生徒の「自ら学ぶ意欲」を引き出す情報教育のあり方を求めて
−マルチメディア教育の環境活用の工夫−

中学校第3学年・国語科
長浜市立北中学校 廣部 豪男

(URL = http://www.biwa.ne.jp/~kita-jhs/)
(E-Mail = kita-jhs@mx.biwa.ne.jp
)
キーワード 中学校,3年,国語,インターネット,地元情報,共同学習,支援者


インターネット利用の意図
 本校では,広く学校教育全般をとおして,「情報活用能力」として,次の4つの育成を図りたいと考えている。
A.情報機器活用能力……主としてコンピュータやソフトを操作する力
B.情報処理能力……情報の価値を判断たり,必要な情報を選択したり,集めた情報を整理したり処理したりする力
C.情報発信能力……新しい情報を創造したり伝達したりする力
D.情報モラル……正しく情報を取り扱うマナー
 教科等の指導・学習において,コンピュータやインターネット等のマルチメディア環境を中心に,他の視聴覚機器・資料や図書などと組み合わせた効果的な活用形態を工夫していけば,生徒の「自ら学ぶ意欲」,すなわち,学習に対する興味・関心・思考力・創造力・判断力等を引き出し,生徒にとって「楽しい授業」「やりがいのある授業」が展開でき,さらには,特色ある教育活動が実践できるのではないかと考えた。
 そこで,課題解決的な学習を導入しつつ,生徒が教室の枠にとらわれず,情報収集や発信の方法を考えて実践できる学習に取り組むこととした。
 また,情報倫理に関わる指導も,インターネット上の諸問題について自ら考える場を設け,ネットワークでのコミュニケーションのあり方や問題点,情報の信頼性,信憑性,善悪などを正しく判断できる力を養いたいと考えた。
 そのために,以下のような実践研究を行ってきた。
(1) 生徒の興味・関心に応える学習指導の実践
○社会科 第2学年 地理的分野 (テレビ会議を用いた交流学習)
○国語科 第3学年 古典 (インターネットを活用した共同学習)
(2) 各教科等の年間指導計画の調整
(3) 活用のモラルの向上のためのプログラム作成
(4) 職員研修の計画的実施
以下,(1)の授業実践の事例の一つを紹介する。


1 国語科 第3学年 古典「おくのほそ道」を探訪しよう
(1) 単元設定によせて
 「奥の細道」は,周知のように,俳諧紀行文である。そのため,「おくのほそ道」のルートに当たる学校や芭蕉とゆかりのある地域の学校などと下記のような内容で交流することにより,古典の学習だけでなく,生徒のコミュニケーション能力を伸ばす学習を併せて実践できるのではないかと考え,今回,インターネットを活用した学習を計画した。
ア 芭蕉縁の地や施設(社寺など)の情報
イ 芭蕉関連の記念館などの情報
ウ 芭蕉句碑の情報
エ 芭蕉像の情報
オ 芭蕉に関する伝承の情報
 幸いにして,滋賀県は,芭蕉とは縁のある土地柄で,「おくのほそ道」と並び称される「幻住庵の記」は,石山(大津)の幻住庵に滞在した折りに書かれたものである。また,芭蕉の眠る墓も義仲寺(大津市)にある。長浜からは,少し遠いが,これらもまた,子どもたちの古典や郷土への目を開かせる題材になりそうである。
 また,地元の施設や句碑を調べ,地域の人々の芭蕉への思いに触れることも豊かな体験となると考えた。
(2) 単元のねらい
ア 古典に興味を持ち,古人の思いを偲ぶ。
イ 芭蕉が体験した人や自然とのふれあいを,インターネットを活用して追体験する。
ウ 自分たちの得た情報を発信することにより,学びの輪を広げる。
(3) インターネット活用の具体的な活動場面
ア 芭蕉の歩いた奥の細道をインターネット(Web Page)を使って探訪しよう。
イ メールによって情報を収集しよう。
ウ 学習したことをWeb Pageにして発信しよう。
エ メールで情報交換をしよう。
(4) 情報教育としての評価の観点
ア 新しい情報を意欲的に創造することができたか。
イ 必要な情報を取捨選択し,活用できたか。
ウ ネチケットを守って,ネットワークを活用しようとしたか。
エ 情報の真偽を正しく判断しようという態度が身に付いたか。
(5) 利用環境
ア 使用機種 Windows マシン(各種混在)
イ 周辺機器 スキャナ,デジタルカメラ,VTR
ウ 稼働環境 コンピュータ室 Windowsマシン 12台(64Kでインターネット接続)
エ 利用ソフト Internet Explore5.0,AL-Mail32,HOTALL,PaintShop,

2 指導計画
(1) 芭蕉や「おくのほそ道」について概要を知る。
<1> 事前調査(芭蕉についてのイメージや今回の学習に期待すること)
<2> 音読練習をする。
<3> 冒頭部分の概要を把握する。
<4> 芭蕉の芸術観,人生観について知る。
<5> 図書資料やWeb Page閲覧により,課題意識を持つ。
(2) 発展学習
<1> 学習のねらいや方法を知る。
<2> 学習計画を立てる。


   
1 Webでの調査

<3> 活動の選択と調査活動(課題別グループ学習)
ア 芭蕉の「おくのほそ道」ルート探訪
(a) 俳句の生まれた背景を調べる(土地の風土)
(b) インターネットでできること(ネット探訪, 協力者へのメールでの質問)
(c) それ以外の方法でできること(図書,資料,VTR)
(d) 俳文の解釈
(e) 俳句の鑑賞
イ 地元と芭蕉(奥の細道ルートに関して)
・芭蕉のたどったルート調べ(実地調査,文献調査)
ウ 地元と芭蕉(芭蕉句碑探訪)
・句碑についての取材
・句碑探訪,取材(インタビュー,図書,資料,写真撮影)
・芭蕉関連施設の取材
・探訪,取材(インタビュー,図書,資料,写真撮影)
・芭蕉と滋賀県(図書資料,資料,探訪,パンフレット)


   
2 市内の句碑探訪


  
3 取材結果の編集作業

[チェック1 Web Page探索]
 情報の真偽……ある一つの情報だけを見て判断せず,多角的に調べることの意義
[チェック2 様々な角度からのデータ収集]
 Web Page,書籍(図書室,市立図書館など),パンフレット
 実地調査,インタビュー(地元の協力者)
 メール(企画の協力者,公的な学術機関,地方自治体の観光課,研究者など)
[チェック3 E-mail(目上の方への依頼文):チェックリスト]
 (URL = http://www.biwa.ne.jp/~kita-jhs/basyou/study/check_mail.htm)
<4> 調査結果の整理(Web Page化……情報発信&交流のため)
 調査活動のポイントにより,まとめる。
 [チェック4 Web Page作成…価値ある情報,著作権,見やすさ:チェックリスト]
 (URL = http://www.biwa.ne.jp/~kita-jhs/basyou/study/check_web.htm)
(3) まとめ(情報交換……参加校が,時期を調整して実施。)
○調べた地元情報などを発信し合う。
○発信された情報に対して,意見や質問を送る。
ア 芭蕉の生まれ故郷の近くの学校と (三重県松阪市立中部中学校)
イ 芭蕉の終焉の地の学校と (滋賀県大津市立石山中学校)
ウ 芭蕉のゆかりの地の学校と (滋賀県甲賀郡信楽町立信楽中学校)
エ 本校(長浜北中)は,「おくのほそ道」のルートの学校の立場で参加
[チェック5 E-mail(同世代の他校生へのメール):チェックリスト]

3 共同企画「芭蕉ネット」プロジェクトについて

共同企画「芭蕉ネット」のページ
  (URL = http://www.biwa.ne.jp/~kita-jhs/basyou/index.htm)


(1) 共同企画への参加の呼びかけ
 今回の企画への参加を呼びかけるにあたって,WebPageを準備した。内容は,企画の概要説明と滋賀県内の芭蕉関連の情報,「おくのほそ道」関連のリンク集などである。
 企画への参加の呼びかけには,全国ネットのメーリングリストへ投稿したり,関連地域の知人に依頼して,地域ネットのMLで呼びかけていただいたりした。また,ルートに当たる市町村の学校へもダイレクトメールを送った。
 その結果,残念ながらルートに当たる学校からの授業としての参加の申し出はなかったが,芭蕉にゆかりのある三重県から1校,滋賀県内から2校,計3校からの申し出があった。また,東北各県や三重県などから多くの方(計11名)が学習支援を申し出てくださった。
(2) 参加校,支援者に関する課題
 今回の取り組みの難しさは,学校規模やインターネット利用環境が異なる複数の学校間での取り組みの調整である。また,多くの支援者の方への連絡調整も必要である。


    図1 共同企画「芭蕉ネット


 そこで,参加校より,メーリングリストを立ち上げてはどうかとの提案があった。
 今回は,かなりの広がりをもった取り組みで,参加校により,実施時期も違うため,他校の取り組みの情報を把握しながら自校の展開を図って行かなくてはならない。その連絡調整のためには,こうしたMLは,非常に有用である。
 そこで,支援者のお一人が勤務される三重大学教育学部附属教育実践総合センターのサーバを提供していただけることになった。また,サーバの管理は,参加校の技術・家庭科担当の先生がしてくださることになった。
 

(3) Mailing List「芭蕉ネット」について

 <運営の基本方針>
 趣旨:芭蕉を介したお互いのつながりの中で,授業実践の打ち合わせや学習支援,「芭蕉」に関する情報交換を行う。
 期間限定(終了後は,別の形で継続する予定)
 ※現時点は,クローズド(非公開)
 
4 実践を終えて

(1) 当初の願いは,「おくのほそ道」のルートの学校との交流を図れないかというものであった。
 
ダイレクトメールや知人を介しての呼びかけなどを行ったが,該当する各校のインターネット接続環境が,まだ十分整備されていないためであろうか,それとも,3年生の受験期を控えた時期が影響したのであろうか,結局,学校単位での参加は,三重県1校,滋賀県3校となった。
 しかし,今回の取り組みにおいて,ネットワークのつながりの中で,「芭蕉ネット」のみなさんは申すまでもなく,それ以外にも多くの方の支援をいただきながら,取り組みを進められた。こうしたみなさんの善意による支援自体が,生徒にとってネットワークや人と人とのつながりの本質を学ぶ素晴らしい体験の場となった。
(2) メディアの効果的な活用について
 インターネットを初めて体験する生徒には,Web Pageにはあらゆる情報があるような錯覚に陥りがちである。しかし,課題を解決しようと取り組んでいくうちに,インターネットの限界にも気づき始めるようである。そして,次に,従来彼らが用いてきた調べ学習の原点ともいえる書籍に目を向けるようになる。
 生徒は,自主的に学校の図書室だけではなく公立図書館にも足を向け,書籍を探し出して来た。このことは,メディアの活用という観点から言えば,彼らが体験の中で見つけた方法であり,多いに評価できる点であると考える。
(3) ネチケットに関連して
 生徒は,外部の方との交流の生活体験が乏しいためか,メールにより依頼文や礼状を書く際には,相手の立場に立って文章を作成することを訴え続けた。もちろん,敬語などの言葉遣いにも配慮した。
 また,これらを自分たちで自覚して点検させるために「メールのチェックリスト」も作成した。このチェックリストは,技術・家庭科の情報基礎で,メールの交換実習の場でも活用したため,生徒の意識付けに大きな効果があった。

ワンポイントアドバイス
(1) 共同学習や支援体制の構築
 こうした交流学習や共同学習の相手校は,諸条件がそろわないと,なかなか「さあ,やろう。」というわけにはいかない。今回の取り組みの場合,関連地域のネット上での友人たちに地域MLなどで呼びかけていただいた。その中から,私的に支援を申し出てくださる方も現れた。
 参加校4校,支援者11名の大きな輪ができあがり,その連絡調整に,MLを活用している。この中では,互いの授業展開の連絡や相談,芭蕉関連資料の紹介などがされている。
 これらの方から寄せられる情報により,学習内容が大変豊かなものになった。
(2) 調べ学習に於ける著作権等への配慮
 素晴らしい資料が見つかっても,著作権の関係で,Web Pageで発信するわけには行かない。現在の著作権法下での参加校間の情報の共有の方法の工夫が必要である。


参加校
 三重県松阪市立中部中学校,滋賀県大津市立石山中学校,滋賀県甲賀郡信楽町立信楽中学校

本校の取り組み紹介のトップページ
 Eスクエア(e2)・プロジェクト 平成11年度 学校企画
 (URL = http://www.biwa.ne.jp/~kita-jhs/kenkyu/e_square/e-square.htm)