病弱児童生徒のテレビ会議システム
を使った遠隔地交流
-無線LANを活用した授業実践-

養護学校中学部3年・技術
京都府立城陽養護学校
技術・家庭 山本大助

yamamotoda@kyoto-be.ne.jp  
http://www1.kyoto-be.ne.jp/jyouyou-s/
キーワード 養護学校,病弱教育,インターネット,電子メール,小学部,中学部,情報教育,無線LAN


企画の目的・意図
 本校病弱教育部は,喘息・腎炎・肥満等の慢性疾患や身体虚弱により一般の学校生活が困難で入院加療を必要と診断され,国立療養所南京都病院に入院している児童生徒を対象に教育を行っている。教育課程は,一般の小・中学校とほぼ同じである。児童生徒は主治医の許可がなければ,自由に外出できない生活環境にあるゆえネットワークを使った外部からの情報収集により,「共同での思考」を通して考えをまとめ,体験などを通して実践に結びつける力を育成してきた。来年度から「総合的な学習の時間」が創設される。キーポイントになっている「生きる力」とは,中教審(1998.6答申「新しい時代を拓く心を育てるために」)によれば,「自分で課題を見付け,自ら学び自ら考える力,正義感や倫理観等の豊かな人間性,健康や体力」というように「全人的な力」であり,それゆえ,この力は知育・徳育・体育の調和のとれた教育で育むことができると考える。総合的な学習は「(1)自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。(2)学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探求活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること」(新学習指導要領)というねらいにあるように,「自ら考える力」など知育面での積極的な心の育成をはかるねらいがある。病弱教育児童生徒にとって,とりわけネットワークを通した,外部の方とのコミュニケーションを通して問題を解決していく資質や能力,必要な情報を収集する能力の育成が必要であり,以下の取組を実施してきた。
・数百キロメートル離れた中学校から病弱教育部中学部に転入してきた生徒と保護者と担任が連絡をとる方法としてWeb Mailの教育利用
・商用データベース
・前籍校交流に使用する電子掲示板
・E-mail利用による国際交流 (英国Stanwell Comprehensive School)
・教科・領域でのWeb検索による情報収集と共同の思考による計画と実践
 しかし病状により登校許可の出ない児童生徒が在籍することがある。このような場合,院内学習室での学習が中心となってくる。そこで,本校の校内LANに無線を使ってネットワークを接続するを計画した。


1 無線LANの教育利用
1.1 ねらい
 コンピュータに触るのが初めてという児童生徒が転入することがしばしばあり,教科利用に多く利用されることが予想されたので,コンピュータの基本的な使用方法を習得すること,教科学習でのインターネットを使った情報検索の利用及び前籍校との交流を計画することをねらいとした。

1.2 利用場面
 ベッド上の安静状態から病院内の学習室まで来られるようになったが,病状により学校に登校できない生徒が2学期に3名在籍し,表1のように,無線LANシステムを利用した。

   
1 転入生徒の無線LANの利用

学年

性別

転入月

利用内容

予想される効果等

中3

男子

9月

教科学習・テレビ会議

・教科学習でのデータ検索
・朝の会の視聴

中3

男子

10月

教科学習
・データベース利用
・Mailによる交流

・丹後半島北端部からの転入ということ
で,遠方の友達とのMail連絡ができる。
・商用データベースにより前籍校の地域
ニュースを知ることができる。
・電子掲示板による前籍校交流

中3

女子

12月

教科学習・データベース
・Mail利用による交流

Web検索による教科学習への利用
・Mailによる友達との交流


1.3 利用環境
・使用機種 COMPAQ PRESAORIO1245
      SONY PCG-C1S
・周辺機器 無線LANシステム ADLINK440S
・可動環境 京都府では,学校・教育機関向けのインターネット接続
 事業として愛称「京都みらいネット」を平成9年度から運用しており,平成11年度中にすべての府立学校が64kbpsの専用線で接続される予定である。本校においては2つのコンピュータ室(病弱教育部,通学高等部),職員室,保健室,校長室,事務室,図書室(オープンスペース)を校内LANで結んでいる。

2 指導計画(指導計画の中でのインターネットの利用場面等
2.1 教科への利用
 本校に10月から在籍となったAは,入院当初から1か月はベッド上での安静が必要であったが,その後院内学習室まで車椅子で移動できるようになった。授業は午前中2時間午後1時間の学習許可がおりた。各教科の年間指導計画の中で,インターネットの利用が効果的と考えられる教科・単元(表2)で無線LANを使用して授業を行った。

    2 無線LANの教科利用

教科名

単元名

時間数

内容

技術

情報基礎
2コンピュータの利用

12

商用データベース
の使用方法と,前籍
校ニュースの取得

社会

人類尊重の政治をめざして
第2節
国民を代表する国会

国会について,新聞
記事を商用データベ
ースから検索しその
機能を学習

理科

生物のつながり
III 生物の類縁関係

脊椎動物についての
検索 と進化

美術

鑑賞
墨と筆で表す自然

日本絵画の鑑賞


2.2 インターネットを使った授業例
(1) 教科        技術・家庭

(2) 単元名   コンピュータの利用

(3) 本時の目標 ・商用データベースの役割と使い方を知る。
         ・生活をより豊かにするために,コンピュータを積極的に活用する意欲的な態度を養う。

(4) 指導計画    12時間
        ・コンピュータの利用のされ方
                ・文書処理ソフトウェアの利用
        ・図形処理ソフトウェアの利用
        ・表計算ソフトウェアの利用
        ・商用データベースの利用
        ・・・前籍校や周辺地域のニュースを調べる。(11/12)本時
        ・・・前籍校の担任にE-mailによる連絡をする。(12/12)

(5) 学習の展開

学習内容

指導上の留意点

備考

・前時の復習
ブラウザソフト基本操作を行う。


・商用データベースの説明を聞く。

・ブラウザソフトの基本操作の復
習時,支援する。


・ブラウザの画面を見せながら説
明する。

・無線LANの電源を入れるなど
休み時間に設定しておく。
・ノートパソコンを使用する。

・ブラウザソフトを立ち上げ商用デー
タベースindexページを見つける。
 




・前籍校の情報を検索する。


・プリントアウトする。

・検索方法を指示する。
・商用データベースの使い方を説
明しながら,前籍校についての情
報検索の支援をする。



・朝日新聞社,毎日新聞社など全
国紙に掲載された記事の中から行
う。









・時間が余れば,WebMail サー
ビスについての説明をする。

・コンピュータの起動・終了を行う。

後日行うWebMailサービスによる
Mail IDの取得とMailの学習を予
告しておく。

 


3 テレビ会議システムの利用
 毎火曜日の朝に病弱教育部の児童生徒が集合して「朝の会」(図1)が行われる。病院内学習室と本校病弱教育部図書コーナにおいて無線LANで接続し「朝の会」の様子を病院側から視聴した。生徒用にはCCDカメラ付きのモバイル用ノートパソコンを利用した。また図書コーナ(オープンスペース)においては,デスクトップパソコンにCCDカメラを接続しNetMeeting(Windows98に付属のテレビ会議システム)を利用して中継するようにした。2台のコンピュータのNetMeetingを立ち上げ,LAN内において直接IPアドレス指定で送受信できるため,クォリティの高い画像と音声が送受信できるようになった。


         図1 朝の会

4 成果と課題
 無線LANのトランシーバとアンテナについては,移動が可能なため校内のネットワークケーブルの敷設されていない場所でのインターネット利用が可能である。たとえば体育館におけるインターネット利用の授業や,講演,デモンストレーションなどでのインターネットが利用できる。今回のネットワークを接続した病院の学習室においても,本校の校内LANへ容易に接続できた。
 病院の学習室では,多くの教材教具の持ち運びがたいへんなため,このようなネットワークを利用したWeb検索は多くの情報を容易に入手することができる。
 病棟で学習する児童生徒は前籍校で,体調不良により健康な児童生徒と学習する機会の恵まれない場合がある。コンピュータの経験があまりなく,病棟学習室でインターネットに触れることで,その後インターネットやコンピュターを使った学習への関心が高まっている。体調が回復し,学校で学習できるようになっても,コンピュータへの関心が高く,オープンスペースにおいて,毎日のようにコンピュータに触れ,Web検索により日本の鉄道路線や時刻表を調べるなど,友達と話題を深め,自分の興味・関心があることにコンピュータやインターネットを積極的に活用するようになった。

ワンポイントアドバイス
(a) 無線LANの拡張工事について
 LANの拡張工事では,簡単に設置できる無線LANを選択した。現在,学校から約100m離れた病院内にある学習室に無線用アンテナを設置し本校からの無線LANにより接続されたコンピュータを利用している。無線LANを導入する際,選択したA社の無線LANの伝送速度の規格が11mbpsということであったが実際の実効スピードが実用的であるか心配であった。そこでA社に校内でのデモンストレーションを要請し,LANが実用的なものかどうかのテストを行った。校内のアンテナでWeb情報を検索したところ,校内で使っているスピードに大きな遅れをとることなく検索ができたので,A社の製品を採用した。
 電波の医療機器への影響が懸念されたが,電波を送信した学習室には医療機器がないことと,指向性の強いフラット型のアンテナ(図2)を使用したことで問題は起こらなかった。 病院内の学習室にも学校側の図書コーナーにも採光用の大きな網入りガラスが入っている。網(金属)の種類によっては,電波を跳ね返すものもあるが,両施設のガラスは電波を通したため,アンテナを室内に設置することができた。

     
2 フラット型アンテナ

(b) PHSによる遠隔地交流について
 本校在籍児童生徒の中には,病状の関係で学籍は本校のまま他院に転院し治療を継続することがある。数ヶ月に及ぶ他院での生活のため本校の友達と直接触れ合えない環境にあり,PHSによるテレビ会議(CU-SeeMe)が本人の病気をなおす意欲につながるという予想から遠隔地交流を予定した。
 データ伝送速度が64kbpsであることから,本校の専用線に接続されたテレビ会議システムと接続できることでテレビ会議が可能であった。京都府の場合,PHSからは,京都府総合教育センターの外部リフレクターサーバを通してイントラネット内部にある各校と接続が可能である。
 接続テストの結果,テレビ会議は可能であることが実証できたが,入院生徒の病状変化により現在実用にはいたっていない。
 PHSの場合,医療機器への影響も考慮したうえで使用場所なども配慮しなければならない。デジタル公衆電話機の設置された病院もあり今後カード型TAによる利用が課題である。


利用したURLなど
 http://www1.kyoto-be.ne.jp/jyouyou-s/jyouhou/isdn/isdn.htm
 http://www1.kyoto-be.ne.jp/jyouyou-s/98saisin/byou/musen/musen.htm
 http://www1.kyoto-be.ne.jp/jyouyou-s/98saisin/byou/syou/mini/mini.htm
 http://www1.kyoto-be.ne.jp/jyouyou-s/jyouhou/asa/1.htm
 http://www60.tcup.com/6017/yama1226.html?
 http://educ.dpc.or.jp/