3 利用場面
(1) 目標
 テーマ別グループごとに「食べ物」について調べたことを,「ハイパーキューブ」でまとめ,ホームページの形にする。見る相手のことを考えながら,よりよい作品づくりに取り組むことができる。
(2) 展開 ((k)〜(n)/全20時間)

学 習 活 動

活動への働きかけ

備考

1 本時の学習の進め方を知る。

・活動の見通しを持たせる。






・コンピュータ
・デジタルカメラ










・大型ディスプレイ

     調べたことをホームページにまとめ,広く知らせよう  

2 テーマ別グループのまとめを「ハイパーキューブ」で作成する。
<グループのテーマ>
  ◇各国の食べ物
  ◇各国のおやつ
  ◇各国の伝統的な食べ物とおやつ
  ◇環境問題と食べ物
  ◇世界食べ物アンケート
  ◇飢える人々
  ◇21世紀の食べ物
3 作成したまとめをホームページの形式に書き出して保存する。
4 まとめのホームページを見て感想を話し合う。

・能率を上げるため,文章入力,画像データ製作などを分担して行うようにする。
・タイトルの字の大きさや色を見やすく工夫させる。

・「コピー」→「貼り付け」を利用して画像データを配置する。
・「ホームページ機能」や「ホームページ書きだし」の使い方を助言する。
・修正,加除する点について明らかにする。



図3 オランダの朝食の紹介


図4 ミレニアムメニューのトップページ


4 実践を終えて
 この実践を通して,インターネットに関連したコンピュータリテラシー(情報検索,情報収集,ホームページ作成など)は向上した。また,調べ学習やアンケート調査を通してあまり意識することがなかった食べ物,さらに地球規模の「食料問題」への関心は高まった。
 今後も,機会があればこのような取り組みに参加したいと考える。子供たちの世界が,国境を越えて交流するすばらしさを目の当たりにした。近い将来には,国境を意識することなく地球規模で物事を考えていく時代になるに違いない。
 このバーチャルクラスルームでの経験は,グローバルな視点で協力し合うことの大切さを教えてくれた。また,学ぶ教室が世界へ広がったことを経験した子供たちは,インターネットを通して学びう合ことの楽しさを感じている。今後も,総合的な学習の中で学習情報の収集,整理,発信,交流,共有などにインターネットを活用したいと考えている。

ワンポイントアドバイス
 海外との交流では,言語の違いが大きな障害になる。特に小学生の場合は,ローマ字にも抵抗を持つ子が少なくない。学校職員だけでなく,保護者,地域の協力も欠かせない。今どこまで取り組んでいるのかを,理解してもらい協力を得るために,VCニュースを発行した。このことによって,関心を持て児童に言葉をかけてもらったり,作品づくりのヒントをいただいたりすることができた。海外との遠隔共同学習をする場合は,まず身の回りの人々の理解を得るようにしていきたいものである。

参考文献
 コンピュータを教育に生かす 実践事例アイデア集 Vol.7 (日本教育工学振興会)

利用したURLなど
 世界の窓 (http://www.sekainomado.com/)
 こねっとgoo (http://www.goo.wnn.or.jp/)
 AT&Tバーチャルクラスルーム(http://www.att.virtualclassroom.org/

スケジュール:
(1)交流学習を進める海外の小学校(数校)とともに,食文化を通しての交流学習カリキュラムを作成する。
(2)各国の自慢料理・おやつなどを話し合い実際に作った後,互いの食を紹介し合うWEBページ(動画付き)を作成する。
(3)紹介し合った食(レシピ)の中からいくつかの料理・おやつを作って食べ,感想をテレビ会議などを利用して話し合う。
(4)お互いの国の食のよさを取り入れた,グローバルな新しいメニューを共同で作り,WEBページで発信する。
(5)食以外の文化交流へも幅を広げる。
(6)実践を通して,児童の外国の食文化や英語に対する意識の変容を分析し,交流学習の効果を明らかにする。

評価の観点:
○インターネットを活用した児童の国際交流学習のあり方について
・ 食文化の効果的な交流はどうあったらよいか。
・ 実体験とインターネットを関連させた効果的な交流学習であったか。
○総合的な学習と関連させた指導カリキュラムの作成について
・各教科と効果的に関連づけ学習を進めることができたか。