世界的視野にもとづくボランティア地域交流

高等学校第1学年・ボランティア活動・総合的な学習の時間
三重県立員弁高等学校 英語科 近藤 多寿子
キーワード 高等学校,ボランティア,総合的な学習の時間,地域交流,インターネット


インターネット利用の意図
 日頃ボランティア活動をしていて気づいたことだが,地域のボランティア活動というのは,小さなボランティアサークルに依存することが多く,活動団体同士の連携が少ない。学校の生徒たちも,活動の情報が得られなかったり,迅速でないために,機会を逃すことも多い。そこで,インターネットを活用して地域のボランティアネットワークをつくり,情報交換をしたり,地域の情報をまとめて発信したり,自分たちの活動内容について,意見を交換しあって,学校と地域の連携を深めたい。
 また,英語で情報を発信して,様々な国のボランティアの状況を知り,自分たちのできることを考えさせると共に,その過程の段階での,生徒の主体的な活動を促していく。


1 企画の目的・意図
 2002年から実施される文部省新学習指導要領の総則の第4款 総合的な学習の時間に「学校においては,地域や学校の実態等に応じて,就業やボランティアにかかわる体験的な学習の指導を適切に行うようにし・・・」と述べられているが,高等学校においては特に,「総合的な学習の時間」という教科の枠を越えた取り組みに関して,教科の専門性もあり,取り組みがしにくいのが実情でもある。インターネット利用のための環境整備もまだまだである。また,地方においては,連日報道されている「インターネットの影の部分」の方が,強調されがちであり,インターネットの利用が進んでいないように思われる。ボランティアについての考え方も各人,各団体,さまざまである。
こうした実情を踏まえつつ,ボランティアについて考え,実際に活動し,さまざまな体験を通して生徒の人間的な成長を促すと共に,まず「地域」をつなぎ,「学校と地域」の連携を深め,最終的にはつないだ情報を英語で発信して,他地域や外国とのつながりを通して,異文化を理解し,自己や自分達の社会を見つめなおしてもらいたいと考えた。

2 実践の段階的実施
  この実践は,(1) 準備 (2) 実際の活動 (3) まとめと情報発信 というプロセスで実施した。
(1) 準備段階
・ボランティアとはなにか
 生徒の意識を調べ,どんな活動をしていくつもりなのかをグループで決定した。ボランティアの経験が1度くらいはある生徒たちだが,「ボランティア=人助け」的発想しかできず,活動をしながら,ボランティアについて徐々に考えていくことにした。ボランティア活動を通して,自己を発見し,見つめなおす体験をしてもらいたかった。
・コンピュータ環境整備
 生徒が簡単に使えるようにハードウエアやソフトウェアを整備した。勤務校は1999年4月段階ではインターネットにつながるパソコンは1台も無かった。自分で10base-Tのケーブルを作り,ルータから1階下の職員室とLL教室にケーブルを引いた。勤務校の先生方も巻き込んで協力してもらった。取り組みが進む中で,環境が激変した。学校側の理解と職場の先生方の協力,CECの援助により,生徒が自由に使えるPCが数台とスキャナー,デジカメ,CCDカメラ等の周辺機器が徐々にそろっていった。しかし,ボランティア活動は学校から外へ出かけていくことが多く,携帯できるツールを増やすべきであった。
・地域との連携
 ボランティア活動をまとめているのは,地域の社会福祉協議会である。勤務校は9クラス規模の普通科高校であり,生徒の大半は,地元の5つの町から通学してくる。そこで,まず,5つの町の社会福祉協議会をつなぐことから始めた。並行して,近隣の養護学校とも連絡を取った。また,各町の授産施設や作業所にも出向いて,理解を求めた。さらに,どんなボランティアの自主団体があるのか調査をした。
・交流相手をさがす
 教員の力量不足もあったが,ボランティアという分野での,交流相手は,なかなか見つからなかった。スイスとカナダの高校生から,メールが返ってきた。ボランティアという大きなくくりではなく,より詳細にテーマを分けた方がよかったようだ。
(2) 実際の活動段

  表1 授業構想

時数

子どもの学習活動

主な支援活動

オリエンテーションとブラウジング
2h

 今後の展開を聞き,理解する。
 VTRを見て,ボランティアに関する一般知識を得る。
★インターネットで検索の仕方を知る。
★フリーメールアカウントを取得し,指示に従って教員にメールを送る。

★ボランティアのサイトをあらかじめまとめておく
 自分の意見をださせる。
★コンピュータ操作に慣れさせる。

デジカメ操作,画像,文書入力,課題内容検討
3h

 デジカメの操作の仕方を知る。画像を取り込む。簡単なWebページを作成する練習をする。
☆Microsoft word 2000,
 自分にあった課題を決める。課題内容を検討する。
★課題を追求するため,インターネットで必要なサイトを検索する。

★コンピュー操作に慣れさせる。
課題の内容に関しては,口をはさまない。ただし,同じ角度からの取り組みがあれば,知らせてあげる。
☆ホームページビルダー2000

実際の活動
2h

教室から出て,課題にそった活動を行う。デジカメ,ビデオ,等を活用する。

活動先にあらかじめ,アポイントをとって,生徒の活動を妨げないように配慮する。

活動のまとめ

前回活動した内容について,各グループが意見をまとめて簡単なページを作成する。
☆Microsoft power point
☆Microsoft word 2000
★ 海外の交流校に情報を発信する。

あらかじめフロッピーを与えておき,放課後いつでもデジカメとパソコン室を利用できる状態にしておく。
課題にあう資料(雑誌,写真,実物,インターネットの情報,手書きの絵)などを持ってくるよう,指示しておく。

まとめと意見交換・情報発信
2h

簡単なプレゼンを行い,お互いの活動について意見を交換する。
 自分のボランティアに関する意識がどう変わったかを知る。
★海外の学校の反応を知る。

生徒の積極的な活動を支援する発言をくりかえす。
☆Microsoft power point
☆Microsoft word 2000



                     表2 課題内容

高齢者関係

養護老人ホーム,特別養護老人ホームでの活動等

障害者関係

施設での活動,手話講座,養護学校での活動等

児童関係

保育園・児童館,学童保育での活動等

医療保健関係

病院ボランティア等

国際関係

国際交流活動等

環境関係

リサイクル活動,ごみ処理等

 生徒は,それぞれの関心に応じて,表2の中から,中心課題を決め,その課題に基づく調査を行い,実際にボランティア体験をする。以下はその体験の記録である。
(a) 特別養護老人ホーム,養護老人ホーム,デイケアセンターを月に1〜2回訪問
(b) 手話講座に参加。


 図1 ボランティアホームページ 1枚目


 図2 ボランティアホームページ

 


 図3 リサイクルバザー


 図4 プールボランティア


(c) 夏休みに養護学校のプールボランティア
(d) 第2土曜や,第4土曜日を利用して保育園でのボランティア
(e) 地域の病院で,入院者の介助ボランティア
(f) アジア交流プロジェクトに参加


 図5 パソコン梱包

 


 図6 ソウルでのプレゼンテーション


(g) 名古屋で開催されたワールドユースミーティングに参加
(h) いらなくなったパソコンをジンバブエに送る作業の手伝い 
(i) 地域の産業祭に企画から参加し,ごみ処理ボランティア

図7 ごみの分別収集ボランティア


図8 バリアフリー度のチェック


(j) 地域の車椅子利用者を学校に招き,校内や,地域の道路や店に出かけ,バリアフリー度のチェック
(k) ボランティア講座に参加
(l) 絵本を英語で作って,海外へ送る
(3) まとめと情報発信
 生徒は大変よく実際の活動を行った。毎回の報告文書もパソコンで打ち込めるものも出てきたし,パワーポイントの操作にも慣れた。写真を取り込んで文書を作成することもできるようになり,ホームページの作成も興味を持って取り組んだ。コンピュータリテラシーは飛躍的に向上した。しかし,肖像権や,著作権等の不安が相手方から指摘され,校内のイントラネット上での,情報発信にとどまっている。内容を一部変えて,高校のホームページのクラブ活動のページにて,公開できるようにする。地域の理解を促すと共に,インターネット利用研修の必要性を感じた。地域では,インターネットは,多くの家庭でまだ,一般的ではない。

3 実践の評価
(1) 生徒の意識の変化
 「ボランティア=人助け」「よい事」と考えていた生徒たちだったが,毎回の活動後の活動報告をしていく中で,「何かをしてあげるのではない」「障害のある人が暮らしにくい社会は,私達にも暮らしにくい社会である」「できる活動を続けていきたい」という発言が出てきた。インターネットを通して,様々なボランティアの情報を得ることや,実際の体験を通して,自己の在り方や社会について考え始めたようだ。
(2) 教員の支援ネットワーク
 今回の企画を実践するにあたり,コンピュータ教育開発センターのバックアップのほかに,地域での教員間のネットワークの重要性を痛感した。設備もコンピュータリテラシーも低い学校での企画実践のヒントを探しに研修会に出かけても,「学校のコンピュータに詳しい人に相談したら・・・」とか,「設備がそろったらやってみれば・・」と忠告され,「文系」の「普通の」教員の「普通の」学校では, 今は何もできないのかと悩んでいた。その頃,インターネット交流実践の先駆者的存在である名古屋市立西陵商業高校の影戸先生の存在を知った。「やってみたら。誰でも,最初はわからないものです。」と助言されそこから,今回の実践が始まった。他の学校の先生に10bases-Tのジャックの作り方を教えてもらい,使わなくなったコンピュータをもらいうけ,3台のパソコンをつないだ。勤務校の先生に協力してもらい,1階下の職員室までケーブルを引いた。県の教育センターからラップトップを10台借り,ハブを真中に放射線状に置いて授業を始めた。コンピュータ操作の研修会を,学校を超え,地域を越えて,実施してもらった。
 今回の実践で,私は「時間」と「設備」の他に,なによりも「支援をする側の教師の意識」が,支援の質を決めるのだということを,体験した。学習支援者としての,影戸地域先生の力量に感謝したい。
(3) 地域のネットワーク
 実際に調査してみて,5つの町に数多くのボランティア団体が混在しており,それをまとめるのは,並大抵の時間では出来なかった。また,情報公開に対して,警戒心が強く,活動はさせてもらえても,プライバシー保護の点で,ホームページで公開は止めてもらいたいという施設もあり,考えさせられた。継続して粘り強く,取り組んでいくことで,理解を得られるように持っていきたい。

4 実践を終えて(反省と課題)
 筆者は英語の教員である。パソコンを使い始めてわずか2年余りであり,パソコンの構造もわからず,コンピュータリテラシーも低かった。(現在も低いが・・・)また,計画当初は週1回の授業とクラブの両方で取り組む予定であったが,活動日がどうしても,土曜日,日曜日になってしまう。都合により,クラブ活動という特別活動の枠内の取り組みとなった。設備の不足,時間の不足,教員の力量不足等々様々な問題のために,現在のところ活動目的まで,達していないが,今後も継続して活動を続けていきたい。

ワンポイントアドバイス
 学習支援者として,インターネットを駆使し,教科にとらわれず,生徒の支援ができる取り組みを理想とした。パソコン環境がよい学校だけが,インターネットを使った実践ができるわけではない。環境が良いに越したことはないが,利用形態を考えれば,やってみることはできる。「まず,やってみること」が環境を変える一歩である。環境が進化すればするほど,「何をやっていくか」が求められる時代となるだろう。継続して取り組みを続けていくことが大切である。

利用したURLなど
 名古屋西陵商業高校影戸先生のページ ( http://210.235.197.5/kageto.html )
 私達の進める国際協力 ( http://www.d.dendai.ac.jp/ngo/ )
 三重県国際交流財団 ( http://www.mief-unet.ocn.ne.jp/index.htm )
 名古屋国際センター ( http://www.nic-nagoya.or.jp/ )
 全国ボランティア活動振興センター ( http://www.wnn.or.jp/wnn-v/kyougikai/index.html )

参考にした本
 教育現場のインターネット利用 平成10年度 実践報告集