学校図書館でインターネットを活用する

高等学校・図書館教育
滋賀県立八幡工業高等学校 奥 富雄
キーワード 高等学校,3年,1年,社会科,国語科,美術科,インターネット,学校図書館


インターネット利用の意図
  学校図書館は,読書指導を通じて生徒の心や教養を育むばかりでなく,学習センターとして授業に役立つ教材を豊富に用意し,生徒の知的好奇心を刺激するような存在でありたいと願っている。そのために,従来の図書資料ばかりでなく,インターネットによって得られる情報も活用して,調べ学習を支援する体制を整えることにした。多様で豊富な情報に接する驚きや発見を通して,生徒たちの情報整理能力や情報活用能力を育成したい。


  はじめに
  本校は平成10年度から3年間,文部省の光ファイバー事業の研究指定を受け,校内にネットワーク網を設置して,全校をあげてインターネット活用に取り組んでいる。図書館にも端末をのばして,今年度からインターネットが利用できる環境になった。
  これから紹介する3つの授業事例は,いずれも図書館を利用して,約1万5千冊の図書資料とインターネットから得られる情報を使って行われたものであるが,最終段階では図書館にある1台のコンピュータでは到底間に合わず,情報電子科のコンピュータ室に移動して,40余台のコンピュータを使って授業を行うことになった。
利用環境
(a) 使用機種    ホームページ VectraE 
(b) 稼動環境    図書館  ホームページ Vectra E  1台
        コンピュータ室  ホームページ Vectra E  44台
        (100Mbps LAN, 1.5Mbpsでインターネット常時接続)
(c) 利用ソフト  OS: Windows NT,   Workstation Internet Explorer 4.0

2 授業事例T 世界史3年 テーマ別学習 「20世紀の世界」  (担当 奥 富雄) 
(1) 授業目標
 この数年来,年間の授業計画のなかに,生徒が各自でテーマを設定して,レポートを作成し,クラスで報告,討論するという参加型の授業時間を設けている。講義式の一斉授業が,時には,教師の側からの一方的な知識の伝達にとどまるという反省をこめて,生徒が主体的に参加する授業を目指している。レポート作成のため,生徒は,図書館で各自のテーマに即して,書籍や資料を活用しながら調べ学習をおこなっている。    
 今回の取り組みは,本年度より本校にインターネット通信網が設置されたので,授業にインターネットを活用しての調べ学習を取りいれた。
(2) 指導計画
(a) テーマ設定(参考資料は,教科書.資料集.『朝日クロニカル週刊20世紀』を活用)
 ・20世紀に起こったさまざまな出来事のなかから自分が最も関心のある社会現象・問題についてテーマを設定する。
(b) 図書館で書籍,資料を活用しての調べ学習100分。 生徒が利用した書籍 約150冊
 ・各自がテーマに即して資料を収集。生徒の要望を聞きながら書籍,資料を提供。(図書館司書の協力は大切)
(c) ★インターネットを活用しての調べ学習100分。
 ・各自のテーマに即して検索のためのキーワードを準備する。
 ・単に情報を収集するのでなく,自分の疑問に応えてくれる資料かどうかを選択する必要があることなど,事前に指導。
(d) 作成したレポートを各クラスで発表,討論,感想交流など。
(3) 授業を終えて 
(a) 生徒の感想
・思っていたよりも情報量が多くて調べるのに結構手間取った。とても興味深い事ばかりあって,インターネットはとても素晴らしい情報網だと思った。
・インターネットは資料が多く,色々な大学の先生のホームページがあるため便利だった。でも数多く検索しているうちに,関係のないものまで出てくるので,目的のURLにいくまでが大変だった。
・今回,初めてインターネットの授業をしたが非常によかったと思う。ネットで検索すると短時間でくわしくたくさんの情報が手に入るので社会の授業にはちょうどよい。
・インターネットは簡単に資料が探せて便利だった。
・自分のテーマにそって,インターネットで調べる事が難しかった。なかなか調べたいことが見つからなかった。けれど勉強になった。
(b) 下記の表はアンケートの結果を集約したものである。アンケートはA図書館で書籍,資料を活用しての学習,B.インターネットを活用しての学習の両方から得た情報や資料が,各自のテーマに即し役立つかどうかを聞いたものである。(◎大変役に立つ○役に立つ 無記入はふつう,として表記。)生徒が大変役に立つというURLについては,その一部(ア〜オ)を参考のために記載する。紙幅の関係で24テーマを表記。

      テーマ

1.世界恐慌の原因と対策,ニューディール政策は成功したか

2.チェルノブイリの事故,現在の状況

◎ ア

3.キング牧師と公民権運動

4.マルコムXについて

5.スターリンと大粛清

 

6.アメリカの威信をかけた宇宙開発,アポロ計画

7.朝鮮戦争の原因と経過,日本経済への影響

 

8.チャップリンのアメリカでの活動と追放

 

9.ナチスヒトラーのユダヤ人迫害と強制収容所

◎ イ

10.アンネ・フランクの隠れ家での生活

11.メキシコオリンピック表彰式で黒人への差別に抗議(陸上)

 

12.ベトナム戦争,枯葉剤の影響について

 

13.南北問題とは何か。NIES経済について

 

14.アウンサン・スーチーさんのおこなった民主化運動とは何か

 

15.日系アメリカ人が収容所に送られた理由

16.日本のインドシナへの侵略について

 

17.第五福竜丸・ビキニ環礁での被爆について

◎ ウ

18.沖縄の返還と米軍基地の問題

◎ エ  

19.中東の石油戦略,オイルショックの日本への影響

20.ベルリン封鎖と東西ドイツの成立,「壁」の崩壊について

◎ オ  

21.クルド人問題とは何か(民族自決・分離独立問題)

22.マザーテレサの救済活動について

 

23.ガンディーと非暴力・不服従運動について

 

24.ゴルバチョフのすすめたペレストロイカの目的と成果


関連URL
ア チェルノブイリへのかけはし http://www.asahi-net.or.jp/~zi2s-nr/index.htm
イ ドイツにおけるナチズムと戦争の記念碑・記念館一覧
     http://www.europa.aichi-edu.ac.jp/minami-seminar/doitsu-sensou-kinenhi.htm
ウ被爆者のお話を聞き,第五福竜丸を見学するつどい
     http://www.bea.hi-ho.ne.jp/three-cホームページeaces/AR/ar990720-2.html
エ 米軍関連の主な事件故 http://www.okinawatimes.co.jp/spe/spe_incident.html
オ ベルリンの壁 写真館  http://www.cablenet.jp/~taka-non/
学習指導で参考にしたURL 歴史学関係リンク集
     http:// www.h-web.org/links1.shtml

2 事業事例II 国語II 3年 『近江の文学』 (滋賀県国語教育研究会編)の鑑賞
                                      (担当 宇野 久七郎)
(1) 指導目標
 近江は歴史の宝庫であるばかりでなく,文学の世界でも,そこに生きる人間の生活が美しい自然と共に語られてきた。その伝統を受け継ぎ,さらに発展させるために,滋賀県国語教育研究会が編集した『近江の文学』(京都カルチャー出版)を使用して,郷土の文学に興味を持たせたい。さらに,図書館資料やインターネットを活用して,作家の著作への関心を高め,作品の舞台となった郷土への理解を深めるように指導したい。
(2) 指導計画
 『近江の文学』を読ませて,興味を持った作品や作家を挙げさせ,同一作家ごとにグループを作って,調べる内容についてそれぞれ分担をきめさせる。図書館での調べ学習の時間には,図書資料だけではなく,インターネットで出版情報や市町村のホームページにもアクセスして,情報を収集するように指導しておく。
(3) ★インターネットの活用
(a) 作家の著作への関心を高める
 出版流通関係団体のホームページへアクセスして,作家の著作に関する書誌的事項を検索して,ブックリストを作成する。生徒はこのリストを参考にして,さらに読みたい本を見つけたり,図書館にある本を探し当てたりした。作家の著作に関しては,従来の図書資料でも断片的には調べられるが,インターネットで検索すると最新の正確な出版情報が網羅的に得られるという利点があり,実際に本を入手するための絶好の手段となる。
(b) 作品の舞台となった郷土への理解を深める
 作品の中に登場する地名から関係市町村のホームページへアクセスして作品の背景となった地域の特色について学習し,またこれに関わる伝説や物語がどのようにホームページに取り上げられているかを再確認した。作家や作品に関する情報収集に留まらず,郷土の歴史や文化,自然に関する様々な情報に触れることができたため,生徒たちは,身近な郷土を再発見して感動することもあった。
関連URL
 TRC図書館流通センターhttp://www.trc.co.jp/
 日本書籍出版協会http://www.jbpa.or.jp/
 HIR-NETリンク集滋賀県.近畿地方
 http://www.hir-net.com./link/livecam/shiga.html#biwako
 彦根市役所ひこねっとhttp://www.city.hikone.shiga.jp/
 北びわ湖ホームページhttp://www.kiis.or.jp/kansaida/kitabiwako/

4 授業事例III 美術I 1年「美術作品鑑賞と検索」(担当野口豊)
(1) 指導目標
 美術における総合的な理解を深め,作家の心情や作品の意図,表現の工夫などを知るために作品鑑賞の時間を設けている。従来,教科書の図版を見るだけではなく,図書館を使かって美術全集や画集で興味を持った作家や作品を調べる学習をしてきたが,ここでは図書に設置されたでインターネットも活用して,作家や作品の情報を得ることにした。また,検索で得た情報により,世界の美術館にリンクして,更に多くの美術作品に触れることで美術作品鑑賞の環境の幅を広くしていきたい。
(2) 指導計画
(a) 教科書などから各自が興味を持つ作家や作品を選ぶ。
・教科書等を使って世界,日本の主な美術作家や作品を紹介。
(b) 図書館に移動し,書籍,資料を活用しての調べ学習。
・各自が興味を持った作家や作品の資料を収集。
・生徒の要望を聞きながら書籍,資料を図書館司書とともに提供。
(c) 図書館でインターネットを活用しての調べ学習。
・書籍や資料で得られなかった作家や作品の検索のためのキーワードを準備する。
★検索エンジンを使って作家や作品を調べる。
★リンクしている途中で興味を持った美術館のホームページのURLを記録。
(d)コンピュータ室に移り,インターネットアクセス。
★各自が図書館で得た情報をもとに日本,世界の美術館のホームページにアクセス。
(3) 利用場面
(a) 検索エンジンをお気に入りに追加。
・各自が校内 LAN上でIDを持っているので検索エンジンはすぐアクセスできるようにしておく。
(b) キーワードの設定
・はじめ設定したキーワードだけではなかなか検索できなかったり,情報が余りにも多すぎることから,キーワードはよく考えて検索するようにアドバイス。
(c) 美術館リンク集を紹介
・各自が検索エンジンから見つけた美術館のホームページのURLだけでなく,日本,世界の美術館を集めたリンク集を持ったURLを紹介して多くの仮想美術館にアクセスできるようにする。
(4) 授業を終えて(生徒の感想から)
・人数が多いので検索には順番を待たなければならないので図書館にももう少しインターネット用のコンピューターを増やしてほしかった。
・選んだ作家「ピカソ」のキーワードだけでは絵とか美術ではない情報もあって選ぶのに苦労した。
・行ったことのない美術館や聞いたことのない美術館が多くて,どれを選んでアクセスしたらいいのか迷ったが,どんどんクリックしていくうちに「えっ,こんな美術館にもゴッホの作品があるんや」とかいろいろ感心した。
・外国の美術館はほとんどが英語なのでわからないままに進んで行ったけれどタイトルの言葉ぐらいは解るようになりたい。また,できたら気に入った絵をダウンロードしてプリントアウトもしてみたい。(ここは白黒しかないけれど)
(5) おわりに
 今回の試みで「美術館」は遠いものではなく,気軽に訪問できるところで,将来,機会があったら「インターネットで見つけた海外の美術館にも行ってみたい」など,美術鑑賞を生活や生き方を豊かにする一つの方法としてみることができたと思う。インターネットという身近な情報の提供は生徒が興味を持ち,それを具体化するきっかけを作ってくれた。
関連URL
 
Yahoo JAPANhttp://www.yahoo.co.jp/
 インフォシークhttp://www.infoseek.co.jp/
 Museum Information Japanhttp://www.dnp.co.jp/museum/icc-j.html
 Museum Information of theworldhttp://www.dnp.co.jp/museum/miw/miw_cover.html

5 実践を終えて
 調べ学習では,生徒たちの設定するテーマが多岐に渡り,インターネットで検索してもなかなか情報が得られない場合もあった。また,インターネットで得られた情報がどこまで正しいものであるかについても,検討する余地がある。図書資料と併用することで,これらの点について,ある程度カバーすることができた。
従来の図書資料とインターネットの違いは,情報の新鮮さと情報入手の迅速さである。また,インターネットは情報検索の機能が格段に優れていて,知的好奇心のおもむくままに,関連項目への発展的な学習が容易である。
 学校図書館では,生徒の求める情報の内容や質に応じて,従来の図書資料とインターネットを使い分けたり,併用したりしていく必要がある。

ワンポイントアドバイス
 Eスクエア図書室(http://www.cec.or.jp/es/E-square/tosho.html)には,学校図書館でインターネットを活用するのに役立つ情報が満載されている。様々な情報源へのアクセスが紹介されていて,調べ学習には最適である。

 またこの研究を進めるに当たって,学校図書館におけるインターネット活用の先進校である,滋賀県立草津高等学校(http://www.biwa.ne.jp/%7Ekst-high/)と滋賀県立日野高等学校(http://shg-hino-h.ed.jp/)の図書館を見学させていただき,いろいろ教えていただいた。近隣に,このように気軽に実際の様子を見せていただける所があると,非常に心強いものである。