海外修学旅行支援プログラム
− 企画立案の発端・経過から現在に至る現状報告と将来の展望 −

神戸市立摩耶兵庫高等学校
 地歴公民 浅井 徹
asai@kobe-u.ac.jp
http://www2.kobe-u.ac.jp/~asai/
キーワード  高等学校,海外修学旅行,学校間交流,メーリングリスト,
TV会議システム,和太鼓,ロサンゼルス,アナハイム


インターネット利用の意図
 近年,海外修学旅行実施において,海外との学校間交流の事前・事後指導をスムースに運営するにはインターネットが必要となってきている。ツールとしては,Web・メーリングリスト・TV会議システム等が考えられる。ホームページ上で情報を公開するのは,今や当然の常識ともなってきているが,なかでも,メーリングリストは「教師用」・「生徒用」・「教師と生徒の合同用」の3種類あれば便利ではあるが,「教師と生徒の合同用」だけでも利用価値が高い。また,TV会議システムはMbone・CU-SeeMe・RealProducerなど,多種多彩であり,双方のスキルに応じたシステムを使えば,より豊富な内容になるのは間違いない。


1 はじめに
 今後,海外修学旅行が定着するであろうが,現在,公立高校のみならず私立高校においても海外修学旅行実施の検討さえなされていない学校も,まだ少なくない。修学旅行の現状と将来,そして,海外修学旅行を実施するに際し,どのような手続きが必要となるかを,インターネットを使った本校の経過をふまえ,その事例と展望を述べたい。

2 海外修学旅行の現状
(1) 修学旅行の変遷
 修学旅行が生まれて,百十余年が経過した。明治19(1886)年,東京師範学校が千葉の房総半島に11日間の「長途遠足」をしたのが始まりといわれている。その後,名所旧跡を巡る修学旅行を経て,近年では昭和45年に神戸市立神港高校が全国で初めて試みた長野県栂池スキー場でのスキー修学旅行や,さらには植林などを取り入れた自然とふれあう体験学習的な修学旅行が主流となっていた。


  図1 平成12年2月6日 神戸新聞

 一方,昭和59年に公立高校として福岡県立小倉南高校が初めて韓国へ行ったのを皮切りとして,最近では公立高校の海外への修学旅行も定着してきている。
 「高校時代は自分探しの時代」といわれている。高校生に海外を経験させることにより,さまざまな事物を体験させ,多くの感動を見いださせ,自分を輝かせることができる企画を立案させ,自主性・主体性・協調性を育てることが大切である。
(2) 海外修学旅行の現状
 日本修学旅行協会がまとめた平成10年度(1998)公立学校修学旅行実施基準に関する調査結果によると,海外修学旅行を認める教育委員会は平成9年度に較べて2県2市増え,1道1府36県6市の計44となり,全体の75%に達したとある。
(3) 海外修学旅行の将来
 文部省では,平成8年度(1996)の高等学校における国際交流等の状況について調査結果をまとめている。調査は昭和61年度から隔年で実施し,今回は6回目に当たり,その主な概要は次のとおりとなっている。
 平成6年度(1994) 実施校  374校(公立113校,私立261校)
             参加生徒 95,010人【平成4年度比32%増】
             行き先  19か国。韓国・中国・米国の順
 平成8年度(1996) 全国の公私立5498校のうち
             実施校  688校(公立233校,私立455校)
                  【平成6年度比55%増】
             参加生徒 130,669人(平成6年度比38%増)
             行き先  24か国。韓国・中国・米国の順

 国際化が急速に進む現状を考えると,海外修学旅行の増加は必至であり,仮に現在の増加率が保たれると,平成10年度(1998)には,実施校1000余校参加生徒約18万人,平成12年度(2000)には,実施校約1600校・参加生徒約25万人が海外修学旅行の参加が予想される。


  図2 平成12年2月4日 神戸新聞

3 本校の取り組み
(1) インターネットがなければ今回の修学旅行は実現できなかった
 今回,頭を悩ませたことの1番目は,ロサンゼルスかアナハイムの高校で,学校交流をしていていただける学校を探すことであった。伝手を頼って交流校を探したものの,あてがあるはずもなく空振りばかりであった。最後の手段として,いろいろなメーリングリストに投稿したり,日米のいろいろな関係各機関に電話・FAX・E-mail等の結果,ようやくアナハイム市にあるLoara高校が見つかった。
 2番目は,いかにしてLoara高校との学校間交流を行うかであった。事前に,Loara高校のScott先生とE-mailの交流はしていたものの,インターネット交流だけでは如何ともし難い部分も多くあり,学年の先生6人で下見に行った。そのとき思ったことであるが,インターネットでの事前打ち合わせと下見確認はともに大切な要素であると。
 3番目は,学校間交流の内容を如何にするかであった。本校には和太鼓部があり,3学年生徒のうち数名が和太鼓部に所属していたので,学校間交流には和太鼓の演奏をしようということになった。最初は,日本から和太鼓を持っていこうということになったが,見積もりを取ってみると,目玉が飛び出るほどの金額であったので,持っていくのは断念せざるを得なかった。しかし,持っていくのは断念したものの,アメリカで如何にして和太鼓を調達するかが問題となり,ここでまた,頭を抱えてしまった。
 調達までの経緯経過を簡単に述べると,下見の際,宿泊予定のMiyako Inn Spa Hotelの中にあるLounge「王者」に毎日通い,ママと親しくなり,困ったときには相談に乗っていただけることをお願いしていたことがラッキーであった。そこから,CATV会社社長・秘書・お寺住職・会社員・2世ウイーク関係者・ロス和太鼓クラブを電話・FAX・E-mail等を経て,ようやく和太鼓が借りられることとなった。
 4番目は,今回の「海外修学旅行支援プログラム」の目玉の1つである,現在も交流中の神戸市立摩耶兵庫高等学校とLoara高校とのメーリングリストがある。
 5番目は,TV会議システム交流である。
 以上5つの項目をあげたが,そのどれをとってもインターネットなしには実現しなかったであろう,これからも成功しないと思っている。
(2) 海外修学旅行が正式に許可となる
 1学年を組織した平成9年度入学式前後の学打ちで,「生徒が希望すれば海外への修学旅行をも視野に入れて検討する」ということを学年団で確認した時点では,もちろん,生徒,保護者,職員間,教育委員会にたいしてはすべてが白紙状態であった。その後,アンケート,保護者会を重ね,ロサンゼルス・アナハイムへの実施計画も3年生となり,いよいよ大詰めの段階になったが,その当時,神戸市教育委員会は海外修学旅行を不許可としていた。しかし,喜ばしいことに平成11年9月,とうとう念願であった海外修学旅行も正式に許可が下りた。
(3) 学年としての取り組み
【1年次】
(a) 平成10年1月19日(保護者向けプリント配布)
保護者会にて修学旅行に海外も可能であると公表,来年度の諸費増額のお願い
(b) 平成10年1月28日(第1回保護者会実施)
保護者会にて修学旅行が海外旅行になる場合の説明・諸費増額の承認・質疑応答
(c) 平成10年1月31日(第1回修学旅行アンケート実施)
結果:「行きたい・行っても良い」が国内36%・スキー32%・海外60%
【2年次】
(d) 平成10年7月3日(保護者向けプリント配布)
保護者へアンケート結果を報告
(e) 平成10年7月4日(第2回修学旅行アンケート実施)
結果:アメリカ69%・オーストラリア13%
(f) 平成10年7月17日(保護者向けプリント配布)
アンケート結果報告
(g) 平成11年1月27日(第2回保護者会実施)
保護者へアメリカ修学旅行の実施予定を説明・質疑応答
【3年次】
(h) 平成11年7月1日(保護者向けプリント配布)
海外修学旅行の準備経過報告
(i) 平成11年7月12日(第3回保護者会実施)
個別にアメリカ修学旅行を説明
(j) 平成11年9月7日
神戸市教育委員会から正式にアメリカ修学旅行の許可が下りる。
(k) 平成11年11月19日(第4回保護者会実施)
海外修学旅行の経過報告と参加承諾書を提出


図3 ロアラ高校(アナハイム市)


図4 スペイン語の授業風景

4 修学旅行メーリングリスト(syugaku-ml)
 念願の修学旅行メーリングリストが,平成11年10月17日から始まった。
 メーリングリスト名は Syugaku-ml@mx6.dns-ml.co.jp で,本校3年生有志と教員が参加し,活発な意見交換がなされている。このメーリングリストに興味がある方がいれば,誰でも参加できるメーリングリストなので,どうぞご参加ください。最近は,roara高校からの書き込みも活発になってきており,今後の展開を楽しみにしている。
 参加方法は Syugaku-ml-request@mx6.dns-ml.co.jp 宛に
      メール本文に join syugaku-ml あなたのE-mailアドレス
             stop
            上記の2行を送っていただければ,それで完了です。

Syugaku-ml(メーリングリスト)のLoara高校生徒からのE-mail
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はじみまして。私はアンドリュリーです。
どぞうよろしく。高校四年生です。おんがくが大好きだよ。いろいろおんがく好きです。ひまな時おんがくおきたりべんきょおしたりコンピュターおします。
にほんごはちょっとむずかしいですね。
日本学生:英語はむずかしいですか。スポツは好きです。でもスポツじょずじゃない。先月お見ます。Serial Experiments Lainはちょとこわいとへんです。でもとてもおもしろいです。
日本学生:Serial Experiments Lainお見ますか。どうおもいますか。

Well that was my feeble attempt at an introduction in 日本語. I am still studying,so if there are any errors,please excuse them.  So let me ask the Japanese students,what do you think of America? I know there are common ideas portrayed in other countries that American youth is pretty carefree and they are for the most part correct,but that is not always the case. Anyhow,I would like to hear your input. I assume everyone is excited about your trip,and I must admit,I am a bit myself. I am extremely interested in Japan.  I am out of ideas right now,so in the meantime you can ask me some,either through the mailing list,or directly to me at zoinks@socal.rr.comI am looking forward to your responses.
じゃまたね,
Andrew Lee

5 旅行日程表

月 日

地 名

時 間

摘   要

5月18日

学校発
関西国際空港発
ロサンゼルス着


夕刻
午前

集合,専用バスにて関西空港へ
出国手続き後,空路アメリカへ
着後,バスでUCLA,サンタモニカ,海岸 散歩,サード・ストリート・プロムナードで夕食,ロディオ・ドライブ(車窓見学),チャイニーズ・シアター見学
         ミヤコ・イン・スパ 泊

5月19日

ロサンゼルス滞在

8:30
10:00


14:30

朝食後,専用バスでアナハイムへ
ロアラー・ハイスクールとの交流会
現地高校生と昼食
アナハイム市庁舎へ表敬訪問
アナハイム・エンジェルス試合観戦しながら 夕食,もしくはホテルに帰りリトル東京で夕食
         ミヤコ・イン・スパ 泊

5月20日

ロサンゼルス滞在

8:00

16:00

朝食後,専用バスでユニバーサルスタジオへ
班行動,途中数回点呼
19日に試合を見ていなければドジャースタジアムで試合観戦,試合が無ければホテルで夕食
         ミヤコ・イン・スパ 泊

5月21日

ロサンゼルス発


午前

朝食後,専用バスで空港へ
空路帰国の途へ
                機内 泊

5月22日

関西国際空港着
学校着

夕刻

到着後,入国手続きを済ませ,専用バスにて学校へ
着後,解散

6 おわりに
 主題の「海外修学旅行支援プログラム」と,副題の「企画立案の発端・経過から現在に至る現状報告と将来の展望」の内容に沿って報告させていただいたが,修学旅行の主流が海外へとなるは現状から見ても間違いのないことであり,そのためにも今後,如何にして各校がどのような企画を立案し,どのように遂行していくかが大切となる。
 現在,多数の私立学校が海外修学旅行を実施してはいるものの,まだまだ公立高校では日程・費用・安全面・生徒指導・教職員の理解など,課題が山積しており,実施している高校でも,そのほとんどがアジア方面となっている。
 今日まで,アメリカ本土への修学旅行を実施した学校は,2年前,熊本県の公立高校ただ1校だけであった。本校は2番目となる。
 今後,欧米方面へと,ますます盛んになるであろう海外修学旅行。その海外修学旅行実施にさいして,多少なりとも手引きともなれる内容の修学旅行版「このゆびとまれ」を,できれば作成し,少しでも皆さまのお役に立てることができればと思っている。

ワンポイントアドバイス
 インターネット設備の導入または,導入予定の場合における運営・管理と,海外修学旅行を実施する場合の運営・実践のどちらにもあたる共通点として,「何故・何時・どこで・誰が・何を・どうして」という手続きを教育委員会・校長・教職員の共通理解と承諾を得たうえで行動することが大切である。
 準備・計画・実行段階において,トラブルがない限り,他の先生方には迷惑が及ばないものの,一旦トラブルが発生した場合,雪崩現象のように諸々のトラブルが発生し,他の先生方の手を煩わせてしまうことになる場合が多い。そのためにも,トラブルがあった時に,他の先生が素早く対応できる環境・体制の整備としての危機管理マニュアルの作成が不可欠となる。
 特に,海外修学旅行の場合,生徒が事件・事故に絶対に巻き込まれないよう万全を期すため,事前にできるだけたくさんの情報をインターネット等で収集し,下見に際しても,できるだけたくさんの教員が参加し,入念な下調べをする必要がある。
 修学旅行を実施,実施予定,また,これから計画してみようと思っている学校のために必要な海外情報を掲載し,その情報が簡単に利用できる海外修学旅行のためのホームページが開設できればと思っている。
 そのときには,どうかご利用ください。