小倉小美術館

−インターネットで美術事始め−

小学校第5学年・図工
京都府宇治市立小倉小学校  糸井 登
キーワード 小学校,5年,図工,インターネット,TV会議


インターネット利用の意図
 小学校高学年での鑑賞学習のねらいは,表現活動と関連させて見るだけでなく,鑑賞することそのものを楽しむきっかけを与えることである。多くの子ども達は成人すれば,美術の製作者としてよりも美術の鑑賞者として生活していくことを考えれば,生涯学習の観点からいっても,自己学習への原点となるこの時期の鑑賞学習は特に大切である。
 とは言うものの,子ども達に様々な絵画に接する機会を持たせることは,なかなか難しいというのが現状であった。学校の近くに美術館があったとしても,子ども達を連れて鑑賞に出かけるというのは,準備,費用を考えるとなかなか大変である。
 ところが,最近のホームページ上には,世界各国の様々な美術館のホームページがあり,著名な画家の作品を見ることもできるようになってきた。また,小学校のホームページの中には,子ども達の絵画作品を紹介しているところも少なくない。
 これらのホームページ上の絵画を使って鑑賞指導を行ったり,インターネット等を利用して他校との図工科における共同学習ができるのではないかと考えた。


1 世界の美術にふれよう:「美術ってなあに」
(1) ねらい
 学習指導要領では,第5学年の鑑賞指導の目標について「造形作品を鑑賞し,それらに親しむことができるようにする。」と示されている。そして,鑑賞する造形作品の例として「我が国の親しみのある美術作品など」と「友人の作品」があげられているが,それ以外の作品をみせてはいけないということではないので,幅広く国内外の作品を子ども達に紹介していきたいと考えていた。
 一学期は,いろいろな小学校のホームページ上の作品を鑑賞していった。その中で,「表現の意図や特徴に関心を持つとともに,そのよさなどを発見していくこと」を中心に鑑賞指導を行っていった。
 二学期は,画家の作品について深く鑑賞していくような授業を実施したいと考えていたところ,NTTの企画する「こねっとセミナー」からタイムリーな企画の知らせが届いた。東京で開催されているオルセー美術館展に合わせて,「美術ってなあに オルセー美術館展」を開催するというもの。今回のセミナーでは,国立西洋美術館の高橋先生の説明といくつかの学校による作品に対するプレゼンテーションを実施するとあった。早速,応募し,こねっとセミナーを中心にすえた授業を計画していくことにした。
 この授業でのねらいは,以下の3点である。
一つめは,「見ること」と「読むこと」を関連させることだ。高学年の子どもは作品に関して色や形の感覚的な面白さから,その背後にある主題や物語に興味を持つようになる。子どもが,その作品をじっくり見るきっかけをつくるために,いくつか質問したり,鑑賞の観点を与えたりする中で,作品の分析的な見方ができるようにしたい。
 二つめは,他教科との関連を持たせることだ。作品の背景となる歴史的な出来事やそれが製作された場所などは,社会科の学習内容と関連させることができる。また,プレゼンテーションに向けて,自分の考えをまとめていくことは,国語科の学習内容と関連させていくことができる。このように他教科と関連させていくことによって,作品への多様なアプローチができるようになり,作品を見る楽しさが広がるようにしたい。
 三つめは,自分達が調べたことをコンピュータ等を使ってまとめ,情報発信していけるようにすることだ。この授業の中では,インターネットやテレビ会議システム等も活用していくことになる。うまく活用し,子ども達が常に刺激を受けながら,追究・交流・表現していけるようにしたい。
(2) 指導目標
 様々な美術作品の鑑賞をとおして,その背後にある主題や物語に興味を持ち,自分なりの作品の見方を発表し合い,交流していくことができる。
 興味を持ったことについて,図書館やインターネットなどを利用し,自分の課題を解決していくとともに,自分の考えをまとめていくことができる。
 一つの作品が仕上がるまでの物語や,それを絵に表す方法や技法について理解する。
(3) 利用場面
 この単元では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
(a) 様々な美術作品の鑑賞をする場面
 ホームページ上に紹介されている小学生の作品や美術館の作品を鑑賞していく。
(b)「こねっとセミナー 美術ってなあに」への参加の場面
 テレビ会議システムを使用して,番組に参加。自分たちが調べたことについて,プレゼンテーションを行う。
(c) 自分達の調べたことを発信していく場面
 セミナーでの発表内容,感想などをまとめて小倉小学校のホームページ「小倉小美術館」へ掲載し,発信していく。
(4) 利用環境
(a) 使用機種  児童用  日本電気 PC-9821XA13/K12 10台
        教師用  日本電気 PC-9821XE/U7W    1台 
(b) 周辺機器  日本電気  PC-SEMI ネットワークシステム
(c) 稼働環境 インターネットに接続できるコンピュータ1台より,インターネット画面を児童用モニターに送信し,提示する。
(d) その他  フェニックスシステム(テレビ会議システム)

2 指導計画(全時間)


過程


時数


主な学習活動








第1時
 


日本各地の小学校のホームページに掲載されている児童の絵画作品を鑑賞する。
★インターネット利用


第2時
 


世界各地の美術館のホームページに掲載されている画家の作品を鑑賞する。
★インターネット利用 (図1)












第3時
 


ゴッホの話を聞く中で,自分の調べてみたいこと(課題)を見つけていく。


第4時
 


自分の課題について,図書館やインターネットなどを活用して調べ,まとめていく。
★インターネット利用


第5〜6時

 


テレビ会議「こねっと・セミナー 美術ってなあに」に参加し,講師の先生の話や他校の発表を聞く。また,自分達が調べたことについてプレゼンテーションを行う。
★テレビ会議利用(図2)







第7時


「こねっと・セミナー」の感想を交流し,まとめる。


第8〜9時
 


ホームページにまとめの一部を掲載する。
★インターネット利用
 


  
1 美術館のホームページ

  
  図2 こねっとセミナー参加の様子

3 学習の展開
(1) テレビ会議までの様子
 
まず,この授業は,「こねっと・セミナー 美術ってなあに」への参加が決定して,全体計画を決定していった。このセミナーでは,オルセー美術館にちなんだ画家について調べたことをプレゼンテーションしていくことが含まれていた。
 そこで,様々な画家の作品を見せていった後,ゴッホに絞った授業を行うことにした。教師の教材研究の中で,ひっかかったことを中心に子ども達に話をしていくことにした。

1.偉大な画家ゴッホ。1987年のオークションでの「ひまわり」の落札金額は何と53億円。歴代最高金額。(落札したのは安田火災)
2.37才という若さで死亡(自殺)。最初に油絵を描いたのは1881年12月。
 それから1890年に死ぬまでに879点の作品を残した。
3.初期の傑作とされる「馬鈴薯を食べる人々」(1885年)には,いわゆるゴッホの筆使いや色合いは見られない。
4.日本の浮世絵が後期のゴッホの絵に大きな影響を与えた。
5.ゴッホの絵は,彼が生きている間に,正式に売れたのは,たったの1枚だけであった。(1990年1月「赤い葡萄畑」)
6.貧しい生活。弟テオに面倒をみてもらった。自画像が多い(41点)のは,モデルを雇うお金がなかったことにも起因している。 


 この授業の後,子ども達の多くが「調べてみたい!」と選んだ課題は,「ゴッホが生きている間に売れた1枚の絵とは,どんな絵なのか」ということであった。この「赤い葡萄畑」という絵は,私が持っている画集には白黒のものしか掲載されておらず,子ども達はどのような色合いなのかに興味を引かれたのであった。
 翌日から,本やインターネットを活用しての「赤い葡萄畑探し」が,子ども達の手によって始まった。


3 ゴッホの授業の様子


4 子ども達による「赤い葡萄畑」

 

(2)  具体的な場面(こねっと・セミナーへの参加)


学習活動


指導上の留意事項


1.本時の学習内容と方法を知る。
 


・前時までの学習を想起させ,本時の学習意欲を高める。



 


美術ってなあに 19世紀の画家,ゴッホ・モネ等の作品から学ぼう
 



 

2.国立西洋美術館の高橋朋也主任研究官の説明を聞く。

3.他の学校のプレゼンテーションを聞く。


4.自分達の調べた内容をプレゼンテーションしていく。

5.全国から寄せられたコンクールの絵についての紹介。入賞発表を聞く。

6.感想をまとめる

 

・大事な点については,メモをとるよう指示する。

・自分達のプレゼンテーションの方法と比べてどうか。内容と同時に方法についてもメモをとっておくよう指示する。

・声の大きさ(マイクの設定)や図の見せ方等,近くにいて支援していく。

・友だちの絵の良いところ,自分と違う描き方などに気づかせる。

・まとめ方の支援をし,次時への意欲づけを図る。
 

 


5 プレゼンテーションの様子


6 ホームページ「小倉小美術館」

 

4 成果と課題
 今まで,図工の鑑賞指導に時間をかけたことはなかった。しかし,インターネット等を活用することによって,手軽に多くの絵画に関する情報や作品を子ども達に見せることができることが分かった。今回の実践を通して,以下のような成果が得られた。
 インターネットを利用することによって,手軽に情報を得られると同時に,メールを用いての質問や交流が可能となった。自然に,子ども達の追究意欲は高まっていった。
 今回,「こねっと・セミナー」でのプレゼンテーションのために,ゴッホに焦点をあてて,調べ学習に取り組ませていった。一つの作品ができるまでの背景を知ることによって作品を分析していこうとする姿勢が子ども達の中に見られるようになった。
 さらに,テレビ会議システムを使用したことは,今までにもあったのだが,単なる交流に終わらず,一つの「題材」をもとにしたリアルタイムの遠隔授業は,いろんな意見を交流することができ,今までとひと味違うものとなった。
 また,このような成果を踏まえ,今後のコンピュータの有効活用を考えた時,次のような課題が考えられる。
 まず,一点は,コンピュータリテラシィの問題があげられる。いろいろな教科の中で自然にコンピュータを取り入れていけるソフトウェアの充実が求められる。
 二点めは,インターネットの講義を受けた際,「インターネットはメールに始まり,メールに終わる」という言葉を紹介していただいた。インターネットによって,大量の情報を簡単に手に入れることができるようになったが,単なる情報収集の道具としてでなく,交流の道具として,少なくとも小学生には使わせていきたいと考えている。そのためには,子ども達が自由にコンピュータに接することができるような教育環境を整えていく必要がある。
 今後も,インターネットの教育的利用について研究を深めていきたいと考えている。

ワンポイントアドバイス
 テレビ会議システムでの資料の提示については,直接,資料を見せても不鮮明になってしまう場合が多い。そんな時,ホワイトボード機能を使うことで,資料を鮮明に提示したり互いに,その資料を共有したりすることができる。テレビ会議システムを使用する時には,どのように資料を提示していくかが大切なポイントとなる。


参考にしたURLなど
 こねっと・ワールド (http://www.wnn.or.jp/wnn-s/)
 国立西洋美術館   (http://www.nmwa.go.jp/index-j.html)
 オルセー美術館展  (http://www.nikkei.co.jp/orsay/)
 ルーブル美術館   (http://www.louvre.or.jp/)