ネットワークを活用した総合学習

― 伝えよう!! 萱野・かやの・カヤノ ―

小学校第3学年・総合的な学習の時間
箕面市立萱野小学校 渡辺 信一
kayano_ele@maple.city.minoh.osaka.jp
http://www.city.minoh.osaka.jp/kayano-ele/home.html
キーワード 小学校,3年,総合学習,伝え合う力,メールボランティア


インターネット利用の意図
 総合学習は,学習を互いに関連づけることにより意味のある実際的なものにしていくという「学習のネットワーク」のかなめとなるものであり,「地域や社会のネットワーク」に支えられてこそ成立する。そして,そのようなつながりの幅を広げ,新たな可能性を生み出していくものが「コンピュータのネットワーク」である。
 自分たちの地域や学校について調べ,そこに込められた人々の願いを共有していこうとする総合学習「伝えよう!! 萱野・かやの・カヤノ」は,国語科と社会科を基盤としながら,人間関係づくりとの取り組みと関連づけて展開される。学習者と学習者との伝え合いから,メールボランティアとの伝え合い,さらには,遠く離れた地域との伝え合いというように,総合学習に組み込むネットワークを拡げていくため,コンピュータを活用した。


1 総合学習をとりまく3つのネットワーク
(1) 総合学習が生み出す学習のネットワーク
 学校で学ぶことの意義は,たくさんの学習者が互いに影響を与えつつ学んでいくところにあるものと思われる。教室には,個々の経験に基づいた多様な情報が集まるわけであり,それらを持ち寄って分かち合うことによって,互いに高められていくのである。子どもたちの個性を大切にしながら,それを十分に育んでいくためには,一人ひとりの興味や関心と結びついた,意味のある学習活動が必要であろう。
 萱野小学校は,総合学習に取り組んで今年で8年目を迎える。これまで一環して目指してきたのは,教師から一方的に押しつける学習ではなく,子どもたちとの双方向的なやりとりの上に成り立つ,柔軟で行動的な学習であった。そのような「総合学習」の存在は,各教科での学習のねらいや意味を,より際立たせるものでもあり,学校を実際的な学びの場へと変革する一つの鍵となっていくに違いない。
(2) 総合学習を支える地域や社会とのネットワーク
 総合学習を行動的で実際的な学習として設定し,子どもたちにとって意味のあるものとしていくためには,それが地域や社会とどこかで結びついていくことが必要であると思われる。それは,子どもたちが生きる地域や社会のなかから課題を見出すという場合もあれば,子どもたちの身近な事物についての課題が地域や社会の課題へと広がっていく場合もあるだろう。いずれにせよ,その学習の過程において,地域や社会のフィールドワークや,さまざまな人々との出会いの場を数多く設定していきたいものである。
 学習を学校の中だけに閉じこめてしまうのではなく,広く地域や社会に開いていくことによって,子どもたちは多くのものを得ていくことになるのであろう。
(3) 総合学習の可能性を広げるコンピュータのネットワーク
 コンピュータによって文字や絵をデジタル化することによって,情報の蓄積や加工が容易になった。さらに,コンピュータとコンピュータとがネットワーク化されることによって,情報を瞬時にやりとりし,より多くの人と共有できるようになってきた。すなわち,コンピュータとは,情報と情報,情報と人,さらには人と人とを結びつけるネットワークの道具なのである。日本全国の学校がインターネットによってつながろうとしている現在,学習の可能性は大きく広がってきている。とりわけ,学習者が個々の課題を追求する総合学習において,互いの情報を伝え合ったり,必要な情報を収集したりする手だてとして,コンピュータのネットワークは欠くことのできないものとなりつつある。

2 「伝えよう!! 萱野・かやの・カヤノ」
(1) 学習のねらいと概要
 「伝えよう!! 萱野・かやの・カヤノ」は,3年生の「ランラン探検隊」が自分たちの学校や地域について調べるなかから,そこに込められた人々の思いや願いに出会い,それらを伝え合うことによって共有していこうとする学習活動である。この年間を通した一連の学習は,社会科における地域学習,国語科における「伝え合う力」の育成,さらには,人間関係づくりの取り組みなどを関連づけた総合的な展開になっている。(図1)
(2) 学習の過程
1学期 ランラン探検隊,レンゲ畑へ行く
 人間関係づくりの取り組みとして,4月の学年開きや5月の友だち月間に,互いの「よいところさがし」,「私らしい言い方」の学習を設定した。社会科では,3年生全員で校区のレンゲ畑へ探検に出かけ,そこには市立病院の入院患者の目を楽しませるという願いが込められているということから,地域の学習をスタートさせた。国語科では,互いの意見や作品を電子掲示板や付箋紙などを活用して伝え合うという活動を設定した。
2学期 ランラン探検隊,メールボランティアや萱小の先輩に出会う
 1学期の学習をもとに,夏休みには,自由な調べ学習を展開した。そして,その成果を,電子メールを使って箕面市メールボランティアと伝え合ったのである。国語科では,説明文教材から読み取ったことをさまざまな方法で表現するという学習に取り組んだ。そんなとき,萱野小学校の卒業生から,「学校や地域のようすを教えてほしい」という手紙が届く。先輩たちにどんなことを伝えるのか,それぞれ,興味ある場所やことがらについての調べ学習を開始した。
3学期 ランラン探検隊,学校や地域を探検する
 調べたことを報告としてまとめ,先輩との伝え合いをおこなうなかで,それぞれの課題がさらに深まったり,あらたな疑問が生まれたりしていくことになる。
 「伝えよう!! 萱野・かやの・カヤノ」の学習は,学校や地域をよくするために取り組んできた人たちや,年上の卒業生との伝え合いを中心に展開する。この学習をとおして,学校や地域のあり方,さらには,人々や自分の生き方に目を向けることができればと思う。



(3) 3つのネットワークの組み込み
ア.学習のネットワーク
(a) 練習〔基礎・基本〕
 この学習は,国語科,社会科,人間関係づくりという教科や領域のネットワークの上に成立しているものであるが,それぞれの教科においても学習と学習の関連づけをはかった。
 国語科の最初の単元では,本や友だちについての個々の意見を出し合い,文集としてまとめることにより交流した。互いの意見の重なりや異なりを知ることにより,伝え合う活動の楽しさを実感するためである。また,文法学習についても,カードを使って文の要素を入れ替えてみたり,付箋紙を使って互いの意見を出し合うことをとおして,自分たちが使っている文法に気づくという学習をおこなった。これらは,伝え合う力の基礎・基本を身につけるための「練習」としてとらえることができる。
(b) 練習試合〔発展・応用〕
 練習で身につけた力を実際に試してみる場として設定したのが「つな引きのお祭り」という説明文の学習であった。文章から読み取ったことを,「絵本」「新聞」「ペープサート」「ホームページ」など,今までに練習したいくつかの方法で伝え合う。これは,実際的な活動の場を用意しておこなう「練習試合」なのである。
(c) 試合〔総合・実践〕
 メールボランティアとの伝え合いや卒業生との伝え合いといったランラン探検隊の活動は,国語科で身につけた伝え合う力を実際に活用する「試合」の場でもあった。そこでは,さまざまな力が複合的に結びついて発揮される。その成果からは,漢字の使用や,文章表現力といった個々の課題が浮かび上がってきた。それらを教科学習によって補強しながら,次の試合では,十分な力を発揮できるように,新たな練習を組み立てていくことになる。
イ.地域や社会とのネットワーク
 萱野小学校の校区は,社会科副読本『わたしたちの箕面』にも紹介されているとおり,花や野菜づくりのさかんなところである。近年,まちづくりの一環として,「花」を育てることによって互いのつながりをつくっていこうという動きが広まり,川沿いの空き地や,地域の団地の中などに,何ヶ所かの花畑がつくられてきている。「道づくりワークショップ」「当対池公園ワークショップ」など,萱野小学校のまわりには,地域の人々が自らの手で願いを実現してきた成果が数多く存在する。何より,子どもたちが学ぶ現在の校舎そのものが,理想の教育を実現したいという教職員の願いによって建てられたものなのである。
 萱野小学校や,それを取り巻く地域のようすを調べることにより,自分たちの願いを実現していくということの意義を知り,子どもたち自身も何らかのかたちで学校や地域をよくしていくための動きをつくり出していくことはできないだろうかと考え,この学習を設定した。すなわち,この「伝えよう!! 萱野・かやの・カヤノ」という総合学習自体が,地域や社会とのネットワークそのものであるともいえよう。
ウ.コンピュータのネットワーク
(a) 電子掲示板への入力 「名前作文・詩を書こう」
 萱野小学校では,コンピュータ室18台,憩いの広場4台のコンピュータをネットワークで結び,常時子どもたちに開放している。これらのコンピュータからは,インターネットのホームページや校内ネットワークの電子掲示板を活用できる。
 電子掲示板に書き込むのは3年生からである。文字入力の練習も兼ねて,「名前作文」と「詩を書こう」という単元を連続して設定した。

学習者の活動

指導者の支援

(a) 名前作文【3時間】
●名前の頭韻を踏んだ作文をつくる
●電子掲示板に書き込む
●互いの作品を鑑賞する


・電子掲示板の使い方
・文字に色をつけられることを教える

(b) 詩を書こう【5時間】
●『わたしと小鳥とすずと』『どきん』を読む
●二つの詩の文型を使って詩をつくる
●電子掲示板に書き込む
●互いの作品を鑑賞する

・文型を際立たせるワークシートを用意
・仮名漢字変換
・文字の大きさを変えられることを教える


(b) メールボランティアとの交流 「ランラン探検隊」
 今年度から,学校のコンピュータ活用を支える目的で,箕面市メールボランティアの募集が始まり,現在の登録人数は90名を超えている。
 「伝えよう!! 萱野・かやの・カヤノ」の一環であるランラン探検隊の活動として,メールボランティアとの交流を設定した。夏休み中の「発見」をメールのかたちで発信するわけであるが,今回は,電子掲示板上に「メールボランティア」という欄を設け,そこに書き込まれたメールを教師がボランティア宛てに転送するという方法を用いることにした。

子どもたちの活動

指導者の支援

(a)「ランラン発見カード」に,夏休み中に発見したことを記入する【夏休みの課題】

・学習のねらいを伝え,「ランラン発見カード」を配布する

(b) それぞれの発見をメールボランティアに伝える【3時間】
●伝える相手を決める
●メールの原稿を書く
●電子掲示板に書き込む

・得意分野などが書かれたメールボランティアの一覧リストを用意する
・伝える内容をまとめるために,メールの原稿用紙を用意する

(c) メールボランティアとの交流を楽しむ【課外の時間を活用】
●届いたメールについての返事を書く

・クラス内で,互いの交流を紹介し合うような共有の場を設定する

(d) 互いの活動を交流し合う【4時間】
●交流内容をもとにジャンル別のグループをつくり,互いの交流を紹介し合う
●グループごとに交流内容をわかりやすく掲示する
●互いのグループの掲示を見て,それについての感想を書き合う

 
・互いのよさへの気づきを伝え合うために「ランラン感想カード」を用意する
・共有の手だての一つとして,メールボランティアとの交流のようすを萱野小学校ホームページに掲載する


(c) インターネットの活用 「つな引きのお祭り」
 国語科の説明文教材「つな引きのお祭り」から読み取ったことをさまざまな方法で伝え合うという活動を設定したところ,「絵本」「新聞」「ペープサート」などの他,「パソコン」を希望した学習者もあった。
 パソコンを駆使してできあがった作品(図2)を萱野小学校のホームページにリンクし,インターネット上に公開したところ,秋田県刈和野の中学生から,交流を希望する電子メールとともに,つな引きについての調べ学習をまとめた冊子が郵送されてきた。地元から得られた貴重な情報をもとに,秋田と大阪との交流学習を続けている。

3.成果と課題
 自分たちの地域や学校についての調べ学習を,学習者一人ひとりの興味や関心を大切にしておこなうことにより,多様な課題が浮かび上がってきた。さらに,その重なりや異なりを分かち合うことによって,互いの学習の質を高めていったように思う。このような学習をメールボランティアや卒業生といった学校外の人材との実際的な伝え合いを交えて展開できたのは,コンピュータネットワークの力によるものであったといえよう。
 今回は,国語科と社会科という2教科に焦点を当てて展開したが,他教科についても,総合学習を軸として結びつけていくことによって,より意味のある学習にしていくことができるであろう。そのような学習活動の可能性を拡げる道具として,コンピュータの有効な活かし方を探っていきたい。

ワンポイントアドバイス
 「箕面市メールボランティア」は箕面市教育センターの呼びかけによるボランティア組織である。総合学習を進めていくためには,このような学校外の人材との接点を多様に確保していくことが必要であろう。


利用したURLなど
・箕面市メールボランティア http://www.city.minoh.osaka.jp/edu-center/html/mail.html
・秋田県西仙北町のホームページ(刈和野の大綱引き) http://www.obako.or.jp/nishisen/