ビデオクリップを使った体育学習
小学校6年 体育科
大津市立平野小学校 上杉 康晴
キーワード 小学校,6年,体育,ビデオクリップ
インターネット利用の意図
本校では,平成7年度より,小学校におけるインターネットの利用について研究をすすめ,情報収集や情報発信系などの授業を数多く実践してきた。動画の撮影や編集も,技術的に容易になり,文字や静止画を越えたコンテンツとして学習に利用できるようになってきた。体育学習で,コンピュータ(インターネット)を利用することは少なかったが,動画を利用することで,自分の運動の姿を確認できる有効な手だてになるのではないかと考えた。
今回の実践では,自分の運動を振り返る自己評価活動の一つとしてビデオクリップを使った体育学習を行った。また,ビデオクリップによるデジタル体育図鑑の制作にも試みた。
1 走り幅跳び
(1) ねらい
体育学習では,自分の運動を振り返り,うまくできていないところを改善しようと意欲を持って活動できることが大切である。そのようなときに,ビデオに撮影し,それを見て自己評価することが多かったが,機材的な面から40人の児童が見るには,あまり効果的な学習活動とは言えない。しかし,ビデオクリップとしてネットに組み込むことで,一度に多くの児童が,自分自身の運動について容易に繰り返し確認することができる。また,見本となるような運動を同時に見ることも可能で,具体的に改善点が見いだせる利点がある。積み重ね取り込むことで,自分自身の上達具合を残していくことも可能であり,児童の学習意欲が高まるものと予想できる。
学習単元としては,器械運動や体操領域など体育学習全般について行うことができるが,今回は6年走り幅跳びの学習での利用に取り組んだ。幅跳び学習でビデオクリップを利用した意図は以下の通りである。
・運動の動きが速く,ビデオクリップによる評価活動が効果的である。
・評価活動の後に,改善するための練習の仕方が豊富にある。
・自分の記録の伸びを実感できる。
(2) 指導目標
・ビデオクリップを見て,自分の運動の改善点を見つけることができる。
・記録を伸ばすための練習方法を工夫し,意欲的に挑戦することができる。
(3) 利用場面
(a) 撮影,ビデオクリップ化,ネットへのアップ
(b) 自己評価活動1
単元1時間目の自分や友達の運動のビデオクリップを見て,改善点や練習方法を考える。
(c) 自己評価活動2
単元のまとめの段階に,自分自身の運動の上達具合について,ビデオクリップを見て自己評価する。
(4) 利用環境
(a) 使用機種
教師用
(コンテンツ作成) 自作機 pentiumIII 450 256MB
20GBHD
(サーバ) NEC Mate NX MA45D
PC9821Xa10 |
8台 |
FMV DESKPOWER |
4台 |
COMPAQDESKPRO 590 |
1台 |
ACERTS-PRO |
1台 |
PC9821Xe10 |
1台 |
DELLOptiPlexGxpro | 1台 |
IBM TYPE2411 |
1台 |
IBM 750-P90 |
1台 |
(b) 周辺機器
デジタルビデオカメラ SONY PC-3
デジタルカメラ SANYO DSC-SX150
デジタルカメラ SANYO DSC-X110
ビデオキャプチャーボード canopus DVRaptor
(c) 稼働環境
新100校プロジェクトの終了に伴い,インターネット接続が不可能になっていたが,平成11年度9月,文部省と郵政省の共同事業「先進的ネットワークモデル事業」に大津市が参加したことを受けて,接続(CATV回線使用)が再開された。校内は,夏期休業中に,LANを再整備し,職員室を中心に,メディアセンター,各教室などからのアクセスが可能になっている。
(d) 利用ソフト
動画編集ソフト Adobe premiere
ブラウザー Internet Explorer
2 指導計画(全7時間)
指導計画 |
留意点 |
(a) 幅跳び学習のねらいと進め方を知る。 |
・見本となる動画を例示する。 |
(b) 1回目の計測と撮影を行う(図1) |
・学習ノートを作り,それぞれが自分の記録について残すことができるようにする。 |
(c) 自分の運動をビデオクリップで見て,改善点や今後の練習計画を考える。(1時間) |
★前時撮影した画像は,役割の児童によってブラウザーで閲覧できるように編集しておく。(細部操作は教師が行う) |
(d) 自分の課題を解決するための練習をする。(3時間) |
・個々の課題に応じた練習ができるように場の設定や準備物を用意する。 |
(e) まとめの学習をする。(1時間) |
★最初の姿と最後の姿を比べ,自分の上達した部分について考える。 |
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図2 ビデオクリップを見て交流 |
3 利用場面
(1) 目標
・自分の幅跳びのビデオクリップを見て,改善点を考えることができる。
・友達と運動の様子について交流し,より記録を伸ばすための練習計画を立てることができる。
(2) 展開
学習活動 |
活動への働きかけ |
備考 |
1 本時の学習の進め方を知る。 ビデオクリップを見て,改善点を考えよう 2 ビデオクリップを閲覧し,自分の課題を見つける(図3) |
・活動の見通しを持たせる。
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図4 連写写真 |
4 実践を終えて
(1) 児童の感想から
・自分がどんな跳び方をしているのかを繰り返し見ることができてよかった。
・友達の跳び方と比べながら見ることができたので自分の改善点がよくわかった。
・スローの画像が入っていたのがよかった。そして,大事な場面で一時停止できることもよかった。
・友達に見られることがいやだったけれども,うまくアドバイスしてもらえた。
・違うスポーツでもこんなふうにしてほしい。
(2) 考察として
体育の学習では,自主・自発的な学習を押し進め,運動の楽しさにふれさせながら,運動への関わり方(学び方)を身につけさせることが必要であると言われている。自らの運動の課題を設定し,それを解決する「めあて学習」や「スパイラル学習」といった学習法も定着しつつあるが,取り組むべき課題が児童の実態にあっていない。また,多様化した課題への教師の指導のあり方など,いくつかの問題点もあげられている。
特に,「課題設定」については,自分の運動技量に合っていない場合が多く,学習内容が曖昧になりがちである。効果的な「課題設定」をするには,まず,自分自身の運動の姿を確認できることが重要である。その手段として,今回の実践では,ビデオクリップを利用した。今まで,教師や友達からの指摘により自分の運動の姿を思い描いていた児童は,ビデオクリップを使用することで,より具体的で明確な課題を設定することができた。
また,毎時間,児童の動きを撮影しクリップ化したことで,自分の運動についての足跡を残せたばかりでなく,次の時間への課題も新しく設定でき,児童の意欲の継続が見られた。ただ,幅跳び運動のような各個人の運動能力・運動基盤が大きく左右し,運動の流れが速い競技においては,自分自身の課題を理解しつつも,それを活かすだけの体の統制・制御ができない部分があり,発達段階と運動領域・運動の特性をさらに検討して,より効果的なビデオクリップの利用になるようにしていきたい。
今回,本校では,初めて体育科においてインターネット(コンピュータ)を利用することができた。それもビデオクリップ(動画)が,動画編集ソフトの充実やデジタルカメラ・ビデオの手軽さによってネットに組み込みやすくなったことが大きい。また,本実践では,個人情報保護の観点からイントラネットでの利用になったが,サーバがある程度の性能を備えていれば,端末のコンピュータはそれほどのストレスを感じずに閲覧することができた。今までインターネット上の情報は文字,静止画であった。しかし,これからは,その何十倍もの詳細な情報を与えてくれる動画が主流となってくると思われる。それらの今まで以上に多くなった情報を選択し,分析できる力を情報教育を中心とする様々な教育課程の中で身につけさせていきたい。
5 デジタル体育図鑑
昨年度,4年生の福祉教育のコンテンツとして,ビデオクリップを利用して「手話辞典」を作成した。自分の要求に合わせて簡単に手話を学べることから,教材として大変有効であった。
そこで,幅跳び学習でのビデオクリップの利用を足がかりに,マットや縄跳び,鉄棒などの見本となる運動をビデオクリップとしてネットに組み込み体育図鑑の制作を試みた。(図5)
図5 デジタル体育図鑑のページ
技の名前は知っていても実際にどのような動きをすればいいのかを確認するときや,自分の目標を設定する際にも利用することが可能で,今後,さらに内容を充実させていきたい。
ワンポイントアドバイス |
使用したURLなど
・器械運動支援パソコンプログラム「たくみ君」
http://www.nttl-net.ne.jp/nakabun8/
・横浜市教育課程運営・改善研究委員会体育専門委員会(小学校)公式ページ
http://www.edu.city.yokohama.jp/kenkyu/syotai/kyoiku1.htm