菰野町内12年間一貫教育のためのネットワーク構築

菰野町立菰野中学校 大立目佳久
hisa-o@aax.mtci.ne.jp
http://kmj.bebop.gr.jp/
キーワード 中学校,地域,インターネット,サーバ,TV会議


企画の目的・意図
 菰野町内には2つの中学校区があり,菰野中学校区には4つ(菰野中,菰野小,千種小,鵜川原小),八風中学校には3つ(八風中,竹永小,朝上小)の町立の小・中学校がある。また,菰野中学校に隣接して三重県立菰野高等学校(以下菰野高校)が町内唯一の高等学校として存在する。小・中学校ではコンピュータ環境は整っていなかったが,新学習指導要領公示を受け,菰野町も本年度中に小・中学校7校すべてにケーブルTV回線を使用したインターネット環境が完備し,中学校2校に各40台の生徒用コンピュータを配備することを決定した。
 この決定を受け,各学校で情報教育を推進していくためには,以下のような点が課題・問題点として予想された。
・情報を受信するばかりでなく校外にも発信することが益々重要になる。そのためには,フレキシブルな活用ができる専用線を使用した学校独自サーバの構築・運用は当然必須になってくる。しかし,各学校でサーバを運用するのは,管理者の負担が多く,また,各学校に1本ずつ専用線を引くことは金銭的に難しいと思われる。
・実際にインターネットに接続できる環境が整っても,それを「どのように授業に活用するか」については新学習指導要領がスタートする2002年までに研究を重ねなければならないが,一部の”コンピュータがある程度使える”教師に任され,担当になった者は暗中模索の状態であり,非常に不安を覚えていると思われる。
・各学校独自で情報教育を推進するのではなく,地域の実情に合わせた小学校から高等学校までの一貫した情報教育が必要になる。
 そのために本年度は以下の4点を重点項目とした実践をおこなうこととした。
○菰野町内学校の共通サーバの構築
○各学校のコンピュータ整備,LAN構築
○情報教育に関する意見交換
○MLによるヘルプデスクの開設
 また,将来的には"komono.ed.jp"を取得し,町内学校のアカウント管理を行うことを視野に入れて派生コストの実証も本企画で計画した。


1 実践内容
(1) 菰野町内学校の共通サーバの構築
 情報教育を推進するためには,インターネット・サーバを設置する事の有効性はいまさら言うまでもないが,すべての学校で運用・管理することは,予算的にも管理者の負担面から考えても事実上不可能である。そのため,図1のように町内の7つの小中学校を1つの”ネットワーク校区”として考え,このなかで共用インターネット・サーバを1台設置し,町内で2名の教師(菰野高校浦田教諭と筆者)が管理者としてroot権限をもち,運用・管理をすることとした。

              1

 インターネット・サーバ機とするコンピュータについては,筆者が所有していた自作DOS/V機をハードディスクやメモリをアップグレードし,すでに実証実験用に専用線が引かれている菰野高校に設置した(本年度は,専用線については,菰野高校で使用されているものを1本貸していただいた)。設置後は主に筆者が菰野中学校からtelnetで遠隔操作をおこないサーバの運用・管理をおこなった。
 使用OSについては,菰野高校の浦田教諭と何度も相談をし,安価で構築でき,WEB上のドキュメントが豊富で,各種サービスがGUI的に管理・設定できるPC-UNIX系のTurboLinux4.0とした。
 このインターネット・サーバをHTTPサーバとMAILサーバとし,それぞれの学校で使用できるようにアカウントを各学校に1つ設定をした。また,このサーバでメーリングリスト(以下ML)を立ち上げ,町内教職員が情報教育に関して意見交換ができるようにするとともに,コンピュータの利用方法や保守に関する相談も受け付けるなどヘルプデスク的な活動もおこない,町内教職員のコンピュータ・リテラシーの向上を図ることを計画した。
 このMLには町内教職員の自由参加を原則とし,ML参加のために必要ならば個人のメールアカウントも発行することとし,町内の教職員に呼びかけた。当初は4人でのスタートであったが,現在は20名程度の参加者があり,有効に活用されている。MLに参加したいが学校にも自宅にもインターネット環境がないという教職員も多く,各小・中学校へのケーブルTV回線の配備が完了すればさらに参加者が増えることが予想される。
 ※ 本校ではこのインターネット・サーバを使用して,交流学習用の生徒のメール・アカウントを発行したり,図2のような校外評価をとりいれたWEBページの作成の実践をおこなった。

URL:<http://kmj.bebop.gr.jp/~otachime/

                 2

(2) TV会議システムを導入した情報教育に関する意見交換
 小・中・高の一貫した教育のために情報交換は不可欠である。この情報交換をMLのみで実施するのではなく,時には同時性があり,相手の映像を見ながら情報交換ができるTV会議システムを導入し,効用についても検証することとした。使用するシステムは電話回線(ISDN)を使い,設定が簡単で安価なフェニックス・ミニを選択した。このTV会議システムを菰野高校や三重大学と月に数回利用し,進学した生徒の様子や情報教育に関する内容について情報交換をおこなった。
 その際にフェニックス・ミニ単体では1対1での通信用に作られているため画面が小さく音量も不足気味なので,大型モニタやビデオカメラ,外部マイクやスピーカーを接続し,クラス同士の交流にも使用できるように工夫した。
(3) 各小中学校のコンピュータ整備とLAN構築
 中学校2校には40台の生徒用コンピュータが本年度整備されるが,小学校の整備には時間がかかるとのことで児童が自由に操作できるコンピュータはないという状態であった。また,生徒用コンピュータが設置されるコンピュータ室のみネットワーク化されるという計画で,職員室や他の部屋では,従来からあるコンピュータや教師個人所有のコンピュータがスタンドアロンの状態で設置されているのが現状であった。
 情報教育を推進していく上で”校内LAN”は必須のものであるので,何とか小学校にも数台でも良いから生徒用コンピュータを設置し,すべての小・中学校で校内のネットワーク化を推進しようと考えた。
 そこで,企業で使用していたリースバックで廃棄される中古コンピュータなら安価で手に入るだろうと考え,情報を収集したところ無料で20台をOS付で進呈してもよいという企業を運良く見つけることができた。中古コンピュータであるためスペック的に高いものとは言いがたい(CPU:Pentium75〜100MHz,HDD:512KB〜1024KB,Memory:24MB〜48MB)が,インターネットの利用などにはまったく支障がなく,逆に中古であるため「壊れても仕方がない」という思いがあるためか生徒に自由に操作させられるというメリットも考えられる。このコンピュータに浦田教諭や菰野高校のパソコン部の協力を得て,BiosのアップグレードやOSのインストール,不具合がある部分(LANボード関係が多かった)の修正等をおこないすべてをネットワーク環境で使用できる状態にまでセットアップした。この20台のコンピュータを各小学校で児童が自由に使えるように4台ずつ譲渡することにした。
 また,ネットワーク・ケーブル(10BASE-T)作成と校内LAN構築に関する学習会をおこなった。それと平行して校内のコンピュータすべてがケーブルTV回線が使用してインターネットに接続する事も考慮して,イントラネット・サーバを構築した。このサーバのOSには当初PC-UNIX系のFreeBSD2.2.7で運用していたが,将来的に各学校で管理する際のことを考えて,誰でもが簡単に操作できることが重要になるので,サーバをWebブラウザから設定・操作するためのGUIサーバ管理ツール「HDE Linux Controller 1.0」がプリインストールされたTurboLinux Server 日本語版6.0 SOHO Editionに変更した。

              図3

 以上のような準備が完了した時点で,手始めに菰野中学校内にネットワーク・ケーブルを張り巡らし,校内LAN構築をおこなった(図3)。このノウハウを今後おこなう他校の校内LAN構築の際に活かそうと考えている。
(4) スケジュール:
 
7月 サーバ構築の準備               会議(準備会議)
 8月 サーバ構築,メーリングリストの準備      会議(運用について)
 9月 メーリングリスト開始             
    菰野中学校のLAN構築 
 10月 中古コンピュータの整備
 11月 TV会議システムの運用開始(菰野高校との交流) 会議(授業見学)
 12月 TV会議システムの運用(菰野高校との交流)   
 1月 プロジェクトのまとめ・評価          会議(まとめ)
 2月 町内小学校の小規模LAN構築

2 成果と課題
 残念ながら,菰野町内の小中学校のネットワーク環境については各学校への設置が予定よりもかなり遅れ,本企画も当初の予定から変更せざるを得ない部分も多かった。
 そのような状況の中で試行錯誤しながら実践した企画であったが,サーバ機の運用・管理については大きなトラブルもなく順調に運用されている。
 インターネット・サーバについては菰野町の小・中学校共通サーバとしてフレキシブルに利用でき,各学校の教育計画の中で必要に応じてWEBページを公開したり,生徒用アカウントを必要数だけ発行することが可能となり,遠隔地との交流学習や学校外からの評価活動を実施することができ,高い教育効果をあげることが確認できた。
 また,MLを立ち上げる事ができ情報教育に関する研究会の案内を転載したり,本校での実践を紹介したりすることで,多少なりとも「これからどのようにコンピュータを使って授業するか」について意見交換ができたことは有意義であったし,ヘルプディスク的な活用については「困った時に役立った」や,地域に根ざした活動を心がけたためか「MLで聞いても分からない時に直接機材を持って会いに行くことができるので良かった」などと概ね好評であった。このMLの存在や,校内ネットワークの整備と教職員の情報教育に対する関心自体も高くなっていることとも相まって,個人でコンピュータを購入したり,MLへの参加者が増えてきているのは喜ばしいことである。
 イントラネット・サーバ管理ツールについても,(一度構築すれば)誰にでも運用管理できる便利な物であることが実証できた。現在本校のイントラネット・サーバは筆者以外の教職員(Windowsしか操作した事がない)で運用・管理されている。
 また,TV会議システムの有効性は当然のことながら,フェニックス・ミニを選択したことは大成功であったようだ。相手の電話番号を押すだけという非常に簡単な操作方法のため,普段はコンピュータに触りたがらない教職員でも興味を持ち積極的に活用している。 このように,教職員が情報教育について関心を持ち始め,機器を積極的に使っていこうとする姿勢が見え始めたことが本企画のもっとも大きな成果であると思われる。
 その反面,課題としては,当初予定していた小学校から高等学校までの12年間を一貫した流れでおこなえるような情報教育カリキュラムの作成がほとんど進展がなかったことが挙げられる。これはハード面の整備が大幅に遅れ,授業での活用に関する会議が1回しか開けなかったことによる。次年度にはこの件に関する意見交換を積極的におこない,その際に多地点形式のTV会議システムを導入したい(本年度は1対1の形式のみであった)。
 もっとも大きな問題としては,専用線にかかる経費の捻出である。この3月で菰野高校の実証実験事業が終了するため来年度以降の予算化をしなければならない。このことに関しては,教育委員会や各校校長にインターネット・サーバを持つ意義や有効性を理解していただき,その必要性を認めてもらえるように説得を続け,本企画をさらに発展した計画が実施できるようにしたいと考えている。

ワンポイントアドバイス
 「HDE Linux Controller 1.0」は,インターネットサーバの管理をより身近なものとすることを目的に開発され,WebサーバーであるApache上で動作し,LinuxサーバをWeb ブラウザから設定・操作するためのGUIサーバ管理ツール。
 基本的な機能は,ネットワーク設定,メールアカウントの追加,メーリングリスト開設といった基本的な作業の他,各サーバソフトウェアの稼働/停止と詳細設定,各種ログチェックなどをWeb ブラウザより行うことが可能。また,kernel 2.2より実装されたセキュリティ機能であるipchainsの設定やルーティング情報の設定といったインターネットサーバ向け新機能が追加されている。
 株式会社ホライズン・デジタル・エンタープライズが販売し,TurboLinux Server 日本語版6.0 SOHO Editionと,LASER5 Linux 6.0 Rel.2にプリインストール。


参加校
 企画立案協力校:三重県立菰野高等学校 URL<http://www.komono-h.ed.jp/
 交流実施校  :菰野町立八風中学校,菰野町立菰野小学校,菰野町立千種小学校
        菰野町立鵜川原小学校,菰野町立竹永小学校,菰野町立朝上小学校

参考文献
 学校にLAN入しよう (NGS) 学校ネットワーク適正化委員会

利用したURLなど
 Horizon Digital Enterprise (http://www.hde.co.jp/)
 TurboLinux Japan (http://www.hde.co.jp/)
 fmlのインストール (http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/~miyakawa/soft/fml.html)