E-Trekking Osaka プロジェクト

                                            高等学校国際交流
                                       大阪府私学教育工学研究会事務局長 辻 陽一

                               キーワード 高等学校,英語,国際交流,インターネット,ハワイ,韓国


インターネット利用の意図
 韓国・ハワイの生徒と大阪府内の高等学校の生徒たちが事前に電子メールやISDNテレビ会議システムを使って交流した後,大阪市内を携帯端末(ノートパソコン,PHS,ネットワークカード)やデジカメを持ってトレッキングする。そこで得たデータや記録をその場でホームページ上に掲載する。
これは新聞記者などが仕事で使用している環境であるが,修学旅行や校外学習など,学校の外に出て行うすべての活動を現場感覚で情報発信する手段としてインターネットを使うことができる。本プロジェクトでは,通常の電子メール交流などに加えて,移動体通信を体験学習させることにした。インターネットを用いた国際交流とともに,学校教育の中で,有効な手段になると考えたからである。


1 概要
 要約すれば,参加表明した大阪府内の9高等学校が本プロジェクトに参加する生徒をそれぞれの学校で情報教育を行うとともに,3回にわけて合同で研修会を開催。さらに7月28日から30日の3日間,ハワイ,韓国から招待した高校生と本プロジェクトに参加した大阪府内の8高等学校の生徒,計40名余が参加して,以下のようなイベントを実施した。
 第1日目は,テーマ(ファッション,食べもの,演劇,おもちゃ箱)別にグループに分かれた生徒たちが大阪市内をトレッキングし,指定されたチェックポイントを回り,取材,その状況をインターネットを通じてホームページに掲載するなどの活動を行う。
2日目は収集したデータをもとにPower Pointを使って発表準備に取り組み,3日目は,発表会を行う。主催団体は大阪府私学教育工学研究会とMEF(Multimedia Educational Forum)。

2 企画の背景
 発端は,帝塚山の語学合宿に招待したハワイの高校生9名と大阪の高校生が共同で行うプロジェクトを企画したい,せっかく招待したハワイの生徒を3泊4日の語学合宿だけで帰国させるのは惜しいというところから始まった。何か,よい企画を立てることは,ハワイの生徒にとっても帰国後の学習にプラスになるし,日本の生徒にとっても交流のよい機会になる。ハワイから派遣される生徒はハワイの教育省のE-Schoolプロジェクトに参加している生徒たちで,同教育省のプロジェクトに参加することで,日本に来ることができるというのは,ハワイの教育省にとっても魅力あるプロジェクトであった。
そこで大阪市内を携帯端末を持ってグループで市内をトレッキングしながら取材し,これをパソコンで処理して発表会を開催する企画をたて,主催者となった大阪府私学教育工学研究会とMEFに提案した。また企業や学生ボランティアなどからも協力を得ることとなった。

3 目的
 本プロジェクトを通して生徒たちに学ばせたいことは以下のように多岐にわたる。

(1) 地域学習:大阪とその文化を知る
(2) 校種・国境を超えた交流を体験させる
(3) 参加した個々の生徒がそれぞれの役割を担うとともに,混成チームの中でコミュニケーションとチームワークの形成を図らせる
(4) 情報教育を以下の視点から行う
  情報収集能力の育成
  情報処理能力の育成
  プレゼンテーション能力の育成
(5) 語学教育
(6) 携帯端末を用いて離れた場所からの情報発信を行う中でネットワークとネットワーク社会への認識を深める
一口に言えば,情報活用能力を育成しながら,国際共同学習プロジェクトに参加する中で,国際理解を深めさせるということになる。

4 事前学習
 各校における個々の指導とは別に,合同で以下の事前学習を行った。
(1) キックオフミーティング
 5月30日(日)午前10時から午後1時。大阪信愛女学院メディアセンタでキックオフミーティングを開催。9校30名弱の生徒が参加。ハワイとのISDNテレビ会議,ホームページ作成方法,E-Treking Osakaの概要説明,グループ分けを行う。ホームページ作成講習の担当者のウッドランド株式会社先端技術部原田雅代氏には,氏自身の経歴から女性の生き方を含めて講演を依頼。就職活動のため,職業訓練校などに通いながら,また,企業に何度も自己アピールをして現在の会社に採用されたことなど,今も以前勤務していた木材会社のページに掲載されている氏が製作した机の画像などを紹介しながら,講演。参加者の多数を占める女子高校生に感銘を与える。
(2) 技術講習会
 7月16日・17日の2日にわたる技術講習会は4月に新築された帝塚山学院高等学校(大阪市住吉区)のコンピュータ教室で実施。生徒は,第1日目は携帯端末を用いたインターネット接続方法を筆者やアステル関西のスタッフから講習を受けるとともに7月28日実施予定の市内トレッキングに関する注意事項などの説明を受ける。
 2日目は,ボランティアの大学生からPower Pointについて講習を受けるとともに,グループに分かれてトレッキングの具体的なコースについて話し合った。
なお17日,会の終了間際に当日到着したばかりのハワイの教育省のケリー・コイデ氏とETO参加予定の高校生ジル・コイデ氏が会場を訪問し,挨拶をする。また,この日,ETO用のTシャツが配布された。

5 トレッキングとE-Trekking Osaka発表会
  ETOの最大のイベントは,以下のように大阪市内と富士通関西システムラボラトリーで行われた。
(1) トレッキング
  トレッキングは7月28日午前9時から1時間余りかけて大阪府立旭高等学校のコンピュータ教室で接続のテストや操作方法,トレッキングの最終注意を受けた後,生徒は10班に分かれて,それぞれのコースをトレッキングするため,市内に出る。注
 最終のゴール地点は,各班に与えられた必須チェックポイントでインタビュー相手から封筒で受け取るキーワード(1文字)を合わせたときに開くことができるExcelのファイルで分かるようになっている。そこで,各班は,インタビューの内容や現在位置などとともに入手したキーワードをホームページ上に掲載するよう求められていた。したがって,携帯端末を用いてホームページにアクセスしないとゴール地点に達することができない仕組みになっていたわけである。
 このようなクイズ的要素を加えながらも,生徒はインタビューした人々から大阪について色々な示唆を与えられている。内容については,次の発表のところに詳述するとして,生徒の一人は,この辺のことを後日電子メールで次のように書いている。
 「16年間大阪に住んできたけど,知らないことがまだまだたくさんあることを知りました。いろいろインタビューしながら回って,つくづく大阪の人は心が温かいと感じました。英語やコンピュータの面でもたくさんのことを学び,有意義な3日間を過ごすことができました。」帝塚山学院高等学校
(2) トレッキング先から送られたデータ例
 
帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校の生徒
 Wed Jul 28 17:53:20 1999
 name:Hitomi
 group:Group 6
  We went to three diffrent places but the most interest shop was Yaekatsu which was Kushi Kstsu shop. I liked the guy who was te owner of the shop. It was cool day today.
 ハワイの生徒
 Wed Jul 28 17:31:22 1999
 name:Adrienne H
 group:Group 6
  Going around Osaka was a blast! We had tons of fun together. We went to a cooking school and watched the students cook food for other students. We saw live turtles being murdered with knifes. It was disgusting! Then we went to Katsu Restaurant. We ate Kushi Katsu. It was delicious. We also ate octopus, squid, and scallops. Pretty weird!! We listened to the owners of the restaurants talk about their food and why it is special. They also talked about Osaka's merchandise. Then we went to a traditional, expensive Japanese retaurant named Kagairou. The owner took us up to a special floor and told us about the history of the restaurant. We saw old and special, one of a kind things. We ate cool cake and yummy ice cream by the Yodo River. Now we are at McDonalds entering all of our data. It's been really fun and interesting.
 発表準備
 2日目は富士通の関西システムラボラトリーの会議室を借りて,トレッキングで収集した資料や画像をもとにPower Pointでプレゼンテーションファイルを作成。発表の言語は日本語でも英語でも認めることにしたが,Power Pointは英文とした。そこでハワイの生徒と相談しながら大阪と東京の文学の違いなど,かなり高度な内容も英語に直していた。
 また,それぞれパソコンや英語に得意な生徒,デザインや映像関係に強い生徒など,それぞれが持ち味を出して協力していた。グループ構成は各校の生徒は同じグループに属さないようにしたため,生徒は本プロジェクトを通じて知り合ったわけである。この辺りのところを生徒は以下のように書いている。
 「私は初め,ETOの意味も何もわからないまま参加して,いったい何になるんだろう?そう思っていました。イベントが始まってみると何が?とは思いつつも何かに期待している自分がいました。(中略)3日間一緒だった友達,まるで昔から知っていたような友達と離れることの寂しさ.特に韓国からきていたJiaeとは言葉がほとんどといっていいほど通じない中であんなに仲良くなれたこと。それが一番の出来事だったかもしれません。」
 なお2日目の夜は,ハワイと韓国の生徒合わせて12名と3高校10名がスタッフとともに関西システムラボラトリーの宿舎に宿泊したが,これは,これまでホームステイ先に滞在してきたハワイや韓国の生徒にとってはリラックスして,翌日の発表に備えるという重要な意義があった。
発表
 プレゼンテーションのプログラムは,午前中,ETOの成り立ちについて筆者が,パソコンの色々な使い方についてハワイ教育省のケリー・コイデ氏がPower Pointを用いて講演。筆者は日本語と英語を交互に使いながら,また,ケリー・コイデ氏は通訳をつけて,講演。これは生徒が内容を理解するとともに,プレゼンテーションの実際を見てもらう意味をねらいとした。
 生徒の発表は午後1時30分より,1班から順に行う。Power Pointは英語で表示することが指定されていたが,発表は日本語でよいとしていた。実際には,英語と日本語を交互に使うか,英語のみで行い,日本語だけのプレゼンテーションを行う班はなかった。これはハワイの生徒が9名もいたことと韓国の生徒が英語に堪能だったことで,英語で行うことが自然な雰囲気となっていたことが大きいものと思われる。
Power Pointに関しては,今回の参加者のほとんどが初めて使ったが,最後にクレディットなどもつけて,スマートな発表が多かった。機材の関係からムービーファイルは利用できなかったが,これは9月からのセカンドステージの技術講習会で学習させた。
 生徒の感想
 7月のイベントが終わったあと,メールで送られてきた生徒たちの感想を一部紹介する。
 筆者の生徒は,来年は生徒としてではなくボランティアとして参加したいとか,冬休みにやってほしいとか,セカンドステージの実施を強く求める感想を漏らしていたが,以下は,ETOのイベントが終了してから参加生徒がメールグループに流した文章の一部である。特に盲学校の生徒のメールは,今回のプロジェクトの意義をよく表しているので,一部中略をのぞいて全文を引用させていただく。
 帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校の生徒
 「それから,これは僕の意見なのですが,ETO '99 Projectでは50人ぐらいだったのを100人ぐらいにして,大阪市内をまわっていたのを大阪府内に拡大して,一週間ぐらいかけてするのはどうでしょう。プレゼンテーションを2日(1.5日)で作るのはすこしきつかったので,もう少し余裕を持って作れたらなと思います。最後に,来年もこのETO '99 Projectのようなことがありましたら,是非声をかけてください。喜んで参加します。」
 大阪府立盲学校の生徒
 「お元気ですか?盲学校のTYです。3日間どうもありがとうございました。私は,盲学校以外のいろんな高校生のみんなと友達になりたくて,海外の,それも私と同じぐらいの年のみんなと話がしたくてこのイベントに参加しました。でも盲学校の生徒で参加するのは私一人だけだったし,初対面の人と話すのが苦手な私がみんなの中に入っていけるかなあと心配していたけれど,みんなと会う前からメールで名前とかどんな人なのかを少し知る事ができたので最初からそんなに緊張する事無く話すことができました。
 目が悪い私が白い杖を持ってフラフラしながらみんなの中に入っていくと,きっとみんなは私みたいな人と関わることは日常生活の中でそんなに無いと思うし,どんな風に接していいか分からなくて「え?どうしよう。」とか思われたら私はどうしたらいいんだろうと少し不安でした。
 でも9班のみんなは,まったくそんな感じではなく普通に接してくれました。それに私が移動するときはすごく気を付けてくれたし,分からないところもいっぱい教えてくれました。本当にうれしかったです。3日間いろんなことをしていくうちに9班の4人ととても仲良くなりました。もっと前から友達だったみたいです。
 プレゼンテーションのとき「みんなの前でうまく読めなかったらどうしよう。」とおもうとすごくドキドキしてきました。自分の番が近付いてくるにつれて手に汗にじんできて「こんなにべたべたしてたら点字が読めないかも・・・」と思うと余計にプレッシャーになって八班の発表のときにはもう頭の中が真っ白になって,固まってしまいました。そんな私を両隣からジルさんと中嶋さんが私の手を取って「リラックスリラックス」って言ってくれたときは「なんていい人達なんだろう!」って半分泣いてしまいました。
 自分の発表のとき泣きながら前に出て行くわけにいかないので堪えるのに必死でした。私はこのイベントで高校時代最後のいい思い出ができました。いい友達にも出会うことができました。ただ,一つだけ残念だったのは自分の言いたい事を英語でうまく伝えられなかったことです。
 お笑いの授業を見学に行ったとき,前田さん(インタビューした人)はとても厳しいコメントをしていて,どんなことを言っているのかすごく伝えたかったのに,ジルさんが横に座っていながらなにも言えなかったのが本当に残念でした。」

6 E-Trekking Osakaの今後
 ETOは例えば修学旅行や郊外学習,あるいは総合学習の時間などに利用できる枠組みと内容を持っている。メディア操作の習熟と取材などのフィールドワークのやり方など訓練を積みながら,日本の教育で弱いといわれる発信型のプレゼンテーション能力を身につけていくことを目指しているが,これがインターネットを通じて海外と共同学習・協働作業を行う中で,異文化や国際的なコミュニケーション能力の習得へと進んでいくわけである。E-Trekking Osakaは,今後,ムービーや音楽・美術などの手法を取り入れながら,さらに実践を進め,新しい時代の情報教育・国際教育のあり方を探っていく予定である。

7 終わりに
  筆者はこれまで10年余にわたりネットワークの教育利用を考えてきたが,世界を瞬時に結ぶネットワーク網の発達は,ネットワークと国際教育を結びつけるものとなっている。その中で,本稿で述べてきたような新しい形の国際交流が生まれてきている。今後,メディアが発達するにしたがい,一層,多様な交流形態が生まれてくるものと思われるが,今後は,その形態の多様化とともにメディアを用いた国際教育の深化を図っていく必要があると考えている。

ワンポイントアドバイス
 インターネットを使った国際交流で問題となる英語の壁を乗り越える方法として,マルチメディア作品の交換が有効である。生徒が描いた絵やイラスト,ビデオなどは,言葉がなくても見ればわかるという意味で言葉の壁を感じる必要がない。また,英語が苦手でもアートが得意だという生徒が自分の力を発揮する機会を提供できる。
もちろん,英語が得意,または好きな生徒も,音声ファイルなどで英語を通じた交流が可能である。


利用したURLなど
 インターネットクラスルームプロジェクト http://www.tezukayamaizm-hs.sakai.osaka.jp/~icp98/
 執筆者の個人ホームページ,過去の国際交流実践が掲載されている http://www.os.xaxon.ne.jp/~yoichit/
 (財)コンピュータ教育開発センターの継続的国際交流「大阪校」のホームページ http://www.wit.ne.jp/cec/
 ハワイ教育省のホームページ  http://atr.k12.hi.us/