「踊るこらぼ」
-インターネットを使ったコラボレーションによる創作ダンス-

養護学校中学部,高等部・音楽,運動(体育),サークル活動
大阪教育大学教育学部附属養護学校 中学部 森   乙和
高等部 三牧 紀代美
mimakik@cc.osaka-kyoiku.ac.jp
http://yogo.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/


中学校3年生・選択教科 技術
大阪教育大学教育学部附属天王寺中学校 技術 上田 学

manabu@cc.osaka-kyoiku.ac.jp
http://tenko.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/

キーワード 知的障害,養護学校,交流教育,コラボレーション,電子メール,創作ダンス,ノーマライゼーション


企画の目的・意図
 大阪教育大学教育学部附属養護学校では平成8年より,インターネットをつかって様々な学校間交流を行ってきた。今回は,本校の中学部,高等部の生徒が,同年代もしくは,近い年代の中学生と一つの事柄について,コラボレーションし,相互理解を深めていくことをねらいに取り組んだ。目的は次の通りである。
 ・両校生徒の表現力の向上
 ・活動を通じてノーマライゼーションの考えを共に深め合う。
 ・交流教育の教育的意義を明らかにする。


1 単元名「踊るこらぼ」
(1) 取り組みの内容

 ・本校の学校行事「ふようまつり」での創作ダンス「踊るこらぼ」を大阪教育大学附属天王寺中学校の生徒とマルチメディアを使ってコラボレーションし完成させる。

(2) 利用環境
 1) 使用機種 Macintosh Performa 8台(64kでインターネット接続)
 2) 周辺器機 デジタルカメラ SONY 1台,カラープリンタ エプソン2000CU1台
 3) 稼動環境 高等部コンピュータ室 Macintosh Performa 8台(64kでインターネット接続)
ネットワーク上の会議室「踊るこらぼ」はBBSにFTP機能がついたもので,大阪教育大学に設置された「OK11(大阪教育大学附属11校園)サーバ」内に作った。会議室は,関係者が出入りできるように設定した。
 4) 利用ソフト サーバにはFirstClass Intranet Server,クライアントはサーバよりダウンロードする。その他,ネットスケープナビゲ−タ,キッドピックス, パワーポイント,フォトショップ。

2 指導計画

1) 

養護学校,創作ダンス動きと音づくり開始

4/19〜週各1時間
「運動」「音楽」

2) 

ビデオやホームページを利用して相手校の様子を調べる。中学生は障害を受けている子の基本的な理解のために調べ学習を自校で行なう。中学生は各自で「知的障害(児)」という言葉からイメージマップ(概念地図)を描く。
 
インターネットの利用
 
ネットスケープナビゲータ

5/15土曜日
本校生徒
「パソコンサークル」
以下,中学生はすべて「選択教科技術」

3) 

養護学校を訪問1回目。中学生は学校見学後,養護学校のこらぼ交流教育担当者と質疑応答を行う。以後はネットワーク上の「こらぼ質問箱」(図2)にておこなう。(障害を受けている子の基本的な理解のために。)
中学生が附養のパソコンサークルに参加。養護学校生が中学生にメールの送受信の方法とお絵書きソフトキッドピックスを教える。
 
インターネットの利用
 
サーバ及びクライアントソフト(FirstClass)
 
お絵書きソフト(キッドピックス)

6/5,19土曜日
「パソコンサークル」

4) 

それぞれの学校でテーマに沿って考える。思いついたら,どんどんメール等で提案していく。伝達方法,技術面は,教師が援助する。生徒は動き,音楽,衣装,大道具等を各自の興味あるところからネットワーク上の「踊るこらぼ」(図2)の会議室に投稿していく。
 
インターネットの利用
 
サーバ及びクライアントソフト(FirstClass) 

随時

5) 

それぞれのアイデアを表現担当の指導者が,援助しながら,やり取りしてまとめていく。

随時

6) 

アイデアがまとまってきたところから,養護学校の生徒が実際に表現していく写真,ビデオやテレビ会議で送る。
 
インターネットの利用
 
サーバ及びクライアントソフト(FirstClass)

随時

7) 

衣装,大道具など,投稿されたアイデアをまとめ両校が分担して作成する。制作の様子や意見交換をテレビ会議,メール等を使って行う。
 
インターネットの利用
 
サーバ及びクライアントソフト(FirstClass)
 
お絵書きソフト(キッドピックス)

「美術」
「パソコンサークル」

8) 

養護学校で仕上げの段階に中学生も参加して作品としてまとめてみる。

10/ 2土曜日

9) 

「ふようまつり」にて発表する。 

10/17日曜日

10) 

感想の交換,テレビ会議メール。
 
インターネットの利用
 
サーバ及びクライアントソフト(FirstClass)
 
プレゼンテーションソフト(パワーポイント)
 
画像処理ソフト(フォトショップ)

「パソコンサークル」

11) 

中学生に再度イメージマップ(概念地図)。養護学校生には感想文。

各校,最終授業

 

3 学習の展開
 項目2の指導計画にそって主な「学習の展開」を報告する。
(1) 養護学校,創作ダンス動きと音づくり開始。
 毎週月曜日の11:00〜12:00の中学部,高等部合同授業「運動」にて「忙しい,疲れた」「楽しい」などのイメージで,動きや群による表現をまとめていく。「忙しい,疲れた」などは,わかりやすかったのか,数人からアイデアがでてきた。

(2) 中学生は各自で「知的障害」という言葉からイメージマップ(概念地図)を書く。
 イメージマップの結果,集計については「4.成果と課題」で報告する。

(3) 中学生は学校見学後,パソコンサークルに参加。養護学校生が中学生にメールの送受信の方法とお絵書きソフトキッドピックスを教える(図1)。
 養護学校では,中学生に行うメール送受信の説明を二度にわたって練習をした。普段使い慣れている高等部の生徒であるが,メール送受信をどう説明したらよいのかの工夫をした。説明者1人を中心に,実際に操作する生徒2名が左右に分かれておこなった。この時期,教育実習生の実習があったので,実習日誌に書かれた授業の様子と感想を紹介する。

 5/29(土)今日はパソコンサークルに参加しました。「知らない人に教えてあげるのだから,わかるように説明してください。」という指示を意識して,自分なりに丁寧な口調にしたりといろいろがんばっていました。それぞれの役割分担があり,どう説明すればよいか考えていました。Mくんは,キッドピックスの使い方をよく知っており,こんなことを言っていた。「僕は教えるのが苦手なんです。わからないことがあったら聞いてください。」説明する意欲に欠けているかのように見えた。でも,画面上では「ここを押せばこうなるんです。」という実践タイプで活動そのものに対しては一生懸命であった。(途中省略)説明するという行為を避けていたMくんであるが,ビデオカメラが回ると,恥ずかしながらも順序よく説明し始め,初めて使う人に対しての説明ということをとても意識していました。ビデオを撮るなど,何かに見られるということは,とても良い緊張感を与え,持っている力を発揮させる環境づくりにつながると思いました。

 6/5(土)今日は,大阪教育大学附天王寺中学校の学校訪問がありました。パソコンサークルでは,S君の様子が印象的でした。メール送信の方法を一通り説明した後「では,実際にやってもらいましょう」と中学生と交代になった時,彼は自分から1人の生徒を指名しました。「全然できないのに・・・。」とためらっている彼女に対し励ましたり,指示通りにできると拍手をしたりととても彼の優しさがでていました。N君も「趣味はなんですか」など質問したり,こちらから積極的にアプローチしていくことにより,相手も少しずつ親しみを感じることができたように思います。

 

1 中学生にメール送受信の方法を教える     2 「こらぼ」会議室群とメール

(4)〜(7) 生徒は,アイデア(動き,音楽,衣装,大道具等)各自の興味あるところから「踊るこらぼ」の会議室(図2)に投稿していく。両校でアイデアを具体化する。
 
1) 大道具づくり(背景画)
 メールにて「忙しい」「おだやか」などのイメージでデザイン画を依頼する。中学生より,12枚のデザイン画が電子メールに添付されて「踊るこらぼ」に投稿される。その中から2つを選ぶ。
  
        

       3 めまぐるしい          4 おだやか

 養護学校生徒は,美術の授業で2点(図3,4)のデザイン画を元に,模造紙16枚を合わせた背景用紙2枚に描いていく。制作の様子をデジタルカメラに撮って,写真を「踊るこらぼ」へ投稿する。
 
2) 楽器づくり
 中学生へ「踊るこらぼ」で使う竹製の口琴を作ってもらうよう依頼をする。中学生は,材料を工夫し,竹の物差しを使って12本の口琴(図5)を作って送ってくれた。口琴についての感想をメールで生徒が送った。口琴についての評価もほしいというこで,音楽担当の教師が1本1本についての評価をメールでおくった。

(8)〜(9) 「ふようまつり」で「踊るこらぼ」を発表する。
 「ふようまつり」前後に中学校の中間試験と重なり,中学生と共に仕上げる事はできなかったが,中学部・高等部の合同演技種目として「踊るこらぼ」を発表した。演技内容は,パソコンサークルでN君が演技内容と写真を,パワーポイント(プレゼンテーション作成ソフト)を使ってまとめた。

1) 「踊るこらぼ」演技の様子

         

  5 中学生に作ってもらった竹製口琴   6 第7場 笑いのメッセンジャー登場  

2) 保護者からの感想
「踊るこらぼ」中・高合同にて,歌あり,楽器あり,運動ありなど,次はだれが何をするのか?ワクワクしながら見ることができました。又,生徒や先生方が,お化粧をしての登場(図6)にはびっくりしましたが,ビデオにてもう一度見る価値が充分にあると思います。
・「こらぼ」は曲と振りつけが良くあっていたと思います。主人は最初に流れた曲が印象に残った様で『何て曲?』と言っていました。
・「踊るこらぼ」はアンバランスの中にもそれぞれのこどもたちが楽しそうにしている姿が見られてうれしかったです。(でもやっぱり難解でした。)
・「踊るこらぼ」では,家の中でリラックスしている姿そのもので,とてもうれしそうで楽しそうでした。

(10) 感想,メールの交換
 
ネットワーク上の会議室「踊るこらぼ」には,6月5日(土)のメール交換開始より11月6日(土)の中学生選択教科「技術」の授業終了時までで127ファイルの書き込みがあった。そのうちの一部を紹介する。

 1) 中学生から完成した背景画を見ての感想 10月30日(土)
 ・今回のふよう祭で,僕の絵(デザイン画)を使って頂いて,どうもありがとう。うれしいです。ふよう祭をじかには見ていないので,どのようなものだったのかは,わかりませんが,良いものになったと思います。できれば,見に行きたかったです。
 ・こんにちは。UとTとHです。おだやかの絵(デザイン画)は,わたしたちが考えました。気に入ってくれてうれしいです。(背景画に仕上げた際に)人や魚,船など,いろいろにぎやかにしてくれていて,すごくよかったです。

 2) 「友だちについて」メール交換 10月30日(土)〜11月6日(土)
 ・前回10月30日(土)に中学校のKさんから「友だちについて」のメールが来ていた。これを授業の最初読ませた。内容を生徒にわかりやすくするため,具体的に説明した。中学部生徒3名には友だちについて絵と簡単な文章をつけてできあがったものをファイル添付して指導者が送った。友だちについてどんな考えを本校生徒は持っているのか,こちらも見当がつかなかった。高等部生徒は自分の考えをメールにして送っていた。

-中学生Kさんからのメール内容の一部-
 今日三者面談があります。三者面談とは,私と母と先生の3人で話をすることです。附高に行けるかな......同じクラスの子で落ちてしまう子もいて・・・,友達がいなくなるのは,とても寂しいと思いませんか?私にとって友達という存在は宝物と一緒です。みなさんはどうですか?教えて下さい。

-本校高等部の生徒のメール10月30日(土)-
 ・高三のNです。Kさん僕も親友のことについて,書きます。僕はT中学校を卒業して,附属養護学校の高等部から受けました。Sさんは,一つ年下なので次の年に受験しました。残念でしたが不合格でした。同じ学校に行けなくて残念です。
 ・僕は高等部2年のIです,友達について書きます僕もW君という友達がいました。今は卒業していませんがでも映画を見にいったりしていますだからおんなじクラスの友達とはなればなれになっても遊園地とかさそって,いっしよにいけばいいとおもいます。
 ・(メール)見ました,僕もこの学校を受けるとき緊張してました。僕には何もアドバイスできないけど最後に一言だけ言います。もしもあなたが受かったとき,おちた人の分まで頑張ってください。
 「友だちについて」のメール交換の内容には感心した。中学部の生徒も人物画を書くと2人までが多かったが,今回の絵はどの子も4人以上の人物画を描いていた。天王寺中学校のKさんの友だちに対する内面的な内容のメールを元に,本校の生徒も友だちに対しての考えを深めることができた。

4 成果と課題
 
この企画の3つのねらいについての成果と課題について述べる。
(1)
両校生徒の表現力の向上
 
養護学校では,メール送信の手順を教えるということや,メールに自分の気持ち書くということで,相手に伝えるという課題の元で,表現力の向上がみられた。また,中学生は,決められた言葉のイメージから,パソコンを使ってデザイン画を作成したことにより,表現方法についての幅が広がったと考える。

(2) 活動を通じてノーマライゼーションの考えを共に深め合う。
 
障害者理解等の手助けにと「こらぼ質問箱」をつくったが,中学生からのアクセスはなかった。学校訪問でのパソコンサークル参加や3.(10).2)に報告したようなメールがかわされるなど,生徒たちは,コラボレ−ションすることにより,自然体でつきあうことができたと考える。

(3) 交流教育の教育的意義を明らかにする。
 今回の取り組みに前後で中学生に「知的障害(児)」という言葉から思い浮かぶ言葉を書いていくイメージマップ(概念地図)を描いてもらった。大阪教育大学附属天王寺中学校の上田学先生は次のように評価した。

 1) 中学生の障害者理解(ノーマライゼーション)に関する形成的評価。
 ・「知的障害児」という言葉に対して,授業の初期には「怖い」「不安」「かわいそう」「わからない」「しゃべれない」などというマイナス項目が多く見られるが,授業終了時には,「たのしい」「ふつう」「やさしい」などというプラスの項目が多く見られる。また,授業終了時には,「パソコン」「インターネット」「メール」などの項目が多く入っている。
 ・知識習得型の授業の場合,授業の進行に伴って知識ネットワークが増えていく傾向にあるが,今回の場合,通常とは反対にネットワークは簡単な構造になっているのが特徴である。
 以上のような特徴から,考察すると。
 ・授業前の段階では,初めて体験する附養との交流に対して,知的障害に対する認識が表面的であったり,知識偏重になっているため,不安要素が多くイメージされ,全体と結びついていたが,授業後は,障害を受ける子に対する偏見や憶測が取り払われ,その結果として多くのプラス要素のみが残ったのであろう。
 ・障害を受ける子に対する偏見や憶測が不安要素として様々に結びついてネットワーク化していたものが,不安から取り除かれたため,非常にシンプルな相手に対する理解の要素だけになったものであろう。
 ・今回の交流授業のキーポイントとして,メールの役割はおおきかった。

 2) 養護学校生徒の場合
 
・平成8年より学校間交流を行いながら,メール指導を行ってきた。今回の取り組みでは,「中学生にメールの送受信方法を教える。」事からスタートした。これまで生徒自身が培ってきたメールのリテラシーを「教える」という形で自覚できたと思う。また,人に「教える」(自分の知っている事,分かっている事を伝える)事の難しさやうれしさを実感できたように思う。取り組みが進むにつれて,「明日の授業はどんなことをするの?」と聞きにくる生徒が増えていった。
 ・「舞台(今回では,創作ダンス)は総合芸術である。」といわれるように,文字情報以外でもアイデアを出し合い,コラボレーションしていくことは,いろんな個性を活かした取り組みができる。また,マルチメディアを利用することにより,生徒主体の交流が展開していきやすくなると考える。

ワンポイントアドバイス
電子メール指導を行う場合,(児童生徒,または教師であっても)イントラネットの環境でメールや電子掲示板の練習を十分に行ってから,インターネットメールへ移行していった方が安全面や体験的学習ができるという点から良いと思われる。

 

参考文献 
 ・柴田洋弥,尾添和子著 知的障害をもつ人の自己決定を支える-スウェーデン,ノーマリゼーションのあゆみ-
 ・大阪教育大学教育学部附属養護学校 平成10年度教育実践交流会要項

利用したURLなど
 
・大阪教育大学教育学部附属養護学校  http://yogo.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/
 ・大阪教育大学教育学部附天王寺中学校 http://tenko.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/
 ・11校プロジェクト         http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~fuzoku/

協力関係者
 
この企画では,「踊るこらぼ」設定ファイルをつくっていただいた石田和弘氏,外部講師の中島康明先生(大阪府立盲学校 教諭)に協力いただき,大変お世話になりました。ここにお礼申しあげます。