電子会議システムを利用した共同学習

−わたしは「みつけたよ特派員」レポーター−

小学校第4学年
和歌山大学教育学部附属小学校 今田 実
キーワード 小学校,インターネット,電子会議室(オンライン),オフライン,学校間交流


インターネット利用の意図 - クローズドの電子会議室を利用した交流 -
 子どもたちの周りには,目で,手で,足などでじかに感じ取ることのできる地域の生きた情報がある。これらの情報を,電子会議室を利用して提供しあい,地域情報ネットワークデータベースを作ることを目的とした。このデータベースづくりの過程で,情報提供能力,情報活用能力,表現力などを養うこと,また,ネットワークを使ったコミュニケーションそのものの楽しさを味わうことなども大切にしたい。
この学校間交流をうまく機能させていくためのシステムづくりも,機器構成からソフトウエア,そしてその運用方法なども研究の対象にしたい。


1 システムの構築
(1) 利用ソフトと機器

 電子会議室はFCIS(First Class Internet Server:東海クリエイト)を利用して構築した。今回利用した電子会議室は,図1,図2のようにグラフィカルなものにカスタマイズした(「地域とくらし」:メディアキッズ,日本各地の学校の子どもたちが参加しているネットワーク,「きのくにわいわいネット」:和歌山県内の学校が参加しているローカルネットワーク。本校が開設して,中心に運営している。)。この電子会議室は,インターネットのホームページに公開された掲示板のように,誰でも書き込むことができたり電子会議室に入ったりすることはできない。つまり,決まった人しか入ることができないクローズドの会議室になっている。子どもたちにとっては,支援者に見守られた中での活動であるから,安心して活動できると言えよう。


1 きのくにわいわいネット


     
2 地域とくらし

 また,従来のFC(First Class)では,サーバーにログインするためには専用のクライアントソフトが必要であったが,FCISはWWWブラウザーソフト(以下,ブラウザーソフト)でのログインが可能になった。これらすべての機能を生かすために,この企画で購入していただいたPowerMacG4をサーバ機として運用した。
(2) 交流校へのID発行
 
FCのサーバー機を設置している学校については,自校でIDの発行ができる。インターネットに接続する環境があってもFCサーバを設置していなかったり他校が運用しているサーバーに入るためのIDが発行されていなかったりすると,FCで作られた電子会議室へは入ることができない。本校の交流校である和歌山県高野町立高野山小学校は(特に,4年生は校外学習でオフラインの交流をしている),それに当たる学校である。そこで,交流校として,FCISを利用してネットワーク上でも交流をしていくために,本校情報部会や教官会議を経て,期限付きで高野山小学校の4年生全員と担当者に個人IDを発行することになった。

2 きのくにわいわいネットを立ち上げよう
(1) ネットワーク運営状況
 本校が運営しているFCIS上の「きのくにわいわいネット」(図1)には,本校,和歌山県高野町立高野山小学校,和歌山県熊野川町立熊野川小学校が参加している。高野山小学校は,本校が発行したIDを利用し,ブラウザーソフトからこのネットワークに入っている。熊野川小学校は,自校でサーバーを立てて,きのくにわいわいネット同士をゲート(データの相互受け渡し)し,データのやり取りをしている。
(2) 「きのくにわいわいネット」の会議室群
 
「きのくにわいわいネット」の中に作っている,子どもたちが書き込んだり見たりすることのできる会議室は,次の4つだ。
・原っぱ:子どもたちが自由なテーマでフリートークをする会議室
・きのくに発見隊:「こんなものをみつけたよ」を報告し合う会議室
・お天気・ニュース:気象情報やニュースを流す会議室
・学年の部屋:1年生から6年生までの学年毎のニュースを流す会議室
(3) 教師間のやり取りの場


 図3 教師間の打ち合わせ・「どうする?」

 このネットワークの運営については,このネットワークに関わっている教師にしか見えない会議室,「どうする」を作って,子どもたちの活動について打ち合わせたり,支援について打ち合わせたりした。(図3)
 今年度,教師間で話し合って子どもたちに下ろしていこうというふうになったことは,気象情報や学校(地域)のニュースだ。気象情報や学校(地域)のニュースは,日常的なテーマであることと,その情報が生きたデータベースになることが特徴だ。ネットワークを使って,子どもたちが楽しんで主体的に会議室を開いて交流をしていくための要素のひとつに,「日常性」があげられる。学習の流れをきちんと合わせて交流学習をしていこうというのではなく,ネットワークを使って楽しく交流することそのものを目的としたのも,子どもたちが主体となって活動していくことを願っているからだ。また,この活動を通して,生きたデータベースを作っていくということを意識させていった。文や絵,写真などを用いながら分かりやすく伝える,公開されたデータベースになっていくことなどを子どもたちに考えさせていくことで,情報提供能力,情報活用能力,表現力などを養おうとした。

3 お天気・ニュースで交流
(1) オフラインとオンラインを織り交ぜて
・オフライン会
 本校4年生は,毎年6月に校外学習で高野山に行っている。昨年度からは,高野山内での学習(活動)に,高野山小学校との交流会を計画し,実施している。本年度は,6月24日・25日に行った。
 特に,高野山小学校との対面式,山内見学,お別れ会などを通して,一人一人がじかに知りあう機会をたくさん設定した。また,子どもたちにも次のように伝えた。
 この林間学校だけの交流ではなく,林間学校へ行く前,行って帰ってきてからも,継続的に交流を行う予定である。総合的な学習などのなかに組み込んで,より広がりのある学習展開に生かせていけたらと考えている。
 また,10月8日には,高野山小学校が校外学習をかねて本校を訪ねてくれた。学校内を案内したり,給食を一緒に食べたりした後,子ども科学館へ行き,学習を共にした。
 このような,オフラインでの活動を設定することによって,当然ではあるが,目に見えない人と人との交流ではなく,○○さん,◇◇君とのコミュニケーションを成立させていこうと考えた。


                 図4

・オンライン上(会議室)で
 交流前から会議室で自己紹介をしあう。本校からは,グループごとに紹介したカードを作り,会議室にアップした。高野山小学校は,HTML形式で整理した自己紹介データが送られてきた。

 
       図5
 第一回目のオフライン交流後も,班や,数人のグループで,感想や思い出を会議室に書き込む。(↑)


                  
6

 第二回目のオフライン会後の会議室への書き込みには,班にと言うのではなく,個人への関わりが見えてきた。(↑)このように,オフラインとオンラインを組み合わせることによって,人と人との関わりをつくることができ,ネットワークの中(会議室)に,教室に近い学習空間ができる。これが共同学習の基盤になっていくと考える。特に小学生ということを考えると,やはり,○○さん,◇◇君との意見のやり取りであったりかかわり合いであることが,イメージを膨らませたり心を通わせながら学習を進めていくために大切にしたいことだ。
(2) 教師間の作戦会議


 
       図7

 担当の教師間で,子どもたちの活動について打ち合わせをする。ここでは,タイムスケジュール的なことも大切なことだが,何を狙って行う交流の場とするのかということを詰めておくことを大切にした。また,子どもたちが会議室へ書き込む以上に,教師間の意見交換を行った。(→)
(3)「お天気・ニュース」の会議室で
 ここまで述べてきたような経過があって,「お天気・ニュース」の会議室での活動が始まった。次に,書き込みの一部を紹介する。


             図8

 


              
    9

 その日の気温や天気,地域の祭りなどのデータが,会議室にアップされてきた。特別な日については,子どもたちは情報をアップするようになってきたが,まだまだ日常的な活動にはなっていない。しかし,子どもたちが自分の興味や感心に応じてレポートし,会議室へアップできつつある。それは,聞いてもらいたい○○さん,◇◇君の存在があるからだ。

4 電子会議室とウェッブの利用
 子どもたちの日常の活動は,クローズドの会議室で行っているために,安心して活動させていくことができる反面,情報を見ることに対して少し敷居が高いように感じる。しかし,ウェッブに載せていると,会議室よりも敷居が低く感じたり,目で見やすい形になっていたり,自分のデータがのっていることから受ける効力感を感じたりするということを子どもたちの言葉から聞き取ることができた。なかでも,子どもが自分で取材したり,得た情報を会議室に書き込むことだけでは見えにくかった,「自分の情報が役に立っている」という思いを抱かせることができたことは大変意味のあることだ。
(本校のホームページは,・・・http://www.aes.wakayama-u.ac.jp)

5 実践を振り返って
 今回の実践に組み込んだキーワードは,小学校,インターネット,電子会議室(オンライン),オフライン,学校間交流だ。特に,ローカルな部分での実践であるため,オンライン上の共同学習だけではなく,オフライン会を組み込むことができたことで,人と人との関わりをきちんと生み出させることができた。また,インターネットを,本を読むがごとく,電話するがごとく,身近な存在として,また日常的なコミュニケーションの手段として,両校とも利用できる環境にあったということが親近感や意欲の持続につながっていったと感じた。このことから,共同学習をしていくうえでは,ネットワーク上でも個人を際立たせていくことが大切な要素となると言えるのではないだろうか。だから,本校の子どもたちには日頃から個人IDを利用させているのだが,交流校にも個人IDを発行して共同学習を進めていったというところに大きな意味があったと言える。
 また,今回の実践で行った子どもたちの活動や反応をみていると,会議室とウェッブを組み合わせて利用していくことに意味が出てくると言えた。メディアをひとつに絞った共同学習をするのではなく,メディアの特性を分析してそれをうまく生かしていけるような体制を柔軟に組んでいくことを考えていかなければならないと言うことだ。
 まだまだ日常的にインターネットを気軽に使うことのできる環境にある学校が少ないとは思う。しかし,今後ネットワーク接続環境が良くなっていくことが想定される。その際には,図書コーナーで調べ学習をしたり校内の掲示板で学習成果を発表したりすることと同じように,ネットワークを子どもたちにとって身近に利用できる校内の環境づくりを考えていくことの大切さも感じた。

ワンポイントアドバイス
 メディアキッズのホームページ(http://www.mediakids.or.jp)には,FCで電子会議室を構築し,それを利用した実践が,メディアキッズダイジェストの中に載せられている。また,実験的なプロジェクトの実践や学習に使えるリンク集なども充実しているので,是非ご覧になっていただきたい。