環境ウォッチング・プロジェクト

環境教育
岐阜県教育センター
第三研修部 横山隆光
キーワード  環境教育,遠隔共同調査,データベース,地域ネットワーク


インターネット利用の意図
 岐阜県内の学校を対象とした環境教育の支援システムを開発した。教育センターは生物季節や酸性雨,気象観測等の調査時期・調査方法・データ登録・指導事例等のテキストやホームページを作成し提供する。児童生徒は生物季節調査や酸性雨調査,気象観測等を行い,ホームページに登録する。ホームページや掲示板等を利用してデータを共有し,学校間交流を行い,学習に活用する。


1 はじめに
 「総合的な学習の時間」に扱う内容として環境教育を取り上げ,実施に向けて研究や実践を進めている学校が多くなってきた。これらの学校の中には身近な地域の環境調査を行い,調査結果や児童生徒の意見等を保護者や地域の人達に発信しようとしている学校がある。情報発信するだけでなく他の学校と調査結果や児童生徒の意見を交換して,環境の学習を進めていく試みもなされている。今後このような学習を実施する学校が増えてくるものと予想される。児童生徒が積極的に情報を発信して,共同学習を進めるにあたって,他の学校の活動がわかったり,共通の話題で情報が発信できたり,調査結果や意見を交換できたりするシステムが必要となっている。そこで,地域ネットワークを活用して児童生徒が情報を収集・発信し,共同学習を行うことができるシステムを開発・運営してきた。

2 地域ネットワーク
(1) 岐阜県の現状
 岐阜県では平成9年度に県内の全ての小学校・中学校・高等学校・特殊教育諸学校からインターネットに接続できる環境が整い,インターネットを活用して共同学習を実施することができるようになった。そこで,教育センターを県内の学校の情報拠点に位置づけて,学習におけるインターネット活用の研究およびインターネット講座を実施している。
 県内の学校からは,インターネットを学習に有効に活用する方法の提供,学習に利用できるホームページやデータベース等が求められている。
(2) テキストの配信
 環境ウォッチング・プロジェクトは,教師,児童生徒,保護者を対象とした,身の回りの様々な調査,調査データの蓄積・提供,意見交流,質問等を行う,環境教育の支援システムである(図-1)。

 平成8年より実施してきた「太陽の動きの観測プロジェクト」や「気象観測プロジェクト」等の共同学習の研究から,プロジェクト担当者が各学校に呼びかけて各学校の児童生徒が調査や観測を行って結果を交流する場合,調査や観測の内容を児童生徒に直接伝えた方が効果的であることがわかっている。そこで,第1年次には各学校への連絡や案内は通信講座のテキストとして,毎日,県内の小学校・中学校・高等学校・特殊教育諸学校の全ての学校(約800校)へメールで配信した。第2年次には,新しく作成したテキスト等をホームページからダウンロードできるようにした。このテキストは各学校で印刷して,教師や児童生徒に配布することができる。テキストは小学校低学年用にルビをふったり漢字を少なくしたりした児童用のものと,生徒用のものを準備して,配信している。
 保護者の環境についての関心が高いことが報告されており,テキストは保護者が読むことも想定して作成している。特に,長期休業や日祭日に保護者と児童生徒がいっしょに調査や観測をしてもらえるようにメールの中に案内を入れている。
(3) 情報活用能力の育成
 地域ネットワークの活用において児童生徒一人一人の情報活用能力の育成を図る必要がある。情報活用能力の育成では,情報を収集・選択,分析・整理・理解,判断・創造,伝達する能力を発達段階に応じて育成することが求められている。そこで,本プロジェクトでは観測結果をホームページに登録して互いのデータを利用するだけでなく,掲示板やメーリングリスト等を用意して児童生徒が意見の交流を行いながら共同学習を進めることをねらっている。
(4) 調査や観測
 環境の学習においては一人一人の児童生徒が身近な環境に直接触れて調査活動等を行うことが大切である。本プロジェクトでは環境調査として,生物季節,酸性雨,気象,カワゲラウォッチング(水生昆虫による水質調査)等を取り上げている(図-2)。プロジェクトで取り上げた活動を行っている学校が自由意志で参加し,学校や地域で行っている環境調査の結果をプロジェクトのホームページに登録する。各学校が参加する調査や観測は本プロジェクトの全ての調査ではなく,各学校の実態に応じて可能なものに参加している。児童生徒が学校で環境について調べたり,考えたりするときにホームページのデータと比較したり,ホームページのデータを参考にしたりして環境の学習を進める。また,必要であればホームページに登録された学校と掲示板等を使って交流を行う。

(5) プロジェクトの運営
 プロジェクトの企画・推進を教育センターが行い,データベース等のシステム開発等を岐阜大学教育学部附属カリキュラム開発研究センターが行い,授業での活用方法の研究等を理科教育研究部会等が行う。本プロジェクトは岐阜県教育センター,岐阜県高等学校教育研究会理化部会,岐阜県高等学校教育研究会生物部会,岐阜県小中学校教育研究会中学校理科研究部会,岐阜県小中学校教育研究会小学校理科研究部会,並びに,岐阜大学の協力を得て実施する。通信講座のテキストの作成,調査や観測の内容や時期の見直し等はメールや掲示板で募集したボランティアの人達と協議して決定している。この打ち合わせはメールや掲示板を利用しており,作成した通信講座のファイルを添付ファイルでメンバーに送って内容を検討したり,調査や観測の内容や時期について教育現場の意見を求めてプロジェクトに反映させたりしている。
(6) データの表示
 ホームページに登録された調査や観測の結果は岐阜大学教育学部附属カリキュラム開発研究センターのデータベースに保存される。保存されたデータは端末から,結果表示のホームページで閲覧したり,カンマで区切られたテキストとして取り出して利用したりすることができる。調査や観察の結果から,考察に必要なデータを検索して,結果をグラフ化して利用する。
生物季節,酸性雨,水質,気象等の調査結果は各学校から登録され,ホームページに一覧として表示される(図-3,図-4)。

 学校ではホームページのデータを印刷して利用したり,地図に書き込んで利用したりしている。
 また,県内に降る酸性雨等の分布を視覚的にわかりやすく捉えるために,県内に降る酸性雨の分布等を地図に書き込めるようにホームページに白地図を用意した(図-5)。分布図を作成は環境の学習の一過程と考えている。白地図をダウンロードして印刷・配布して色塗りをしたり,白地図のファイルをダウンロードしてペイントツールに貼り付け,ペイントツールで色塗りをしたりして利用している。

3 授業での活用事例から
(1) 学年 小学校6年 2クラス
(2) 教科 理科
(3) 年間指導計画への位置づけ
 理科の学習と関連付けながら「身の回りの自然を調べる」年間計画を作成する。6年生で学習する「ものの燃え方と空気」「人と動物のからだ」「植物のからだと日光」「水溶液の性質とはたらき」「大地のつくり」「人とかんきょう」単元の学習と関連づけて実施
する(図-6)。

(4) 調査内容,機器等の環境
 “環境ウォッチング・プロジェクト”を利用して“季節生物調査”“アサガオ調査”“酸性雨調査”などの調査を行う。プロジェクトのホームページにある児童用プリントを拡大コピーして6年生の廊下に掲示する。掲示板には調査結果を付け足していく。身の回りの自然を調べるときに参考になる,草花,虫,水辺の生き物などの図書のコーナを設置する。パソコンなど情報機器が必要に応じて使えるように整備し,インターネットにはプロキシーサーバを介して複数台のパソコンからアクセスできる。ホームページの作成と検索ソフト(ソフト名:イントラバケッツ)を使い,ホームページに児童がつくった作品を登録する。
(5) 児童の姿
 学活やゆとりの時間を使って6年生2クラスで実施した。学年の話し合いから「わたしたちの郷土の自然を調べてよいところを見つけよう。それを全校の子や他の学校の子にも伝えよう。」ということをめあてにして活動を進めていくことにした。話し合いを行い次のような調査チームをつくった。昆虫調査隊,草花調査隊,カワセミそうさく隊,ツバメの巣調査隊,ザリガニ調査隊,メダカそうさく隊,アジサイの色調査隊,川のよごれ調査である。川のよごれ調査をしたいと考える児童は多かったが,選択肢の1つに加えることは安全上無理であったので,2学期に全員で行うこととした。
 メダカそうさく隊では,ほとんどの地点でメダカを見つけることはできなかった。見つけた!と思っても,他の魚の稚魚であった。そこで,児童たちとともに,とってきた魚について,図鑑や5年の理科の教科書を見て確かめることにした。からだの形やひれの形から,違うことが確かめられ,がっかりした児童もいたが,校区の一番南まで行ってとってきて,ぜったいメダカだと自信を持っていた児童は,「本と同じだ。やっぱりメダカだ。」と話していた(図-7)。

 カワセミそうさく隊は,揖斐川などに調査に出かけた。最初は見つからなかったが,しばらくしてカワセミ(町の鳥)を見つけることができた。魚をとるためにダイビングする姿やペアで飛ぶ姿が見られた。ペアが同じところに隠れるので不思議にみんな思っていた。参考のため持っていった本を調べると,カワセミは土のがけのようなところの穴に巣を作る,と書いてあった。
それを見て,「本と同じだ。あのがけにカワセミの巣があるんだ。」ということを発見した(図-8)。

 これらの自然体験をしたため,調べたことを表現する活動にも進んで取り組んだ。手書きの新聞形式にしたり,デジカメでとってきた写真を印刷して入れた新聞形式にしたり,パソコンを使いホームページ形式でまとめたりした。作った作品は校内LANで全校の児童がいつでも見ることができるようにした。

 また,「水溶液の性質とはたらき」単元の学習に関連して酸性雨調査やアサガオ調査を行った。「水溶液の性質とはたらき」の導入では,酸性雨でとけた跡の残るブロンズ像の写真を見て話し合いをした結果,「金属は本当に溶けるのか。」「ここでも酸性雨は降っているのか。」という疑問が出された。そこで,環境ウォッチング・プロジェクトに参加して調べることにした。
 6/22に調べた結果はpH5.0で,(pH5.6以下)酸性雨が観測されたため,児童は驚いていた。6/24はpH5.4,6/25はpH6.0であった。この結果から,児童たちは,雨が降り続くと酸性雨でなくなるのではないかと考え,降り始めの雨を採取して調べた。その結果,6/29はpH5.4であったが,7/2はpH6.4であり,自然の不思議さを感じていた。

4おわりに
 授業での活用事例に示した小学校の事例以外にも次のような事例が報告されている。
(1) A中学校の酸性雨調査の事例
 酸性雨調査を行い,生徒の住んでいる地域の雨を一人一人の生徒が採取してpHを測定した。その結果,A中学校の校区の中で,まわりが緑で囲まれた地域でもpHが低い地域がある事が分かった。生徒はまわりの環境に関係なく酸性雨が降っていることに疑問を持ち,隣接した他の地域や岐阜県内のデータを調べたいと考え,調査を進めた。その結果,次のような生徒の姿が見られるようになった。
・酸性雨についての興味や関心が高まり,積極的に調べたり,インターネットで他の地域のデータを得ようとする生徒・他の地域の結果と比較して,広範囲に渡って同じpHの酸性雨が降っていることが分かり,酸性雨の降っている範囲を空間として意識する生徒
・酸性雨とアサガオの花や葉の調査を関連付けて考える生徒が現れたり,大気汚染や水質についての調査をしたいという生徒
(2) B小学校の川の学習の事例
 川の学習と結びつけて環境の調査を実施しているB小学校では,一昨年からカワゲラウォッチングを行って,季節ごとの川の汚れを調べてきた。学習を進めていくうちに,川の汚れは,季節や天候による影響が大きく,カワゲラウォッチングだけでは川や川のまわりの環境の変化を調べることは難しいことがわかってきた。これまでの調査結果をもとにして話し合った結果,次のような児童の意見が出された。
・様々な種類の調査の結果を総合して考えたり,同じ川の上流や下流など他の地域と比較して考えたり,過去の様子を調べて比較したりする事が必要だと考る児童

 このように小学校でも中学校でも,実際に観察や調査を行い,身のまわりの環境について調べていくうちに,発展的に調査を進めたり,他の学校の児童生徒と意見交流をしたりしたいと考える児童生徒が現れることが分かった。そこで,これらの児童生徒の支援を行えるように新たな調査項目を付け加えたり,ホームページの資料を充実させたり,目的別に意見交流ができるように掲示板を変更したりした。また,メールで次のような質問や意見が寄せられた。児童生徒からの質問は,県内に降る酸性雨と気象との関係,長良川の指標生物から水質を調べる方法,COD等の水質調査等についての質問である。教師からの質問はホームページへの入力方法,生物季節の調査で扱う生物,学習での活用方法等についての質問や意見である。児童生徒からの質問は「環境ウォッチング・プロジェクト」での調査方法に関するものが多い。教師からの質問は,教科,特別活動,クラブ等の時間での活用方法や指導計画に関するものが多い。今後のプロジェクトを推進する上で参考にしたいと考えている。

ワンポイントアドバイス
 本プロジェクトは,県内の各学校で実施される環境教育を支援する目的で実施しており,同様の支援システムを運用する場合,各学校の実態や児童生徒の実態を充分に把握した上で実施する必要がある。また,プロジェクトで運営している掲示板に各学校から書き込まれる情報やホームページ上に登録される情報については,システムの管理者が個人情報保護,ネチケットなどの観点から常時確認し,必要に応じてメールなどを使って連絡したり,書き込まれた情報を訂正したりする必要がある。

参考文献
 後藤忠彦 (1998) 生涯学習での利用を目的とした地域情報システムの構成(1)
 下野 用 (1996) 環境認識の実態に基づいた野外学習指導法の体系化とその指導事例集の編集
 村瀬康一郎 (1995) 小中学校における一貫性・継続性を考慮した情報活用カリキュラムの基礎研究
 後藤忠彦 (1995) 小・中・高等学校における情報活用教育カリキュラムの一貫性に関する調査研究
 後藤忠彦 (1995) 通信ネットワークを活用したコンピュータ教育利用の現状と展望
 芦葉浪久 (1997) インターネットの責任ある利用のガイドライン
 村瀬寿文 (1998) 小中学校理科教育活動におけるインターネットの活用

補足
 プロジェクトのホームページ  http://www2.crdc.gifu-u.ac.jp/watching/index.html