インターネットを活用した児童の豊かな表現力を育成する音楽指導

小学校第5学年・音楽科
三木市立広野小学校 三枝 富誌子
キーワード 小学校,5年,音楽,インターネット,ホームページ,作曲,交流


インターネット利用の意図
 今年度,本校はインターネットが利用できる環境が整い,児童は大変興味深くいろいろなホームページを見ている。特に学校のホームページでは,どんな校歌が歌われているのか音入りのページを探す児童が多いことに気づいた。また,難しい漢字の利用等で文字を読むことが苦手な児童は,写真や音の入っているページをよく探して楽しんでいた。また,音楽の学習の中で音楽劇を異学年に発表したり,合奏曲を市内の転校した児童の通う学校にビデオレターとして送ったりするなど,交流することに興味を持ち始めている。このような児童の実態を踏まえて,音楽科としてインターネットを利用し,表現力を高める指導方法を考えた。
 まず,児童が自分の好きな風景の写真を探し,そのイメージに合う音をコンピュータでつくる。そして,写真と文字の入った自作のホームページに教師が音を貼り付けて,学校のホームページとして公開する。それから,他の学校の児童や音楽科の教師に電子メールで感想をもらう。また,同じ市内の学校の児童とテレビ会議でお互いの曲を紹介しあい意見交換をする中で,より工夫した音づくりをしようとする意欲をたかめさせる。


1 音楽をつくって表現しよう−音の風景をつくろう−
(1) ねらい
 本単元では,コンピュータの作曲ソフトやインターネットを利用して,イメージに合う曲づくりをすることで,音楽をつくる喜びを味あわせることをねらいとしている。
 児童がこれまでに撮った写真には,家族や本人の様々な思いがこめられている。また,いつも見なれている学校や登下校の景色の中には,その児童らしい好きな風景があるであろう。それらから探した写真から思い浮かぶ音をつくり,ホームページにのせ,他校へ発信し交流することは,音楽の学習を一層豊かにすると考えた。

(2) 指導目標
・コンピュータ等を利用して,オリジナルの曲の入ったホームページをつくることで,音楽を進んで表現しようとする。
・他の児童のアドバイスを自分の作品に生かしながら,風景に合う曲を工夫してつくる。
・イメージをふくらませて,好きな風景の写真に合う曲をつくる。
・工夫した表現の良さに気づいて友だちの作品を鑑賞する。

(3) 利用場面
この学習では,次のような学習場面でコンピュータを活用する。
(a) イメージに合う曲をつくる。
コンピュータの作曲ソフトをつかって,自分の好きな風景の写真からイメージした音をつくる。よりイメージに近づくため,速さ・音色・拍子・音の重なり・曲のまとまり・作詞・伴奏等を工夫させる。途中で,他の児童に感想をもらって,より工夫して曲をつくらせる。
(b) 写真と文字入りのホームページをつくる。
コンピュータ・ソフトをつかって自分の好きな風景の写真を貼り付けさせる。そして,どのような音楽をつくって,どんなところを聴いてもらいたかなど,子どもらしいコメントを文字で入力させる。できあがった作品をホームページ形式で保存させる。
(c) 電子メールによる交流
学校のホームページに児童の作品をのせ,他校の児童や教師から感想を電子メールでもらう。それにお礼の電子メールを送る。また,アドバイスをもらう中で,今後の作曲活動への参考にさせ,より豊かな表現活動を促す。
(d) テレビ会議システムによる交流
他の学校と自分たちのつくった曲をお互いに披露して,感想を出し合う。ホームページでは伝えたりないところを発表したり,リアルタイムで演奏や歌を発表したりする。

(4) 利用環境
(a) 使用機種  FMV-6500TX3 14台
(b) 周辺機器  プリンタ エプソンPM700C  5台,エプソンLP-8200C 1台
        スキャナ 1台,MIDIサウンドキーボード 3台
(c) 稼働環境  コンピュータ室 FMV-6500TX3  14台(インターネット接続)
(d) 利用ソフト ミュージック・プロ for Windows PLUS,ハイパーキューブ2,
        ミュージック・ビルダー(試作品),ホームページ・ビルダー,
        スクール・メール,インターネットエクスプローラ 5.0
        NetMeeting,会議の達人2(テレビ会議システム)

2 指導計画

指導計画(7/11)

支  援

(a) 言葉やリズムに合うようにふしづくりをしよう。
 ☆作曲ソフトの利用
(ミュージック・プロ for Windows PLUS)

・5年生教科書(教育芸術社)の「ふしづくり」を,作曲ソフトで学習させる。
・3/4拍子を意識させて,1小節に入る音符の長さが決まっていることに気づかせる。
・繰り返し曲を聴く中で,より歌いやすい曲につくり変えさせる。
・曲を保存する場所をサーバ上の5年のフォルダにすることを意識づける。

(b) (c)自分の好きな風景の写真を貼り付け文字を入力してホームページ形式で保存する。
 ☆ソフトの利用
(ハイパーキューブ2)

・児童がコンピュータの操作がしやすいように操作マニュアルやローマ字表を用意する。
・写真の貼り付けをし,場所や大きさを工夫させる。
・写真からイメージした言葉や曲づくりで工夫したところ,交流していただく人へのメッセージ等,子どもらしい工夫を考えさせる。
・他の児童の工夫(色を変える・字の大きさを変える等)を紹介し合う。
・授業が終わる毎にカラー印刷をし,イメージ通りに出来上がっているか確認させる。
・ファイル保存にはつくり直す時に使用するキューブ形式と,ホームページ作成に使用するHTML形式と2種類の保存方法を指導する。

(d) (e)(f)風景に合う音を工夫してつくる。
 ☆作曲ソフトの利用
(ミュージック・プロ for Windows PLUS)
 ☆作詞・作曲支援ソフトの利用
(ミュージック・ビルダ→試作品)
(g) 友だちのつくった音入りのホームページを鑑賞して,メッセージを送る。
 ☆ホームページとして見せるためにソフトを利用
(ホームページ・ビルダ)
(インターネットエクスプローラ5.0)
(h) 友だちや教師からのアドバイスを参考に,曲を完成する。

・より風景のイメージに近づけるように工夫するポイント(拍子・音色・速さ・音の重なり・曲のまとまり)の書いたチェックカードを提示する。
・作曲ソフトの利点(簡単に音符が書き直せ,何度も聴け,伴奏も自動的に入れられる等)を生かして,音楽が苦手な児童でも楽しみながら作曲活動ができるように努める。
・作詞・作曲の支援ソフトをつかって歌詞にお絵かき感覚でメロディがつくれることを紹介し,作曲に戸惑っている児童に勧める。また,そのソフトが実際に声で歌ってくれることを知らせて,興味を持たせる。その後楽譜化させて,音色や速さの工夫をさせる。
・曲をファイルとして保存する場合は,通常の保存の他に,ホームページに載せるために必要なMIDI形式で保存させる。
・「ホームページ・ビルダ」を使って,児童のホームページに音を貼り付け,それぞれのページをリンクさせるなど,小学校のホームページに更新できる状態に手直しをする。
・ワークシートにそれぞれの作品の工夫しているところ・アドバイスを書かせ,それがお互いの音づくりの技能を高めることを知らせる。
・アドバイスをまとめたものを児童に渡してより工夫した作品に仕上げさせる。

(i)(j)(k)電子メールを利用して作品への感想をもらい,アドバイスを参考にもう一度つくり直す。
 ☆インターネットの利用
 ☆メールソフトの利用
(スクール・メール)
(l) テレビ会議システムを利用してお互いにつくった曲を交流する。
 ☆インターネットの利用

・市内の学校(特に音楽研修部員)に学習の意図を説明し,児童や教師からホームページを見た感想を電子メールで送っていただくよう協力を依頼する。
・児童にソフト「スクール・メール」の操作方法を知らせ,お礼を含めた返信を送らせる。文字入力が困難な児童には,マイクを利用した音声入りのメールを送らせる。
・授業の流れを相手校と事前に打ち合わせしておく。
・ホームページで書き表せなかった曲に対する思いを語らせ,感想を尋ねさせる。
・相手校(6年生)の作曲を聴いて,すばらしさに気づき,今後の学習に意欲をもたせる。

3 学習の展開(指導計画(g))
(1) 目標
 好きな風景に合う音を工夫してつくる。友だちの作品を鑑賞して表現の良さに気づく。

(2) 展開

学 習 活 動

活動への働きかけ

備考

1 好きな風景に合う音をつくる。
 ・曲のファイルを開く
 ・曲をつくる
 ・曲をファイルに保存する
2 本時の課題を確かめる。
 友だちにメッセージを送ろう。
 ・友だちのつくったホームページの写真や文字を見ながら音を聞く。
 ・ワークシートに友だちの工夫しているところや今後のアドバイスを書く。
 ・書いたことを友だちに伝える。

・拍子が正しいか,速さや音色など工夫がされているかなど,より風景のイメージに近づけるようチェックカードを提示する。
・児童の工夫を見つけて褒めることで作曲への意欲を高めさせる。
・曲の保存先の確認やMIDIファイルとして保存することを知らせる。
・モニターのTVを見ながらホームページのリンクの仕方を知らせる。
・どんなところに注意して作品を鑑賞するのかを考えさせる。
・友だちへメッセージを送ることが,お互いの音づくりの技能を高めることになることを知らせる。
・友だちの今後の参考になるアドバイスが書けている児童を見つけて伝える。
・自分の意見を相手に伝わるように発表するように気をつけさせる。

・作曲ソフト
 「ミュージック・プロ」
 「ミュージック・ビルダ」
・LANシステム
 「スクール・コラボ」
・モニター29型テレビ
・「インターネットエクスプローラ5.0」
・利用したURL
 広野小学校ホームページ
http://www.city.miki.hyogo.jp/educa/
hironoel/on5.htm

(3) 授業を終えて
 授業にやってきた児童は,いつもの学習に比べ興奮気味で,特に男子が生き生きと学習していた。ソフトの操作を理解し,誰も意欲的に作曲活動やメッセージを送る活動に取り組んだ。指導者としては,メロディーに合うコードネーム(C・F・Gなど)やリズムをいれた伴奏をつくることまでは無理であると考えていたが,数人の児童がそれらをうまく使って,よりイメージに近づく曲をつくっていて大変驚いた。
 しかし,大きな反省点も生じた。児童の作品を鑑賞する時,13台のコンピュータでそれぞれ自由に聴かせた結果,音が散乱してなかなか聴き取れない状態になった。普段鑑賞曲を聴く時と同様静かに1曲ずつ聴かせる方法を考えるべきだったと思われる。


図1 ホームページ上の児童の作品

     


図2 MIDIキーボードをつかっての作曲

4 成果と課題
「音の風景をつくろう」の学習を振り返りアンケートを採った結果,とても楽しかったと76%の児童が答えた。また,楽しかったと答えた児童と合わせると95%にもなり,これまで音楽の授業を苦手としている児童にも有意義な学習となった。また,「コンピュータを使うことで作曲について興味を持つようになりましたか」とたずねると,85%の児童が「はい」と答えた。そして,メールやテレビ会議を通して他校のアドバイスを聴き,よりよい曲をつくろうとする意欲が高まってきている。特に,テレビ会議を5年生と6年生という異学年で行ったため,本校5年の児童は上級生からのレベルの高い感想・アドバイスから刺激をいただき,曲をよりイメージに合うよう工夫してつくり直していた。
 ただ単に曲をつくるのではなく,自分の好きな写真に合う音をつくらせたという点・ホームページの一部として発信するという目標があったという点で,「つくって表現する音楽科の学習」に効果があったと思われる。
これからは「もっとすてきな曲をつくりたい」と考えている児童に,どのような支援をしていくかが大きな課題だといえる。教師も作曲に対しての知識・技能を高める必要性を感じた。また,今回は近郊の学校とのメール交換・テレビ会議で交流を行ったが,今後は環境の違う地域の学校や,さらには外国の学校との交流を可能にしていきたい。

ワンポイントアドバイス
 ホームページにコンピュータソフトでつくった曲を載せる場合,MIDI形式で保存しておくとよい。また,HTMLのタグで「EMBED」を使うとページ上にコントロールパネルが表示され,聞きたいときに演奏を開始したり,一旦停止したりもできるので便利である。開発中のソフト「ミュージック・ビルダ」にコンピュータがつくった曲を歌ってくれるものがあり,それが完成してホームページ上でも歌が聞ける環境が可能になれば,子どもにとっては曲づくりが一層楽しくなると思われる。
 それから,ハイパーキューブ2はホームページを児童がつくるのには適していると思われる。写真の貼り付けや文字入力の操作が簡単で,しかもホームページの形式(HTML)にした場合のソースがとてもシンプルで教師が手直しをしやすい。しかし,MIDIファイルの音は貼り付けられないため,教師が別のホームページ作成ソフトで児童のつくったファイルに音を貼り付けてあげなければならない。

企画への協力校
 電子メールでの協力・・三木市立自由が丘小学校,三木市立瑞穂小学校,三木市立志染小学校,三木市立別所小学校
 テレビ会議システムでの協力・・三木市立自由が丘小学校

利用したURL
 三木市立広野小学校ホームページ
 http://www.city.miki.hyogo.jp/educa/hironoel/on5.htm

参考文献
 パソコン・ミュージックと創作指導(東亜音楽社)小林田鶴子編・著
 ホームページの上手な魅せ方・更新の仕方(ディー・アート社)大森一郎著


図3テレビ会議で作品の感想発表

     


図4 ワークシート