インターネットのマルチメディア機能を利用した国際理解教育

   高等学校 英語教育
                三重県立みえ夢学園高等学校 平山 欣孝
キーワード 国際交流,テレビ会議,マルチメディア,国際理解教育,英語教育


企画の目的・意図
 本校は,日本初の昼間定時制で単位制総合学科を併設した高等学校である。6つの系列の中に国際経営系列があり,国際社会で活躍できる若者を育成するために,生徒に国際的なコミュニケーションの場を提供するという意味で,インターネットなど高度情報化機器を利用した英語教育と国際理解教育を推進している。通信回線の高速化にともない,従来の文字による通信に加え,マルチメディアを利用した通信を行い,コミュニケーションを図ろうとする態度を育成するなど,その有用性を実証する。


1 利用場面と利用環境
 本校では,平成11年度から,その他科目として「国際コミュニケーション」を新設し,海外との電子メールの交換,インターネットのホームページ閲覧,国際テレビ会議など高度情報化機器を有効利用した英語教育と国際理解教育を推進している。その他「オーラルコミュニケーション」,「時事英語」,「総合英語」の授業で,インターネットを活用している。単位制であるため,入学年度が異なる様々な生徒がこれらの科目を履修している。

        科目名

   内容とインターネット利用の形態

国際コミュニケーション(その他科目)

★教科書は無く,電子メールなどが教材

オーラル・コミュニケーションA

★ALTに質問しながら電子メール作成

オーラル・コミュニケーションB

★音声動画サイトでリスニング練習など

時事英語(その他科目)

★新聞社の英文ホームページなど利用

総合英語(その他科目)
 

★必要に応じてインターネットを利用
 

 

 コンピュータリテラシーに関しては,総合学科原則履修科目である「情報処理基礎」で機器操作などのスキルを学習するため,前述の授業では,コンピュータを教える必要はなく,英語学習に集中してコミュニケーションの道具として使うことができる。
 語学実習室(LL教室)には,SONYのLL機器に加え,インターネットに接続しているコンピュータが2台あり,その画面を個々の生徒用モニターに映し出し,一斉にホームページを見たり,電子メールを読んだりすることができる。個々に電子メールを書く場合は,10台のコンピュータが接続されている「商業デザイン室」や40台のコンピュータがある「情報処理室」を利用する。写真などの取り込みもこれらの教室を利用する。
 「国際経済総合実習室」では,インターネットに接続したコンピュータの画面を120インチのスクリーンに映し出すことができる。このコンピュータは,NTTのフェニックス(テレビ会議システム)がインストールされINS64で外部につながっている。カメラはコンピュータのモニターの上にあるメインカメラと,実習室の2台の天井カメラがある。
 平成11年度から,本校のインターネットの接続は,CATVと人工衛星を使っているが,この回線は,プライベートIPしか振り当てられていないので,CUseeMeやNetMeetingのようなテレビ会議を利用して,外部のネットワークとの通信をすることは,今のところ不可能である。従って,海外とのテレビ会議は,国際電話回線によるフェニックスを利用することになる。
 インターネット回線が高速化されたのを期に,今まで行ってきた文字や静止画による電子メールに加え,データ量の多い音声や動画ファイルを使った電子メールの交換をするために,本企画の支援で,マルティメディア機能が充実したSONYのVaioを1台購入し,LL教室での活動と連動した活用を進めているところである。

2 指導計画
 校内の都合だけでなく,交流相手をみつけることや相手の都合との調整も考慮し,「国際コミュニケーション」の年間計画は柔軟なものである。中学校で既に英語の基礎は,習っており,さらに本校でも,「英語I」「英語II」「リーディング」などの科目も設置されている。それらの授業で学んだ英語を実際に使ってコミュニケーションをする場を提供するためにインターネットを利用することを基本的な指導計画と考えている。平成11年度の「国際コミュニケーション」の年間計画の概要を以下に示す。

4-7月

★インターネット利用の基礎学習と英語検定のCDROM利用など

9-11月

★相手校との電子メールの交換(自己紹介からテレビ会議の準備など)

12月

テレビ会議(スズカF1レース,沖縄修学旅行,通貨の換算,物価比較など)

1月

★電子メールの交換(テレビ会議の感想や今後に向けての意見交換など)

1月

実物を郵便で交換(お互いの日常的な文化を代表するような品物の交換)

2月

2回目のテレビ会議(生徒中心の運営を試行,教師は裏方)

2月

★動画や音声の電子メール(実物の説明を動画や音声で追加説明する)

2月

成果発表(生徒によるプレゼンテーション) 

3月

★共同製作(電子メールやテレビ会議で情報交換して物を作り上げる)

来年度以降 

相手校生徒の来日(電子メールの話題に出始めている)

 

3 学習の展開
 インターネットを使った電子メールの交流は,主に「国際コミュニケーション」で行うが,必要に応じて他の授業でも実施する。欧米で学校が始まる9月ごろは,今まで交流していた学校の教師が新しい生徒を担当するのでその調整があり,新たに交流相手を求めていろいろな電子メールが届く時期である。届いた電子メールをどの科目で活用するか判断して割り振らなけれらばならない。
 例えば,イタリアの1人の高校生から電子メールによる交流の申し込みがあり,「国際コミュニケーション」の時間にLL教室で受信して生徒の机のモニターに映し出して読んだ。返事は生徒に口頭で言わせて,教師が英文をタイプして,「これでいいかな?」と確認しながら英作文して進めた。イタリアからはローマの歴史的建造物の写真やメール交換した内容を短編小説にして添付ファイルとして送ってくれるなど楽しい授業になった。
 アメリカ(ミネソタ州)からは,教師が生徒同志の交流を求めて電子メールを送ってきた。この学校は,日本語を学習しているので,日本語の上級者は「国際コミュニケーション」の授業で相手し,日本語をローマ字にした電子メールも交換した。そして,日本語の初級者は,同僚の横井教諭の「オーラル・コミュニケーションA」の時間にALTも加わり,英語で交流している。人数が多いのでLL教室ではなくコンピュータ室を利用して,生徒は個々に電子メールを書いている。
 また,別のアメリカの学校(フロリダ州リッジウッド高校)とは,メール交換の後.国際テレビ会議をすることになり,「総合英語」の生徒も参加し,テレビ会議当日のプレゼンテーションやコーディネータは,「総合英語」の生徒が担当し準備をした。
 準備段階での電子メール交換で,アメリカの生徒が送ってきた長い電子メールの中にアメリカの教師を侮辱する単語(スラング)があったが,相手の教師がそれに気づき「私の生徒が失礼なことをした。この生徒は,しばらくの間電子メール交換を禁止処分にしたい。」との電子メールが届いた。私は,「こちらで気付けば消すべきものであったが,本校の生徒は気持ちを害してはいません。生徒同士の親近感を表したかっただけだろうから,続けさせてください。」との電子メールを送り,この問題は解決した。本校の生徒が,メール交換で,「F1について,全然知らないのかな?」と疑問に思い,「それじゃテレビ会議で説明してやろうじゃないか。」と本気で取り組んだ。


 図1 伊勢新聞によるテレビ会議の記事

 12月15日に,国際電話をかけてフェニックス(テレビ会議システム)を利用して,フロリダ州の学校の映像を120インチのスクリーンに映しながら,約1時間15分のテレビ会議を行った。電子メールによる交流は行っていたが,テレビ会議は初めてであったため,両高校の校長のスピーチ,生徒の自己紹介,沖縄修学旅行,スズカのF1レース,通貨の換算と物価の日米比較,日常生活についての質問など,多様な内容で交流を行った。生徒達も,マイクの取り合いをするほど熱中したものになった。本校では携帯電話の持ち込みは自由であるが,自由の国アメリカの相手校では予想に反し,禁止されていることが分かり驚いた。予想していなかったので,交流後,電子メールで相手校の生徒指導上の支障はなかったかなど問い合わせた。問題はないとのことであった。図1に当日のテレビ会議の新聞報道を示す。
 このような活動に対する評価は難しいと言われるが,自分の名前が新聞に載ったことで満足し,友人間での社会的評価も受けた生徒もいる。教師が点数化する評価だけではなく,多様な評価が有り,発想の転換が必要である。電子メールなどを生徒全員で一斉に読んでいる授業の場合は,それらを定期テストに出題し評価している。「総合英語」の場合は副教材も使用している。テレビ会議は,学んだ英語をリアルタイムで試してみる場面を提供するための機会であったととらえている。

4 成果と課題
(1) 成果は生徒の成長
 昨年と比較して生徒の行動にみられるもっとも顕著な変化は,自発的に自己表現するようになったことである。例えば,英文の電子メールを送信する場合,当初は相談を受けたり添削をするなど,教師側がいつも何かの指示を与えていたが,最近では,自力でしかも短時間に英文の電子メールを送信するようになっている。
 リッジウッド高校とのテレビ会議の際にも,伝えたい内容や聞きたい内容は,生徒達の興味や関心によって自主的に決めた。しかも,テレビ会議が終わってから,「時間が少なかったので,前もって準備していた項目のうち半分ぐらいしか質問できなかった。」,「先生がマイクを持ちすぎ。僕たちはもっと話したかった。」,「相手の質問にすぐ答えたいので,マイクが1本では少なすぎる。」など,生徒の積極的な多くの発言・反省があり,準備している次回のテレビ会議を楽しみにしている。相手校の教師が「日本の生徒の方が活発で,本校の生徒の方がためらっていたようで,驚きました。」と電子メールで述べていた。本校の生徒が送った電子メールにも「私は,全然緊張しませんでした。」というのがあった。舞台裏で機器操作する教師とは対照的に,生徒にとっては,楽しい時間である。スクリーンに映し出された自分のメールフレンドに,思いを伝えることに熱中し,日本人にありがちな,「英語は通じないかもしれないからやめておこう。」や「こういうことを言ったら笑われないだろうか。」という消極的な態度が,ほどんどなくなっているように思えた。
 さらに,生徒達は,このようなインターネットを活用したメール交換や国際テレビ会議を本校で実施していることが,校外で,あまりにも知られていない点を問題とし,機会があれば,プレゼンテーションをしたいと申し出てきた。県内の中学・高校の教員による英語研究会が2月に,本校で開催されるが,当研究会において本校生徒による国際交流に関する成果発表を行う予定である。
(2) 課題は物心両面での環境改善
 課題の1つは,通信費である。フェニックスはインターネット回線ではなく,国際電話を使用するので通信費が高い。本校のCATVと衛星を利用したネットワークで, CUseeMeやNetMeetingなどを使ったテレビ会議ができれば経費的な負担は大幅に軽減できるが,現在のネットワーク構成では不可能である。いずれにせよ,音声や画質は,フェニックスの方が優れているので,時と場合を考慮しながら使い分けをしていきたい。今回は相手校の要望と,恵まれた設備を両校が有していたため,フェニックスを使用したテレビ会議の実施へと急速に展開した。リアルタイムのコミュニケーションを実現する前段階として,電子メールやホームページに動画を使ったマルチメディアコンテンツのあり方についての研究をさらに深めたい。
 もう1つの課題は,変動する社会に教師が対応し,どれほど支援者になれるかである。ややもすると硬直した考えの教師よりも,柔軟な思考をする生徒達の方が認識が進んでおり,教師の存在がただの邪魔者になりかねないのが,インターネット時代である。コンピュータを計算機が発展した単なる機械ととらえたり,理科・数学だけの研究対象だと考えるのは不充分である。むしろ,通信機の発展したものとしてとらえ,もっと人文系,特に社会との積極的な関わりという点で社会科学的な視点を教師側が持つことが期待される。インターネットの活用は,物理部の活動というより新聞部の活動に似ている点も多い。「インターネット版お調べごっこ」という批判が出て久しいが,「発信する学校」へ,そしてさらに「交流する学校」へと変革しなくてはならない。「開かれた学校」作りの実現など学校教育改革の成否もインターネット活用の成否と相関関係があるように思える。

ワンポイントアドバイス
(1) 毎日の電子メールチェックは基本であり,これを日常的に実践しない教師は,ネチケット(=インターネットの利用に関するエチケット)などインターネットの教育利用を論じる資格はないいという自覚が必要である。
(2) いわゆる「高等学校における教科の壁」を無くし,全ての教科の教師にも情報が共有され,あらゆる授業に学校の施設・設備が利用できるよう配慮する必要がある。我が校の場合は,情報系・理数系の教師だけでなく,人文系の教師も加えたインターネット活用実践委員会という組織があり,多様な教科の多様な協力がえられるので,高度情報化機器を利用した幅広い教育活動が可能である。
(3) 年間計画は必要であるが,欧米の学校の新学期が9月から始まることもあり,場合によっては柔軟にそして臨機応変に交流活動を行わなければ推進できないこともある。従来の硬直した考え方・やり方をやめ,発想を転換することが必要である。
(4) 交流相手の選定は,年齢や校種よりも設備の整合性によって判断するとよい場合がある。また,1つの学校との交流を長続きさせる工夫も必要であるが,それに固執せず,互いの学校の興味や必要性など状況に合わせて,失礼にならないように配慮しつつ新しい相手との交流を始めるのもよい。
(5) インターネット時代では,学校が国際競争にさらされていることを自覚しなくてはならない。魅力の無い学校には交流の申し込みも無く,たとえ,あっても長続きしない。
(6) テレビ会議をする際,プレゼンテーションばかりにエネルギーを集中させてしまい,その場での質問や意見を交換する機会が充分でないことがある。用意周到になりすぎるより,その場になってから臨機応変に対応する柔軟な気持ちを持ち,聞き取れないことなどは質問をしながら進行すればいいとする程度にとらえておく方がインタラクティブな機能を有効に活用できるのでより教育的である。
(7) いずれの場合も,閉鎖的な思考ではなく,柔軟な発想こそ未来の教育を創造するためには必要である。この認識がないと,インターネットという新しいメディアを教育活動に取り入れ有効利用することはできない。また,「国際社会での生きる力」,「情報社会での生きる力」を育むためにも,意識改革が教師側に必要である。


参考文献
 『市民力としてのインターネット』(岩波書店)牧野二郎
 『教室がインターネットにつながる日』(北大路書房)深田昭三 玉井基宏 染岡真一