校内生物のマルチメディアマップ

中学校・総合的な学習の時間
京都教育大学教育学部附属桃山中学校  廣川 伸一
キーワード 中学校,総合的な学習,環境,生物,マルチメディア,WEBページ作成


インターネット利用の意図
 本校では,平成9年度より「環境」「国際」「福祉・健康」の三つの系を設定し,無学年・生徒選択制による総合的な学習の実践に取り組んでいる。それぞれの系に3〜5のコースがあり,生徒は自分の興味や関心に基づいてコースを選択し,活動する。(※1)環境系の中に「ビオトープ」というコースがあり(平成9,10年度は野鳥コース,昆虫コースに分かれていた。),そこでの実践のうち,校内の生物調査およびそのまとめとしての情報発信について,本稿では詳述する。
 本実践は,平成11年度に実施したものであるが,そのきっかけは平成10年度の野鳥コースの活動にさかのぼる。昨年度の野鳥コースに,パソコンやインターネットが得意な3年生の男子生徒が所属していた。彼は,自分の才能を生かして,コースの活動の様子や成果を紹介するWEBページづくりに取り組んだ。そのページの中に,学校近辺で見られる野鳥の種類を画像と音声で紹介するコーナがあった。これは,野鳥の声を集めた市販のCD中の音声とNiftyの野鳥フォーラムから借用した画像ファイルを組み合わせたものだった。このままでは著作権侵害となり,インターネット上で公開できない。「どうしようか?」と彼から相談を受けた私は,あまり深く考えずに「著作権者の許可をもらったら。」と返答した。コンテンツの充実した野鳥のWEBサイトを見つけた彼は,そのサイトの画像と音声のファイルを借用したい旨,Eメールで依頼した。借用は断られたが,サイトの管理者の方から,「中学生なら,失敗してもいいから,自分たちで撮影や録音に取り組んではいかがでしょうか。」という励ましの言葉を含む,たいへん丁寧な返事が返ってきた。このメールは彼のみならず,私にも大きな衝撃だった。手っ取り早く,見ばえのするページを作ることばかり考えていた自分が恥ずかしくなった。自分たちで苦労して,コンテンツを集めることの大切さをこのメールを読んで再認識したのだった。WEBページは未完成のまま,まもなく彼は中学校を卒業した。彼の仕事を完成させることと,管理者の方のアドバイスに従って自力で取材すること,この二つが次の年度に宿題として残された。野鳥コースのあとを継ぐビオトープコースで,是非この宿題に子供たちと取り組もうと,本実践を計画した。
 上記のような個人的事情(といっても,一般化する意義が十分ある貴重な体験だが…)を抜きにしても,本実践には教育的意義が二つある。一つは,WEBで発表するという目標が,生徒の意欲を引き出す点である。二つ目は,カメラやMDレコーダといった電子機器が,ふだんほとんど気に留めない生物へ目を向けるきっかけになるという点である。


1 校内生物調査
1.1 ねらい
(1)
校内生物の生息状況を調査しまとめる過程で,身近な環境に対する興味を喚起し,よりよい環境について考えさせる。
(
2) 学習の成果をインターネットに発信することで,より質の高い情報を創造しようという意欲を喚起する。
(3) グループ内および外部の人とのコミュニケーションを活性化することで,協力や話し合いの重要性を認識させる。

1.2 指導目標
 グループで協力しながら,校内の生物の生息状況を調査し,どのようなビオトープを作ればよいか考える。調査結果をマルチメディアマップ<地図上の特定の地点をクリックすれば,そこに住む生物の画像や鳴き声などを表示できるWEBページ>にまとめ,学校のホームページ上で公開する。ワールドスクールネットワーク(※2)"人類と野生生物"サークルに参加している内外の学校に呼びかけて,互いの地元の環境について交流を深める。

1.3 利用場面
 この学習では,次のような場面でコンピュータを中心とする電子機器を活用する。
(1) 生物の画像記録
 画像記録は主に,35mmネガフィルムに撮影→現像→フィルムスキャナでデジタル化という手順で行う。これは,被写体となる生物をデジタルカメラで撮影するのが難しい(解像度,レンズの倍率などで力不足)からである。デジタルカメラと比べると手間が多く面倒ではあるが,非常にきれいな画像で記録することができる。特に野鳥など,そばに寄ってアップで撮影するのが難しい被写体ではたいへん効果的である。野鳥の撮影では,500mmを超える望遠レンズが必要になってくるが,あまりに高価であるし,重くて扱いにくい。中学生が使うのであれば,300mmが限界であろうが,この程度ではアップで野鳥を写すことは不可能に近い。ところが,高解像度のフィルムスキャナの力を借りれば,小さくしか写っていない被写体を大きくクローズアップすることが可能である。図1と図2を見比べてほしい。図1が撮影時のものである。これを図2までクローズアップしても,それほど荒い画像にならないし,目の色,羽の模様まではっきり確認することができる。


1 撮影時のもの


2 クローズアップしたもの

 

(2) 音声の記録
 野鳥や虫の声は,ポータブルMDレコーダで録音したものを,パソコンのLINE IN端子にMDプレイヤーを接続してWindowsに付属のサウンドレコーダで録音しデジタル化する。カセットテープレコーダでも可能だが,ノイズの少なさ,データの管理のしやすさという点で,MDの方が優れている。
(3) 画像処理
 (1)でも触れたように,デジタル化した画像は,被写体がよくわかるようにクローズアップしたり,明るさやコントラストを調整して見やすく処理する。(4) 調査結果をWEBページとしてまとめる
 クリッカブルマップのページを起点として,そこから観察記録のページへ飛べるようリンクを張る。手作業でタグをつけて,クリッカブルマップを作成することも不可能ではないが,手間がかかりすぎる。専用のWEB作成ソフトを使用すると簡単につくれる。

1.4 利用環境
(1) 利用機種 (☆印が専用に使用できる機器)
 FMV-6366CL2C 42台 (コンピュータ室/生徒用クライアント)
 ☆PROTON MS400C 1台 (国際理解教室/生徒用クライアント)
 FMV-6266NU3/X 6 (ノート型)  ☆GT-7600U 1台 (国際理解教室/スキャナ)
 ☆LP-8300F  1台 (国際理解教室/ページプリンタ)
 ☆LPM-CA20USB 1台 (国際理解教室/スマートメディア・コンパクトフラッシュリーダ)☆MD-831 1台 (ポータブルMDレコーダ)
 ☆EOS630 1台 (一眼レフカメラ) ☆EF 100-300mm 1:4.5-5.6 1台(一眼レフ用交換レンズ)
 LS-30 COOLSCAN III  1台(フィルムスキャナ)
(2) インターネット接続状況
 ATM専用線で京都教育大学と接続されており,コンピュータ教室をはじめ全教室でインターネットに接続することでできる。
(3) 利用ソフト
 OS:Windows98   ブラウザ:Internet Explorer 4
 WEB作成:FrontPage Express,ホームページ・ビルダー2001
 画像:PaintshopPro5
 音声:サウンドレコーダ,WAVhum version 1.5,Adaptec Easy CD Creator
 プレゼンテーション:Power Point97

2 指導計画


指 導 内 容


留 意 点


1.オリエンテーション
・前年度の昆虫コース,野鳥コースの活動内容を,液晶プロジェクターで画像を投影しながら説明。
☆プレゼンテーションソフト(Power Point97)
ブラウザ(Internet Explorer 4)
・どんな活動をしたいかを紙に書いて提出させる。



・インターネットになじんでいない生徒も多いので,インターネットの仕組みについても簡単に触れる。
・野鳥コースについては,前年度の3年生がつくったWEBページを題材として活用。


2.グループ分けと活動計画
・同じような目的を持つ者同士でグループを作り,今後の活動計画を立てる。



・前時のアンケートを参考に生徒の意向をつかんでおく。


以下は生物調査とWEBづくりに取り組んだグループへの指導である。


3.夏休み中の調査
・夏休み中に2回登校日を設け,そのうち1日半を調査(撮影・録音も)に充てる。



・授業時間外の活動なので強制はしないが,積極的に参加するよう働きかける。


4.WEBページの作り方の講習会
・登校日の残りの半日を使い,簡単なWEBページの作り方を指導する。
☆WEB作成:FrontPage Express


・1年生には,Windowsの基本操作から指導が必要。
・できる限り,上級生に下級生を指導させる。


5.画像・音声の取り込みとクリッカブルマップ作成
・夏休み中に集めた画像をフィルムスキャナでパソコンに取り込む。
☆画像:PaintshopPro5
・音声も同様に取り込む。
☆音声:サウンドレコーダ
・校内の見取り図をスキャナで取り込み,その画像ファイルをクリッカブルマップにする。☆画像:PaintshopPro5
☆WEB作成:ホームページ・ビルダー2001




・時間が足りそうにないときは,あらかじめ指導者がスキャンしておく。



・取り込んだ画像をそのまま使わず,それを下絵としてパソコン上でトレースすれば,きれいな地図を作れる。
 


6.追加取材
・観察記録と照らし合わせて,欠けている画像や音声を集めたり,新たな対象を発見する。



・夏には見られなかった生物に,注意を向けさせる。 


7.コンテンツの追加
・コンテンツを追加して,WEBページを充実させる。




 


8.コース内発表
・できあがったWEBページを提示しながら,調査結果をコース内で発表する。
☆ブラウザ(Internet Explorer 4) 



・今までの活動を振り返る機会としたい。



3 学習の展開
 当初一番問題だったのは,本実践に参加する生徒がいるかどうかということであった。本校の総合的な学習では,生徒の主体性と自ら学ぶ意欲を尊重するという立場をとっており,コース内でどんな学習や活動を進めるかという決定は生徒の側にある。指導計画の2.の段階でコースの生徒に尋ねたところ,本実践への参加を希望したのは,わずか2名であった。しかし,この活動が生徒の意欲を喚起するという確信があったので,この活動への参加を積極的に呼びかけた。その結果,3年生1名,2年生1名,1年生4名の計6名が参加することになった。
 総合的な学習の時間だけでは,時間が不足するので,夏休み中の活動を計画した。夏休みということで,強制できなかったが,どの生徒も1回以上参加した。この休み中のボランティア的活動のおかげで,夏の生物を取材できたし,WEBページづくりもはかどった。これ以外にも,発表会の直前は放課後遅くまで残ってパソコンに向かう姿が見られるなど,自主的な活動が随所に見られた取り組みであった。

4 成果と課題
 本実践と別の時に,カメラやレコーダを使わない生物調査を行ったことがあったが,その時と比較してみると,生徒たちは本実践の時の方がはるかに積極的であった。その理由として第一に,WEB上に発表するという使命感が生徒のやる気を引き出すのであろう。総合的な学習では,とかく体験学習に重きを置くあまり,やりっぱなしで終わってしまうことが多く,その結果生徒はその場限りの楽しい活動だけを追い求めるようになりがちである。発表・発信を学習のまとめとして位置づけることで,自らの学びの質を振り返る機会を持たせることができる。その点,本実践ではWEB上に発表するという明確な目標があるので,生徒の意識がはじめから違うのだろう。
 もう一つは,虫や野鳥の声という,生徒たちが日頃ほとんど気に留めない音に注意を向けさせたためであろう。野鳥などは姿を目でじっくり観察することは難しくても,鳴き声なら比較的聞き取りやすいものである。カラスの鳴き声の違いをまず知ることで,ハシブトガラスとハシボソガラスの2種類が学校にいることに気づくという場面もあった。声に注意を向けることで,意外と身近に多くの種類の鳥がいることを知る,こういう気づきが自然をじっくり観察しようという姿勢につながったのでないだろうか。
 課題は,WEBページを完成させるのに手一杯で,他校との交流にまで発展させられなかったことである。今後は,地域の特色を交流しあうことで,グローバルな視点で環境問題を考えられる機会を設けていきたい。

ワンポイントアドバイス
 今回十分に活用できなかったが,ワールドスクールネットワーク(※2)では世界中の子供たちと一緒に,地球的視野をもとに環境について学ぶ機会を提供している。ネットワークを活用してダイナミックな交流学習をするうえでとても有用な環境学習プログラムである。


参考にしたURLなど
※1…本校の総合的な学習を紹介するページ
       http://www.kyokyo-u.ac.jp/FUZOKU/MOMOCHU/sougou/sougou.html
※2…ワールドスクールネットワーク
       http://www.wschool.net/