Webページ作成を通して地域のまちづくり・人の輪作りを支援する
――高校生地域情報ボランティアリーダーの育成を目指して――

高等学校・ボランティア活動
三重県立石薬師高等学校 数学科 瀬古 洋
seko@salon.edu.mie-u.ac.jp
キーワード 高等学校,情報ボランティア,Web作成,地域社会,生涯学習,まちづくり,総合学習


インターネット利用の意図
 現在,学校教育では「総合的な学習」,生涯学習では「地域のまちづくり」がキーワードとして注目されているが,インターネットを利用することで,この2つを連携させることが可能になる。本企画は,「Web作成」を通じて生涯学習の支援を行う,高校生情報ボランティアの育成を目指したものである。


1 企画の目的・意図
 総合的な学習のテーマとして「地域学習」がある。小中学校では「調べ→発表(表現)」という展開が一般的だが,高校ではこれに「→活動への参加と支援」を追加すべきであろう。
 例えば,地域の公民館や文化施設,あるいは自治会活動やまちづくりグループ等への取材を行い,共同で活動を紹介するWebの作成(「出前型Web作成支援」)を行うのである。こうした活動を通じて,地域社会への理解を深め,貢献することができる。


図 1 総合的な学習とまちづくりの連携(下村1998)

こうした試みについて下村らは「Webページ作成と情報発信を仲介として,総合的な学習と情報教育,地域と学校,生涯学習と学校教育との3つの連携を図る(図1)」としている(1998[i])。そこで本企画では「まちづくり・人の輪づくり」をテーマとし,以下の3つの点を目指す取り組みを行った。
●生涯学習を直接支援し,高校生が地域社会に参画しやすくする準備として公開講座を実施する。
●単なる技術指導ではなく,地域の活動に主体的に参加・参画できる情報ボランティアを育成する。
●作品の外部からの評価やWebの更新を通して,地域との継続的な連携を図る。

2 実践の準備
2.1 生徒によるティーチング・アシスタント(1998年)
 昨年,生徒のレベルアップと各種講習会指導スタッフの負担軽減を兼ねて,パソコン部員にティーチング・アシスタントをしてもらった。活動したのは,保護者向けインターネット体験(7月)・高校体験入学(8月)・ボランティアリーダー養成講座(8月)・インターネット研修(8月,2月)である。

2.2 地域への働きかけと公開講座「まなびぃハイスクール」(1999年)
 三重県では生涯学習のための学校開放講座「まなびぃハイスクール」を開いている。この企画は公募制で,企画立案から受講生募集,運営まですべて学校に任されている。本校では1999年7月〜8月に「まちづくり・ひとの輪づくりに生かすホームページ作成講座」を開設した。参加者は28歳から63歳までの21名であった。講座の前半はインターネットおよびWebページ作成の基礎,後半は先に述べた「まちづくりをテーマ」としたWebページ作成である。本講座は,各自がテーマを設定し,調査・取材を行って作品を制作,最後に発表会(相互評価)を行う「学習者参画型(データベース作成)学習」とした(図 2)。

課題発表(講座の趣旨説明)

企画書作成・テーマ発表会

調査・取材(デジタルカメラ貸出し)

作品製作

作品発表会(プレゼンテーションと相互評価)

評価による作品の改善と一般公開

2 学習者参画型学習の流れ

図 3 作品発表会でのひとこま


 講座を通じて,地域住民に多数の知り合いができた。受講生の希望により現在も月1回の講座を継続中で,高校生が地域の活動に参加し支援するための準備は整ったといえる。

表 1 まなびぃハイスクール参加者の作品(一部)

番号

タイトル

ワンポイント

取材場所

取材日

1

戦争の語り部

戦争を風化させないために

石薬師小学校

99/8/6

2

福祉の店「パレット」

身体の不自由な方達たちが店を作っておられることに感動しました

ベルシティー鈴鹿2階

99/8/4

3

鈴鹿市の助産婦さん

マタニティー教室の紹介。自宅出産を呼びかける助産婦さんの紹介

助産婦さんへのコンタクトは電話で…・。

99/7/19

4

国際ボランティア日本語教室
「AIUEO」

日本語を教えることによる外国人と日本人との交流

河曲公民館・鈴鹿市

99/7/24
99/7/31

5

卯の花の里作り
(女性学級の活動)

石薬師の町作りの女性学級の紹介

鈴鹿市・石薬師公民館

99/7/23


3 企画の実践
 ティーチング・アシスタント生徒に本企画の趣旨を説明したところ,6名の賛同を得た。彼らには「出前型Web作成」用モバイルツールとして,デジタルカメラ・ノート型パソコン・ハンディスキャナを適宜貸し与えてた。ボランティアチームによる現在進行中のプロジェクトは次の3つである。

3.1 信綱プロジェクト
(1) 企画の意図
 歌人であり,国文学者でもある佐佐木信綱は三重県鈴鹿市石薬師の出身である。本校の近所に佐佐木信綱記念館・同資料館があるが,正式なWebページは作られていないようである。そこで「もし佐佐木信綱記念館ホームページを出前したら...」というのが本プロジェクトである。
 今年度の佐佐木信綱顕彰歌会(99/11/27)では,佐佐木幸綱氏(歌人で早稲田大学教授・俵万智の師匠)へのインタービューを行ったが,その際試作品を見ていただいた。佐佐木氏は興味を持ってくださったようだ。

(2) 信綱プロジェクトの展開

活動の種類

活  動  内  容

活動の主体

準備

生徒との事前打ち合わせ
記念館へ出向き,プロジェクトの趣旨説明と取材申し込み

生徒・教師
記念館

第1回取材

記念館への取材を行う。デジタルカメラで記録。

生徒・教師・記念館

Web製作

(1)取材記録の整理。パンフはスキャナで読み込んで文字認識。
(2)全員で信綱の連想語句を抽出しKJ法を用いて絞り込む。
ブレーンストーミングで,ホームページ構成図の検討。
(3)分担してWebページ作成。

生徒・教師

第2回取材

佐佐木信綱顕彰歌会にて佐佐木幸綱氏へのインタビューと,ノートパソコンを利用した試作品のプレゼンテーションを行う。

生徒・記念館

試作品の評価と修正

試作Webページは記念館関係者に見ていただき評価を受ける。評価を元にWebを加筆・修正し完成度を高める。

生徒・記念館関係者など


(3) 活動風景

図 4 Webページの構成を考える

図 5 記念館ホームページ

図 6 幸綱氏へのインタビュー


3.2 防災マッププロジェクト
(1) 企画の意図
 阪神・淡路大震災以後,全国的に活躍するようになった災害救助ボランティアの全国集会「率先市民ボランティア三重サミット」が,近隣の三重県消防学校で開催された(99/12/4-5)。
 サミット2日目の分科会を担当した地元の石薬師自治会は,本校の体育館で「手作り防災マップによる災害図上訓練・Disaster Imagination Game(DIG)」を行った。
 その際に使用された防災マップは,地域住民とともに本校生徒が調査・作成したものである。
 本プロジェクトは,この防災マップをWeb化して,一般に提供する試みである。今後,各自治会が調査・作成した防災マップを,地域住民と本校生徒が協力してWeb化作業を行うことになっている。


図 7 防災マッププロジェクトのWebページ


(2) 防災マッププロジェクトの展開

活動の種類

活  動  内  容

活動の主体

依頼

地元自治会より,防災マップ作成への協力依頼がきた

地域住民

現地調査(予備)

防災マップ作成

公民館へ集合。参加者は60名ほど。
(1)簡単な説明と班分け(5班),役割分担
(2)現地調査(60分)
 記録用地図・カメラ(デジタル・インスタント)・取材メモ用の付箋・計測用のひも(2m)
(3)班毎に防災マップ作成(模造紙・40分)
 デジタルカメラの画像は公民館のパソコンで印刷
(4)できあがったマップで班毎にプレゼンテーション(30分)

教師・地域住民・生徒

Web製作準備

防災マップに使うため,鈴鹿市のデジタル地図データを鈴鹿市の都市計画課よりもらう

教師・行政

Web製作

取材記録の整理。インスタントカメラの写真はスキャナーで。
Web作成にあたっては,地域の人と相談をしながら作業

生徒・地域住民

率先市民みえサミット

災害図上訓練(DIG)に参加。
ノートパソコンで試作品のプレゼンテーションを行う。

教師・地域住民

現地調査

石薬師地区の全自治会のよる,防災マップ作成のための現地調査

地域住民

防災Web作成

調査データを元に,防災Webへの落とし込み
地域住民と生徒が協力して作成する

生徒・地域住民

防災Web公開

本校のWWWサーバにて防災ページを公開するとともに,CD-Rに焼いて関係者に配布する。

教師


(3) 活動風景

図 8 調査風景(道幅を測る)

図 9 地図への落とし込み

図 10 プレゼンテーション

図 11 地図完成(中央が本校生)

図 12 防災Webの作成

図 13 地元の人(右)と共に


3.3 バリアフリーマッププロジェクト
 本校には障害をもった生徒(車椅子使用)が複数在籍しており,共生・共学の教育を展開している。彼らの一人がショッピングタウンに出かけたときの苦労話をきっかけに,バリアフリーマップ(障害を持った人たちのための施設・設備の有無や危険箇所などを記入した地図)を作ろうという声が上がった。


図 14 予備調査(改札口の幅)

 本プロジェクトは,障害を持った生徒と仲間の高校生が,自分たちの手でバリアフリーマップを作成することを通じて,障害者問題への意識を高めるとともに,バリアフリーマップをWeb化して公開することで,情報提供と地域社会への呼びかけの試みである。現在予備調査は済んでいるが,本格的な活動はこれからである。

4 実践の評価
4.1 地域の情報センターとして認知
 学校と地域社会の双方が,お互いに足を踏み入れるようになって,「インターネットは石薬師」という意識が徐々にではあるが地域に浸透しつつある。本校はこれまでも,老人ホームや養護学校等の交流を行ってきたが,この取り組み以降,地域の清掃活動への協力依頼や,小学校・老人会行事への取材依頼(Web作成依頼)が頻繁に届くようになった。

4.2 出前型Webから注文型Webへ
 当初は公民館や授産施設等にこちらから出かけていくスタイルの「出前型Web」を考えていた。「佐佐木信綱プロジェクト」がこのタイプである。ところが「防災マッププロジェクト」のように,逆に地域から,活動への参加とWebの作成依頼を受けることになってしまった。言わば「注文型Web」とでも呼ぶべきものである。仕事は忙しいほどやりがいが沸いてくるものである。

4.3 ボランティアネットワークの広がり
 防災マップに関わる「率先市民みえサミット」に参加した際,他地域で災害・イベントボランティアとして活躍する中高生グループと知り合うことができた。彼らと直接あるいは電子メールでいろいろな話をするうちに,鈴鹿地区でいっしょに活動をしようということになった。現在準備中の「バリアフリーマッププロジェクト」に参加してもらう予定である。

5 実践を終えて
 コミュニケーションメディアとしてのインターネットの可能性は非常に大きなものがある。しかし生徒や教師が実際に地域に出向き,実地にボランティアをすることで「ネットワークの向こう側にも人がいる」ことを改めて実体験することができた。なお本プロジェクトは現在も進行中である。本校の実践について多くの方々から,ご質問・ご意見を頂ければ幸いである。

ワンポイントアドバイス
 ●とにかく地域に出かけてみよう。顔見知りになれば生徒の活動もスムーズになる。
 ●先生自身も取材やボランティアを楽しもう。
 ●モバイルツールはやはり便利。生徒にどんどん使わせよう。

《参考Web・参考文献》
 公開講座「まなびぃハイスクール講座」    http://www.ishiyakushi-h.ed.jp/manabi/
 防災マッププロジェクトホームページ    http://www.ishiyakushi-h.ed.jp/bousaimap/index.html

 i 下村 勉・近藤泰樹・須曽野仁志 地域のまちづくりを応援する総合的な学習としての学習者参画型Webページの試作,三重大学教育実践研究指導センター紀要 1999,第19号,1-6頁
 ii 下村 勉 1997 マルチメディアによる学習者参画型データベースの構築と関心・意欲・態度への効果,平成7年度〜平成8年度科学研究費補助金基盤研究(C)(2)研究成果報告書