子どものミュージックネットワーク

小学校3・5・6年生
大津市立唐崎小学校 上原崇・松谷正富・栗田隆司
キーワード 小学校,高学年,音楽,ふしづくり,Midi


インターネット利用の意図
 本校では平成8年度にコンピュータの導入が行われ,教科学習の中でのコンピュータの有効利用について研究を進めてきた。校内ネットワークを利用した交流学習や,身近な琵琶湖や川の汚れを調べて地域へプレゼンテーションして訴えていく活動などを行い,実践をすすめてきた。
 インターネットに本年度から接続されたので,「ふしづくり」の単元で作ったふしをネットワーク上で公開し,ボランティアを募って作品として作り上げてもらうことにより,広がりをもった創作活動になるのではないかと考えた。
 今回の実践では,「ふしづくり」の単元を中心に,自己表現活動の意欲を高める手立てとして,ネットワークを利用した。児童だけではできない作曲・編曲を専門のボランティアに手助けをしてもらうことにより高めていく実践を行っている。


1 ふしづくり
ねらい
 音楽学習では,歌ったり楽器を演奏したりすることが多く,表現領域の大部分が既成の曲を演奏して表現する時間に充てられてきた。しかし,若者の音楽の感受性は以前よりも高いものがあり,児童の中にも自分たちで表現したいという意欲が高まりつつある。学習指導要領音楽科の表現領域(4)では「音楽をつくって表現できるようにする」と示されており,「ふしづくり」を学年の発達段階に応じて指導している。しかし,あまり多くの時間は割かれていない。
 ここでは,「自分の作ったふし」を知的財産として児童個々に認識させ,作品を多くの人と共有することによって,「ふしづくり」の意欲を高めていきたい。さらに,外部のボランティアに自分たちのふしを曲として仕上げてもらうなどの活動により,学校外の人との交流も図っていきたい。3年生と高学年(5年生・6年生)において実践授業を行った。
(1) 指導目標
(a) 音楽科のねらい
 3年生 音の組み合わせを工夫し,簡単なふしをつくる。
 5年生 自由な発想を生かし,簡単な旋律をつくる。
 6年生 曲の構成を工夫し,簡単なリズムや旋律をつくる。
(b) 情報教育のねらい
3年生 
・自分の作った曲を保存して,級友にも味わってもらう。
・Midi対応の楽器・絵音符のソフトウェアを使い,自分の作ったリズムを入力する。
・友だちの作ったリズムを,ネットワークを利用してコンピュータで聴き,感想をもつ。
高学年(5年生・6年生)
・自分の作った曲をWeb 上に配する事によって,広く校内に公開する。
・Midi対応の楽器・ミュージックソフトウェアを使い,自分の作った旋律をコンピュータに入力し,楽器(音色)を変えて,自分の曲想にあった曲に仕上げる。
・友だちの作った曲を,ネットワーク経由で聴き,感想を相手にメールで送る。
・外部の人(インターネット利用)に自分たちの曲のアレンジをお願いし,つっくた曲を深まりのあるものに高めていく。(発展学習)
(2) 利用場面
(a) 入力・・・Midi対応の楽器の利用,Midiソフトウェア(低学年用・高学年用)を利用してのMidiファイルの作成
(b) 評価活動・友だちのファイルを開き,曲を聴く。感想を持ち,交流する。
(c) 発信活動・自分たちが作った曲をインターネットを利用して編曲をお願いする。
(3) 利用環境
(a) 使用機種
 サーバ       NEC Mate NX MA45D・Gateway P135XL 各1台
 教師用       NEC Mate MX MA40D    1台
 コンテンツ作成用  NEC Mate NX MA30H    1台
 児童用(総合学習室)NEC PC9821Cf16              6台
                  IBM Aptiva H65              2台
                  NEC Mate NX MA35H  4台

(b) 周辺機器
 Midiキーボード YAMAHA CBX-K1 ,Midiリコーダー YAMAHA
 デジタルカメラ Fujifilm Finpix700 ,スキャナ NEC MultiReader 300U
(c) 稼働環境
 平成11年度9月,文部省と郵政省の共同事業「先進的ネットワークモデル事業」に大津市が参加したことを受けて,CATV回線にてインターネット接続が開始された。校内では,平成9年度よりLANの設備が整っており,職員室,総合学習室(旧コンピュータ室),同準備室および障害児学級からアクセスが可能となっている。
(d) 利用ソフト
 YAMAHA Hello Music for Windows(CBX-S1)の付属ソフト
 音符入力    3年生 ドレミファキッズ(東京書籍)
              高学年 MUSIC PRO for Windows(Lite)
 ブラウザ    Internet Explorer 5.00

2 指導計画

    図1 3年生用の入力画面               図2 高学年用の入力画面

単元名「ふしづくり」     全6時間

指導計画

留意点

3年生

5・6年生

(a)「ふしづくり」をして,自分たちで曲を作ること,それをお互いに交流し合うことを知る。
ふしづくりの進め方について知る。

・見本となるふしを例示する。

(b)(c) 示されたリズムをもとにしてふしをつくる。

・各学年とも発展として,意欲のある児童はリズムを変えることも認めていく。
・友だちと協力して創作できるように働きかける。

鍵盤ハーモニカや縦笛・鉄琴などでひいてみる。
コンピュータで入力。(図1)
いろいろな楽器の音色にして演奏してみる。

コンピュータに入力し,イメージに合った楽器を選び演奏したり,自分でイメージに合った楽器を選んだりして演奏する。  (図2)

(d) 出来上がった曲を友だちと交流をする。
★インターネット(イントラネット)利用

★前時につくったふしを,役割の児童によってブラウザで閲覧できるようにしておく。(図2)
(細部は教師が行う)

校内ネット上でお互いのふしを聴きあって感想を持つ。
友だちに感想を伝える。

ネット上でお互いのふしを聴きあって感想を持つ。
メッセージ機能を使って感想を伝える。

 インターネット上で,作曲・編曲・アレンジをボランティアにお願いする。
検索サイトに公開して,広くボランティア作曲を募る。
★インターネット利用
Web 上での実際の交流は,児童の代表が行い,
教師が直接支援する。

★ネット上へのアップについては,教師が行う。
・ボランティアへのお願いの文章は高学年児童の代表に作成させる。

(e) できた曲を演奏して,校内およびWeb上に公開する。
★インターネット(イントラネット)利用

★ネット上へのアップについては教師が行う。
★演奏したファイルはMP3形式でWeb上にて公開する。

(f) ボランティアへの礼状をメールにて送る。
★インターネット利用(メール)

3 利用場面(5年生の事例)
(1) 目標
・友だちのつくった作品の曲想を感じ取って聴くことができる。(鑑賞)
・友だちに感想のメッセージを送るなどして,交流を行う。
・友だちからのメッセージを生かし,よりよい曲作りをしようとする。(意欲)
(2) 展開

学習活動

活動への働きかけ

備考

1 本時の学習の進め方を知る。

・活動の見通しをもたせる。

・グループで交流することを伝える。
(グループは3名単位)

 

友だちの作品をたくさん聴こう。
友だちの感想をもとによりよい曲にしあげよう。

 

 

2 友だちの作品を聴く。(図3)

・作品ノート[i]を参考に,曲想を感じながら聴くようにさせる。
・興味のある作品については,自分でリコーダーを演奏してみるなどの活動も提示する。

・音量は,周りの迷惑にならないように事前に調整をしておく。
・聴き取りにくい場合は必要に応じてヘッドフォンを利用する。

3 聞いた作品の感想を友だちに返す。

・メール[ii]での返信は,遠距離の交流にも必要となるので,利用させる。
・苦手な児童には,カードも併用して直接感想を渡すようにさせる。

・コンピュータの台数の関係から,グループ単位でメールを利用して感想を交流する。

4 グループで振り返る。

5 曲を直したい児童は,入力しなおす。
              (図4)

・感想やグループの意見をもとに,より高まった作品に仕上がるように働きかける。

・Midiキーボードを使っての再入力か,ソフトを使って楽譜の修正をする。どちらを選ぶのかは児童の選択。


 図3 他の班の人の音楽を聞く       図4 キーボードによる入力

4 実践をして
(1) 児童の感想(5年生)
・音色をいろいろと変えることができて,曲の感じが変わって気に入った曲になった。
・音符の入力が思ったより簡単にできた。
・友だちの曲をいろいろきけて,「あっ,こんな曲もあるのか,いいな」と思えた。
・ドレミファキッズを使って入力するのが楽しかった。
(2) 考察
 音楽科の学習における表現は,音を使う性質上,目に見える形として残りにくい。表現の活動を振り返ったり級友との交流に資する場合は,従来ならば録音テープ等のメディアを用いることが多かった。しかし,その都度メディアを挿入し再生するなどの活動は,簡便性と流通性の二面で大きな障害となっていた。コンピュータはファイルとして簡単に音声を扱うことができ,特にWeb 上での利用は簡便性・流通性において利用の価値が高い。実際,児童はネットワーク上で自由に友だちの曲を聴くことができ,活動に専念できた。音楽科においてインターネット(含イントラネット)を利用することは,目に見える形に残りにくい音声ファイルの性質を考えると,きわめて有用性が高いことが明らかになった。
 今回の「ふしづくり」では,Midiファイルを用いた。Midiファイルの特徴としては,ファイルサイズが小さいことと,音色やテンポをさまざまに変更することが可能ということである。音色やテンポを自由に変更できることにより,「ふしづくり」では,児童個々の思いに近い作品をさまざまに試行錯誤する時間が保証されることになる。児童にとっても音色が変わることは興味を引く要因となり,いろいろな楽器の音を割り当てて何度も自分の作った曲を聴いていた。二つ目の特徴である,ファイル容量が小さいということは,低速な通信回線上での流通性を高めることにつながり,児童が自宅で電話回線を使って自分の作品を聴くという利用形態でも十分実用に耐えられた。
 今回,Web 上での音楽科の利用が可能となったのは,ネットワーク基盤の整備と専用線によるインターネット接続が行われたためである。今回の事例にあるMidiファイルは別として,音声ファイルは一般にその容量が大きく,低速な通信回線ではその有用性を発揮できない。本校では音楽会の演奏を保護者に公開する際には,MP3形式を利用した。それでも高圧縮で1分あたり500Kバイトの容量があり,インターネット上での公開には注意書きが必要であった。
 音楽が嫌いな児童の理由の一つに,楽器の演奏が苦手という子どもが多い。早くから音楽に親しんでいない環境にある児童の中には音楽の時間を苦痛と感じる子どももいる。手軽に音楽が表現でき,自分の思いで自由に音色やテンポを変えて演奏させることができる環境は,音楽を表現する意欲を高める面からも必要であると考える。
 外部に広く公開して,作品を仕上げていただくボランティア募集については,現在活動を継続中である。

5 音楽科での利用にかかわる著作権について
 音楽をWeb 上で扱う際に避けて通れない著作権の問題について考察した。
(a) 一般的な楽曲の利用
 学校教育といえども,音楽著作権者に無断で楽曲を利用することはできない。日本では,JASRAC[iii]が音楽著作権については一元的に管理をしているので,利用に際しては,必ず問い合わせをして,必要ならば著作権料を支払って利用することになる。ネット上での公開となれば,著作権者に対しての権利の侵害は大きいものとなり,許されることではない。民謡や唱歌または作家没後長年月の楽曲などについては,著作権が消滅しているものも多い。児童の演奏や歌唱を公開するのであれば,こういった曲を選んで利用するなどの工夫が必要であると考える。なお,本校では自作の音楽組曲をWeb上で公開している。
(b) 児童生徒の作曲した楽曲について
 インターネットを使った交流学習では,空間的距離を越えての相互の交流が以前に比べてやりやすいことが最大のメリットである。しかし,本事例では,もとになるふしは児童,作曲や編曲は教師や外部のボランティアが関わることになる。完成した作品の著作権については,事前に指針を明確にしておく必要がある。本校では,Web ページ上でもボランティアの方に承認を求め,基本的には学校の著作物として扱うこととした。もちろん作成に関わったもの全員に著作人格権があるわけであるから,学校が外部(Web上)に公開することについては,了解をとった上で行っていきたいと考えている。

ワンポイントアドバイス
Midi対応の多様なデバイスを利用することにより,児童の演奏そのものがリアルタイムに入力でき,マウスを使った入力より効果的である。Midiファイルは容量が小さいためネットワーク上でのファイルの扱いは容易である。
 しかしインターネット上での音楽コンテンツの流通については,常に音楽著作権のこを念頭においておく必要がある。児童生徒が授業中に作曲した音楽などで,教師や専門家の助言指導で完成した曲の場合の著作権のあり方については,校内で明確に明文化した指針を作成する必要がある。

利用したURLなど
 JASRAC著作権のページ (http://www.jasrac.or.jp/license/network/index.html)
 Midiのページ (http://www.yamaha.co.jp/edu/student/freiend/index.html)

i 作った曲に,情景や気持ちなどを一言付け加えておく。(例:「夕焼けをみた気持ち」等)
ii 今回の授業では,教師側で事前にWeb上にリンクをつくっておいた。
iii 日本音楽著作権協会 (http://www.jasrac.or.jp/)


[i]作った曲に,情景や気持ちなどを一言付け加えておく。(例:「夕焼けをみた気持ち」等)

[ii]今回の授業では,教師側で事前にWeb上にリンクをつくっておいた。

[iii]日本音楽著作権協会 (http://www.jasrac.or.jp/)