メディアリテラシー教育とその環境に関する国際交流および調査



コミュニケーション&メディア
同志社国際中学校・高等学校 河西 由美子
yumiko@intnl.doshisha.ac.jp
http://www.intnl.doshisha.ac.jp
キーワード メディア,コミュニケーション,学校図書館,司書教諭,学習環境,国際交流,イギリス,ドイツ



インターネット利用の意図

 同志社国際中学校・高等学校コミュニケーションセンターは従来の図書館,コンピュータラボ,視聴覚施設,展示・プレゼンテーションスペースを統合したまったく新しいタイプの複合学習施設として,この2年あまり生徒・教員による利用を重ね,様々な実践を行なってきた。筆者は,そうした活動を支えるスタッフの一員として,新施設における情報サービス提供に関わる問題に対応してきた。

 本企画では,英国,ドイツの教育機関への訪問調査を通し,またそこで学習環境を支えるスタッフとの交流を通して,よりスムーズな学習活動および国際交流を可能にするための,学習環境の整備と支援のあり方を,学校司書の視点を通して考察してみたい。

 同時に筆者は,高校1年生必修科目である「コミュニケーション&メディア」で,センター主任とともにティームティーチングを行なっているので,イギリス,ドイツの訪問校の中からEメールを利用した交流を授業の中に取り入れる試みを行ないたい。


1 単元名: コミュニケーション&メディア

 単なるコンピュータスキル習得の場ではなく,様々なメディアを学習やコミュニケーションのツールとして使いこなせる能力の育成を目指している。高校1年生必修。週1時間。コミュニケーションセンターを利用し,センターの主任・副主任・司書2名のティームによって運営されている。

2 指導計画

学期

学習内容

目標

1学期

 

1.オリエンテーション

(ネチケット,Eメール技術,

センター利用指導,データベース利用指導,WWW検索)

2.ミニプロジェクト

3.自己評価

     コミュニケーションセンターで利用できるメディア,情報についての基礎知識を習得

     習得した知識を実践する

     グループワークを体験する

     簡単なプレゼンテーション

     到達度の自己評価

2学期

 

1.グループ作り

2.テーマ設定

3.リサーチ

4.自己評価

     1学期に学習した情報検索の知識を活かしたリサーチ

     具体的なテーマへの絞込み

     可能な限り多様なメディアからの情報収集。

     必要に応じたソフト活用技術

     個人の技術レベル,グループ活動への貢献度を自己評価

3学期

 

1.プレゼンテーションの準備

2.グループプレゼンテーション

     それぞれのテーマに最適と思われる手法を工夫する。

     多様な表現メディアの活用

     1年間を通したコミュニケーション能力の自己評価

詳細については以下を参照のこと。http://www.intnl.doshisha.ac.jp/projects/cm99/

 

3 学習の展開

(1) 海外調査

1)    調査日程: 199910月11日(月)― 10月21日(木)

2)    訪問先

英国(ロンドン及び近郊) 

University of London, King’s College  

              Waterstone bookstore

Holy Cross Convent School

     School Library Service, Hertfordshirewww.herts-sls.org.uk

     Sir John Lawes Schoolwww.sirjlawes.herts.sch.uk

              ドイツ(ボンおよび近郊)

     German National Research Center for Information Technology

      http://imk.gmd.de/

     Gymnasium Altenforst Troisdorf  

      http://www.altenforst.de/intnat/engal/start.htm

              Stadt Gymnasium Hennef: http://www.hennef.de/gymnasium

Shulen ans Netz (School On-line): http://www.san-ev.de

Integrierte Gesamtschule Bonn-Beuel: www.gebonn.de

 

(2) 授業内での展開

2学期に入り高校1年生全員のうち2班11名の生徒が,Eメールを利用した国際交流活動に参加。2学期中は交流のための準備作業として,自己紹介,自分の学校紹介,地域紹介のための情報収集,調査を行なった。その調査の際も全生徒に対し図書,各種出版物,インターネット上の情報等,可能な限り多様なメディアからの情報収集を課題としている。

企画者の海外調査以降,英国 Villiers High School, Middlesex,ドイツStadt Gymnasium Hennef両校より交流活動の申し出があったが,各国のプロジェクト開始時期のずれなどから,日本の2学期中には交流は実現しなかった。”C&M”の予定では3学期は2学期のリサーチ内容のプレゼンテーションであるが,当該グループについてはプレゼンテーションを3学期のできるだけ後半に回し,わずかでも今年度中の交流実現を考えている(よって1月20日現在まだプロジェクトは進行中)。

 

  成果と課題:  海外調査を通した各国の現状報告

(1)イギリスの事例 

 1) 教科横断型学習,ポートフォリオ型学習

 ホーリークロスコンベントスクールは情報教育をも視野に入れた教科横断型学習の推進校として国際的にも注目を集めている。同校では,Director of Studies(総合教科主任とでも呼ぶべきか,教科横断学習の各教師間のコーディネイトも行なう)のローレンス・ウィリアムズ教諭の精力的な活動により,ナショナル・カリキュラムに則りながら,かつ教科横断的なプロジェクト学習とポートフォリオ形式を用いた生徒たちのリサーチ・プロジェクトが進行している。興味深いのは,IT(情報技術)教育のスキルがポートフォリオ制作の中に織り込まれていることで,様々なコンピュータソフト活用の技術を使いこなしていく様子がポートフォリオのページを繰るにつれてわかるようになっている。  

 2)学校図書館サービス

 学校図書館サービスは必ずしも司書,司書教諭,メディア助手等が設置されていない学校図書館の現場における総合的な情報サービスをサポートしている。サポートの内容は,基本図書の選定(学校の図書館の蔵書となる基本セットを揃える),プロジェクト単位の資料コレクションの短期貸し出し,移動図書館および移動コンピュータ室(デスクトップコンピュータ3台と携帯電話を搭載したワゴンで学校を巡回する。まだコンピュータ設備のない小学校等から要請がある。機器と共にCD−ROM等のソフトも紹介する)などから,視聴覚資料,コンピュータソフトにまで及んでいる。また教員のIT技術の向上についても対応している点が注目に値する。

 3) ジョンロウズスクール(ロンドン郊外)

 今回2カ国を訪問した中で,唯一図書室とコンピュータ室が隣接した近い空間に作られ,その運営を学校司書が行なっていたケースである。図書室,コンピュータ室それぞれの規模は小さいものではあるが,授業中,休み時間を問わず,絶えず生徒と教員に溢れており,利用が最も活発だった点で非常に印象に残っている。学習環境という点から考えれば本校コミュニケーションセンターに最も近いものを感じた。 

 4) ロンドン大学キングスカレッジ

 同大学の教育学の講師陣との会話の中で印象的だったのは,IT教育についての方法論とその評価についての調査・研究が整然と進められており,そうした裏付けに基づいて様々な試みが積み重ねられていることである。昨今様々なコンピュータの教育利用の実践事例紹介や発表が日本でもかまびすしいが,そうした学習活動の効果のほどは未だ問わないまま走っている観が強い。生徒の評価についても,こと情報教育においては,相対評価ではなく,個人として情報と関わる態度にどのような変化,成長が見られたかという観点がより重要となるのではないか。

(2)ドイツの事例

 1) コンピュータの導入について 

 ドイツについては,英国以上に各学校の独自色が強いという印象を受けた。校長の裁量によって,企業との提携や寄付などもかなり自由に行なわれているようである。

 Gymnasium Altenforst Troisdorfでは現在ボン大学の学生である卒業生がボランティアでネットワーク管理者を務めている。同校ではまだ在学中だった彼の発案で地方選挙の開票結果の広報を同校生徒がコンピュータを駆使して行なうという活動を行なっている。総合的な学習においては,こうした実生活への還元という要素が重要ではないかと感じた。地域における活動の評価は学校内外ともに大きな刺激と収穫になろう。

訪問校のひとつ,ボン近郊ヘネフにあるヘネフ・ギムナジウムのドイツ語の教諭であるカール・アッシェンマッハー氏はEメールを使って日本の小学校との交流活動を行なうなど積極的にコンピュータを活用した授業を推進しておられるが,そうした経験を買われて,地域の小学校にコンピュータ・コーナーを作る(コンピュータを地域の行政機関が各学校に一定数配当する代わりに学校側で導入,活用のための努力を行なう)プロジェクトの委員を務めていた。滞在中に地域の教育行政官が主催する小学校教諭向けの初集会があり,見学する機会があったが,小会議室に100名近くがすし詰めにつめかける大盛況となり,関心の高さをうかがわせた。

 2) 学校図書館について

 学校図書館の整備状況も各校大きく差があるようだ。特筆すべきはボンの総合学校

Integrierte Gesamtschule Bonn-Beuelである。ここは,同一敷地内に公立図書館と学校とが隣接して建てられており,学校の生徒は校舎から直接図書館に入れるようになっている。見学の間も教員がクラスを引率して図書館で授業を行なう姿も見られた。同校はインターンシップのような職業体験を行い,様々な意味で卓抜した学校運営がなされていた。 3) Shulen ans Nezs (School On-line) について

 この団体は連邦教育省とドイツテレコムが発足させたコンピュータ教育推進プロジェクトの実施主体に当たり,いわば日本における100校プロジェクトのような活動を行なっている。現在はその対象校を広げつつあり,同時に学校内に留まらずヨーロッパネットデイや女性のネットワークに関わるイベントを開催する等活動は多岐にわたってきている。

(3) まとめ

 本校のコミュニケーションセンターの施設や人員配置は,アメリカの学校図書館の影響を多く受けている。しかし本校も含めた日本の学校図書館全体を考えると,司書教諭の設置という国家レベルの人的措置をもってしても学校図書館のサービス全体を支えるものとはいえない(司書教諭は必ずしも学校図書館で発生する日常業務すべてをまかなえる専門職ではない。この点に関する非常によく整理された報告書が日本図書館協会のホームページ http://www.jssst.or.jp/jla/gakutopc.htm にある)。併せて各自治体,学校の自助努力が必要となる。これには,イギリス,ドイツにおける自治体のサービスセンターによる支援や公共図書館との連携を強める等の措置が並行して取られることがより効果的ではないかと思われる。そのためには,学校図書館の未来像について,幅広い討議が行なわれる必要がある。コンピュータの導入を中心に据えた学校の情報化の過程にも学校図書館のスタッフの参画が望まれるとともに,学校図書館の論議に,学校の情報化に携わる方々や情報教育の専門家にも参加してもらい,新しい時代の学習センターに関する議論が幅広く行なわれる環境を作っていくことが大事ではないかと思う。

今回の企画では,コンピュータやインターネットを用いた新しい学習環境作りについて支援スタッフの立場からの観察,調査をすることを目標に据えた。ただ,交流等の成果を直接学習活動の中に求めることは残念ながら報告にまとめるには間に合わなかった。

 各国事情についても事前に十分な情報が得られず,むしろ帰国後に関連事例や資料が判明した場合もあった。これは今回の企画終了後に学校あるいは企画者の更なる研究対象として取り組むべき課題である。調査の第一歩を踏み出す支援をCECに与えていただいたことには深く感謝の意を表したい。

 

ワンポイントアドバイス

海外調査のアポとりについて:
 準備期間が限られていたにもかかわらず10日間の旅程のアポイントメントがほぼ実現したのは,Eメールの存在によるところが大きい。既にある程度の人的ネットワークを構築している場合には,飛躍的に役に立つのがEメールだが,逆に何もないところからEメールのみでネットワークを築いていくのはかなりの困難が伴う。やはり最初は拠り所となる機関や専門家の情報を得ることが重要であると感じた。ヨーロッパとは時差の関係で,夕方メールを出すと,翌朝には返事が来ているのが効率的だった。

英語版ホームページのありがたさ:
 ドイツでの事前情報入手に壁となったのが,思いのほか英語のホームページが少ないことで,これは自分が日本から情報発信する際の我が身を振り返る契機となった。教育活動,交流活動のノウハウや地域紹介,文化紹介等,実質的な世界の共通語たる英語で発信すべき分野が数多くあると思う。インターネット上に英語で発信することの重要性を,筆者が実感したのと同じように生徒に体験してもらいたい。特に本校においては海外体験が豊富な帰国生よりもむしろ一般生にそうした感覚を理解してもらいたいと願う。

 

参考文献(参考URLについてはスペースの関係上,今回の訪問先に限り文中に記載。他の参考ページについては割愛)

1.『中学校新教育課程・「総合的な学習」をどう創るか』山極隆・田中博之著 明治図書,

1999年

2.『海外の「総合的学習」の実践に学ぶ』柴田義松 明治図書1999年

3.「イギリスの総合学習と情報教育の動向」田中博之 フォーラム「情報教育」1999 No.1

4.「情報教育と総合的学習」黒上晴夫 フォーラム「情報教育」1999 No.2

 3.4.とも下記で閲覧可能(http://www.nichibun-g.co.jp/joho/it-edu/index.html

5. “The use of information technology to unify the secondary curriculum – a new for secondary education”

6. “Philosophical issues relating to the use of ICT in school settings. Connecting schools and pupils: to what end?”

7. “Video-conferencing in schools”  5-7 by Lawrence Williams, Holy Cross Convent School

8. “Exploring the use of interactive information systems in academic research: borrowing from the ethnographic tradition” by David Squires, Education for Information 15  IOS Press 1997

9. “Why the move from traditional information-seeking to the electronic library is not straightforward for acadekic users: some surprising findings” by Christine A. Barry and David Squires  Online Information Proceedings 1995

10. “The research activity timeline: A Qualitative Tool for Information Research” Library & Information Science Research, Vol.19, No.2  

11. “Critical Issues in Evaluating the Impact of IT on Information Activity in Academic Research: Developing a Qualitative Research Solution” (from the projects of originally King’ College and now the British Library)  10-11 by Christine A. Barry

12. “The effects of Information Technology on students’ motivation” (summary) by Margaret J. Cox NCET 1997

13. “An evaluation of the impact of information technology on children’s achievements in primary and secondary schools” (summary) by Margaret J. Cox and David C. Johnson King’s College 1993

14. “School Improvement in the UK” British Council 1999

ご協力者リスト(前述訪問先に含まれない協力機関を含む。順不同,敬称略)。

 田中博之 大阪教育大学助教授 
 黒上晴夫 金沢大学教育学部教授
 在ドイツ日本大使館
 British Library

 

英語版を含む詳細報告については同志社国際中・高等学校ホームページ上に掲載予定。
http://www.intnl.doshisha.ac.jp/staff/yumiko/