インターネットで学校が地域に世界に飛び出すぞ!

            大阪府河内長野市立南花台東小学校 梅田昌二
              nankadaie@enetj.co.jp
              http://www5a.biglobe.ne.jp/~nankadai/
              キーワード インターネット・テレビ電話


本校の取り組みの目的
 本校では,平成11年4月よりインターネットの接続を専用回線をもってしていただいた。これは,通産省の第一次総合経済対策予算で,教育の情報化実験プロジェクトの実験校として参加させていただいたからである。市内14校の小学校の中で,先んじてインターネットの教育活用の機会を与えていただき,喜びと責任を感じ,実践に取り組むこととなった。初めてインターネットを体験する児童がほとんどで,家庭での経験者は1割もいないのが現状であった。それだけに,何をどう見たらいいのか。何が見れるのか。子ども達は,戸惑いながら,モニターの画面を追いかけていた。しかし,すぐにブラウザの操作にも慣れ,理科や社会科の調べ学習,絵画や音楽の鑑賞など様々な世界を楽しむことができるようになった。
 しかし,インターネットを情報の収集だけに使うのでは,十分な活用とはいえないと考え,もう一つの大きな力,コミュニケーションとしての活用も進めることとした。なぜなら,日本には,コンピュータに対する間違ったイメージを持つ人が多いからである。そのイメージとは,コンピュータを使うことで,子どもが個人の世界へ閉じこもり,社会性が育たなくなるといったものである。これは,テレビゲームの影響だと思われる。
 しかし,インターネットの活用など,コンピュータを使う事で,人と人,地域と地域,国と国を結びつけることができる。これからの社会において,必要不可欠なコミュニケーションになるものと確信する。そこで,本校の研究のテーマを「インターネットで学校が地域に世界に飛び出すぞ!」とした。
 今まで,学校社会は,他の世界との関わりを持つ事が,あまりにも少なすぎたと思う。そのため,学校は抱える問題を自分達だけの力で,何とか処理しようと努力を続けてきた。しかし,現在の課題は,学校だけで解決できるほど容易ではない。保護者や地域とのより良い関わりなしに,学校の教育改革は実現しない。本校のコンピュータ活用授業もPTAパソコン協力委員会の方々や地域の協力なしでは,推進できなかった。
 また,今まで学校は,他校との交流にあまり積極的ではなかった。同じ中学校区の小学校であっても,隣の学校の情報については,ほとんど入ってこない。学校の壁は,とても高いものであった。ましてや,海外の文化も言語も違う学校と関わりをもつことなど想像もできなかった。
 ところが,コンピュータでインターネットの世界へ入り込むと,世界中の人達との様々な出会いがあり,発見がある。さらに,テレビ電話などの新しいメディアを使う事で,今までまったく関わりのなかった学校や地域と,新しいパートナーシップを育てることができる。この様なことを子ども達に体験させ,学習させる事が,21世紀の高度情報化社会を,逞しく生きる力の育成になると思う。また,次代を生きるための大切な社会性を育てることにもなると考えている。そこに本校がインターネットを活用するねらいがあり,研究の目的とするところである。


1 本校の実践
 (1) 翻訳ソフトを活用したEメール交流の実践
 平成11年9月より,アメリカのカルフォルニア州サンタクルーズ市の学校と,Eメールでの交流を始めることとなった。この取り組みは,国際青少年育成財団(IYF)がアメリカの教育機関と協力して,マイクロソフト社に資金を提供して「グローバルなつながりによるよりよい教育の促進」の事業を推進するためのものである。アメリカの子ども達が,Eメールなどを活用する能力の育成をねらいとした事業である。その取り組みの相手校として,本校の6年生が参加させていただいた。日本の交流相手校が,ほとんど中学校という中で,本校だけが小学校であった。お話を持ってきていただいたとき,英語を学習していない小学生に,英文でのEメールができるかどうかとても不安であった。ただ幸いなことに本年度より,週に2時間だけネイティブの先生が来校下さり,英会話を指導していただいていた。そのネイティブの先生に相談させていただくと,快くEメールの協力を引き受けてくださった。このことを頼りにEメール交流を引き受けることとなった。ところが始めてみると,相手校のアメリカの学校では日常的にEメールの交換をしたいとのこと,とても週1度来校されるネイティブの先生に,頼りきるわけにはいかなくなった。
 そこで,使えるかどうか,はたまた,使い物になるかどうか? とにかく一度,翻訳ソフトの勉強をしようということになった。日英と英日の両方向の翻訳ソフトを捜し求めた。予算の都合もあり教頭先生と相談しながら,インターネット情報などで評判のよいものを1万5千円前後で購入した。使ってみると,思ったよりもずい分と,使い勝手の良いものであった。もちろん機械翻訳なので,完璧な翻訳とはならない。また,入力の仕方がまずいと,とんでもない翻訳をしてくれる。ただ,教師の仕事としては,この翻訳ソフトを使うことで,基本的な単語や文章を提示してくれるので,英文を作成するのに修正作業だけで済ますことができる。スペルの間違いも,ほとんど気にする事はない。とにかく翻訳ソフトを使うか使わないかで,作業能率はとても大きな違いがある。子ども達には,主語をきちんと入れて,和文を作成するように指導した。作文したものをフロッピーに,テキスト形式で保存させ,それを翻訳ソフトにかけた。
 力のある子どもには,22台のコンピュータにプレインストールされていたサービス版の翻訳ソフトを使い,自分で翻訳作業をさせている。ただ,やはりサービス版のソフトなのか,コンピュータのメモリーが足りないのか,それとも子どもの操作がまずいのか,よくフリーズしたり強制終了させられたりする。
 とにかく,9月10日から始めた,メールのやり取りは12月22日までで,約400通以上のメールが行き来することとなった。子ども達にしてみると,違った文化の中で生活をする,同じ年齢の子ども達と交流をすることで,自分達の生活をグローバルな目で見つめなおす良い機会になっている。遊びや学校生活の違いや共通点などを知る事で,決して国内の交流では得られない貴重な体験をしてくれている。この交流の輪をアメリカだけでなく,アジアやヨーロッパなどの他の国や地域に広げていく事ができれば,すばらしいと思う。
 コンピュータの性能の急速な進歩とともに,今後も様々な翻訳ソフトがその機能を向上させていく事は,間違いない。われわれ教育に関わる者の務めは,そのような状況を前向きに受け止め,子ども達により良い教育活動の場を提供する事にあると思う。
(2) テレビ電話の活用実践
 新しいかたちのコミュニケーションとして,テレビ電話の活用を以前から考えていた。最近は,6万円前後のずい分と安いものも出てきたし,近距離での交流であれば通話料もそんなに高くない。そこで,何とか資金を工面して,昨年の夏,機材を2セット購入した。ISDNの回線も河内長野市の全ての小中学校に,9月から設置されることになっていたこともあったからである。
・学校紹介交流
 まず,最初に行ったのは隣接学校の三日市小学校との学校紹介交流である。5年生どうしの学年交流であった。両校の校長先生の挨拶,校歌の紹介のあと,運動会の前ということもあって,両校の運動会での団体演技の紹介などを行った。初めての取り組みのため機器の設定がまずく,画像も音も良い状態ではなかったが,それでも,子ども達は,大変な盛り上がりであった。これは,上手く使えば,とてもすばらしい教育機器になると感じた。
 つぎに学校紹介を同じ5年生で,今度はクラス単位で行うこととした。この交流では,互いの学校を紹介した,ソフトを制作し活用した。交流授業の前に,それぞれの学校の歴史や伝統などをクイズにして楽しい学校紹介ソフトを作った。クイズは児童が考えたものの中から選び10問程度の設定にした。この学校紹介クイズのソフトをテレビ電話での交流授業の中で,互いに取り組みその感想を発表しあった。互いの学校についての情報を,音楽や古い写真などを通して,紹介しあう楽しい交流授業となった。コンピュータとテレビ電話とを活用することで,より効果的な取り組みができた。
・中学校の文化祭への参加
 11月の南花台中学校の文化祭へテレビ電話で参加させていただいた。参加したのは6年生全員である。子ども達は,初めて見る中学校の文化祭を,興味深く参観していた。美しいコーラスや力強い和太鼓の響きに,とても感動したようである。お礼に自分達の練習しているリコーダを,中学生に聴いてもらった。このテレビ電話交流によって,体育館などの大きな会場と教室との交流も準備がしっかりできていれば,技術的には十分可能であるということが分かった。また,テレビ電話での音楽の交流授業は,予想していたよりも良い音質が得られるということも分かった。
・体験学習の交流
 12月には市内の美加の台小学校と体験学習の交流授業をテレビ電話で行った。美加の台小学校の6年生が自分達の経験した職場体験をスーパーユキで書き込み,それを本校の子ども達が見せてもらった。体験したことを写真や音を入れて,楽しく紹介してあった。クイズなどもあって,見る者をあきさせない作品である。テレビ交流での感想発表の交換では,様々な感想や意見が出てきた。勤労の尊さとともに,その厳しさを語る児童。一つの仕事をするために,多くの人々の協力が必要な事。仕事をするには,学力も必要だが,それ以上に強い体力が大切になる事を伝える子ども等。どれも,教科書の中だけの学習では,得られない貴重な学習である。
 この取り組みで,自分が大きくなったら,やってみたい仕事を考えさせ,そのためには今している学習が大切な基礎となる事を気づかせることができた。このようにコンピュータとテレビ電話によって,貴重な体験学習の成果を,本校の児童が共有できたことは,とても意義のある学習であったと感じている。
・地域の研究機関による遠隔授業
 昨年の12月20日に大阪府立産業技術研究所からテレビ電話を使った遠隔授業をしていただいた。この大阪府立産業技術研究所は,産業界から持ち込まれた新商品の安全性や耐久性などの調査を行う公的機関である。温度や衝撃などによる様々な耐久テストや電磁波の測定などを行っている。
 この研究機関を紹介したビデオを事前に,児童に見せておいた。その見た感想とともに,質問を書かせ,それをEメールで,授業の前に担当の先生に送った。質問の主な内容は,次のようなものであった。
・研究所の中はどのようになっていますか。
・研究所の中では何人の人が働いていますか。
・電磁波をあびるとどうなるのですか。

・携帯電話は,どれぐらいの電磁波が出るんですか。
・携帯電話を持っている人の近くにいると,体に悪いですか。
・パソコン,携帯電話,テレビの中で一番電磁波が多いのは何ですか。

・人工気候をするのにお金は,いくらかかりますか。
・人工気候で気温はどれぐらい上げられますか。
・2000
年問題とはどんなことですか。
このような質問に対し,3人の先生が交代で答えていただいた。難しい内容にもかかわらず,6年生の子どもに良く分かるように,ていねいに説明をしていただいた。今まで,このような遠隔授業を経験したことのない児童達は,とても興味深く各先生の話を聞いていた。指導担当していただいた各専門の先生は,電子計測のグループの先生・光応用計測グループの先生・材料計測のグループの先生であった。やはり,専門家の話は,具体的な事例をもとに,とても説得力のある内容だった。それぞれの分野について,まったくの素人である学校の教師が,語れるようなものではない。教師にとっても,大変勉強になる話であった。大阪府立産業技術研究所の先生方に深く感謝している。
 このような実りのある取り組みができたことで,今後も教師だけが指導の主体となるのではなく,地域の様々な人材や研究組織などによる,広く深い内容の遠隔授業の実践を続けたいと考えている。そのために,様々な地域の人材や教育機関や研究機関とのネットワークをさらに広げていきたい。

2 成果と課題
 インターネットへの接続をしていただいた4月から12月までの間,本校では今まで経験できなかった貴重な学習体験をさせていただいた。以前は校内のイントラネットでのコミュニケーションでしかなく,職員室とコンピュータ教室との間でのメールのやり取りしかできなかった。ところが本年度から,地域の商店や他校とのEメールを始め,海外とのメール交換などで,開かれた学校を目指した取り組みに,大きな成果を上げる事ができた。子ども達も今まで,見ることも聞くこともできなかった世界をインターネットという新しいメディアの力によって,体験することができた。このことは,子ども達にとって,大きな学習財産となっている。
 また,今まで不可能と思われていた海外とのメール交換などを実際にやってみて,それができるという喜びが,新たな取り組みへの意欲となっている。例えば,子ども達は,メールを送るだけでなく,添付ファイルでクリスマスカードや年賀状を送ろうとする。これらは,できる事を知識として知っているだけではなく,できたという体験が,さらに次への取り組みへの自信となり,実践できたのである。更に,その返信メールとして,海外からアニメのグリーティングカードが送られてきたとき,児童は新たな感動をもって,また貴重な体験をする事ができた。こんな挨拶もあるんだ,こんな形でのコミュニケーションもあるんだということを学んだ。このような生きた体験学習こそ,最高の成果であると考えている。
 また,テレビ電話を活用した授業の取り組みは,学校の意識を大きく変えることができた。今まで閉鎖的であった学校が,他校や地域からの情報をリアルタイムでやり取りすることで,コミュニケーションの楽しさや大切さを認識することができた。児童は情報を受けるだけでなく,自らも発信し交流を深めていくことで,主体的に考え,その思いを相手に伝えようと努力するようになった。このような学習活動が,次代を逞しく生きる力の育成につながるものと考えている。
 しかし,課題は,まだまだ多い。海外へのメールについても,そのやり取りには,かなりの個人差がある。頻繁にメールの交換がある児童もあれば,1通だけのやり取りで,後が続いていない子どももいる。交換相手との相性の問題もあれば,男の子の中には手紙を書くことに面倒くささを感じる子どもいる。両国ともにメールをこまめに書くのは,やはり,女の子に多い。また,翻訳ソフトの数の問題もある。良い翻訳ソフトは,予算的に負担が大きく,多く揃える事はできない。その為,児童が一人ひとり,自分の力だけで最後まで翻訳作業をさせることはできない。また,機械翻訳では,どうしても細かい文意を正しく伝える事は,困難である。さらに,海外の学校との休業日や年度初めの時期のずれで,互いにメール交換ができる期間が限られてくる。
 テレビ電話については,交流する相手との事前の打ち合わせを十分にしておく必要がある。交流のねらいや内容,機器の設定の確認など1時間の交流授業のために,かなりの準備時間が必要となる。しかし,その準備や打ち合わせの時間があまりとれない。ましてや交流の相手が,遠隔地になればなるほど,事前の打ち合わせが難しいという問題がある。また,会場によっては,映像や音響を前もって,しっかりと確認しておかなくては,大失敗の交流になる。特にハウリングに対しては,体育館などの大きな会場でやるときには,十分に対応しておく必要がある。テレビ電話自体の値段は,ずい分と安くなっている。しかし,ただそれだけでは利用できない,ターミナルアダプターやエコーキャンセラなどの周辺機器に加え,ビデオカメラやマイクなどの外部入力の機器も必要になる。このような機材の準備とその適切な活用には,大変な時間と努力が必要である。これは,決して一人の力で,できることではない。学校全職員の協力体制を維持し,適切な活用技術の習得が課題となる。また,テレビ電話での交流授業を発展させるためには,相手をお願いする学校や教育機関または研究機関などと,幅広く信頼関係を保つ必要がある。この交流相手とのネットワークを広げる事も大きな課題である。

ワンポイントアドバイス
 海外との英文メールでの交流は,相手も同じ年齢の子どもであれば,小学校でも十分に可能である。なぜなら,送られてくるメールの英文も決して難しいものではないからである。翻訳ソフトを活用することで,ほとんどの意味は理解できる。ただ,アメリカは多民族国家のため,母語が英語でない児童も多い。そのため,メールの中には,スペルの間違いや文法上おかしなものもある。そんな英文は,翻訳ソフトではうまく翻訳できない。面倒でも,教師が少し修正してやる必要がある。和文から英文に翻訳するときは,主語を入れて,できるだけ短い文にすれば,翻訳ソフトでだいたいの意味を相手に伝えることができる。


参考文献
 レター・FAX・Eメールにすぐ使えるセレクト表現
 リン・ロブソン著・明日香出版社

利用したURLなど
 アニメーショングリーティングカードの発信
 http://www1.jp.bluemountain.com/index.html
 英語でEメールを書こう!
 http://www.wnn.or.jp/wnn-s/e-mail/index.html