インターネットを利用した高校生とシニアの異世代間交流
“Communication with Senior
--- to develop cross-generation understanding”

高等学校・情報,総合的な学習
滝高等学校 栗本直人
(
kurimoto@taki-hj.ac.jp kurimoto@schoolnet.or.jp)
キーワード 高校生,総合的な学習,シニア,異世代間交流,インターネット,電子メール,


インターネットを利用した高校生とシニアの異世代間交流のねらい・目的
 インターネットを利用した高校生とシニアの異世代間交流,略してシニア交流のねらいは次のとおりである。
(1) 定年後の第2の人生を考える“シニア”と高校を卒業すると社会へ脱皮する準備を始める“高校生”との交流を行う。その中で,社会的資源を有するシニアと社会的資源は有さないが元気な高校生が交わることで,シニアから高校生には,社会的資源が供給され,高校生からシニアには活力やコンピュータ・ネットワークのリテラシが供給される。高校生の意見の「違う世代の人との交流から自分にはない考え方を知ることができる。」は以上の事を端的に表している。
(2) (1)を行う中で,学校を地域へ開放する方法や異世代間のギャップを埋める方法も模索できる。
(3) 高校生にとっては, シニアに向かって,きちんと,自分の考えを話す事で,受験とはまったく異質な思考力,洞察力,プレゼンテーション能力が養われる。
(4) 高校生が今回のシニア交流の一貫として,あるテーマ(たとえば,「 介護保険制度」)にそって地域のコミュニティあるいは会社への取材をする中で,広い意味での学習を行う機会となった。

1 シニア交流の内容を「高校生の集い in 稚内」(注1)で議論する生徒達

(注1) 地域分散,自律的広域学習環境構築プロジェクト http://www.nextage.ne.jp/
 略して,自律プロジェクト(第11回 松下視聴覚教育研究賞 入選論文集)


1 今回のシニア交流の組織構成
(1) 校内の実施体制:
滝学園メディア・コミュニケーション・センター(実施母体)
情報管理部メディア・コミュニケーション係  (教員側のヘルプ)
メディア・コミュニケーション部       (生徒側実働部隊)
                 (http://www.taki-hj.ac.jp/mcc/)
メディア・コミュニケーション部顧問     (栗本直人,原博司)
                 (http://www.schoolnet.or.jp/)
(2) 企画協力:
日本福祉大学 生涯学習センター
日本福祉大学 生涯学習センターに所属するジャンプシニアの方々
東海スクールネット研究会
ベネッセ名古屋支社・介護センター

2 主な活動内容
 
2ヶ月に1度の交流会を高校生とシニアの間で行った。その交流会で,お互いに議論したい事柄をプレゼンテーションした。また,交流会と交流会の間には,メーリングリストで,次の交流会の準備をしたり,進行する話題の議論を深めたりした。また,お互いがもっている地域の「おじいさんとおばあさんのためのインターネット講習会」の運営の意見交換も同時に行った。将来的には,両者による共同学習・共同プロジェクトを行いたい方針である。
(1) シニア交流の活動のアクセントとなるオフラインミーティング(交流会)
1999年 3月21日(発起会) 日本福祉大学 生涯学習センター
1999年 7月 7日      滝学園メディアコミュニケーションセンター
1999年 9月18日      滝高等学校 長月祭(学園祭)
1999年11月 7日      日本福祉大学 生涯学習センター・フェスティバル
2000年 2月 7日      ベネッセ名古屋支社・介護センター取材
2000年 3月18日      高校生とシニアの交流のシンポジューム開催(予定)
 

 
2 3月21日の交流会風景


3 7月7日の交流会風景

 
4 9月18日の滝高等学校の長月祭
「ネパールに学校を建てよう」で村長さん来日


5 11月7日のセンター・フェスティバル
シニア交流3人娘とシニアの方の名刺作成風景

 

(2) シニア交流のメインとなる電子メールによる意見交換
 
電子メールの交換は,滝高等学校メディアコミュニケーション部の高校生とジャンプシニアの方々にsenior@schoolnet.or.jpというメーリングリスト(ML)をたてた。この場合のサーバは東海スクールネット研究会のものをお借りした。MLでは日常的に,1999年9月〜12月までで160通の意見交換があった。その内容は以下のとおりである。
・共通の話題を上げて話し合う。
・身の周りであったことを話す。
・交流会を行う準備などに使う。
 たとえば,第2回交流会(7月7日)までの電子メールの進み方では,高校生はいろいろな質問をシニアの方々に投げかけ,「高校生の集い
in稚内(自律プロジェクト:CEC支援プロジェクト)」での大橋佳代子さんのプレゼンテーションはなかなかおもしろいものであった。

(滝高校メディアコミュニケーション部のシニア交流のメインスタッフは,

              高校2年生 大橋佳代子 1999年10月で1年生へバトンタッチ

                1年生 高桑範子,大藪真理子,坪内裕子=シニア3人娘)

 

話題1.シニアメンバーの紹介
(日本福祉大学のシニアコースのジャンプシニアに所属している方達(皆さん元気のある方達ばかり))
・山本さん
 幅約30センチ,長さ約50メートルのとても長い写真を撮っている方です。
 世界で一番長い写真で,テレビにも取り上げられたこともある。
 ギネスブック‘99に載りました。カメラも現像機も手作り。

・酒井さん
 年を感じさせないくらい元気な人
趣味はボトルシップを作ること
自分の趣味を話すときは,夢中になって話してくれるので,聞いていて楽しい。
 

 
6 山本さんの長い写真


7 酒井さんのボトルシップ

 

話題2.高校生気質
 シニアから見た高校生と私達が考える高校生の違い。今回はいままでに話題となった略語と態度についてあげてみました。
(1)
略語について
高校生の意見(core-ML「自律プロジェクトの高校生のML」アンケートより)
 今,略語を使っている。 yes.10 no.5
 大人になっても略語を使う。 yes no.9
 略語をどう思っていますか?
 ・言いやすく便利
 ・世代という溝を作る
 ・意味の分からないものが多い
 ・言葉が聞き苦しい
   マクる=マクドナルドで食事をすること。
   モスる=モスバーガーで食事をすること。
   ドレミ=どの子を見てもブス。
   おば男=炊事,洗濯,料理等の家事ができる。(男性を茶化して呼ぶ言葉。)
シニアの意見(シニアメーリングリストより)
一定の会話が成り立つ条件は現在の社会現象を共通に語れる言語が必要。
今の略語にはきっとシニアは一つもわからないと思います。
<略語について(まとめ)>
大人になったら略語を使わないと考える人も多かったが,使いなれた言葉を変えれるとは思えない。人との意思疎通をはかるためには多くの人が理解できる言葉を使う必要がある。 この場合,略語が便利なときもある。

(2) 態度について
◎高校生の意見(core-MLアンケートより)
・自分の態度が迷惑だと感じた。
yes.5 no10
・周りの高校生をどう思うか?
 迷惑になるということを考えていない
 その場に合った行動をとっていない
 自由奔放
 見ていて面白い
◎シニアの意見(シニアメーリングリストより)
・態度について若い世代について関心を寄せている。
・パフォーマンスも特に気にしていない
・若者が時代を変えていくのだから,現代少し位おかしくてもかまわない
<態度について(まとめ)>
 公共の場ではその場に合った態度をとるべき。シニアの方々は高校生がしっかりしていると言ったが,私達が見た高校生には,態度の悪いと感じられる部分が,多かった。私達もいつかは大人になって,社会を作っていかなければならないことをそれぞれが自覚すべき。
 シニア交流という機会により,生徒達は確実に“子供”から“大人”への脱皮をはかりつつ,社会という物を認識している。さらに,その社会の構成員として行動する意識が芽生えつつあるように思われる。

3 生徒の感想
11月7日の交流会後のシニア交流のチーフの高桑の感想を見てみよう。
こんにちは,滝高校の高桑です。
11月7日のフェステイバルの歓迎,ありがとうございました。
いろいろな行事をやっていましたね。出店もあって。全部をまわりきる事は出来なかったけど,私自身とってもたのしかったです。またあのような行事があれば,ぜひ誘ってください!
[交流会」では緊張してしまい,思うように自己紹介ができませんでした。こんな反省を踏まえて,自分の性格を一つずつ克服していけたらいいな,と思っています。
そして,次回の皆さんとの「交流会」楽しみにしています。
・・・(略)・・・
 やはり,交流を重ねていっても,コミュニケーションをはかる難しさはなかなかのようである。ごく普通の高校生がシニアの方々(異世代)と会話をするには壁がある。シニアの方々から,もっと気楽に,「自分の思っている事をストレートに出してごらん」と励まされる一幕もあった。普段は経験しない自分の思っている事を“自分の言葉”で,人にわかるように説明する事の難しさを学んだようである。

4 現状認識とこれから
(1) シニアと高校生が苦にならない程度に日常的にMLで会話して,2ヶ月1度の交流会を持つことで,やっとお互いに親しくなってきた。
(2) これから,以下のような共同プロジェクトを,生徒達の納得の上,やらせてみたい。
・高校生による「おじいちゃん&おばあちゃんのためのインターネット講座」を開きたい。
・異世代間交流,介護保険などをテーマにしたシンポジュームを開きたい。
(3) 「略語」「高校生気質」など高校生から出てきたテーマをより深めて取り組みさせたい。

5 今回の試みの視点
 
平成15年からスタートする教科『情報』・『総合的な学習』の中では,地域との交流,異世代との交流など『社会とメディア』,さらに『自己表現とメディア』という言葉が重要なキーワードとなってくる。その場合に,今回の試みはたいへん重要になってくると思われる。
(1) 今回の試みは,教科『情報』・『総合的な学習』の中で,「社会とメディア」は重要なキーワードとなっているが高校生がじかに社会を眺めるいい機会となり,真のメディア活用となる。
(2) 今回の試みは,教科『情報』・『総合的な学習』の中で,「表現とメディア」は重要なキーワードであるがプレゼンテーション能力を養う生きた経験をつめる。
(3) 今回の試みは,とかく「閉じた社会」といわれる学校という組織に風穴をあけて,開かれた学校に変えていくきっかけとなり,教員の意識変化にもつながる
(4) 今回の試みは,高校生が自分の進路を考えるいい機会を提供するとともに,自分をみつめ直すことにもつながる。

ワンポイントアドバイス
1 生徒専用のMLを必ず,作る。
2. 生徒のMLでは,教員側の発言は無しか,一人の先生に任せる。
3.「ネットワークの向こうには人がいる」ということを充分に認識させてる。
4.生徒達に無理にならないように,気楽にやらせる。
5.教員主導のプログラムでは,生徒の良さがなかなか出てこない。
6.教員は,生徒の良さが出るまで,じっと,我慢である。

 

参考文献
 
第11回 松下視聴覚教育研究賞 入選論文集

利用したURLなど
 http://www.taki-hj.ac.jp/mcc/