身近な国際交流 ―留学生との対話―

高校・特別教育活動
愛知県立中村高等学校 古井雅子
キーワード インターネット,電子メール,メイリングリスト,留学生,国際交流


インターネット利用の意図
 インターネットを利用すると外国とのコミュニケーションが容易に,短時間でできるようになる。教室内,学校内ではできない他の国の人との対話が可能になる。ところが外国の人とのインターネットを利用した交流の場合,電子メールとホームページが利用しやすいが,文字と写真を主とした交流になりがちである。情報も知識としては得やすいが,直接他国の文化や言語,社会を理解するには限界がある。インターネットのビデオ会議はそれを補う意味があるし,文字や画像だけでなく,リアルタイムなコミュニケーションが実現できるが,双方の環境が整わないと実現できない。直接会って行うコミュニケーションで,直接体験や協同の活動などを行いたい。海外の国の人と直接会うには渡航費が問題となるが,日本在住の外国人で,特に留学生となら,会う機会が得やすい。また,日本での生活経験があり,日本と自国の両方を知っているので,また別の視点で,文化や社会のことを話し合える。そのような主旨で日本在住の留学生との対話の活動をスタートし,インターネットでの交流と直接会う機会を設けている。


1 企画の目的・意図
(1) ねらい
 留学生と電子メールのメイリングリストの機能を使って日常的なコミュニケーションをするとともに,交流会を実施し,直接会って話し合い,交流を深める。他国の様子を知るとともに,日本で暮らす留学生の目を通して見た日本を知り,課題や問題点を考える。相手の国の理解だけでなく,相手の人間としての理解を深め,地図の上の知識としてしか知らなかった国を,「留学生の○○さんの国」として,親しみのあるものとして実感できるようにする。英語でコミュニケーションすることによって,英語のコミュニケーション能力を高める。

(2) 指導目標
 電子メールのメイリングリストを活用し,電子メールでのコミュニケーションに慣れる。
 効果的に電子メールを利用できるようになる。
 英語でのコミュニケーションに抵抗を無くす。
 英語で発信できるようになる。
 アジア圏の人との対話の機会を設け,なじみの無かった国についての関心を高める。
 留学生の目から見た日本を知り,自分の環境や文化を振り返る。
以上のことができるように,次のような計画を立てた。

(3) 対象生徒 愛知県立中村高等学校英語部生徒
 主たる学年 1年及び2年
 利用環境 Macintosh2台 Windows98 1台
 周辺機器 デジタルカメラ
 ネットワーク環境  インターネット接続している。
 電子メールとホームページの利用が可能になっている。
 外部とはOCNエコノミーで接続している。
 英語部生徒には電子メールの個人アドレスを発行している。
 電子メール利用のソフト: Eudora-J
 1) メイリングリスト,exchangeを設け,留学生に参加してもらう。
 2) 自己紹介,質問などを英語で行う。
 3) ホームページを利用して,電子メールだけでは得られない情報交換をする。
 4) 留学生の方と直接会って打ち合わせを行う。
 5) 本校へ留学生の方を招き,交流会を行う。
 6) 交流会後も,交流を継続する。

2 実践内容
(1) 留学生とのコンタクト
 中村高校英語部では,以前から留学生との交流を行っていた。98年夏より,縁のあったバングラデシュから名古屋工業大学大学院へ留学中のUddin Md. Zahirさんと,愛知教育大学助教授 鎌田敏之先生の紹介のネパール出身で静岡大学工学部へ留学中のOm Prakash Niraulaさんに協力の依頼をし,快諾をいただいた。お二人とも電子メールを利用できる環境で,日本にはUddinさんは4年目,Niraulaさんは2年目で,日本の状況もある程度わかっているかたである。コミュニケーションは英語を前提とした。

(2) インターネット利用の仕組みと準備
 中村高校のサーバは,majordomoというメイリングリストのアプリケーションでメイリングリストを運営できるようになっている。それを使って exchange@nakamura-h.ed.jp というアドレスで,exchange mailing list を10月にスタートさせる準備をした。同時に生徒用のコンピュータが不足し,十分なスペックのものが揃っていないため,ハードディスクなどの増設をし,利用可能なコンピュータを増やした。
その作業も英語部生徒が中心になって行った。また,これまでの国際交流の活動と,日常的な活動をまとめて英語部の学校祭に合わせてホームページ http://www.nakamura-h.ed.jp/99english/sept15/ の更新などを行った。

(3) メイリングリストスタート
 10月の中間テスト終了後,exchange-MLをスタートさせた。生徒がまず自己紹介を書き全員の自己紹介終了後,留学生の方に自己紹介をしてもらった。生徒の自己紹介に対して英語部の活動についての質問があり,生徒はそれに答えるために,英語で活動をまとめようと努力した。このような英語でのやりとりは 部員だけで活動を行っている際には中々できないし,外国人講師の先生の訪問日でもなかなか部員全員がその先生と話す機会は多くない。直接英語でのコミュニケーションは,インターネットを利用したから実現した。

<生徒の自己紹介の例>
Hello. My name is Norihiro Ota. I am 16 years old. I live in Moriyama-ku,Nagoya City.  I am a Nakamura High School student and a member of English Club.  My hobby is playing the piano and listening to music.  I practice Chopin's Nocturne.  My favorite musician is David Foster.  My favorite music is "Winter Games"   It is played by the piano and orchestra.  I am assembling a personal computer. My computer's CPU is K6-2 400MHz.  What company made is your computer?
Norihiro Ota

<留学生のUddinさんのメールの例>
Hello Yusuke Shibata, Hiroko Yamazaki & Norihiro Ota,
Thank you for your introduction messages.  I have some questions to all English club member of Nakamura High School....would you answer please???
1. what is the main objective and activity of English club?
2. What you usually do in that club?
3. Do you think its improving your English?
4. How many members are there?
5. Do you speak in Japanese or English when you meet in English Club?
Sorry for asking many questions.
After I receive your mails I will make my comments based on that.
Lets become good friends of each other and enjoy our exchange mailing list platform through exchanging culture, customs, and experiences.
Yoroshiku onegashimasu..                      Uddin

(4) 交流会の準備
 留学生の方に来校していただき,会って交流会をするには授業後や土曜日などに日にちが限られ,12月19日(土)の午後,静岡大学のNiraulaさんを招くことになった。そのための打ち合わせに12月3日に浜松へ行き,Niraulaさんに会った。電子メールと電話だけではわからない環境や,日本での生活や印象や苦労を聞いたり,英語部の状況を説明したりし,Niraulaさんの名古屋行き交通手段の確認や手配もできた。直接会って打ち合わせすることで,相手へも誠意が伝わるとともに,来校の依頼を確実にすることができた。

 Niraulaさんを招待することを決めた後,生徒は何を話し,どのように交流会を進行するかを話し合って準備を進めた。ネパールと日本の違いがわかるように,日本についての英語のクイズを考え,Niraulaさんに答えていただくとともに,その質問をネパールに置き換えてNiraulaさんに尋ねることにし,次のような質問を準備した。
例:1.Who is the Prime Minister of Japan now?
  2. What is the highest mountain in Japan?
  3. What do people enjoy in the eve of New Year's Day?  略

 当日はNiraulaさんから詳しい自己紹介やネパールの学校制度の説明や,高校生活についての話の後,ネパール文字の読み方を教えてもらい,各人の名前をネパール文字で書いてもらった。その後,用意したクイズで,お互いの理解を深めた。


   <英語部の1年生とNiraulaさん>

 http://www.ingnet.or.jp/~oichni06/Sn+semi.html のホームページをコンピュータで表示してネパール語講座を見せてもらった。その他に,ネパールの歌,ネパールのお祭りや年中行事などの説明をしてもらった。また,学校まで通学に徒歩2時間もかかる中を通ったことや,ネパールの学校環境と日本との違いについてコメントしてもらった。その後,生徒が学校を案内し,部活動で,茶華道部が正月用生け花を準備している場面や,弓道部の練習の様子などを見てもらった。

3 成果と課題
 留学生との電子メールでの交流を通じて生徒はメイリングリストの利用と,電子メールの使い方に慣れて行った。英語での自己表現の機会が得られ,ある生徒は地域の祭りを説明するために,検索してみて初めて自分の町にホームページがあるのを見付け,ホームページの検索の仕方を知った。そしてその中の町の説明を読んで,何を伝えたらよいか,理解していった。説明を英語で書き,留学生だけでなく,メイリングリストで英語部員にも見られる中で,自分の書いた英語をみんなに見てもらい,通じるということを実感して行った。また,留学生からのメールは文章がフォーマルなこともあり,生徒の知っている語彙や表現より難しいものもあったが,自発的に辞書で調べたり,自分で読んでいこうとする意欲が見られた。また,直接会って話しをする機会を活かすために,生徒はクイズを利用したり,英語部の説明を英語で準備したり,英語を使わざるを得ない状況になり,コミュニケーションのための英語を考える機会となった。生徒は終了後,次のような感想をNiraulaさんに送った。

<生徒の感想>
Dear Mr.Niraula,
I was glad that you came to Nakamuru English Club.  I was surprised that entering   university in Nepal is difficult.   Please come to Nakamura's school festival next Septenber. 略
Niraulaさんへもこの交流についてのご意見を伺った。

<Niraulaさんの英語で書かれた意見の要旨>
 日本の学校へ行って,会って話し合ってみて,学校制度の違いがよくわかった。ネパールの学校は小学校5年 Lower Secondary School2年,Secondary School3年の10年間。電子メールでのコミュニケーションは学習や問題解決に非常に役立つが,時には電子メールの代わりに直接会って話し合うことも重要だ。また,教科書を見せてもらったり,学校を見て,日本とネパールの高校生の違いもわかったが,日本の高校生はインターネットやコンピュータを使えてよい環境だ。ネパールの高校生にはそのような利用は一部でしか利用できないのが現状だ。

 生徒の感想1: 今までに,学校祭の英語部の発表で,ネパールのダヌーさんに来てもらって学校の話しを聞いたりしたが,直接ゆっくりネパールの話しを色々聞いたのは初めてだった。これまでネパールのことはほとんど知らなかったが,色々なことがわかった。ネパールの人は小学校から英語を勉強していて英語がとてもうまいとわかった。ニラウラさんは物理の先生で,物理の質問をされたが,1年では物理の授業が無いので,日本の高校生はあまりできない,と思われたかもしれない。

 生徒の感想2: 会ってみて,電子メールだけの時と違って,どんな人かわかって親しみが持てた。他の留学生の人は,日本で日本語がわからず,看板や案内板も日本語ばかりで困ったような話しも聞いていたが,Niraulaさんは特に日本で困ったことは無いと聞いてよかった。

 考察: 電子メールでのコミュニケーション,それを補うホームページでの情報収集,そして直接会う機会を設けることで,より相手の人柄や,電子メールでは説明できないような内容を理解し合うことができた。海外の学校との交流では,直接会う機会を設けることが難しい。代わりに国内に在住の留学生との交流は相手に会えるので,そのため電子メールだけの場合と比べてかなり多くのことを一度に知ることができたし,知るだけでなく,相手への理解と共感につながっているようだ。知識としての文化を知るだけでなく,留学生を,人物としてもNiraulaさんのことがわかり親しみが持てるようになったとともに,電子メールでは現せない文字や歌を紹介してもらったりし,普段できない交流ができた。また,Niraulaさんにとっても,日本の学校を訪れ,様子を知ってもらうよい機会になったことと思う。その後,新年のグリーティングカードを電子メールで送ってくださった。今後も継続し,より相手の国のことや,表面的な文化の違いだけでなく,課題や問題点の解決などに向けて,生徒がいろいろな場面で活動できるよう,実施していきたい。

ワンポイントアドバイス
 面識が無い留学生を交流相手にする場合は,事前に主旨を説明したり,高校生の英語の実力などを知ってもらったり,交流会の実施について依頼をするために,会って打ち合わせをすることが大切である。その留学生を理解し,計画に人柄や経験を活かした内容を取り入れることもできる。本実践では打ち合わせでネパールの留学生は大学講師の経験のある方だわかったので,大学や高校,教育制度などの話しをしやすいと,内容を工夫した。
 ネパールのビデオを貸してくださったが,ヨーロッパのビデオの規格のため,すぐに見ることができず,日本の規格にコンバートする必要があった。事前に時間に余裕を持って,必要なものを準備できるとよい。

利用したURLなど
 Nepalese Language Seminar ネパール語講座 http://www.ingnet.or.jp/~oichni06/Sn+semi.html
 社団法人日本ネパール協会 http://www.big.or.jp/~jns/
 ネパールへの掛け橋 http://www.sikasenbey.or.jp/~jkobi/N+bridge.html
 The Nepal Homepage http://www.info-nepal.com/